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漫画家の知らない表紙デザインの世界(全3記事)

電子書籍と紙の本、作品の「表紙」にはどんな違いがある? 数々の人気漫画を影で支える、表紙デザイナーの裏話

デジタルコミックエージェンシーのナンバーナイン主催で開催された漫画家ミライ会議2021。「漫画家の知らない表紙デザインの世界」と題した本セッションでは、「このマンガがすごい! 2022オンナ編」第1位を獲得した『海が走るエンドロール』の表紙デザインをひもときます。本記事では、コミックスの表紙が作られるまでの過程をデザイナーの白川氏が解説しています。

「このマンガがすごい!」1位を獲得した『海が走るエンドロール』

小禄卓也氏(以下、小禄):お待たせしました。いよいよ本編に入っていきたいと思います。これより「漫画家の知らない表紙デザインの世界」のセッションを開始いたします。

それでは、登壇いただく方々をご紹介したいと思います。アートディレクター・デザイナーで、株式会社 円と球の白川さん、『海が走るエンドロール』作者のたらちねジョンさん、漫画編集者の山本さんです。よろしくお願いします。

(一同拍手)

白川氏(以下、白川):株式会社 円と球の代表をしております、白川と申します。よろしくお願いいたします。

たらちねジョン氏(以下、たらちね):『海が走るエンドロール』作者のたらちねジョンです。お願いします。

山本氏(以下、山本):秋田書店で少女漫画やBLの作品を担当しております、山本と申します。よろしくお願いいたします。

小禄:すでに420名ほどが見てくださっているということですが、緊張しませんか? 大丈夫ですか?

(一同笑)

たらちね:お面が(笑)。

小禄:お面がだいぶユニークな感じになっていますが(笑)。

たらちね:ありがとうございます。

小禄:ニュースなどでも見ていただいていると思いますが、なんと、『海が走るエンドロール』が「このマンガがすごい! 2022オンナ編」第1位を獲得しました。おめでとうございます!

(一同拍手)

たらちね:ありがとうございます。

小禄:この結果は予想していましたか?

たらちね:していませんでした(笑)。すみません、ぜんぜん(お面で)見えなくて(笑)。

(一同笑)

重版続きの『海が走るエンドロール』

小禄:1位は本当にすばらしいなと思うんですが、反響はありますか?

たらちね:5年以上連絡を取っていない友だちなどから、LINEが来ますね。

小禄:へー! やっぱり突然連絡が来るんですね。

たらちね:そうですね。

小禄:山本さんはどうですか?

山本:評価していただけるとは思っていたんですが、1位は本当にうれしくて。でもびっくりしたのが、「たらちねさんに宮城県出身の担当編集がいる」となっていたんですが、それは私じゃない(笑)。

たらちね:あれ、違うんですか?

山本:違うんですよ。

(一同笑)

小禄:宮城県出身の担当編集がいる(笑)。

山本:「違うんだけどなぁ」って。知らない人が出てきたのはちょっとびっくりしました。

白川:謎の(笑)。

小禄:謎の反響がいろいろあったんですね(笑)。ちなみに、この『海が走るエンドロール』の1巻は僕の私物です。8月に発売されたものを9月ぐらいに購入したのですが、すでに3刷りされております。

こちら机上にある、新しく出ている帯に「このマンガがすごい! 第1位」と書かれているものはもう6刷目ぐらいで、本当にたくさんの方に届いているすばらしい作品だなと思っております。ぜひ、みなさんも手に取っていただければと思います。

コミックスの表紙からレーベルのロゴまで、活動は多岐に渡る

小禄:そんな今回のセッションでは、『海が走るエンドロール』のお話もたくさんしたいのですが、表紙デザインのお話ということで、まずは白川さんのお仕事について軽く触れていきたいなと思います。スライドに移ってもよろしいでしょうか。

白川:漫画の業界のグラフィックデザインといってもいろいろあって、まずはこういうコミックスのデザインがあります。

この場合は帯が金で刷ってあって、実際に作家さんに描いていただいているものはキャラクターや小物で、後ろのインクはこちらで作っています。他の作品も、基本的にはコミックスのデザインが自分の仕事です。

小禄:錚々たる人気作品や、おもしろい作品をたくさん手がけられていますね。

白川:あとはレーベルのブランディングもやらせていただくことがあります。この場合は電子のBLレーベルのデザインでした。『.Bloom』というレーベルなので、お花が動いて左下の「.Bloom」という文字になるような、アニメーションのロゴなどもたまに作らせていただいてます。

小禄:表紙デザインだけではなくて、あらゆるかたちでデザインに携わっていらっしゃるんですね。

白川:そうですね。そのロゴが電子の書籍の表紙になった時のデザインがこちらです。

小禄:こちら(『とくにある日々』)もですか?

白川:これはコミックスではなくて電子なのですが、漫画の扉(連載時の表紙)のデザインなどもたくさんさせていただいております。

小禄:扉だけのケースもあるんですか?

