最初はキツいと感じた、オンラインでの「反応の無さ」

藤田祐司氏(以下、藤田):アフロマンスさんは去年よりも前の段階でも、いろんなことを仕掛けられて、新しい体験をみんなに届けてこられたと思うんです。でも去年、要は状況が変わって。それでも先ほどの自己紹介にもありましたが、仕掛けているイベント数は例年よりむしろ多いくらい、いろいろやってこられたと思うんです。

アフロマンス氏(以下、アフロマンス):まさに、まさに。この間、活動を1回整理したら、たぶんここ10年くらいで去年が一番多かったです。

藤田:(笑)。そうですよね。

アフロマンス:新企画やりました。

藤田:コロナ下におけるイベント活動とは、それ以前とはガラッと変わったんでしょうか? 単純に比較するのも難しいと思いますが。志の春さんにもおうかがいできますか?  同じ思いで届けられていると思うんですが、どんな変化を感じられているのか、おうかがいできますか?

立川志の春氏(以下、志の春):私の場合は、コロナ前は呼ばれて行く会がけっこう多くて、生100パーセントですよね。たまにテレビやラジオもありましたが、そこにはお客さんがいて、そのお客さんに向かってやっているのを収録して、それを後で流すのだから、生でやっていることに変わりはないですよね。

それで6月からオンラインで始めて、やはり最初はめちゃくちゃ面食らいました。カメラしかなくて、反応がダイレクトに返ってこない。一発目はキツいなと思いました。ただ、やはり一発目をやってみると、「これはこうしたら、もうちょっと楽しくなるな」と頭が動いていくんですよね。

落語家の中でも「オンラインはやらないよ」という人が今でもけっこう多いんです。でも一発やった人の多くが「もう二度と嫌だ」とはならず、「次はこういう感じでやってみよう」と動き出すんですよ。

パフォーマンスのヒントにしたのは「嵐のコンサート」

志の春:それで、私も双方向のフィードバックみたいなものが欲しいなと思ったんです。オンラインで落語会をやって、終わった直後のアフタートークの時間に、双方向でチャットする時間を設けたんです。そうしたら、終わってすぐにフィードバックをいただけるようになって、精神的にはすごく楽になって。

やはり生の会だと、お客さんと演者がお互いにのせあって120パーセントのパフォーマンスが出せると思うんですよね。それがオンラインだと、会場内にスタッフは2人いるんですが、ほとんどカメラに向かってやるだけ。

磨いて磨いて100パーセントまではいくかもしれないけれど、なかなか120パーセントは難しい。それには、ちょっと自分を上げていくものが必要だなと。

その時に東京ドームでやった嵐のライブを見たんです。お客さんから、事前に録画・録音したダンス映像、拍手、声などを送ってもらって、ライブで嵐のパフォーマンスと一緒に流すというものでした。お客さんたちが嵐と一緒に映像で踊っている感じがあって、お客さんたちの声も束になって、東京ドームを埋めていたんですね。

それで、「これ、やってみよう」と思って、お客さんに「拍手と笑い声を送ってください」ってお願いしました。送ってもらったものを、「1秒の笑い、3秒の笑い、5秒の笑い」「1秒の拍手、3秒の拍手、5秒の拍手」に加工して、束ねて、スタッフの方がボタンを押したら会場に流れるようにしたんです。

とにかく私が登場した瞬間、送ってもらった拍手が会場に流れるだけで全然違うんですよ。サゲ(落語のオチ)を言った後で、その拍手で終わるだけでも全然違って。

笑い声を入れる間はなかなか難しいのでちょっとズレたりもするんですけれども。でも、それで自分を上げていくことができて、オンラインでも120パーセントを目指していけるんじゃないのかなと思ったり。一発やってみると本当に発見がいろいろあって。

藤田:なるほど。

志の春:おもしろいですね。毎回毎回、あれやってみようとか。

相手のレスポンスがわかるかどうかで大きく違ってくる

藤田:すごいですね。実際に声を送ってもらうんですもんね。いわゆるサンプリングの笑い声ってあるじゃないですか。そうじゃなくて、本物の声ってことですよね?

