お飾りの理想ではない「チームの理想」を再設定する

小田木朝子氏(以下、小田木):では、竹内さんにも(「『違い』を強みに変える組織スキル」について)聞いていきたいと思います。

竹内義晴氏(以下、竹内):はい。1つ目が「理想の再設定」です。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):理想の再設定。カッコいいな。

小田木:本のタイトルみたい。

竹内:(笑)。2つ目が「話を聴く場の設定」。3つ目が「コミュニケーションスキルを学ぶ場の設定」。

沢渡:「設定」で韻を踏まれましたね。

竹内:はい。「理想の再設定」というのは、今までも何度も出てる「景色」の話なんでしょうけど、一般的にどの会社にも企業理念があると思うんです。でも、ほとんどお飾りだと思うんですよね。

例えば「お客さまの満足をほにゃらら」みたいなのって、掲げてはいるけど覚えてないとか言えないとか、言えるけどぜんぜん体に入ってないことがあると思うんです。

「俺たちのチームが目指しているのは、本当にここだよね」って、美しい言葉じゃなくていいと思うんですけど、その時々で変わっていくものだと思うんです。お飾りの理想ではないチームの理想とか、そこに立ち返られる場所が、案外ないかもしれません。

「売上何パーセント達成」では僕らは走れないので、「私たちはここに行きたい」っていう理想をチームで再設定したいなというのが僕の思いです。それが人事としてできるといいなって思います。

孤独なマネジメント層の話を聞く場を設定する

2つ目は「話を聴く場の設定」なんですけれど、いくつかの意味があるんです。先ほども話したように、制度を作る時も、人事が考えて「これをやる」って展開するよりは、実務の中で何が困っているのかを社員の中からちゃんと聞ける場の設定が必要だよなと。

あともう1つ、場の設定という意味では、マネジメント層ってやはり孤独で、なかなか相談相手がいなくて、その中で1人がんばっている人が多い。そういうマネジメント層が楽しく働くためにも、マネジメント層の話を聴く場の設定がいいなっていうのが2つ目。

3つ目が「コミュニケーションスキルを学ぶ場の設定」。これは僕自身もそうだったんですけれど、「コミュニケーションスキルを学びたい」って言うと、会社から許可されなかったんですよね(笑)。

例えばCADとかの技術的なスキルだったら、資格を取れば身についたのが明らかにわかるから、比較的すぐに学びにいけるんですけど、成果がわからないものってなかなか学べる機会がないんです。僕はその機会がなかったから、自分で学ぶしかなかったんですけど。

なんでコミュニケーションスキルを学ぶ場の設定が重要かと言うと、繰り返しになりますが、コミュニケーションはスキルだからです。スキルは先天性のものじゃなくて、学べば必ず身につけられるものだからです。

研修の活用で解消できる「マネージャー孤独問題」

よく話を聴く時に、「いや、コミュニケーションは大事だよね」と言うわりには、「じゃあ何をやっているんですか?」って聞くと「飲み会」と答えるんです。「いや、飲み会も大事だけどさ」って。今時、飲み会なんでしょうか?

もちろん僕もお酒は大好きなので飲み会は好きなんですけど、今現段階の事実として、先日、テレワークになってリモート入社した若手社員から「飲みに行く楽しさがわからないんですよね」って言われて愕然としました。「そうか。リモート入社だから、そもそも先輩と飲んだことがないのか」と。

沢渡:確かに。

竹内:その事実の中で、「やはりマネージャーの関わりって変わっていかないといけないよな」「飲み会頼みじゃダメだな」ってすごく思っています。なので、「聴く」ことがあるんだったら、酒の勢いで聴くんじゃなくて、ちゃんと話を聴く。これはスキルだからこそ、学ぶ機会がもっとあるといいなと思いました。以上です。

沢渡:ありがとうございます。竹内さんの2つ目で、1つエピソードを思い出しました。「マネージャー孤独問題」ですね。ある大企業がそれまでやっていた「マネージャー研修」を「マネージャーお悩み相談会」の場に変えたら、今までやらされ感で渋々眠そうに参加していたマネージャーが、活き活き参加するようになって。

