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第1部 基調鼎談「真のトランスフォーメーションのためにリーダーが取るべきアクション〜デジタル変革の意義と壁の乗り越え方〜」(全1記事)

2022.07.12

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採用面接で「権限をください」と言う人はダメ 真のリーダーに求められる「自分のできる範囲」の変革

提供:Sansan株式会社

さまざまな問題から、多くの日本企業でなかなか進まない「DX」。これから日本企業が成長を遂げるため、また難局を乗り越えるためには、リーダーのどのような意思決定と行動が必要になるのでしょうか。下請けの町工場から世界中で愛される大企業へと成長したアイリスオーヤマ代表取締役会長の大山健太郎氏と、業界の改革者として挑戦を続ける日本交通代表取締役会長の川鍋一朗氏が、デジタル時代における大組織のリーダー論を語りました。

真のトランスフォーメーションのための「リーダー論」

西山圭太氏(以下、西山):Sansan DX CAMPにご参加のみなさん、こんにちは。ここからはアイリスオーヤマの大山会長と、日本交通の川鍋会長にご参加いただき、特にリーダー論について議論をしたいと思います。

(先に)大山会長、川鍋会長の基調講演を聞いた上で視聴いただいている方が多いと思いますが、ここから参加された方に、なぜ川鍋会長だけTシャツなのかと思われるといけないので、解説をしておきます。

川鍋一朗氏(以下、川鍋):(笑)。

西山:直前の川鍋会長の講演で、「自分の本気度を示すために、毎日この社名入りのTシャツを着ている」という熱いメッセージを届けてくださっていたため、Tシャツでいらっしゃるというわけですね。

今日は非常に私もわくわくしております。以前から存じ上げている、伝説の経営者と申し上げていい大山会長と、今伝説の経営者にならんとされている川鍋会長に来ていただいて、いろいろ変革のお話をしていただきました。

視聴者サイドに立って、私からいくつか質問をさせていただくと、やはり「変革すると怖い」「何か間違うんじゃないか」「失敗するんじゃないか」と思う人が非常に多いと思います。

大山会長が講演の中で「ピンチをチャンスに」とおっしゃいましたが、おそらく聞いておられる方には「やはりピンチはピンチじゃないか」と思う方もおられるはずです。

あるいは別の言い方で「確かにアイリスオーヤマや日本交通のような企業だったら変革したほうがいいのかもしれないが、うちは違うかもしれない」と思いたい人も、ひょっとしたら多いかもしれない。まずそういう方々に、大山会長、川鍋会長の順でぜひメッセージを頂戴できればと思います。よろしくお願いします。

野球も経営も、三振を恐れていてはホームランは打てない

大山健太郎氏(以下、大山):まずは(アイリスオーヤマの変革の理由は)リスク分散なんですね。当社の場合、もちろんスタート時は年商500万円の零細な企業だったわけですが、その年の利益の約50パーセント以上は税金に持っていかれましたからね。

経常利益の50パーセント、(残った)利益のすべては次のビジネスチャンスに投資をする。我々は経営者だから、そんなに贅沢することもないわけです。社員よりかは少し贅沢かもわかりませんが、自分の懐を増やすのではなく、いい会社にしたいんです。

そして企業には10年単位で想定外のことが起こるわけですよね。その時にいかに「潰れない会社にするのか」ということに、常にチャレンジをするしかないんですね。

僕はよく例えで言うんですが、みなさんも野球がお好きだと思います。ホームランバッターはすごいじゃないですか。でも裏返せば三振王なんです。三振を怖がっていてはホームランは打てない。打率を上げようと思ったら、イチローさんというすばらしい選手がいますが、彼は(三振の数は少ないですが)ホームラン数も圧倒的に少ないんです。

経営も同じです。私はホームラン狙いで挑んでいます。先ほど言った儲けた金で(先行投資して)仮にそれが失敗しても、結局は「税金を取られた」と思えばいい。発想の転換なんですね。お金をポケットに入れて貯めるのではなくて、それを元手に常に毎年毎年投資していく。

当然当たり外れはあります。でも外れよりも、当たった時の手応え(が重要です)。先ほど言ったように、三振よりもホームランのほうが会社の得点が増えるのではないかなと。このように思われてはいかがでしょうか。

これから花が咲く市場を見つける「ユーザーイン」の思考法

西山:せっかくなので大山会長にもう1つ伺います。偶然か分かりませんが、大山会長と川鍋会長の共通点は、そもそも引き継がれた時に、企業としてもともとの業態があって、それを変えてきたことだと思うんです。