志の春:アメリカのホームドラマみたいな、場違いな笑いだったら浮くじゃないですか。お客さんがちっちゃい笑いとか、ガハハ笑いとか、いろんなパターンの笑いを送ってくれるんですよ。

藤田:それはいいですね。私は嵐のライブを見ていなかったのですが、すごいですね。そこにヒントを得たんですもんね。

志の春:パクろうって思いましたね。

藤田:(笑)。

アフロマンス:僕もいろんなかたちで、オンラインイベントをやってきました。僕の場合は企画側の時と、出る側の時があるじゃないですか。僕はDJもやっているんですけど、出る側で一番楽しかったのは、やっぱりZoomでDJした時ですね。

これは呼ばれて出たんです。50人くらいワーっとお客さんがいて、それが何画面かあって。その時はみんな部屋も映してくれて、イベントのためだけにミラーボールを付けている人もいました。照明を暗めにしている人も多くて、ちょっと恥ずかしがり屋な人は足だけとか、下半身だけ映っていて、踊っているのがわかる感じで。

藤田:(笑)。

志の春:おおお。

アフロマンス:だからDJしていて、そんなふうに反応してくれているのがわかるんですよね。(お客さんが)思い思いにすごく楽しんでいて、僕もやっていて楽しかったですね。

志の春:わかります。そうですよね。

アフロマンス:だから、相手のレスポンスがわかるかどうかは、すごく大きな違いなんです。逆に、そうじゃないパターンもありましたし。普通にコメントはあるけど、表情とかはわからなかったり。

藤田:そうですよね。オフラインだとコールアンドレスポンスがあって、どんどんお互い盛り上がっていく。DJなんてまさにフロアの反応を見ながら変えていったりしますよね。そこがけっこう醍醐味なのに、オンラインで顔がまったく見えないのはなかなか難しいですよね。そこをZoomとかで少しでも、表情や反応が見えるようにすれば、全然違いますもんね。

お客さんの映像を使うイベントは諸刃の剣

アフロマンス:そうですね。あと、Zoomを使ってお客さんの絵(映像)を映すイベントってけっこう増えたんです。いろんなイベントを見て思ったのが、それがプラスに働いている時と、そうじゃない時がやはりあって。

なんとなく僕の感覚なんですけど、やはりコアな人、本当に好きな人が来てくれるとめちゃめちゃ良くなるんですよ。明らかに反応が良いし、楽しそうなので。でも、すごく薄く集めっちゃたりすると、けっこうボーっとしていたり(笑)。でも、それが幅広いお客さんに見えたりもする。だからお客さんの映像を使うイベントは諸刃の剣なところもある。

藤田:なるほど。

志の春:僕もね、Zoomを使う時もあるんだけど、ふだんの落語会はZoomでなくて画面が見えないんですね。そもそも落語をやっている時は、こうやって(右、左を)見ているので、画面なんか見ていられないので。

アフロマンス:(笑)。

志の春:基本的にはそう画面を見たりじゃないんです。でも時々Zoomでやって、お客さんの映像が見える時は、やっぱり拍手してくれているのとかうれしいですよね。一番真ん中で、最初から最後まで1時間ずっと孫の手で背中をかいているおじちゃんとかね(笑)。

(一同笑)

志の春:すっげえ真面目な顔して孫の手で(笑)。

藤田:すごい。

志の春:いろいろな景色が見えてきます。

オフラインとオンラインのそれぞれのメリット

藤田:やはり、そうなんだ。いや、おもしろいですね。アフロさん、それ以外で、何か考え方やアプローチの仕方を変えたことはありますか?

アフロマンス:そうですね。オンラインもリアルもやっていますが、けっこう別物だなとは思っています。オンラインはやはり場所を問わないので、すごく遠くの人も参加してくれるんですよね。

東京でやっても、鹿児島の人とか、なんだったら海外の人も参加してくれる。リアルでやったら絶対につながれなかった、遊びに来てくれなかっただろう人たちが参加してくれる。

だけどやっぱり、リアルと同じだけの体験を全部提供できるかというと、それは無理じゃないですか。オンラインでの体験は、場所や時間を超えて、よりたくさんの人と共有できる。そのために、オンラインという選択肢をあえて取ることもあります。

逆にリアルでは、やっぱりワーっと集められないので、大きなイベントは本当にやっていないんですね。以前やっていた、泡パーティー、泡フェスとかの、500人、1,000人、何千人みたいなイベントはなかなかやれない。