そこでマネージャーがお互いに悩みを共有したり、相談したり、マネージャーの横のつながりができたという話があります。これってちょっとした、マネージャー研修の景色の変化だと思うんですね。参加するマネージャーもハッピー。マネージャーの孤独問題を解決できる場として研修を活用する。

人事は、社内のマーケティング組織に変わる

もう1つ、人事部門がこの「マネージャーお悩み相談会」に参加することによって、マネージャーのリアルな声が聞けるようになった。こんな変化があるんですね。

これっていわば、人事部門がマネージャーに対するマーケティングの機能を果たし始めたという話だと思うんです。今までの組織の「べき論」だけを、ガチガチの制度でマネージャーや担当者に押し付けるのではなく、人事がそれぞれの層と対話をする場を作っていく。

竹内さんの2番目の通り、人事が社内のマーケティング組織に変わっていく。この変容がものすごく大事なんだなって、私はこの事例から学びました。

竹内:沢渡さんのおっしゃる通りで、人事じゃなくてもいいかもしれないですけど、孤独なマネジメント層がちゃんと話せる場があると、それこそ本当に困りごとのマーケティングをやっているようなもので、変えていくべきところがそこでわかったりとか。

あとは、これは僕が実際にいろんな会社さんで研修をする時に、マネジメント層で「じゃあ傾聴の練習をしましょう」って話してもらうんですよね。実際に。そうすると何が起きるかと言うと、「話すと癒されるんですね」って。

要はトレーニングでやっているんだけど、「話す」ということによって自分がすっきりする体験をする。(その体験を通じて)「だから聴くことって大事なんだ」って気づくマネジメント層が多い。だから社内でね、必ずしも社外じゃなくてぜんぜんいいんですね、社内で安心して話ができる、聴ける場所があるってやはり大事だなと思いますよね。

組織の誰かの声は、打ち手が見つかるヒントに

沢渡:ものすごく腹落ちします。コメントからも、「体験が大事なんですね」「話すこと・聴くことでお互いに頭がすっきりするのは経験してます」なんてメッセージを頂いています。

小田木:ありがとうございます。ここまで出た問題の背景。例えば「言葉が違う」とかから、どんな組織スキルだとか、何をアップデートしなきゃいけないかという観点が、最後に本当にうまくまとまったと思いました。

ここに絶対解があるって言うよりも、やはりここまでの話を踏まえて考えると、自分たちの組織の誰かの声を聴くと、「そこじゃないよ」ではなく「そうそう、そこ」と言える打ち手が見つかるんですね。

誰の困りごとを解決していくことで、もしくはどんな体験を仕掛けていくことで、そういった望ましいコミュニケーションや対話が増えていくのか。その対話の結果、景色が変わったり結果が変わったりが実現していくのかなと思います。

あっという間に残り10分です。今日のまとめと、みなさんにお渡しできる情報の提供をしていきたいと思います。竹内さん、沢渡さん、あらためて今日はありがとうございます。

沢渡:ありがとうございます。

竹内:ありがとうございます。

小田木:よかったらお二人に、今日の一連の対話を振り返っていただいて、ぜひコメントもしくは今日参加くださった方への元気になれるメッセージを一言いただければなと思います。竹内さん、シンキングタイムはありますので大丈夫です。

お二人につぶやき・コメントを考えていただいている間に、アナウンスタイムに入らせていただきます。

これからの組織に必要なのは「ブランドマネジメント」の考え方

小田木:「具体的にいろいろやれることがありそうだ。わくわく」と、そんな気持ちにもなってくださっている方が多いんじゃないかなと思います。そんなわくわくを後押しするために、今日は具体的に2つ、ご提供できる情報をご案内させていただきたいと思います。

まず1つは、「ここからどう組織への機会作りをしていこうか」と、計画フェーズに入りたい方に、人材育成や新しい取り組みを仕掛けていく、人に関わる企画を作っていくためのプランニングの支援、事例を紹介させていただく短いセミナーを開催させていただきます。