もちろんいろんな「変え方」があるんじゃないかと思うんですけれども、「次にチャレンジするなら、こういう方向じゃないかな」という、大山会長の発想の原点(をお話いただけますか)。

大山:企業ですから、一番はやはり「収益性」です。収益性のある事業をやらないといけない。大企業であれば先行投資で、これからはDXの時代だから先行して何百億円も投資します。「利益を出すのは3年~5年後でもいいよ」と言えるかもわからない。

でも零細な企業からスタートした当社の場合はそうではなく、収益性が担保できるのか。儲かればなんでもやるわけではなく、「将来性」なんですね。将来というのは、今が小さくてもこれから(大きくなる市場のことです)。

ややもするとみなさんは今花の咲いている市場に目を向けるんですが、まだ小さいつぼみなんだけど、間違いなくこれは花が咲くだろうと(いう市場に投資します)。

それをどうやって発見するか。先ほど(の講演の中で)「ユーザーイン」と言ったでしょう。難しい話ではないです。私がユーザーの代弁者だと思えば、「私がやりたいな」と思うことは、たぶんお隣さんも、みなさんもそうだろうということです。

宣伝しなくても求められる、消費者の「欲しい」に刺さる商品

大山:当社がはじめにプラスチックの産業資材から転換したのは、ガーデニング・園芸(市場)だったんですね。45年前まで、日本ではあまりガーデニングは普及していませんでした。その頃はマーケットが小さかったんですが、プラスチックの鉢あるいはプランターで、草花を家の中で(育てられるようになって)豊かになれば、間違いなく(市場は大きく)なるだろうと。そういうかたちで満足する商品を(作ろうと考えました)。

その後「庭のない家はどうするんだ?」と考えた時に、「じゃあペットじゃないか?」ということで、犬を飼ってみると、(ペットの犬も)ファミリーなんですね。ということで、当時ベニヤの犬小屋と鎖と首輪しかなかったマーケットに、「家庭の中でどう飼うんだ」と(いう視点で商品を作っていきました)。

結局は、自分の家庭の中で必要なもの、不足・不満・不便を解消すると、宣伝しなくても常に消費者のみなさんが「欲しいな」と思っているところにピンポイントで立つんです。そうして、おかげさまで会社がどんどん成長していきました。

成功確率を上げたいなら「同時に少なくとも3つやれ」

西山:ありがとうございました。ではここであらためて川鍋会長から、ぜひ「やっぱりピンチはピンチじゃないか。どうしたらいいんだろう」と思っている人に(メッセージを)お願いいたします。

川鍋:大山会長が「リスク分散」とおっしゃったんですけども、まさにそのとおりで。よく「同時に少なくとも3つやれ」と言っています。みんな真面目なので一生懸命考えて、1つのことを深堀りして精度を高めようと努力をするので、いくつか絞り込んでやるんですが、正直、明日のことがわからないわけですよ。

だとしたらば、浅くてもいいから、同じ時間で3つを同時にやったほうが、圧倒的に成功確率が高いと思います。一撃必中でやって、それが外れると人間引けなくなるんですよ。でも3つ同時にやると「ごめん、これだめだった」と、こっち(外れた分の力)をこっち(まだ外れていない方)にやることができるんです。

一発でホームランを当てるのではなくて、やはり大山会長がおっしゃったように、何度も振る。ちゃんと練習してバッターボックスに立って、3回4回振れば一発当たると思うんですよね。

だからパワポにカリカリと市場規模とかをまとめないほうがいいですね。みんな分析しすぎ。「やること」に価値があると僕は思いますよ。

最適解を見つけられる「問題解決の専門家」のススメ

西山:ありがとうございます。せっかく川鍋会長にお話しいただいたので、今日ご覧の方に多いかどうかわかりませんが、特に若い層の方々を見ていると、どうしても自分のキャリアを考えて、「専門性」(を求める傾向があります)。(知識やスキルを)狭く深めないとプロとして認められないんじゃないかという発想になりやすい。

川鍋:めちゃめちゃ本質的ですね。

西山:その方々に向けて、川鍋会長から今のお話をもとに何かアドバイスがあれば。

川鍋:正直、私はどちらかと言うと逆の思考です。今アプリ開発をやってますと、西山さんのおっしゃるとおり、そのジョブディスクリプションによってそれぞれの細分化された専門家を採用するんですね。

でも、だからといって結局それは「部品」ですから。その部品を作る「目的」があります。やはり全体があっての部分ということまでわかる人じゃないと、上には上がれないですよね。