でも考えようによっては、数十人とかのすごく少ない人数でも、おもしろいことをやるための選択肢はあると思っていて。だから、さっきの「VANLIFE DJ」がわかりやすいんですけど、あれはコロナ下じゃなかったらやっていないかもしれないな。

藤田:うん。

「少人数」こそのおもしろさの再発見

アフロマンス:コロナ下だったからこその、気づきもやはりあって。リアルイベントに限らず、イベントというものは、50人より100人、100人より200人、より多くの人を集めたほうがえらいじゃないですか。でも今、そんなことはなくなっちゃったわけですよ。

じゃあね、1,000人から1,000円と、50人から20,000円とでは、どっちがいいのかじゃないですけど。また今、そういうビジネスのかたちも変わってきているし。

「すごく少人数だけど、いや、むしろ少人数だからこそできるおもしろい体験は何かな?」と今いろいろ考えています。最近やっているリアルイベントはこういう考えのものですね。

感染対策にしても、もちろん単純にアルコール消毒やマスクもあるんだけど、(多人数だと)そもそもそれをきちんと管理できるかどうかもあるじゃないですか。

一見さんのとんでもない人数を集めた時に、結局きちんと感染対策をやってくれないかもしれない。やはり目の届く範囲で、信頼できる人たちなら完全にできるかなと。少人数だからこそおもしろい企画もあります。「RPGレストラン」もすごく少人数ですし。

さっきの「マグマやきいも電車」は、定員が20人くらいなんです。電車で1席空けて座れる人数ですよね。

藤田:そうか、そうか。

アフロマンス:でも従来型の、とにかくいっぱい人数集めようという発想だと「いや、こんな少ない人数向けにやらないほうがよくない?」となっちゃう。だから、今はそっち(少人数だからこそのおもしろい企画)をいろいろ考えていますね。

リアルイベントに向いているのは、作り込んだ「1人の特別な体験」

アフロマンス:でも、僕は意外とその波って、コロナじゃないところからもけっこう来てるんじゃないかと思っていて。例えば1日1組限定のトレーラーハウスの宿ってあるじゃないですか。

1泊5万円で、周辺には誰もいませんみたいな。僕も北海道に行って1泊に5万円払ったけど、その体験を全然高いと思わなかったんです。普通のホテルでわらわら人がいる状況と、誰もいない海辺に1組というのをくらべると。

僕は3人くらいで行きましたけど、3人だけで泊まれると、宿での体験がまったく違うんです。今、そういう特別な体験をいかに作るかということが、リアルイベントには向いてるんじゃないかと。

藤田:なるほどね。

アフロマンス:あと、ぶっちゃけて言っちゃうと主宰は減りました。

藤田:自分主宰?

アフロマンス:そうです。小さいものはありますけど、もともと主宰時はでかいことをやっていたので。興行的にリスク持ってドンってやるのは、やはり非常に難しい。

藤田:「スライドザシティ」みたいなことはけっこう難しいってことですよね?

アフロマンス:そうです。さっきの少人数で泊まれる宿の話のように、僕の関心も今、「1人の体験を、どうやってよりおもしろくできるか」に変わってきているのもありますね。

でも、やはりコロナの影響もあると思います。今、すごく大きいイベントをやるんだったら、スポンサーや企業などと一緒にやるかたちになっていますね。それがなかなか難しいところでもあって。それは変化ですよね。

「落語イン・ザ・ダーク」を開催してみてわかったこと

藤田:なるほどね。確かに、主宰が減る。もしかしたらですが、志の春さんが暗闇的なことをされているのも、特別な体験ということなんでしょうか? オフラインじゃなきゃ体験できない仕掛けみたいなものもやっていらっしゃいますよね。

志の春:私はこのコロナ下で、初めて「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(※現在休館中)というものに参加したんですね。そこで、少人数イベントの良いところ(を感じました)。視覚障害者の方がリーダーになって、あとは4〜6人だけのグループで、100分間暗闇の中をいろいろ探検するイベントなんです。これ、もうすごくおもしろくて、参加していて発見があったんですね。

視覚を閉ざされた時に、聴覚や嗅覚が目覚めてくる感覚っておもしろい。これは落語に合うんじゃないかなと思ったんです。おもしろいと思ったものはだいたいパクるたちなので。

