2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
『最新版 戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』出版記念オンラインイベント「PRをもっとクリエイティブに!世界三大広告賞に見るこれからの戦略PR」(全4記事)
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本田哲也氏(以下、本田):どんどんいきましょうか。次です。2つ目なんですけれども、RED WINGというブーツはみなさんよくご存知だと思います。これもアメリカかな。RED WINGの「Labor Day On」というキャンペーンです。見ていただいたほうが早いんですけど、これはコロナが絡んでいるんですね。
コロナで職を失うことが全世界的に起こったわけですけども、そこに対してあるアクションをしたというキャンペーンです。
(動画再生)
本田:これは英語でも伝わったかもしれませんけれども、全米にあるRED WINGのストアを求人メディアに変えてしまったと。ひと言でいうとそういうことですよね、嶋さん。
嶋浩一郎氏(以下、嶋):靴を売っている店が、店をハローワークにしましたということです。
本田:ハローワークになったんですよね(笑)。
嶋:この仕事で重要なのは、「Like A Girl」が2015年のカンヌの審査で評価された時に、キーワードになっているのは、authenticity(オーセンティシティ)、そのまま訳すと「正当性」をもっていること
本田:そうですね。
嶋:誰がそれをやっているんだとか、「なるほど、その人がそれをやるならすごく説得力があるね」ということがキーワードになっているんですけど、まさにこの企画の実施主体であるRED WINGって、アメリカの労働者の歴史そのものを体現しているブランドですよね。
本田:そうなんですよね。
嶋:象徴である企業が、「自分たちのブランドを支えてくれた労働者の人たちが、失業率が高くなって困っている」というところで、「じゃあ僕らのできることをしよう」と。これもナラティブとしてすごくコンテキスト(Context:文脈)ができているなと思う。
本田:失業者が増えたという社会的な背景がありますけど、そこでやはりこれがRED WINGだということがすごく大事ですよね。
他のアパレルブランドがやったとして、巨大なハローワークになるというアイデアは出るかもしれないんだけど、「何であんたたちがやるんですか?」という問い対する答えは、RED WINGだからこそ持っている。これはすごくしみじみくるなという感じがします。
本田:あと、これに他のブランドも乗ってきたということですよね。さっき後半に出ていましたけれども、「うちもやるよ」「うちもやるよ」と言って。
嶋:ここが大事なポイントで、乗っかれるプラットフォーム作ることがすごく大事だと思うんですよね。
うちの会社のお仕事で、高崎市の魅力を発掘してほしいということがありまして。おじいちゃんとかが個人で経営している「地元で愛されているお店」は実は財産だから、ガイドブックにも載っていないけど、地元の人たちがやっている市井のお店を集めてコンテンツにしようということで、「絶メシ」というのを作ったんです。
本田:「絶メシ」はドラマにもなりましたよね。
嶋:いろんな人が乗っかりやすいフォーマットなんですよね。だから高崎市だけじゃなくて「石川県でもやりたい」とか「福岡県でもやりたい」とか、テレビ局も乗りますと言って、ドラマを作っていただいたりとか。ドラマをやっていたら、「じゃあ全国の絶メシを出す食堂を新橋に作りましょう」みたいな飲食店の人も乗っかってくれたりとか。「乗っかりやすさ」ってすごく大事です。
このケースの場合も、まさにアパレルの競合も含めて求人を出してくれる企業が現れたりとか、「Webサイトで求人しているよ」と告知してくれるところが現れたりとか、すごくシェアされやすい。これがちゃんと計算されていたのかなと思いますね。
本田:そうですよね。だからある種、「余白」的なことかもしれないですけど、こういうのを打ち出したら他のところが「自分たちも」とか、「こういうこともできるんじゃない?」みたいにアイデアを出してくる。どこまでそれを想定してプランニングされているかわかりませんけど、最終的に共に作っていく感じをイメージして、逆算して仕掛けているような感じすらありますよね。