マーケットが細分化を求めるからといって、自分を細分化するのは実は危ないと思っています。逆に言うと、細分化したその道が3年後に(求められているとは限らない)。特にエンジニアの言語は流行り廃りがありますから。

西山:そうですよね。

川鍋:むしろ「問題解決の専門家」になったほうがいいんじゃないかと私は思っています。もちろん半導体のエンジニアなどは違うのかもしれませんが、ある程度一般のビジネスの分野であれば、より深く知るよりも、そのこととその他のこともちょっとずつ知っている(ほうがいい)。

なおかつその部署の人と気軽にコミュニケーションでき、その会社の中で今解くべき問題に対する最適解を見つけられるほうが、私は結果を残せると思うんですね。転職前提の、レジュメを書くための深堀りは危険だと僕は思っていますし、社員にも言っています。

西山:ありがとうございました。

大切なのは知ってるか知らないかよりも、できるかできないか

西山:ちょっと話題を変えてもう1つ。これは川鍋会長のご講演の中にも、大山会長のご講演の中にもありましたが、今日参加されている多くの方が、企業のトップというより、部長や役員クラスの方が多いんじゃないかと思います。

彼らにとっての課題はおそらく、やはり(立場的に)中間にいるので、自分はなんとなく変えようとは思っているんだけど、上司が納得しない。この上司をどう説得すればいいんだ、どう動かしたらいいんだということ。もう1つは部下がついてこないこと。思いついているんだけど、なかなか下がついてこない。

こういうことに今悩んでいる方に何かアドバイスを、よろしければ大山会長からお願いいたします。

大山:実は当社も、平均年齢が若い会社です。毎年新卒の方がたくさん来るので、僕はよく言うんです。学校は、学んだことを知っていればそれなりの評価がもらえるんです。ただし実技に入ると、知ってるか知らないかよりも、できるかできないかなんです。野球にしてもサッカーにしてもそうなんですよ。

はっきり申し上げると、今の若い方が1人2人の中でちやほやされて、あまりにも勉強したことがすべて(だと思い込んでいるのではないか)……。勉強しないよりは、絶対に勉強したほうがいいんですよ。でもそれより(大事なのは)、「(自分の)できるかできないかを、いかに実社会の中で学べるか」ということなんですね。

大抵どこの企業も役所もそうだと思うんです。当社も大学生を採りますけれども、学部で「お前は営業だ」とは決められないじゃないですか。初めの4~5年でいろんな部署を経験して、その中で彼らの適性に合わせて(配属決めを)やるわけですね。

本当に学ぶべきは、過去ではなく「これから」のこと

大山:もう1つ言うと、経営学は過去の学問なんです。過去の成功事例を学んでいるわけです。

変化に対応しようとすると、今の世の中は早いわけです。だから経営学の先生方が勉強された20年前、10年前の企業が、これからを支えるかというと(そうとは限らない)。もちろんそういう企業もあるんですよ。でも、これからどういう企業が出てくるんだというところを、もっと本質的に深く(学ぶべきです)。

それは「勉強」じゃなくて「現場」で。すべてのニーズは現場にある。お客さんに接して、あるいは現場を見て、機械であれ故障現場を見ていく中で、アイデアが出てくるんですね。

当社のコーポレートメッセージは「アイ ラブ アイデア」です。大事なことは、知ってることよりも実際に現場の中で自分が感じたアイデアをどのように発信するかということです。その時に、先ほどの講演で言いましたように、上司がそのアイデアを潰さないようにする。

なかなか今のヒエラルキーでは、失敗させないようにします。ご両親も、かわいい息子や娘が失敗しないように有名企業や歴史のある企業に入れます。その10年後~20年後にその産業がどうなるかというと、「それは置いといて……」となるんですね。

「これから何が必要なんだ」というところに、やはり目線を変えてかなきゃいけない。そこがポイントなんじゃないかなと思いますね。

採用面接で「権限をください」と言う人はダメ

西山:ありがとうございます。川鍋会長、もし何かあれば。

川鍋:よく採用面接をしていると、「権限をください」と言う人がいます。でもその瞬間に「ダメだなぁ」と思いまして。やはり権限は、できる人に集まっちゃうんですよね。(なので権限が欲しいなら)いかに周りに自分はできる人だと思ってもらうかという作戦が必要です。