「忙しい人事のための課題整理のポイント」という副題が付いておりますが、社内に向けてまず取り組みたいと思っている人材育成・仕組み作りについて合意を得たい。そういった企画をどうやって立てていくのかの、我々がお手伝いしている事例を紹介させていただく場です。みなさんの社内での企画・提案の1つの参考になればと思っております。

続きまして、次回の「90分腹落ちセミナー」です。10月は「HRライブ」というかたちでスペシャル企画をお作りしましたが、また11月からはいつもの月1ペースに戻って、次回は「組織と個の成長を牽引するマネージャー育成のヒント」。まさに今日の延長線上にありそうな企画だなというところです。

「対話を引き出していくことが必要だよね」という観点の他に、組織と個の成長を牽引するマネージャーを組織の中に増やしていくための、要件や育成の仕方について、わいわい語ろうというセミナーになります。よかったら11月回もぜひご参加ください。

沢渡:今日お話ししたブランドマネジメントの考え方も、この中で深掘り、意味づけしていきたいと思います。

小田木:沢渡さんがこれから組織と個が成長していく上で、組織の中にあるべきマネジメントの1つが「ブランドマネジメント」という考え方ということですか?

沢渡:はい、そうです。

小田木:ありがとうございます。次回のセミナーに橋まで架けていただきました。

人事は社内のマーケティング&ブランディング組織であれ

では最後に、お二人からメッセージを頂戴しようかなと思います。

沢渡:では、また私からいって、最後のトリを竹内大納言にお願いしましょうか。

小田木:そうですね。いつの間にか大納言になっちゃってますが。お願いします。

沢渡:今日も楽しい時間をみなさんありがとうございました。毎回この時間でみなさんと景色合わせができるのが、私は非常に幸せです。そんな私から、今日のまとめのメッセージを一言です。「人事は社内のマーケティング&ブランディング組織であれ」。こんなコメントで締めたいと思います。

小田木:まさに「答えを持ってなくてもいいけど、何が課題か、困りごとか、情報を集めにいって、かつ、どういった方向に向かいたいのか描いていこうよ」みたいな、そんな感じですか?

沢渡:そうですね。マーケティングというのは、やはりさまざまな層と対話をすることから始まります。とは言え、「人事が個別の管理職と対話をして、そこからリアルを言語化していく時間もリソースもないよね」というリアルな問題もあります。

人事がトランスフォーメーションすることで組織も変えられる

だからこそ、例えば次回のテーマである、マネージャーにどうスキルを持ってもらって権限を移譲するか。マネージャーをエンパワーメントしていくか。もう1つが、先ほどもお話ししたように、どうせやっているマネージャー研修のような場を、仕組みと仕掛け、景色を変えて、マネージャーの困りごとを引き出す場にしていくか。

これってマーケティングの発想であり、デザイン思考であると思うんですね。こんなマーケティング&ブランディング組織に人事がトランスフォーメーションしていく。そのほうが、人事の仕事も楽しくなると思うんですよ。そして社内の人事のファンも増えると思うんですよ。「人事、変わったね」「人事、頼りがいがあるね」。こういう景色を作っていきませんか?

小田木:ありがとうございます。なんか「うわ、また仕事が増えちゃった」ではなくて、今やっていることをアップデートするっていう切り口もいいし、そのほうが楽しいよというメッセージに、ちょっとホットになりました。では竹内さん、お願いいたします。

竹内:ありがとうございました。今日、何を話せばいいのかわからないまま参加しましたけど。

小田木:(笑)。とてもそうは見えなかったです。

竹内:どきどきしながら参加しましたけど、総じて楽しく終われたので、まずはありがとうございました。

沢渡:ああ、良かった。

もっと楽しく仕事をするために

竹内:一言メッセージということであるならば、いつも言っているんですが、「もっと楽しく仕事をしよう」っていう、それに尽きるんですけれども。特に人事のみなさんは会社の中で、時にいろいろ言われたりとか、あるいは時になんか新たなことをやっていかなければならなかったりとか、本当に大変な思いをされて仕事をしているんじゃないかなと思います。