嶋:そうですね。今、質問が1つきていますね。
本田:きていますね。読み上げましょうか。「海外のPR事例を見ていると、日本国内とのスケールの違いを感じます」。確かに。「これはPR人材が優秀というだけでなく、経営層や株主なども全体的にPRに理解があると考えていいのでしょうか」。どうですか、嶋さん。
嶋:この話になると、ちょっと愚痴を言いたくなっちゃうんですけど。
本田:(笑)。いいですよ、可能な範囲で(笑)。
嶋:これね、日本のPRパーソンがもっとがんばんなきゃいけないところだと思っていて。やはり日々のPRの仕事って、メディアに情報提供したり、記者会見をやったり、プレスリリースを出したりと、いろんなステークホルダーに働きかけなきゃいけないんだけど。
基本、マスメディアという人たちに働きかけてパブリシティを獲得するということで終わってしまっている。もちろんパブリシティは合意形成で、新しい今までなかった概念が世の中に広めていくためにすごく影響力のある活動なんですけど、周りの人もクライアントさんも、「PRはメディアに情報を出す仕事でしょ」ということで止まっちゃっているのが本当に残念です。
本田:日本はそうですね。
嶋:本来は何のためにメディア露出を図っているのかというと、例えば今まで、LGBTの人たちの結婚を「そんなの認めない」と思っていた社会が、「同性の結婚もいいじゃない」という思いに変わるとか、実際にそういう行動を起こす人が増えるとか、そのためにやっているんです。なのにPRパーソンのKPIが、パブリシティの広告換算になっているというのが本当に大問題で。
カンヌはそういうことじゃなくて、もっといろんなステークホルダーに対して働きかけるんだとか、もっとクリエイティビティを持って課題解決するんだとか、パブリシティで留まるだけじゃなくて、概念や人の行動を変えていくんだと、そういうことを教えてくれるいい教材にもなっていると思うんですね。日本のPR業界がんばらなきゃねと、絶えず思いますね。
本田:そうですね。僕自身も独立する前に20年間、外資系のPRファームにいたのでいろいろ見てきましたけれども、やはり質問にあるように、PR人材の優秀さもあるんですけど、クライアント側のわりと偉い人たちですよね。国全体でパブリック・リレーションズの理解があるから、少なくとも日本よりはこういうことをやる意味をすぐに見出すんです。
もちろん何でもかんでもやれというわけじゃないけど、やはり判断を下すところ、予算をどれだけ投下するかというところに関して、特にアメリカはダイナミズムが日本とひと回りふた回り違うなと、僕も実感としても思いますね。
嶋:この10年の間で、日本の経営者の方々も相当変わってきているかなとは思いますよね。
本田:そうですね。
嶋:PRの重要性を認識して、事業を始める前から、新しいブランドを立ち上げる前から、PRパーソンと並走する人たちがすごく増えてきたと思いますよね。
本田:増えてきましたよね。
本田:そんな感じで、次の作品にいきましょう。次は個人的に好きなやつなんですけども、BURGER KINGです。もうカンヌの常連みたいな感じですね。百聞は一見に如かずで、見たほうが早いと思います。「The Moldy Whopper」というキャンペーンです。
(動画再生)
嶋:すごくシンプルですよね。こういう動画を作ったということなんですけれども、「防腐剤を添付していませんよ」とアピールするための、一番わかりやすい作り方かなと。
本田:そうですね。これ僕、今回の本では「とんちをきかせる」という、「かけてとく」というパートで取り上げたんですけど、非常にウィットに富んだやり方ですよね。「我々の食品は安全ですよ」とか「防腐剤は使っていないですよ」とかって、みんな昨今言っていて、その情報自体はけっこう埋もれるとね、当たり前だからねって(笑)。
実際に、この看板商品のWhopperを、何日間かずっと固定で撮ったわけですよね。そうしているとカビ生えてくる。カビが生えてくること自体をクリエイティブにした。
例えば日本でいったら、東急渋谷の屋外広告でも出したし、マルチなタッチポイントで出して、「なんだこれ!?」となって、報道も始まるという感じでしたね。
本田:これこそ嶋さんの言う「してやられた。その手があったか」みたいなところに合致するのかなと思うんですけど、どうですか?
