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基調講演:慶應義塾大学教授 前野隆司氏「幸福のメカニズム」~仕事の結果にもつながる考え方を~(全3記事)

そこまで好きではない仕事で、生産性や創造性を高めるには? 幸福学の権威が教える、仕事との向き合い方

全国フリーランス共創コミュニティ「新しい働き方LAB」による研究結果の発表と表彰のイベントとして開催された「新しい働き方アワード」。同イベントの基調講演に、幸福学の第一人者で慶應義塾大学教授兼ウェルビーイングリサーチセンター長の前野隆司氏が登壇。幸福度と寿命の関係や、そこまで好きではない仕事でも生産性や創造性を高める方法などを語っています。

幸せに働く人は不幸せな人に比べ、創造性・生産性・売上すべてが上回る

前野隆司氏(以下、前野):それから幸せと働き方について、もう1枚スライドをお見せします。幸せについては多くの研究が行われていて、いろんなエビデンスがあります。

まず、幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍高いんです。そして生産性も30パーセントぐらい、売上も30パーセント以上に上がるというデータがあります。いかがですか? みなさん幸せだと……つまり、さっきの「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」を満たしていると、創造性が3倍なんです。

アイデアが3倍出ます。新規事業も3倍できます。そして生産性も30パーセント上がるし、小売業だと売上も伸びるわけですから、幸せにならない理由がないですよね。

さらにスライドの後半に書いてありますが、幸福度が高い社員は欠勤率が低く、離職率が低く、そして業務上のミスが70パーセント少ないんです。ミスもしにくいし、休んだり辞めたいと思わなくなるんです。要するに今の仕事、あるいは新しい仕事でもいいのですが、新しくやっていることが楽しくておもしろいので、休んだり辞めたり、イライラしながらやって失敗したりということも起こりにくくなるんです。

いかがでしょうか? 『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』のダイジェスト版をお伝えしました。このように幸せの条件を満たしながら働いたり、人生を生きていただくとより幸せになります。そして、幸せなだけではなくて創造性も生産性も高いわけです。さらにここには書いていないのですが、幸せな人は不幸せな人よりも寿命が7年から10年長いという研究もあります。

つまり、幸せだと健康長寿にもなるんです。免疫力が高まることもわかっています。このように、幸せだと本当に良いことがたくさんありますし、新しい働き方LABの研究員になって、まさに「みんなで仲間として力を合わせて、新しいことにチャレンジしてやってみよう」と行動すると幸せになります。ぜひ目指してみてください。

市川瑛子氏(以下、市川):ありがとうございます。幸せってどうしても結果論みたいな捉え方をする人が多いと思うんです。しかし、あえて自分から幸せをつかみにいくというか、自分で作りにいくという発想が必要なんだなと聞いていてすごく思いました。

前野:そう、そう。それができるということなんですよね。幸せは自分で目指せるものだということです。

市川:相田みつをさんの「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる」にすごく近いですよね。

前野:本当にそうですね。

そこまで好きではない仕事でも、生産性や創造性を高める方法

市川:実は、今回は事前に質問を募集させていただきました。すごくたくさん来てしまったので、今日はお聞きできる範囲で質問していきたいなと思います。まずはこれかな。

「好きなことを仕事にすべきかどうか」という質問です。この質問者は「好きなことと仕事は別にしたほうが幸せを感じられるのだろうと思っているけど、実際どっちがいいのかわかりません」ということです。好きなことを仕事にしたほうがいいのかどうかを教えてください。

前野:確かに、プロ野球選手かなんかで「野球が好きだったけど、仕事にしちゃうと楽しめないから好きじゃないことを仕事にしたほうがいい」と言っていた人はいます。

市川:そういうこと、ありますよね。

前野:だけど、やっぱり好きなことだとやる気が出るじゃないですか。やる気が出ると幸せなので、生産性も創造性も高いわけです。だから嫌いなことはやらないほうがいいですよね。僕は好きなことでいいと思います。

昔は苦しんで仕事をするという考え方がありました。でも、やっぱり楽しみながらやりがいを持ってやってみよう、なんとかなると思って働ければいいわけですから、好きなことを思いっきり、苦しむのではなく楽しみながらやればいいと思うんです。

もう1つ言いたいのは、「どの仕事だって好きになれる」ということです。どんな仕事も、よく考えると人々のためになっているんです。「あぁ、やりがいがあるな」と思おうとすればそう思えるし、やらされ感みたいになってしまうとどんな仕事だってつまらなく感じると思うんです。だから、好きな仕事をしたほうがいいし、仕事を好きになったほうがいいと思います。

市川:やりがいを感じるかどうかですよね。例えば、水泳が好きだから水泳の仕事をするべきかというと、必ずしもそういうわけじゃないかもしれない。「やっていることの何かを好きになる」ということですね。

前野:そうそう。やりがいです。「やってみよう因子」です。すごく好きじゃなくても、やりがいを感じていればいいんじゃないですかね。「嫌い」は良くないと思いますけどね。

市川:そうですね。嫌々やるよりは。

前野:そう。嫌々は良くないですね。

幸せに働くための、自分の強みの見つけ方

市川「自分の強みを活かすこともすごく幸福に直結する」と、先ほどのお話でもありました。でも一方で、自分の強みがわからないという方がすごく多くて、その方にどんなアドバイスがいいのかをお聞きしたいです。