白川:もちろんあります。

小禄:なるほど。ありがとうございます。そんな数々の名作の表紙デザインなどを手がけられている白川さんと、たらちねジョンさん、山本さんとともに進めていきます。

プロに聞く、表紙・装丁デザインプロセス

小禄:今日のトークテーマは、「プロに聞く表紙・装丁デザインプロセス」「漫画家・たらちねジョンの表紙デザイン」「『海が走るエンドロール』の装丁デザインはこうして生まれた」の3つでお送りしたいと思います。

ではまず1つ目です。「プロに聞く表紙・装丁デザインプロセス」のところで、まずはどんなふうに表紙デザインを作られていくのか、おうかがいしてもよろしいですか?

白川:まずは装丁する作品を送っていただいて、こちらで読み込んでから打ち合わせに入ります。編集者さん、漫画家さん、私という組み合わせが基本的には多いのですが、作家さんはいたりいなかったりします。作品をどう見せていきたいのか、そのためにはどういうデザインが適切なのかを打ち合わせでお話しさせていただいて、作業に入っていく感じです。

小禄:漫画家さんが打ち合わせに入るか入らないかは、作品によってぜんぜん違うんですね。

白川:そうですね。でも作家さんによっては、「どうしてもこう見せたい」という強いイメージがある方もいらっしゃるので、そういう方は必ず打ち合わせに来てくださります。

小禄:作品の表紙デザインができ上がるまで、どれぐらいの期間がかかるんですか? 作品によってバラバラですか?

白川:ものによって、スピーディだと1ヶ月かからないものもたまにはありますね(笑)。

小禄:めちゃくちゃ短いですね(笑)。

白川:でも、もともと打ち合わせの前から作家さんと編集さんの間でイラストを完成させてもらったり、こちらでイラストのラフを描かせていただくこともあるんです。なので、どこの過程で私が参加するのかはものによってバラバラなんです。

小禄:なるほど。「この段階から参加するのが一番多い」というのはありますか?

白川:どういうイラストを描いていこうか? という段階からが多いですね。デザインもですが、どういうイラストがいいのかが一番重要かなと思うんです。

例えば、背景がすごく上手な方もいらっしゃれば、背景がすごく苦手だけどキャラクターの表情を魅力的に描くのが……ちょっとごめんなさい(笑)。(画面にたらちね氏が映ったのを見て笑ってしまう)

(一同笑) 小禄:一瞬、たらちねさんが(笑)。

白川:お面がかわいらしくて笑ってしまいました(笑)。

「かっこいい」だけのデザインを作るのは簡単

白川:キャラクターの表情がすごく上手な方もいらっしゃるので、そういうのをこちらで判断させていただいて、「こういうイラストにしよう」と決めることが多いですね。

小禄:ディレクションの部分で「こういうふうにやっていきましょう」と、白川さんが握っていく感じなんですか?

白川:そうですね。でも編集さんよっては、「こういうふうにやりたい」という思いが強い方もいらっしゃいます。なので、「そうするためにはこうしたらいいんじゃないですか?」という強いディレクションをするというよりかは、あくまでアートディレクションというか、見た目のイメージの面での提案ですね。

小禄:「こういう方向性でいくのがいいですね」という感じですね。

白川:そうですね。

小禄:それって、けっこう時間がかかりますか?

白川:いや、そんなには。作品がどれも個性的なので、「これはこういうところが魅力なんじゃないか」というのは、わりとすぐに出てきます。

小禄:なるほど。これまでの経験からも、そんなに困ることはないですか?

白川:そうですね。でも実際にデザインを作っていって、完成までは苦しいし、長いですね(笑)。

小禄:ははは(笑)。それって、どのへんが苦しいんですか?

白川:デザインを作っていく上で、絵が苦手な方にはデザインで支えてあげる必要があって、絵がすごくうまい人の場合はデザインで邪魔をしたくないというのがあります。なので、お互いの力で100を目指すというか、絵がうまい人にごちゃごちゃしたデザインを乗せても目が滑ってしまったりするので、そこをうまくやっていくのがすごく大変ですね。

小禄:なるほどなぁ。その作家さんの特性がどこにあるのかや、自分が補えるところがどこなのかをやりとりしながら固めていくのか。

白川:そうですね。

小禄:なかなか大変ですね。「デザインはこれでお願いします」と言われて作っていくだけではないんですね。

白川:ははは(笑)。そうですね。見た目だけがかっこいいものを作るのはけっこう簡単なんです。だけどそうではなくて、読者の方に手に取ってもらうことが目標なので、「どこかに引っかかりを見つけなければいけない」とか、考えることが多い仕事だなとは思います。

小禄:確かに。

限られた予算内で魅力的なものを作るのがデザイナーの仕事

小禄:もうすでにTwitterやチャットでコメントがいろいろ来ていまして、「紙の種類や印刷の加工はどういうふうに決めているんですか?」という質問が来ています。これも作品によってぜんぜん違うんですよね?