もし自分の権限の範囲が部下2人だったら、部下2人の間でいいんですよ。自分のできる権限の中で、まず部下に(「この人はできる人だ」と思ってもらう)。それができないんだったらもはやダメじゃない? という話です。

もし部下がいなくて1人だったら、1人でいいんですよ。1人でできる範囲で、部署のコピー費を削減するとか、いらない会議をやめるとか半分の時間にするとか。それによって誰かが喜んでくれたり「この人がいると意外と助かるぞ、いいぞ」と思ってくれたりすると、次に何か言った時に「じゃあやってみようか」と(権限をもらえるんです)。

みんな「人」を見ているんですよね。いろんな部下から提案をもらっても、上司は中身はあまり見ていない。「こいつから来たらだいたい大丈夫だ」「西山くんから来たら大丈夫だ」という雰囲気になります。

かっこよく言えばブランディングをどう作るかというのは、「その人が本当に自分にとっていいことをしてくれた」しかないですから。「いつもうちの部署はおいしいコーヒーが置いてあるなぁ」でもいいんですよね。自分の中から作り出す。「権限が」とか「部下が」とか「上司が」とか言ってるうちは、ちょっと考えを変えていかないといけない。

『7つの習慣』とかを読んでいても、「自分のできる範囲でやる」とありますよね。

西山:なるほど。

川鍋:どこの企業でも自分が社員としている限り、何かやれることはあるはずです。小さいところからでいいと思うんです。

「実質的に判断できるリーダー」を選抜・育成する工夫

西山:今のお話の続きで、今度は経営者としての立場に戻ります。当然人材を育てたり、場合によっては選抜をしたりしていく必要がありますよね。

特に比較的歴史のある企業だと、今の2つのことがない交ぜになって起こります。今、川鍋会長がおっしゃったようなことも起こるんですが、他方で大山会長がおっしゃったように、報告の報告の報告というかたちで、経営者が聞いた時には報告の何乗かになっていて、最初に何を言っていたのかほぼわからない。

川鍋:そうです、そうです。

西山:あまりポジションに関係なく「人」によって動く部分と、でも組織だから(「ポスト」に従って動いて)縦に報告しているうちに何を言ってるかわからなくなる部分。その2つがない交ぜに起こるじゃないですか。

その中で、より実質的に判断できるリーダーをどう選び育てて、必要なポストにつけられるのか。何か工夫されていることやお考えがあれば、ぜひお願いいたします。

大山:そうですね。当社には企業理念が5つあるんですが、その中の3つ目が大事なんです。「働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」です。

私は先ほどからずっと「ユーザーイン」と言っていますが、これは物を作り、あるいは買っていただく。これがユーザーです。企業にとってみれば、社員もユーザーなんですね。彼らがどう働いてくれるのか。

アイリスオーヤマの人事制度の3つの基準

大山:そこで我々が非常に大事にしているのが「人事制度」です。これはなかなか難しいんですが、当社は3つの基準でやっています。1つは実績。当然、営業なら売上、管理系であればちゃんと業務をやれたかどうかという1年間の実績です。

その次に我々が見るのは「能力」です。(企業で求められる能力は)偏差値の高い学校とは違います。我々は毎年年末に、等級別に社員に共通した課題テーマを与えて、論文を書いていただいて、発表してもらう。

西山:うかがってよければ、例えばどんなテーマなんですか。

大山:一番わかりやすいのは「自部門の課題とこれからの解決」というテーマです。当社の「アイ ラブ アイデア」を今年はどのように実践するのかと。すると、その人の考え方が出てくるんですね。

西山:なるほど。

大山:これは単に上手に書いたとかじゃなくて、評価が大事なんですね。当社は12月決算なんですけど、2月はほとんど1ヶ月、評価課題に使われるんですね。実績評価は簡単ですから。

能力評価はみんなの前でプレゼンをし、他の社員も聞いて、評価点を出すんですね。能力は学校の成績でも売上の成績でもなく、課題論文に対して、どのように自分のポストでやるかということを見るんです。

公正な人事評価のための「3車線人事」

大山:3番目が多面的評価ですね。これはどこでもやっておられますが、我々は厳しく出しています。この3つの評価で、社員の公正な評価をします。

僕は「公平性」は人事ではありえないと思います。要するに「公正」にやろうということです。

私、実はサラリーマンの経験がないんですよ。なので「僕がサラリーマンだったらどんな会社でがんばるかな」と思うんです。目標を明確にしてくれて、しっかり自分の実績を評価してくれて、自分のやりたい能力を評価してくれて、部下からの評価も良ければいいだろうと思うんです。

