「今、リーダーに必要なリフレクションと越境学習の親和性」

司会者:ではさっそくですが、ここから熊平さんにバトンをお渡しさせていただきまして、お話をいただけると幸いです。お願いします。

熊平:ありがとうございます。それではここからは、熊平のほうで担当させていただきます。今日のテーマは「今、リーダーに必要なリフレクションと越境学習の親和性」。本当に親和性が高いと考えておりますので、そこをみなさまにぜひご理解いただけたらなと思います。

あらためまして、熊平美香と申します。昭和女子大学キャリアカレッジの学院長、そして一般社団法人21世紀学び研究所の代表理事をいたしております。

今日のテーマでもありますが、目下、このリフレクションを広める、日本の当たり前にすることをミッションに掲げて、さまざまな活動をさせていただいております。ですので、今日のような機会をいただけて、私も本当にありがたいと思っております。

みなさまの中には、人事の方が多くいらっしゃると思います。経済産業省の人生100年時代の社会人基礎力にリフレクションが入ったということで、今リフレクションの研究は実践も含めてかなり進んでいるのではないかと思います。そういったことも活動の中でやっております。

ぜひ、みなさんと一緒にリフレクションを、企業の当たり前にしていただきたいと思っております。

自律型人材のやるべきことは、一歩踏み出した後にある

熊平:21世紀学び研究所は、この自律型人材を増やすという目的を置いているんですけれども。リフレクションというのは、やはり自律型人材になくてはならないものになります。

一歩踏み出すという言葉がよくありますが、一歩踏み出した後ですね。指示・命令ではなくて、自分の意思で一歩踏み出した後、その行動や結果を振り返りながら、次のアクションを考えていくのが、自律型人材のやるべきことになります。その時に、リフレクションの力がとても大事になります。

ですので、リフレクションを広めると共に自律型人材を増やすこと。そして、自律型人材が活躍しやすい組織を増やしていく、その両面から活動をさせていただいております。

自律型人材の定義は、学習する組織の考え方に基づいております。自ら定めた目的を実現するために学び続ける人と捉えています。ありたい姿と現実のギャップを埋めるために、境界線を越える学びを通して自分と向き合い、自分とチームの潜在的な力を開花させていく。そういった人のことを自律型人材と定義しております。

今日の越境学習においても、こういう人材像をイメージして、少しお話をさせていただきたいなと思っています。

リフレクションについては、本(『リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』)も書かせていただきました。基本的には、自分を知ることや自分のビジョンを形成していくこと、経験から学ぶこと、多様な世界から学ぶこと、アンラーンすること。こういったことがリフレクションでとても大事だと考えています。越境学習にはこれらすべてが含まれるのではないかなと思います。

つまり、すべてのリフレクションの機会が用意されているのが越境学習であり、リフレクションにとってもとてもいい環境設定だと思っています。

リーダーに求められる3つの基礎力

熊平:さて、そのリフレクションですが、まずは基礎力からご説明させていただきます。リーダーに求められる基礎力は3つあります。これがないとリフレクションの質が上がりません。

1つ目は「メタ認知」です。認知していることを認知する。越境していろんな活動をしたり、経験をしたりするわけですけど、それをどのように自分が捉えているのか。さらに、そう捉えている自分を俯瞰して見てみるという、「認知していることを認知する力」があることで、学びの質が大きく変わります。

認知とは何かを知る、理解する、学ぶなどの過程のことですが、自分がやっているすべてを、第三者のように眺められる力があると、学びの効果が非常に高まっていくわけです。

それを簡単にやっていただくために、認知の4点セットというものを紹介しております。「意見・経験・感情・価値観」の4つです。人が「意見」を持つ時に、必ずその背景には「経験」を通して知っていることがあります。

これは本を読んだとか他人から聞いたとか、実体験も含め、あらゆる情報源が含まれます。それを総称して「経験」と言わせていただいております。

そして、その「経験」で知っていることの記憶は、「感情」が行っております。経験の記憶には、ポジティブだったりネガティブな感情が紐づいています。

そして、その先に「価値観」が存在しています。「意見」には判断の尺度となる物の見方や価値観が存在している。自分が意見を持つだけではなくて、その意見の背景を自分でも俯瞰することができる。

「認知の4点セット」は無意識下でも使っている

熊平:こうすることで、自分の内面をリフレクションすることが簡単に行えるようになります。ですので、認知の4点セットは越境学習でぜひみなさんに使っていただきたいなと思います。後ほど使い方もご紹介します。

この話、ちょっと珍しい話のように思われるかもしれませんが、本来私たち人間は、ふだんからこれ(認知の4点セット)を使っています。

みなさんの中にも、犬が好きな人、嫌いな人がいらっしゃると思うんですけれども。犬が好きな人はたいてい犬を飼った経験があって、喜びや安心が犬には紐づいている。そして、犬は癒やしてくれる存在だと思っているかもしれません。

犬が嫌いな人の中には怖い経験をしていて、その経験から犬は危険な存在だと思っていらっしゃる方もいる。こんなふうに、私たちの意見は、必ず経験を通して形成された物の見方によって生まれているということなんです。

通常は無意識にやっていることが多いんですが、自覚的になるということがメタ認知の話になります。

リフレクションとは「自分を客観的かつ批判的に振り返る行為」

熊平:そして、(2つ目が)「リフレクション」。あらためて、この言葉の定義をご説明させていただきますと、「自分を客観的かつ批判的に振り返る行為」。批判っていう言葉が、どうも日本語だとあまりポジティブに受け止められないんですけれども、多面的・多角的に捉えると置き換えていただけるといいかなと思います。

