最初は「やめなさい。お前は正気か」と言われた、未来食堂

小林せかい氏(以下、小林):こんにちは。はじめまして。未来食堂の小林せかいと申します。もう午後3時ですが、みなさん、お昼ご飯は食べましたか? 

私は今ここ、神谷町にいるんですけれども、神保町で定食屋をやっているんです。今日は定食屋で40人分くらいの生姜焼きを焼いてきました。この中に生姜焼きを食べた人がいたら、偶然ですね。お昼はちゃんと食べてください。

それでは話を始めたいと思いますので、よろしくお願いします。今回は「乗り越える」をテーマに、神保町の定食屋の私を呼んでいただいてありがとうございます。そして、聞いてくれているみなさん、ありがとうございます。

「なんで生姜焼きを焼いているお前がここにいるんだ」という人が大半だと思うので、先にお店の話をちょっとしたいと思います。私は未来食堂というお店をやっています。たった12席しかないお店ですが、それがコロナの時には8席になりますからね。少ないなんてものじゃないです。

でもご覧ください。5年ほど前、未来食堂はウーマン・オブ・ザ・イヤーをいただきました。実はこのテレ東さんにも何回も取材していただいて、スタジオにも来たことがありました。「すごいね」とよく言われるんですけども。

やりたいことがある人がよくお店に来てくれます。「どうやったらいいお店が(できるんですか)、せかいさんみたいになれるんですか?」。(私自身は)生姜焼きを焼いているだけなんですけど、たまにそういうことを言われます。せっかくなので、そういう時にいつも話していることを、この場所でお話ししたいなと思っています。

これ、最初からこんなふうに(話題に)なっているお店じゃなかったです。私が会社員の時に「未来食堂というお店をやるんだ」と言ったんですが、「やめなさい。お前は正気か」とよく言われて、賛成してくれた人なんていなかったですよ。0人です。その時の画像を撮っておけばよかったなと思うんですけど。

何でみんなが反対したかというと、理由がありまして。私自身が飲食とまったく違う畑から、「飲食をやりたいな」と思っていたんですね。しかもやりたいお店が「ぜんぜん常識的じゃないよ」というか、「そんな店無理でしょ」みたいな、ダブルコンボだったんです。

何かというと、(スライドを指して)この「経験無し」。私自身は実は数学科を出ていて、バリバリのリケジョなんですね。日本IBMとクックパッドのエンジニアをやっていました。はっきり言って料理はぜんぜんやったことがなかったですね。あまり食にも興味はなかったので。でも、そういう偏食の人でも入れるお店はないかなと思っていましたね。

常識と違うお店というと、ちょっとヤバそうだと思われるかもしれないですが、どうでしょう。メニューは日替わり1種類。売り上げも、他の人の役に立ったらいいなと思って公開しています。(スライドの)下にちょっと書いているように、「ただめし」とかそういう仕組みを作りたいなと考えていました。

誰が来てもいいお店に、お金を持っていない人が来たらどうしよう

小林:ちょっと飛ばしていきますね。「メニューは日替わり一種類だけ」。これは看板メニューがないからダメなんですよ。「看板メニューがないとリピートできないじゃないか」と(言われました)。そうですよね。(未来食堂では)こんなふうに火曜日はこれ、水曜日はこれと、八百屋さんから来た野菜を見てメニューを作っています。

「あつらえ」がしたいんだと。あつらえというのは、400円で1品作りますよ(という仕組みです)。「そんなのやめなさい」「メニューをちゃんと作りなさい」「無理でしょう。400円でオーダーメイドを作るのか」とみんなボロクソですよ。

はい、次。ここから先もどんどんボロクソ節が出てきます。「まかない」。まかないって何かというと、50分のお手伝いで一食無料になる仕組みなんですよ。だから、未来食堂では誰でも手伝える。アルバイトもいないんですよ。雇用がない。

でも、年間数百人の人がおもしろそうだからって手伝ってくれている。そういうお店をやりたいなと思ったんです。「いや無理でしょう。時給でアルバイトを雇いなさい。回せなくなったらどうするんだ」と言われました。

最後にこれ。「ただめし」。何かというと、壁にただめし券が貼ってあるんです。誰が来てもいいお店が作りたかったんですね。だってお店ってそうあるべきじゃないですか。

誰が来てもいいお店に、お金を持っていない人が来たらどうしよう。お金を持っていない人でも、50分という時間でお店を手伝ってくれたら、お店はご飯をあげられるし、「食べていいよ」という券があったら食べられるじゃないですか。「そういうお店がやりたいんだ」と言ったんですが、賛成する人の顔が見てみたいという感じでしたよね。

