2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
特別講演:本田哲也氏(全1記事)
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本田哲也氏(以下、本田):会場のみなさんも、オンラインのみなさんもこんにちは。本田事務所の本田です。鹿毛(康司)さんの後、2番手という話だったので余裕こいてたら、先に行けということで。今、わたわたと準備をしていますが。
最初にそれぞれの本の概要といいますか。今回私が書いた『ナラティブカンパニー』、もっと言うとナラティブということについて、お話しさせていただきたいと思います。
ナラティブというキーワード、考え方、どういうことなのかを今からお話ししますが、私の肌感からしても、ここ最近注目されています。もちろん日本だけじゃなくて、世界的にも注目されているということで。
ナラティブが大事とか、ナラティブ的なマーケティングとか、だいぶ発言力が増えてきているという中、もう4ヶ月前になりますかね。『ナラティブカンパニー』という本を5月に出させていただきました。
ナラティブってぼやっとしている概念なので、なにがしか「定義がこうです」という話を最初にしないと、後々やる議論もやりにくいかと思うので、ちょっとその話をさせていただきます。
「ナラティブ」を辞書で引くと、物語や文学や叙述するとか、語り口。こういうふうに出るんですよね。だから、これだけだとビジネスにどういう意味があるのかが、ほぼほぼわからないと思うんですけれども。
ただここでヒントがあるのは、語りという部分です。みなさんもよく知ってる、ナレーションやナレーターという日本語は語るというニュアンスが強いと思うんですが、語源はナラティブと一緒なんですね。
これは辞書の定義なんですが、今回本を出すにあたり、それから私の専門分野であるPRないしマーケティングにつながっていくような話の定義としては、「物語的な共創構造」であるとしています。ちょっとこれは言い回しが硬いので、もう少し開いて言うと、「企業と生活者が共に紡ぐ物語」。この、共に紡ぐ、あるいは共創というところが非常に重要です。
だいたい「物語と言ったらストーリーでしょう」と聞かれるんですね。ストーリーテリング、ブランドストーリーやコーポレートストーリーとか、今までも言われてきたので。「なんでわざわざナラティブという言葉を使うんですか?」とか、何が違うのかというところですね。
これは諸説ありますし、なかなか答えが難しい部分でもあるんですけども、一応便宜上はこういうふうに整理していますね。
ストーリーとの違いは3つのポイントがあると。ここにありますが、演者・時間・舞台ということで整理しています。演者というのはわかりやすく言うと、主役は誰かということ。ストーリーというのは、企業やブランドからの「一方的」と言うと言葉は悪いんですが、物語であるということです。
イメージ的に言うと、壇上にいるのが企業とかブランドで、生活者は美しいストーリーをを聞いてるよね、という感じなんです。ナラティブというのはむしろ逆で、主役は生活者だということ。この主役の転換みたいなことがけっこう重要です。
それから2つめの時間の違いは、ストーリーは結局「起承転結」なんですよね。だから、始まりがあって終わりがあるという。ナラティブの考え方は、「常に現在進行」というのが大事で、終わりはない。未来まで続きます。これが時間の違い。
そして最後に舞台の違いは、どこでその物語が繰り広げられるかというと、企業主体のストーリーが(展開される舞台が)業界の中だったりすることに対して、ナラティブは社会全体。世の中で、生活者と企業やいろんなステークホルダーが紡いでいくんだよという、世の中視点というのが大事ですね。
ですから、これは右と左で違いを整理しているんですが、イメージ的に言うとストーリーの上位概念がナラティブであるという言い方もできるのかなと思います。ただ、1つ共通点があって。それは、始まりはやっぱり創始者や企業の強い思いであると。
昨今、パーパスとよく言われますけれども、こういうものがないところにいかなる物語も出現しないということになるんですね。このナラティブを実践してる企業をナラティブカンパニーと呼ぼうというのが、今回の私の本の趣旨なんです。
例えば、Patagoniaなんかはけっこうわかりやすく有名です。彼らはもちろんアウトドアブランドのビジネスをやっているんだけれども、「我々は故郷たる地球を守るためにビジネスを営む」というのが、Patagoniaのパーパスなんですよね。
だから例えば、(アメリカの)前のトランプ大統領が「アメリカの国立公園を縮小するぞ」という政策を発表したりすると、(Patagoniaが)大統領を訴えますよという声明を出したり。地球を守るという物語に、ユーザー、ノンユーザー、なんなら競合他社までも一緒になって紡いでいく構造ができているということですね。
こういうのって、けっこう結果論ということもあるので。結果的にナラティブなカンパニーになっているのと、実際にそれを仕掛けられるかという話は、また別だと思います。すべてが計画的にコントロールしてナラティブが作れるとは、私は思ってないんですね。ただ、ある種のプランニングとか、自社のプロダクト、ブランドの考え方によって、ナラティブアプローチはできると思っています。