白川:そうですね。ちょうど持ってきている漫画だと、『転がる姉弟』という漫画があるんです。

小禄:良い漫画ですよね。

白川:本当にそうですね。「沁みるコメディ、あります」という帯のコピーがすごく良いなと思っていて。

小禄:確かに沁みるもんなぁ。

白川:最初の1巻の時は白い紙を使ったんですが、ちょっと懐かしい感じのテイストにしたくて、2巻ではもともと色の付いた上質紙という風合いのある紙を使っています。なので、「こういう方向性にしたい」というものに合わせた紙やインクにしています。

小禄:なるほど。そのあたりは、予算の兼ね合いなどもあると思うんですが(笑)。

白川:もちろんありますね(笑)。

小禄:けっこう難しくありませんか?

白川:そうですね。でも私は、基本的にすごくこだわるタイプではないんです。限られた制限の中で、魅力的なものを作っていくのも自分の役割ではあるので、できるところでやっていこうと思っています。「できる範囲が広ければ広いだけいいよね」というタイプなので、そんなに大変ではないかなという感じです。

小禄:なるほど。表紙デザインや装丁デザインでいうと、一番表にある(表紙の)面の部分だけではなくて、(カバーの折り返し部分の絵を見せながら)たらちねさんのお面にもなっているプロフィールの(イラストや)お話とか。全体でデザインを組まないといけないと思うのですが、このあたりは毎回めちゃくちゃ設計して組んでいるんですか?

白川:そうですね。これについてはあとでコーナーがあるのかな?

小禄:そうですね。このあとにあります。

白川:映画のお話なので(カバーの折り返し部分や目次に)フィルムをあしらったり、全体的な世界観を目次で作らせていただいています。

小禄:今回は、紙の本の中の目次部分のデザインなどもされているんですね。

白川:そうですね。基本的には、目次や扉などはこちらで担当させていただいています。

小禄:なるほど。目次や扉は別の方が担当で、表紙だけのデザインをする時もあるんですね。

白川:はい。あります。

デザインを作りやすい作品とは?

小禄:なるほど。白川さん的には「こういう依頼があるとやりやすいな」というのはありますか?

白川:私だけでも作れるんですが、編集さんのほうで「今回の作品はこういう人に届けるために描いていて、こういう見せ方をしたいんだ」というビジョンがあったほうが、編集さんの意見もあるし私の意見もあるし、いろんな意見が混ざり合うので、作り方的にはいいのかなと思います。

小禄:そうですよね。「こうしたい」がなくて、「全部丸投げでお願いします、お任せします」だと……。

白川:そうですね。それはそれでやりやすいといえばやりやすいですし、良いものもできるんですが、自分も作っていて「これでいいのかしら?」と不安にはなるので。

小禄:「これでどうですか?」と出した時に、「ぜんぜん違いますね」とか。

白川:それもありますね。なので、最初にみなさん各自でビジョンがある作品がいいかなと思います。

小禄:なるほど。ありがとうございます。複数を同時にデザインをしているのかなと思っていたのですが、同時に何本くらい(仕事を)走らせるんですか?

白川:難しい質問ですね。その時によってバラバラですが、基本的に常に3冊ぐらいは頭に置いていて、1週間に4冊~5冊ぐらいの感覚で考えています。実際に仕上げるのではなくて、常に頭の中にあって「これはカバーを考えて、これは本文を考える」という感じです。決して、常に全部が同じボリュームで走っているわけではないです。

「紙の表紙」と「電子の表紙」の違い

小禄:このあとのスライドにも載っていますが、紙の表紙と電子の表紙で違いがあるのかどうかもおうかがいしたいと思います。そのあたりはいかがですか?

白川:かなり違いますね。電子でしか配信しないコミックスの表紙もやらせていただくことがあるんですが、その場合は特にスマホで買われる方はものすごく小さいサムネイルで判断していくので、引きのイラストだとみんなすぐにスクロールで流れていっちゃうんです。その中で目に留まっていただきたいので、なるべくキャラクターはアップでとかは考えます。

小禄:一応、資料にも入れさせてもらっています。こちらは講談社のPalcyというアプリで連載されている、矢島光さんの『光のメゾン』です。紙の単行本ですね。

こちらが電子ですね。

白川:(比べてみると)本当にわかりやすいですね(笑)。もちろんこれは、編集部の方と一緒に考えさせていただきました。表紙の千(せん)ちゃんはかなりおもしろいキャラクターで主役でもあるので、彼女をバーン! とメインに置きました。

わかりづらいかもしれませんが、WebだとRGBというカラーのモードで、コミックスの時より黄色の部分をピカッとさせることができるんです。なので、その色にして目立つようにしました。あとは前作の『彼女のいる彼氏』もすごく人気作でしたので、その題名を置きました。

小禄:帯にあたる部分にキャッチーな情報も入れつつ、色味もちゃんと意識して変えているのはなかなか細かいこだわりですが、大事ですね。

白川:そうですね。最初は「色はそのままで」という話だったんですが、「せっかくだから黄色はちょっと派手なのにしましょう」ということで、やらせていただきました。

小禄:ありがとうございます。「まだか、まだか」と待ち構えている方々もいらっしゃいますので、テーマ1に関してはいったんこれぐらいにしておきます(笑)。

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