当社の人事は「3車線人事」です。役所はどっちかというと1車線で、先輩がなかなか(進まないと後が詰まる)。だいたい重くなると、「隣車線でちょっと……」となる。

当社は3車線で、追い越し車線を作っているんです。この追い越し車線で、3つの成績で優秀な人(が進めるようになります)。ですからさっき言ったように、26歳ぐらいで主任になる人もいれば、40歳でまだ主任になれない人もいる。逆に30半ばで執行役員にまでなる人もいるんです。

これは、みんなが納得するんですね。そのために時間をかけなければいけないから、当社の上司はだいたい2月の半分以上を人事評価委員会に(時間を割いています)。

言うことを言うだけではなくて、お互いに時間をかけ(て評価をす)る。1on1ではなく、全体の中でどう評価するか。これに時間をかけなきゃいけない。そうすると納得できる(評価になる)んですね。

だから単にお金や待遇だけではなく、僕が働く人を納得させない限り、なかなか動かない気がしますね。

日本交通が人事で重視するのは「考え方」と「情熱」

西山:なるほど。例えば人事の仕組を作るというと、普通は「こういう点を今まで評価してなかったんじゃないか」って評価項目が無限に増えていきがちです。

項目だけがどんどん増えていって、書いただけでみんな力尽きて、評価する時間がないということが起こりがちだと思うんです。(今の大山会長のお話は)そうじゃないやり方をやっておられるということだと思います。

川鍋会長から、この「人を育成する」という点(についてお考えをうかがいたいです)。

川鍋:日本交通の社是は「徳を残そう」なんですね。損得の得じゃなくて、徳育の徳です。我々の事業はモビリティ、タクシーです。これを鑑みて私が一番フィットしていると思い、うちの人事の根本的な考え方としているのは、稲盛和夫さん的考え方です。

まず「考え方」が大事です。考え方がずれていると、スキルよりも多くの人を動かさなきゃいけないんですよね。人間性を含めた考え方がないと、管理職になっても人は動かない。その上で情熱がある。この掛け算でほとんど見ていて、その人にどのぐらいのスキルがあるかは、実はあまり重視してない。

この(考え方と熱意の)2つが特に強い。最後は特に人柄が際立っている人を上にしたほうが、営業室全体の成績が良くなる。これが日本交通の労働集約産業における1つの勝ち方かなと思っていますね。

人事でよく「僕は次に何やったら上に就けるんですか」と言われるんですよ。でも「この資格取ったら」とか「この営業(の仕事を)獲ったら」ということではない。人事は総合だから。その代わり「何をやったらいいかは教えられないけど、必ず半期ごとにA評価を取るやつがいるから、そいつが何をやっているか、自分で観察してごらん」と(アドバイスします)。

結果として「みんなが納得いく人事になっているかどうか」ということを、人事や役員は考えるんですが、一番最後は「この人が上がった時にみんなに納得感があるか」ということを最大の目標にしながらやっていますね。

これはものすごい手作業です。正直、評価項目とかあまり決めていないです。今回なぜ良かったか、どのくらい良かったのかというのを、みんなでいろんな軸で見ます。

「この時は業績が良かった」「この時はこの新入社員を引っ張った」「この時は他の営業とのコミュニケーションを良くした」と、いろんなものがありますから。我々(上層部からの評価と)、それを補うための360度評価という2軸でやっています。

「能力が高くて人柄が悪い人」は一番良くない

大山:川鍋さんがおっしゃったように、当社も能力主義じゃないんですよ。1に人柄、2に意欲、3に能力。逆に私は言うんです。能力が高くて人柄が悪い人って、たまにいるじゃないですか。

川鍋:一番良くない(笑)。

大山:困るでしょ。だからさっき言った3つの評価の中で、我々が一番大事にするのは360度評価です。上司・同僚・部下がどう見てるのか。この360度評価で同じ等級のワースト10、1割になった人に、我々はイエローカードを出すんです。

成績が良くても、プレゼンが良く能力があっても、これが悪ければチームが成り立たないんです。チームプレーでやっていますから。「気づきカード」と呼んでいますが、これを出したからといって、どこが悪いか本人はわからない。

そこで担当の上司だけが匿名の360度評価を見て、「ここがこうだよ」と1年コーチに就くんです。それで自分の欠点を見てもらいます。

おっしゃるように組織は能力でやると歪になります。まずは人柄があって、意欲がなければならない。人柄、意欲があって場を与えれば、2年か3年か5年か、個人差はありますけど、人間がんばればそんなに能力に差はありません。