あと、今日のテーマの1つの「世代間ギャップ」みたいな話で言うと、どちらかと言うと、要は「人事とはほにゃらら」みたいな、結局ラベル付けをしてみんな話をしてしまいがちなので。それは「世代」というくくりもそうですけど、本当はそういうことじゃなく「楽しく働ければいいな」って単純に思ってるんですよね。

そういう意味でも、それぞれ「隣の人はそもそも違うよね」という多様性の観点であるとか、あとはそもそも相手のことがわからないっていうのは、話をそもそもしていないということがすごくたくさんあるので、もっと「どうしていったらいいんだろう?」という会話を重ねながら、楽しい職場というか楽しい会社、そして自分自身が楽しく働くっていう、そうなるといいなと思います。

小田木:ありがとうございます。この「楽しい」というキーワードが何度も出てきたことで、「人を楽しませるだけじゃなくて、自分自身ももっと楽しんでもいいんだよ」という、そんなメッセージに聞こえました。

「いやいや、そこじゃないよ」を見抜けるようになるために

小田木:実は1つ、「『いやいや、そこじゃないよ』を見抜けるようになるためには何が大切でしょうか?」というご質問を頂いていますので、よかったら最後に一言頂戴できますか?

沢渡:1つ目が「観察する接点を増やす」。これは機会を増やすという話ですね。2つ目が「観察力を強化する」。この2つかなと思います。「観察する接点」って言うと、また「対面のコミュニケーションを増やしなさい」みたいな話になりがちなんですが、対面だけではなく、例えばオンラインでどの人がどう反応しているとか、あるいは日々の業務のチャットのやりとりとかでも、相手の変化ってうかがい知ることはできると思うんですね。

もちろん前提に、それぞれのメンバーの例えばテキストコミュニケーションスキルを上げていくとか、マネージャーがテキストで受け止めるスキルを高めていくという、この強化も大事です。そういう意味では対面だけではなく観察接点を増やす。

対面もいわゆる「飲みニケーション」一辺倒ではなく、例えば部門のキックオフミーティングをワーケーションみたいな、それこそ妙高でワーケーションをしてみて、自己開示しやすく、そして短期間で同じ釜の飯を食う経験ができるような、こういうコミュニケーション機会を積極的に増やしていくのも1つ、観察接点を増やすことになるのかなと思います。詳しくはぜひ新刊『話が進む仕切り方』を……。

小田木:「ここに本当にいろいろ書いてあるんだな」というのが今日わかりました(笑)。

沢渡:そうですね。観察力の強化の話もしていますので、ここからまたネタをパクっていただけたらうれしいです。

小田木:ありがとうございます。竹内さんも一言頂戴できますか?

価値観の違う人のところに「越境」してわかる気づき

竹内:「何かな?」って思ったんですけど、一言で言うと、それこそ「越境」なんだろうなって思いました。

沢渡:越境。

竹内:例えば「やっぱり『飲みニケーション』だよね」って自分が正しいと思っていることを、自分1人の力で気づくのはなかなか難しい。

沢渡:そうですね。

竹内:でも、例えば他の会社じゃない人とかに、「これからこういうことをやっていきたいと思ってるんだけど、どう思う?」って、まったく価値観の違う人に聞いたら、「いやいや、それを今時?」って意見がもらえるとか。できるだけふだん、越境先を選ぶとしたら、ちょっと違うタイプのところに越境するといいと思いますけど。そういったところに「いやいや、そうじゃない」っていう気づきは起きるんじゃないかなという気がいたしました。

小田木:まさに自分で見極めなきゃいけない、自分が気づかなきゃいけないっていう荷物を降ろして外に出て、外の空気を吸ったり違う視点を吸収することで気づけるようになる。今日は「越境」もやはりキーワードでしたね。

沢渡:ありがとうございます。

小田木:「よかったら、妙高市に行ってみてね」というメッセージにも聞こえました(笑)。それでは今日のHRライブ「90分腹落ちセミナー」を終えたいと思います。最後までご参加ありがとうございました。