前野:うちの学生でも、就活で自分の強みがわからないからと本をいっぱい読んで調べる人がいます。

市川:そうですよね。自己分析したり(笑)。

前野:ですが、外でいくら調べても強みは見つからなくて、やっぱり自分の中に問うしかないんです。しかも若いうちは、強みはまだありません。赤ちゃんで生まれた時に強みのある赤ちゃんっていないですよね。もちろん、足が速いとかはあるかもしれませんけど。

やっぱりいろんなことをやってみた中から、自分が得意で強くて好きなことというのを見つけるしかないんです。だから、最初はわからない中でいろんなチャレンジをして、その中から強みがだんだん育っていくという感じなので、おもしろがりながら強みかもしれないことをやってみるしかないと思います。

市川:そうですね。新しい働き方LABでも、とにかくいろんなことに挑戦してみないと好きか嫌いかわからないし、やってみて結果として嫌いだったら別にそれはいいんじゃないかって。

前野:そうそう。辞めればいいんですよ。次をやればいいんですよね。

市川:そうですよね。あとは、自分が強みじゃないと思っていたものが実は強みだったりというのも、けっこうありますよね。他人に言われて初めて気付いたとか。

前野:あります。自分だと当たり前だと思っていることですね。例えばオタクみたいな趣味とかはすごい強みですよね(笑)。だって、ものすごく時間をかければ趣味も立派な強みになりますから。他人から教えてもらうのも1つのコツですね。

市川:だからこそ、つながりも大事ということですね。

前野:うまいこと言いますね(笑)。

市川:いやいや(笑)。でも本当にコミュニティをやっていて、その価値をすごく感じます。「自分は何も良いところがない」と思っていた人が、他人に言われて初めて「あ、ここってけっこう自分の強みなんだな」と気付けることはあるなと思います。

前野:大事ですね。

市川:ありがとうございます。

目標達成時だけでなく、目標を目指す過程も幸せ

市川:では次の質問にいきます。たくさんあるのでハイペースでいきたいと思います(笑)。「理想のビジョンが叶ったら幸せなのか、それとも叶える過程が幸せなのか?」という質問ですが、いかがですか?

前野:これは両方の研究があります。ビジョンが叶ったら幸せです。なぜなら報酬ホルモンであるドーパミンが出ますから、「やったー!」と、幸せになります。目指している過程も、まさに生き生きとやりがいを持って目指している人は「よし、これがうまくいった! いいぞ!」と思うとドーパミンが出るんです。

ですから、過程ももちろん幸せですし、目指したことが得られただけじゃなくて、それによる自分の成長も幸せなんです。過程も結果も自分の成長も幸せですから、全部幸せです。

市川:やっぱりやっている中で、「なかなかゴールが達成できないな」と嫌になるのではなくて、「それが楽しいんだよ」と過程を楽しめるマインドセットが大事ですよね。

前野:そうですね。コツの研究が1つあります。目標を大きく置くよりも、小さい目標を刻んで一個一個を喜んだほうが幸せという研究があるんです。

市川:なるほど!

前野:「いやいや、1年後にあれをやるまでは喜ばない」というよりも、「今日はこれをやる」と決めて、「やった! できた!」と小さくても喜んだほうがいいんです。ですから、目標を小さく刻むのは1つのコツです。

市川:なるほど。細分化して、達成しやすいものをたくさん作っていくんですね。

前野:あとは満喫力です。「1日にこれぐらいやって当たり前だよ」と小さいことだと思うと喜べないけど、「おお! 俺やったじゃん!」と小さくても喜べば、脳はうれしい気持ちになります。ですから、満喫したほうがいいですね。

市川:いいですね。バカポジティブみたいな(笑)。

前野:バカポジティブ(笑)。そうそう。それでいいと思います。

市川:私、言われたことあります(笑)。

前野:そういう人は幸せです。

市川:抜けているというのもあるかもしれないんですけど(笑)。「ポジティブな部分だけを見て、前に進む」みたいな。

前野:それは前向きと楽観ですね。

市川:なるほど、ありがとうございます。「過程も幸せになる」という答えですね。

「他人のため」だけに働くのでは、幸せになれない

市川:次は、「働く幸せは自分本位なのか? それとも他人のために働くことこそが幸せなのか?」という質問です。さっきのお話では、自分のためではなく、他人のためというのも大事だと言われていました。

前野:でも、どっちかだと幸せじゃないんです。対人援助職には、他人のためばかりで自己犠牲になる人がいるんです。例えば看護師になって「私なんかどうなってもいいから、人々のために尽くしたいです」という人です。これは他人のためだけなので、バーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすいんですよ。

自分のためだけの人も友だちが減ります(笑)。やっぱり「社会のため」は大事です。「自分だけが上場益を得るぜ!」ではなくて、「自分が大きい会社にすることで社会に貢献するぞ!」があったほうがいいんです。なので、自分のためと他人のためと両方あるのが幸せです。

市川:なるほど。どっちかにならないように、両方を見ながら考えるということですね。

前野:そうですね。因子でいうと、2番目の「ありがとう因子」が他人のためじゃないですか。「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」の、1番目、3番目、4番目は自分のためなんです。ということは、自分のためと他人のための4つの因子を満たした人が幸せということです。

市川:なるほど。結局はそこにたどり着くわけですね。おもしろいですね。

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