特にこれが変化の激しいVUCA時代になってとても重要だと言われるようになりました。私も最初にこの重要性を知ったのは、実はOECDが提唱している、子どもたちの教育、義務教育における新しい定義、方向性を示す「キー・コンピテンシー」でした。

その中で、子どもたちにとって、「リフレクションは要となる力、核となる力だ」と説明されていて。それがいったいなぜかを探究する中で、今は私もそれに大変共感しています。

その背景として、物事に対してこれまでどおりのやり方や、物の見方をそのまま適用するような世界なら、リフレクションはいらないんですね。でも、そうではなくて批判的なスタンスで、経験から学んで考えて行動するという。

創造性だったり問題解決だったり、新しいかたちを作っていくような過程においては、自分の物の見方すら疑問視しないといけない。そこも含めて、リフレクションが必要になってくる。

リフレクションというと内省ですから、ちょっと内向きで静かなイメージがあると思うんですけれども。実はダイナミックで、未来を創造する力ということになります。

「感情」を内省する意味

熊平:リフレクションは未来を創造する力であるというところが非常に重要なんです。リフレクションをする際にも、やはり何をリフレクションするか。なにを経験を振り返るか。それが大事です。そういう時に私たちは結果を振り返り、かつ結果に導いた行動を振り返る。

この2つはだいたいみなさんやってると思うんですが、行動の手前には「こうすればうまくいくはずだ」と考えていた思考があります。

そして感情は、実は思考の手前で目的を設定するために非常に大きな作用を働かせているので、感情のリフレクションも非常に重要ということになります。

例えばみなさんが「何かをやりたいな」「実現させたいな」と思ったら、どうすれば実現できるだろうかという問いを立てて思考を巡らせると思うんです。「うわあ、やりたくないなぁ」と思ったら、どうすれば逃げられるかなって問いが立って、そこで思考を巡らせる。実は感情は、私たちの思考の手前で、目的を設定する重要な役割を果たしています。

さらにその手前に、価値観が存在していて、実は価値観や物の見方が感情を動かし、そして、思考・行動・結果につながっておりますので、深いリフレクションをしていく時には、物の見方、価値観まで振り返ることがとても重要になります。

越境学習においても、何を考えたのか、何を感じたのか。なぜそう思ったのか。何を大事にしているからそう思ったのかっていうところまで振り返ることができると、非常に学びが深まると思います。

対話は、リフレクション、自己内省が前提になる

熊平:3番目の基礎力。これが「対話」ということになります。対話という言葉は私たちにとても馴染みがあるので、みんなやっているような気になっていますが。これから申し上げる対話をやっている人はとても少ないと思います。

実は対話は、リフレクション、自己内省が前提になっています。リフレクションができないとメタ認知ができません。メタ認知ができないと自分の考えをいったん横に置くという評価・判断を保留にすることができません。

対話では自己内省をして、評価・判断を保留にして、そして他者に共感する聞き方、話し方を学ぶことになります。まずはリフレクション。「なんだこの人は変なことを言ってるなぁ」なんて評価しながら聞くんじゃなくて、自分の考えを横に置いて聞く。

いったん中立な立場で、「相手の世界にはどんなものがあるのかな」っていうことを聞き取る。これが対話になります。これをしますと、多様な世界に共感することができて、そして自分の枠の外に出ていくことができる。これは越境学習においてもとても重要なポイントになりますので、後ほどそことつなげてもお話ししてみたいなと思います。

我々はこれを、「認知の4点セット」と説明させていただいます。先ほどの内容と同じになりますが、自己内省。自分の経験、感情、価値観をリフレクションして、そして相手にも同じようにする。もし、それが真逆の意見だったとしても、その人にはその人なりの経験・感情・価値観があるというふうに聞き取っていく。これが対話になります。

「その人がどう思っているか」を正しく理解するのが共感

熊平:共感という言葉で「賛成しなきゃいけない」っていう勘違いもよくあるんですけれども、まったく賛成していただく必要はありません。そこは関係ないんです。「その人がどう思っているか」を正しく理解するのが共感です。

その後は、合意するのか、多様性があっていいっていう話になるのかはわかりませんが、まずは聞いてみようということです。意外に気づいていない人が多いんですが、実は私たちはこの聞き方ができていないんです。これが「けっこう問題なんですよね」っていうこともお伝えしておきたいと思います。

なぜかと言いますと、私たちは人の意見を聞いて、人の意見を理解しようとします。それはすばらしいことなんですが、その時に使っているのは自分の経験と価値観なんですね。自分の経験に当てはめて、人の話を解釈して理解したという気持ちになっている。でも、相手の世界には違うものがある可能性があります。

また私たちが「なんかこの人の言ってることは理解できないな」と思う時に何が起きてるかというと、その人の意見を理解するために必要な経験を自分が持ち合わせていないことで理解不能になるわけです。

ですから、そういう時こそ「聞いてみよう」と思っていただくのがとても大事かなと思います。この違和感は学びの扉と考えていただくといいと思います。越境学習ではけっこう違和感みたいなものが、あちらこちらにあったりします。その扉を開けて、その先の世界を覗いてみる。これが対話のアプローチと同じアプローチになります。

なので、境界線の外にある世界から学ぶことは非常に重要だし、それをやらないのは危険だと申し上げておきたいと思います。心地がいいところにずっといると、まぁボケるとは言いませんけれども、自分の枠の中で、安心した状態の中でしか対話が起きない、対話が進まないことになります。それは「学習の機会がない状態ですよ」っていうことも、知っておいていただきたいと思います。