嶋:そうですよね。やはりこれも「PRパーソン、反省しないとな」と思うんです。理屈で考えちゃって、正しいことをストレートに発信して、説教臭くなるケースが多い。
本田:そうそう(笑)。
嶋:時にはユーモアを交えたりとか、ちょっとショッキングな表現をするとか。左脳的に正しいことを言ってもなかなか人には通じないというところを、どう乗り越えるかということですね。
本田:そうですね。
嶋:ついつい真面目にアプローチしちゃうのもわかるんですけど、でも「説教されたくないんです」みたいなね。
本田:(笑)。結局説教じみてつまんない情報になっちゃうのはあるあるです。これはいろいろ賛否もありますけど、やはりBURGER KINGが勇気あるなと。どういう構造で判断がされているかわからりませんけど、ここまでやるというのは勇気がありますよね。
嶋:賛否はあるんですよ。「腐ったものを広告で見せるな」とか。見る人の中には、汚いじゃないかと感じる人もいる。
本田:これはめっちゃリスクですよね。真面目な広報観点でいったら、こんなの企画が上がってきた時点で「ないわ」という人がすごくいると思うんです。ありえないでしょ、こんなのね。でもやっちゃう。
嶋:本当にすごくハイクオリティな映像に仕上げているという、いわゆるクラフトの部分もすごいよくできていると思いますし、まさにそういうところでリスクを乗り越えているんだなというところはありますよね。
本田:そうですね。めちゃめちゃクオリティの高いクリエイティブにしているからこそ、これが本当にディスガスティング(disgusting:嫌悪)って、「汚らしくて気持ち悪い」となっていたら、むしろこの企画自体が完全に炎上する。この辺の絶妙なやり方というんですかね。あまり日本にはないですね。
嶋:あとやっていることはすごくシンプルなんだけど、すごくメッセージが伝わるというのは、やはりクリエイティビティですね。ちょっといじっただけですごく変わるのは、アイデアのすごさだと思うんですよね。
ブラジルのCoca-Colaが行ったキャンペーンで、「This Coke is a Fanta」というのがあって。「このコーラはファンタだよ」というのが、ゲイの人たちをディスる言葉になっていたらしいんですけれども。
本田:ありましたね。隠語なんですよね。
嶋:そこでブラジルで、ファンタの缶に入ったコーラを売る施策を実現した
本田:(笑)。
嶋:やっていることはすごくシンプルなんですけど、ダイレクトに言いたいことが伝わるという。すごく小さい変化で大きいパーセプションやビヘイビアのチェンジを取っていくという、ここらへんがなんかダイナミズムを感じましたね。
本田:ダイナミズムあるし。
嶋:小さい変化で世の中が変わるという。
本田:ちゃんと世の中とか消費者を信頼している感じもあるかなと思って。「こう写せばちゃんと伝わるよ」とか、「深い意味を汲み取るはずだ」みたいな、ある種の賭けというんですかね。それも絶対、「生活者なんてこう取るから駄目だ」というんじゃなくて、ちゃんと生活者側の想像力とか理解力を信頼しているというポイントも感じるんですよね。
嶋:今時のコンテキストを理解するのは、相手の受け手の想像力、受け手の知性に託さなきゃいけない。これ、本当に大事だと思っていて。
本田:そうですね。
嶋:これまたすごく難しいんですけど、日本のテレビ番組の作り方とか広告の作り方とか、「手取り足取り説明します」というところがすごく多くなっていて。
本田:(笑)。
嶋:「意外に託して大丈夫だよ」と。そこらへんの感覚がこれだけのクリエイティビティだと思う。受け手の感受性に託せることが大事です。
そもそもPRパーソンってそうじゃないですか。だって第三者を介して物を世の中に広めるわけだから。
本田:そもそも100パーセントコントロールできないものですからね。
嶋:メディアの人の感性に託して、情報を提供させていただく結果、番組ができていくとか、「こういう課題があるんですよ」と学者の人と話すことによって、新しい研究が始まるとか。そもそもPRって自分で全部コンプリートする仕事じゃなくて、人に託す伸びしろがあるわけで、そこがすごくおもしろいところだなと思うんですよね。
本田:そうですね。まさに同感です。3作品を見てきましたが、これは今回の本でも解説をしています。本を読まれていない方はぜひ読んでいただければと思います。
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