これが本の中で紹介した5つのステップですね。ナラティブの起点を決めまして、それからどういう認識を変えていくのかという目的を設定して。それからナラティブを描いて、実行していく。実行していく時にも自分独りよがりでやるんじゃなくて、生活者を含むみなさんと共創していきましょう、ということなんですよね。
今日は時間の関係もあるので、ナラティブアプローチができている企業や事例ということで、1つだけ紹介して終わりたいと思います。
味の素冷凍食品さんですね。冷凍餃子なんですけれども、ナラティブアプローチをやった直近の事例です。そもそも、1年前ぐらいにある主婦がツイートしたんですよね。「仕事で疲れてもう辛いので、冷凍餃子を夜(ご飯に)出したら、子どもが喜んでくれたんだけど、旦那がすごい嫌味な感じで『これは冷凍だよ。なに手抜きしてんの?』みたいなことを言われたと。
当然、ご想像のとおり、かなり怒り心頭になるわけなんです。この主婦の方は「こういう旦那を(埋めるか)打ち上げていいですか」というツイートをしたところ、賛同というか「わかるわかる」みたいなのが集まった。
ここまでは一般の方のツイートなんですが、味の素冷凍食品の公式Twitter、つまり中の人が即座にレスポンスして。「それは手抜きじゃなくて手“間”抜きですよ」と。みなさんの代わりに我々の工場でお肉をこねて、野菜を切ってやってるんだということをツイートしました。これがきっかけなんですが、非常に大きな支持を集めまして、44万いいねぐらい獲得したんですね。
この背景にあるのが、実は餃子を売るというマーケティングのこともあるんですが、大きな問題は、やっぱり日本の社会って「冷凍食品は手抜き料理の象徴だ」という認識があるから。なんとかこれを手抜きじゃなくて、手間を抜いてるからどんどん使っていいんだよね、お母さんや今はお父さんも当然料理するんですけれども、手作り信仰の呪いを解くことをやっていきたかったと。
今回のツイートは偶然の産物でもあるんですが、これはもうナラティブ化すべし、つまり生活者の方と味の素冷凍食品で一緒に紡げる物語の起点ができたから、ナラティブアプローチとして継続しましょうということになりました。
企業としてどういう語りをするかをまずはまとめてみるということで。ポイントで言うと、商品にはおいしさやお値段とかがあるわけですが、そういうことじゃなくて、今回のツイートが非常に気づきがあったと。手間を抜いてあげて、もっといいことに時間を使ってあげてくださいという思い。
それからあともう1つ。今は少しコロナが開けてきましたが、いわゆるエッセンシャルワーカーですね。ふだんあまり日の目を見ないんだけれども、一生懸命がんばっている人。工場の人もそうだと。この手間をもっと可視化することでやっていきたいということを、公式な企業のステートメントにして発信していこうと。
具体的にやったことはけっこうシンプルでして。プレスリリースで、(冷凍食品は)「手抜き」ではなく「手“間”抜き」というのを出す。これは個人のツイートで始まったことですけれども、企業として出すんですよね。
それから群馬県にある実際の工場にカメラを入れて、どれだけ手間かけてるかを1分ぐらいのYouTube向けの動画にしました。144の工程を使って、本当に手作りしてるんですよね。こういう動画を作ってYouTubeにあげるわけですけれども、つまりやりたかったことは、工場で働く人のかける手間を可視化したということですね。
これは3~4ヶ月の間で非常に成果が出まして。いろいろとKPIはあるんですけれども、売上も上がったりしたんです。
もっと重要なこととしては、さっきの認識変化ってありましたよね? 「冷凍食品を使うことは手抜きじゃなくて手間抜きだから、もっと使うべきなんじゃない?」「いいよ、いいよ。使おうよ」というツイートのポジティブ比率。これはこの活動だけで42パーセント上がった。動画も90万回再生されましたから、相当見られた。
「手作りの呪いを解放させようよ」というナラティブですが、これを企業と生活者が一緒になって、世論までいくとちょっと大げさなんですけれども、世の中の空気として醸成していくという動きですよね。
そろそろまとめに入ります。ナラティブの構造を私なりに整理すると、自社の目標やビジネスの目標も大事なんですが、やっぱりこの社会の大局観の中で、何が課題になってるか。それから、自分のブランドや自分の企業が参画する正当性ですね。「なに言っちゃってんの?」ってならないこと。
これはパーパスをちゃんと持っていたりとか、実績とか歴史があるっていう。だから、フェイクじゃだめってことなんですよね。ここ大事。
それから最後に「未来のステークホルダー体験」とあるんですけれども。我が社だけじゃなくて、社会とか生活者の方が、具体的にどういうふうになっていくかということの想像力だと。なにしろナラティブというのは現在進行形ですから、ここまで提示しないと。
ぼやっと「豊かな社会を目指しましょう」とかじゃなくて、5年後、10年後にどういう消費者体験やステークホルダー体験になっているかをしっかりと想像して、示さなきゃいけないということだと思います。
駆け足になっちゃったんですが、ナラティブを実践する企業を便宜上「ナラティブカンパニー」と呼んでますけど、まだまだこれからだと思っています。でも、マーケティングにとってもナラティブの要素を入れていくのが本当に大事な時代になってきたなと思ってます。
そのへんも含めて、今日はすばらしいみなさんと後半のパネル(セッションが)できればと思います。じゃあ、ここで終わらせていただきます。
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