2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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市川瑛子氏(以下、市川):みなさん、こんにちは。今日は慶應義塾大学の前野隆司先生にお会いしに来ています。前野先生、よろしくお願いします
前野隆司氏(以下、前野):よろしくお願いします。
市川:ご存じの方もすごく多いと思うのですが、前野先生は幸福学の第一人者としていろんな研究をされています。私たちが運営している「新しい働き方LAB」も、「自分にとって新しい働き方を追求して、自分らしい生き方や働き方を見つけていこう」という取り組みなので、幸福の追求にすごく近いなと思っています。
それもあって、実はけっこう前から、前野先生にお会いしてお話をしたいなとずっと思っていたんです。
前野:ありがとうございます。
市川:今回はその夢が叶ったので、すごく楽しみにしています。お忙しいところありがとうございます。まず前野先生ご自身についてお聞きしたいのですが、幸福学って一見ふわっとしているというか、抽象的な印象を受ける人がすごく多いと思うんです。ですが、実は前野先生はエンジニア出身でいらっしゃるじゃないですか。
前野:そうですね。
市川:なので、もともとエンジニアとして働かれていた前野先生が、なんで幸福学を研究するに至ったのか、そこをまずお聞きできたらなと思います。
前野:まじめに話すと、僕はもともとカメラメーカー(勤務)で、大学に移ってロボットを作っていたんですが、エンジニアというのはカメラやロボットの設計論に幸せをちゃんと入れるべきだと思ってるんです。
市川:当時からそう思われていたんですか?
前野:ぼんやり思っていたと思うんです。エンジニアとして便利なものや安全なものを作るじゃないですか。でも大学に入ってから価値というものを追求していくと、その最高峰はやっぱり幸せだと考えるようになりました。だから、あらゆるものはすべての人の幸せのためにあるべきで、その設計論をちゃんと作ることが研究者としての務めだと思っています。
市川:なるほど。すごいですね。でも、幸福って実際に科学的に分析できるものなんですか?
前野:私が研究を始めたのは2008年ですが、実は心理学の分野で1980年代ぐらいから幸せの研究はずっと続いているんです。例えば、「感謝をする人は幸せ」とか「孤独は幸せじゃない」とか「やる気のある人は幸せ」とわかっています。ですから、そのわかっているものを工学としてモノづくりやサービスづくりに埋め込めばいいという意味で、ちょうどいいタイミングだったんです。
市川:なるほど。最初に幸福学を勉強したきっかけは、ロボットやカメラなどツールが幸福に使えるようになったらいいなという思いだったんですね。
前野:最初はそうです。
市川:今、そのあたりはどうお考えですか?
前野:製品・サービスの幸せもやっているけど、最近よくやるのはやっぱり働き方です。職場が幸せになると生産性も創造性も高くなるとわかっていますから、職場づくりも製品づくりと一緒に幸せにするべきなんです。これはけっこういろんなところで当てはまると思います。
市川:まさに今回は働き方のイベントなので、そういった意味ではすごく興味深いですね。
市川:今回は新しい働き方LABによるアワードの場なのですが、前野先生の研究で有名な「幸せの4つの因子」があるじゃないですか。私もその関連本を2年前ぐらいに拝読して、すごく共感する部分があったんです。働き方を実験する研究員制度を立ち上げたきっかけになったのは、実は前野先生の研究だったりするんです。
前野:そうなんですか! それは光栄です。
市川:今考えるとその4つの因子が、新しい働き方LABと重なっているなと思っています。新しい働き方LABの研究員制度とは何かというと、新しい働き方に挑戦したいと思っている方は多いんですが、実はその一歩を踏み出せない人もすごく多いんです。その中で「実験でいいから、とりあえずやってみよう」というコミュニティを立ち上げまして、半年間でいいから働き方を実験してみませんか? という場なんです。
なので、会社員の方が副業に挑戦してみてもいいし、できるかどうかまったくわからないけどゼロから新しいことを学んで稼いでみたり、ワーケーションしてみたり。人によっていろんな実験の角度があるのですが、そういった挑戦をする人たちを研究員というかたちで募集して、活動してもらうという取り組みだったんです。
前野:いいですね。
市川:なので、コンセプト自体が実験と言っているのもあって、「4つの因子」でいうと「やってみよう因子」とか「なんとかなる因子」、あとはコミュニティなので「つながり」という意味で「ありがとう因子」。「4つの因子」とすごく重なる部分があるなと思っています。
なので、今日この話を聞いてくださっているみなさんにも、幸福学を学んでいただいて、自分自身の働き方を変える何かのきっかけになったらいいなと思っています。
前野:本当ですね。そうしてほしいですね。