川鍋:そうですね。

西山:ありがとうございます。

業種による凹凸を乗り越える「人材の多能工化」

西山:これが最後だと思いますが、大山会長は講演の中で「業種ではなく業態だ」という話をされました。

多くの企業の課題は、例えば今までずっと事業部制でやってきて、事業が業種だとすると、それを変えてしまうと、どう組織が連携していったらいいかわからなくなる。何を設計図にしていいかわからないところがあるんじゃないかと思うんです。

アイリスオーヤマの中では、今までプラスチック加工だと思っていたところから、どういうふうに(組織を変革していったんですか)。

大山:生活者視点で言えば、業種で物を買っていないんですよ。魚屋さんで魚を買うし、肉屋さんで肉を買うけれども、すき焼きをやろうと思ったら、肉もいれば野菜もいるんですね。

業種というのは作り手の(視点の話です)。設備が違うし、材料が違う、技術が違うということにこだわっているんです。当社も右肩上がりの時は、その理でも会社は大きくなったんです。でもどんどん人口オーナス(労働人口減少化)になって、人と需要が減っていく中で同じようにやると、先細りになるんですよ。

そのために大事なことは「人材の多能工化」なんですね。昔、金型は職人以外できないと経産省も言っていました。でも今は逆に職人は困るんですよ。みんなコンピューターでやるわけです。今の産業機械はほとんどコンピューターで動く、DXの時代なんです。

だから「プラスチックだけではダメ」ではなく、「食品もできるよ」というかたちでチャンスを与えていくと、人は多能工化できるんです。稼働率のばらつきがあってA部門の売上が足りなかったら、B部門から行ってくれと。

人材を動かすのは大変なんですけど、それをやることによって、業種によって凸凹があっても会社全体はフラットに動いていくんです。なので多能工化に対しては非常に教育をしています。組織を変えるよりも、まず人を変えている感じですね。

テクノロジーによって、縦割りの境界線が曖昧になる

西山:その点、まさに日本交通ではタクシーという業種・業態にチャレンジをされていると思います。川鍋会長からも何かお話いただければ。

川鍋:そうですね。業態という括りで言えば、テクノロジーですよね。今はアプリですが、例えば今度は相乗りタクシーのようなサービスが出てきて、気づいたらタクシーがバスの役割に寄っていってるとか、またコロナ禍でフードデリバリーがタクシーでできるようになって、気づいたらタクシーがトラックの領域にちょっと入っているとか。

当然、国土交通省の中では縦割りです。トラックはトラック、バスはバスで、それぞれの業法があるという世界観です。でも大山会長のおっしゃるように、みんな別にタクシーに乗りたいと思っているわけではなく、移動したいと思うから、その手段がバスかタクシーなんですよね。その境界線が、テクノロジーによってだんだんぼやかされてる感じはするんです。

あとその業態の法律をどう変えるかというのは非常に難しくて、ここは協会長としても非常に悩ましいところです。

だいたい法律を変えると、いいこともあれば悪いこともある。みんなが大山会長のように「ピンチがチャンスだ」となってくれればいいんですけど、大抵は「ちょっと待ってくれ、川鍋さん」ってなっちゃいますので、そのあたりのバランスをどうとっていくかが今後の課題です。

「絶対みんなが100点じゃなきゃダメだ」と思うから、チャレンジできないんです。一人ひとりが最終的にはリスクを取るというか、いくつもやることによって変化できるんだという「自信」を身につけることが大切なんじゃないかなと思います。

身につけるべきは、多様な物事をうまく捉える「考え方」

西山:ありがとうございます。いろいろお話をうかがっている間に、だんだん時間が迫ってまいりました。今日はまさに伝説の経営者にならんとされている川鍋会長にもお話をいただいて、その中に数多くのヒントがあったと思います。

みなさんいろいろ感じていただいたと思いますけれども、今日の話は共通して、細かい知識を得るより、広く多様な物事をうまく捉えて、チャレンジできるような考え方を身につけるというのが、1つのキーワードだったと思います。

このDXキャンプの中でもいろんなプログラムを用意しており、その一つひとつをよく聞いていただくことも大事だと思います。ぜひそれを材料として使っていただいて、みなさんの考え方がさらに一歩先に進むようになり、まさに「ピンチもチャンスに変えられる」という自信につながることを祈念いたしまして、この鼎談を締めくくりたいと思います。お二人とも、どうもありがとうございました。

大山、川鍋:どうもありがとうございました。

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