これは実際のお店なんですが、黄色や赤の付箋をお店の壁に貼ってまして、この付箋を剥がして中に持ってくると、一食無料になるんです。

ここに10月8日の昼って書いているのがわかりますか? この画面を見てくださいね。さっきお話しした50分の手伝いをした人が、「私は食べませんから」って置いていった券なんですよ。10月8日の昼に働いた人が置いていった券なんです。それを誰かが使っているんです。

「なるほどな」と思ってくれましたかね、みなさん。起きています? まとめると、「飲食の経験がないじゃないか」「あなたは理学部数学科の人間だったんですね。常識と違うお店をやろうとしている。穴がありすぎて危ないよ」というのが周りの意見でした。そりゃそうだ。やめるべきだとみんなが思っていましたね。

「足りなければやるのみ」「ストーリーを作って何回も話す」

小林:じゃあどうすればいいの? どうやったら乗り越えられるの? はい、来た! 「乗り越えられる」んですよ。長くなりました。

「足りなければやるのみだ」というのは、いつも言っていることです。あと、先に言いますけれども、常識と違うことをやろうとしている人にお勧めなのは、ストーリーを作って何回も話すことです。

本当に大事なので、今からこの2つをお話ししますね。1個目は「足りなければやるのみ」ってすごいスポ根みたいな話ですね。私が会社を辞めて1年半くらい時間があったんですが、その間、8店舗のお店で修行しました。修行というと格好いいんですが、時給850円のアルバイトですよ。「床を洗え」とか、「米を研げ」とかね。2ヶ月くらいずっと米を研いでいるだけでした。

「常識と違いすぎた」というほうも話したいです。ストーリーを作ると、みんな、「え、おもしろそうじゃない!」と言ってくれるんですよ。不思議だと思いません? みんな「アルバイトの人がいないと無理でしょう」とか言うは言うんですけど。

でも、たとえ重いものが持てない人が来たとしても、窓ガラスを拭いてもらったらいいわけだし、手が上がらない人が来たんだったら、メニューを書いてもらえばいい。そう話してから「どう?」と聞いたら、(みんな)「いいじゃない。いい感じじゃない」(と言う)。お前、さっきと感じ方違ってるやん、みたいな感じでした。

何回も話すと、みんな「なんかそれ、いいかもね」と言ってくれるんですね。しかも話しているうちに、どんどん「みんなはこういうことが乗り越えられないと思っているんだ。じゃあこうしてみようよ」みたいなことがわかってくる。

自分の独り言ですが、そうやって「次に話す時はこういうことを話してみよう」とか、「みんな原価を心配していたんだな」とか(がわかってくる)。私、あまり何も心配していなかったんですね。「こういうことがやりたいんだよ」というのを話していると、普通の人が何を心配するかわかってくるんですよ。諦めずに何回も話すのはけっこう大事ですね。

アイデアだけだと否定されるのは当たり前だが、乗り越えると形になる

小林:なんでかというと、「想像できるものしか理解できない」からです。人は、見たことのないものは理解できないんです。じゃあ、乗り越えた先に何が待っているのか。乗り越えると何がいいと思いますか?

乗り越えると、形になるんですよ。形になると人は見て「あ、なるほどね。だだめし券っていいじゃない」「いいじゃない。メニューがない」「いいじゃない。それってフードロス解決につながっているね」って、すぐに褒めてくれるようになりますよ。

人の評価というのは、良くも悪くもその程度なんですね。人が「できない」と言うからどうじゃないんです。「すごいですね」と言われてもその程度なんです。

アイデアだけだと否定されるのは当たり前なんです。乗り越えると形になるからすごいんですよ。だって、人というのは見たものしか想像できないから。だから「足りなければやるのみ」。

さっき言おうとしたんですけど、アルバイトの時に何がつらかったかというと、私、もともとは会社員だったんですね。会社員ってキャス(IBMでCASと呼ばれるICカード入館証)を付けるじゃないですか。昼ご飯の時、キャスを付けたまま出るでしょ。みなさんも出ていると思います。あのキャスがないのが悔しかったですね。

日本IBMのキャスをピッとやる。時給850円のアルバイトはキャス持っていないから(笑)。昼ご飯に来るお客さんがキャスを持っているのが、一番しんどかったですね。でもやらないとしかたないです。