市川:ということで、今から前野先生にご講演をいただいて、最後にまたQ&Aというかたちでできればなと思っています。よろしくお願いいたします。
前野:それでは私が行っている幸福学(well-being study)の基本について、2枚のスライドを使いながらご説明しようと思います。
1つ目はこのスライドにありますように、幸福学というのはまずwell-being studyと言うんです。happiness studyというよりも、well-being(良い状態)を表す言葉です。ですからハッピーは感情的な良い状態ですが、もっと広い「働きがい」とか「つながり」にも関係するんです。
最初に書いてありますように、地位財型の幸せは長続きしないのに対して、非地位財型の幸せは長続きするという研究があります。地位財とは、他人と比べられる財です。ここに書いてあるように金、モノ、地位です。人は金やモノや地位は欲しいのですが、これによる幸せは実は長続きしないんです。
例えば、課長になった時に「課長になった! 課長になった!」と、1年中喜んでいる人はいないですよね。最初はうれしいのですが、そのうち課長になって当然だと思うし、早く部長になりたいと思いますよね。ですから金、モノ、地位は目指してもいいし幸せになるんですが、またすぐ不幸せになるということなんです。
じゃあ何が長続きする幸せかといいますと、この下にある「精神的、身体的、社会的に良好な状態」です。ここには、安全・健康・心の良い状態と書きましたが、「安全な社会」「健康な身体」「心の良い状態」が長続きする幸せに影響するわけです。
さっきから話している「幸せの4つの因子」は、心の状態について因子分析という手法で分析した結果、この4つを満たしている人は幸せで、満たさない人は幸福度が低いことを明らかにしたという研究結果なんです。
前野:この4つの因子についてお伝えします。1つ目が「自己実現と成長の因子」、あるいは「やってみよう因子」と言います。さきほど「やってみようと思って新しい働き方にチャレンジする人は幸せです」という話が出ていました。まさに自己実現で、自分でやりたいことを実現しようとしたり、そのために新たなチャレンジをして成長する人は幸せです。
あるいはここにあるように、自分には強みがあるという人は幸せですし、強みが見つかっていない人は、残念ながら幸福度が低いんです。ということは、いろんなことにチャレンジして強みを見つけて、しかも主体性を持って自分の力でやってみようと思う人は幸せです。
2つ目は「つながりと感謝の因子」「ありがとう因子」です。やっぱりつながりなんですよ。人と人はつながると幸せになります。逆に孤独感(ロンリネス)は、幸福度が低いんです。コロナ禍で一人ぼっちになりがちですが、一人ぼっちになると幸せじゃないので、ぜひ誰かと話してつながりを持つこと。そしてそれに感謝をし、ありがたいなと思うことが大事です。
それから利他や多様な仲間がいること。利他が大事なんです。人のために何かをする。いろんな働き方の中から人々のためになることをやる。「自分のためにやってみよう」も良いんですが、2つ目は自分のためだけじゃなくて、人のためになることをする。これが幸せのための大切な条件です。
前野:3つ目は「前向きと楽観の因子」「なんとかなる因子」です。前向きで楽観的な人。つまり、何かにチャレンジした時にうまくいくか・うまくいかないかはリスクもありますが、「なんとかなるからやってみよう」と思う人です。
「やってみよう因子」とも関係しますが、ここは「なんとかなる」ですね。要するに、「リスクはあるけどやってみよう。失敗したらもう1回チャレンジすればいいじゃないか」と、チャレンジを何度も繰り返す人です。そういう人は幸せです。
「自分は無理かもしれないからやめておこう」とチャレンジをしない人や、石橋を叩いて渡らない人がいますが、これは残念ながら幸福度が低いんです。だからチャレンジをするか、やめるか悩んだ時は、チャレンジをしたほうが幸せになります。これが3つ目です。
4つ目が「独立と自分らしさの因子」「ありのままに因子」と言います。あるいは「独立とマイペースの因子」「あなたらしく因子」とも呼んでいたのですが、どちらでもいいです。要するに、人と自分を比べすぎる人は幸福度が低いんです。
みなさん、自分と人を比べてしまうでしょうか? それともあまり比べずに自分のペースで生きているでしょうか? 人と自分を比べて妬んでしまったり、悔しがったりしてしまうと幸福度は低いんです。ですから、さっきも言いましたが「自分の強みがあって個性があって、自分らしく生きている。ありのままに生きているぞ」という人は幸せです。いかがでしょう?
先ほどから名前が出ていたように、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」を満たすと幸せになります。ですから、新たな働き方に研究としてチャレンジすること自体が、非常に幸せですよね。
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