あとは何回も話すことです。「こう思うよ」と言うと、人の応援の熱が変わってくるので、それで何回も(話して)自分の糧にしていってほしいです。私からは以上です。

「いい人だからできるはずだ」というのが一番ダメ

司会者:小林さん、ありがとうございました。

小林:ありがとうございます。

司会者:もう惹きつけられまくりです。

小林:本当ですか! よかった(笑)。

司会者:(笑)。本当に月並みな言葉ですが、イノベーションというか。

小林:ありがとうございます。

司会者:人が想像できないものは誰も認めてくれないと言いながら、すごいことを成し遂げられていると思いました。

小林:いえいえ。

司会者:いくつか質問が来ているので、ぜひこの時間を使わせていただきます。「大学時代に学んだことは、今、活きていますか? 活かしていらっしゃいますか?という質問がありましたがいかがでしょう。

小林:活きていますよ。でも、理学部数学科に行くことはあまりお勧めしないですね。

司会者:(笑)。

小林:理学部数学科に行っても、あまり世俗には役立たないかもしれないですね。でも数学科というか理系に進むということは、今、何が原因で、何が起こっていて、何を変えたら何が変わるかというのを、とことんブレなく分けることなんですね。

司会者:なるほど、なるほど。

小林:それって、誰かが来た時に、この人は何が悪くて何ができるから、じゃあどうしよう(と考えることができる)。チームワークってそういうことですよね。

司会者:確かにそうですね。

小林:「いい人だからできるはずだ」というのが一番ダメなんですよ。いい人が一番危険ですね。ちょっとズレちゃいますね。

司会者:おっしゃるとおりですね。

それが向いているかどうかなんて、本人しかわからない

小林:じゃあ、次行きましょう(笑)。

司会者:今のお話で、教育ということについてちょっと思い出していたんです。先ほどおっしゃったように、日本社会だと比較的一般論ですが(やりたいことに対して)「これは無理だよ」「何考えているんだ」とおっしゃる方が(いるのは)、ある意味で確かなんだと思います。

ですが、それによって1つの芽が消える部分もあると思うんですね。そういう意味でいうと、幼少の教育ですとか、小学、中学、高校、大学の話を今しましたけれども、小中くらいのこれからという方々に対しては、教育に対しては、何かお考えは小林さんはありますか?

小林:いやぁ、何もないですね。

司会者:(笑)。

小林:教育。でも、もしも迷っている人がいるなら、「こういうことがやりたい」と目の前で言われたら、子どもとか大人とか関係なく、「じゃあやろうよ」って言いたいですよね。そのために何ができるかなって考えます。

それが向いているか向いていないかなんて、本人しかわからないですしね。でもそういう人の目を見て「やろう」と言いたいですよね。

司会者:目を見ながらやりたいことをまず認めて、どうしたらできるかを一緒に考えていく。そんなところですね。

小林:一緒に考えるというほどじゃないですけどね。横にいるだけだと思います。

司会者:なるほど。ありがとうございます。

小林:いえいえ。

ストーリーの根源にある「絵をイメージすること」

司会者:もう1つ。ストーリーについてです。今思うと、結果うまくいったというふうに言われる方もいらっしゃるかもしれないですが、当初の設計の中では、いろいろなアイデアがあったり、ストーリーとしては合理的だなという部分もあったと思います。

「そのストーリーを思い付く根源みたいなものは、何かありますか?」ということで(質問を)いただいています。

小林:ありがとうございます。絵をイメージすることです。例えば私の場合はお店なんですけども、テーブルは何色かとか、高さはどれくらいあるかとか、どういう人がいるのかとか、どんな時間帯とか、何でもいいんですよ。

公園を作りたい人だったら、木のことを真面目に考えなきゃいけない。でもそういうことを考えないのに、「私がやりたいのはナントカカントカだから」とちょっと上滑りになっちゃっていると、生えている木に目が行かなくなっちゃう気がするんですよね。

でも、公園を作りたいんだったら、木を植えなきゃいけないですしね。そこが、けっこうバラバラになっている人が多いですね。

司会者:なるほど。もう1個いいですか。「今後チャレンジしたいこと、何かありますか?」。

小林:なんですかね。でもこうやっていろんな人に未来食堂を知っていただいて、「実は私もこういうことをしたかったんだよな」と思う人や、年だからもうできないとか思っている人が、「ちょっと未来食堂みたいにやってもいいかもな」と思ってくれればうれしいですね。なので、明日も生姜焼きを作ろうと思います。これからやってみたいことは、明日の料理です。

司会者:ありがとうございます。まだまだ聞いていきたいんですけれども、あっという間にお時間がきましたので、このあたりで終了させていただきます。それでは視聴者のみなさま、最後に小林さんに大きな拍手をお送りください。小林さん、ありがとうございました。

(会場拍手)