藤田:(笑)。

志の春:これを落語でやってみようと思ったんですよ。これはさっきのアフロマンスさんのテスト開催と同じでね。私もこのコロナ下で、「もうとにかく、まずやってみる」感覚が本当に大事だなと思って。それ(ダイアログ・イン・ザ・ダーク)を体験してからすぐやってみたんですね。

完全に真っ暗にするのは安全上問題があるので、ちょっと薄暗い状態で、アイマスクをしてもらってお客さんの視覚を遮って。その中で私が落語をやったんです。

そういう新しいことをやると副産物みたいな、事前に想像していなかった発見があるんですよね。どんな噺(はなし)が合うかいろいろ考えて、また嗅覚や聴覚を刺激する仕掛けを準備して会をやりました。

「視覚以外も刺激する落語」の試行錯誤とおもしろさ

志の春:実際、落語を演じてみると気づくことがありました。ふだんは上下(かみしも)を振り(顔を右、左に向けて登場人物を演じ分け)ながら、人物間の距離感を目線などで表したりするんです。でも、暗闇の中ではお客さんに届かないわけですよね

そうすると、声一本で距離感を出さなきゃいけない。落語の演じ方も、こう顔を右、左に振るのではなくて、こういう前後に動く人物の演じ分け方になるんです。マイクとの距離で、上下(かみしも)が前後になる。

藤田:なるほど。

志の春:見えていないので、私はわりと自由に、マイクぎりぎりまで近づいて「おい」みたいに囁くのから、ちょっと遠くで「おぉ~~い」っていうのまでいろいろやりました。距離感の出し方はマイクとの距離で変わるんだなって。

藤田:おもしろい。

志の春:ふだんの見えている状態での落語では、そこまでやらないんですよね。でも、ふだんの落語でもある程度これを活かしていけば、もっと聴覚も刺激する落語ができるんじゃないかなと。暗闇の中で1回やってみると、「次は、もっとこういう方法で他の感覚を刺激していこう」となります。

今は、マスクをしているので、やはり完全には嗅覚を刺激することができなくてちょっと悔しかったんですけれども。旅館のシーンでは、畳のい草の匂いを振りまいて、旅館にいるのを感じてもらいたかったんですが。残念ながら今回みんなマスクをしていたので、それはそんなに匂いが強くなかった。お線香の匂いくらい強いと分かるようですが。

藤田:なるほど。

志の春:ええ。1回やってすごくおもしろかった。

スタッフもお客さんも「落語会ではありえないこと」を楽しむ

志の春:それに、そういうのをおもしろがって、わりと小さめの会場でも参加してくれるお客さんがいるので、それは生の醍醐味だなと思って。

お客さんにとっては、その会は真っ暗で、何も見えていない状態なんですよね。でも、私はお客さんの他の感覚を刺激するために、薄暗がりでいろいろやっているんですよ。

他のスタッフも、私が落語をやっている間に、ふだんではありえないことをやっています。例えば、周りにろうそくを並べたり、風を送ったり。いろいろやっている状態をカメラに撮っておいて、種明かしみたいなこともしました。『カメラを止めるな!』って映画があったじゃないですか。

藤田:はい、はい。

志の春:種明かしバージョンの映像も、後で合わせて楽しんでもらったんです。いろいろおもしろいですね。

藤田:おもしろい。すごい。

志の春:「こんな感じでやってたんでっせ」ていうね。

藤田:おもろいですね。

アフロマンス:めちゃめちゃイノベーション落語な感じですね。

志の春:そうそう。

落語以外から発見する、新しい落語のかたち

アフロマンス:僕は、手塚治虫さんの「漫画から漫画を学ぶな」みたいな言葉がけっこう好きなんですね。要は、漫画を見て漫画を描こうとすると、言ってみれば、他のもの劣化版コピーになっちゃうじゃないですか。

だから漫画以外のことをいっぱいやれと。別に演劇を観に行くでもいいし、おいしいものを食いに行くでもいいし、旅行するでもいいし。それを漫画に落としたらオリジナルになると。

志の春:うん。

藤田:なるほど。

アフロマンス:まさに今、落語の中で落語を探していないじゃないですか。

志の春:ええ。まさに、そう。

アフロマンス:それが、おもしろいものが生まれるきっかけなんだろうなと思って。

藤田:うん。

志の春:海外に、落語とちょっと似ているスタンドアップコメディーっていう芸があるんです。スタンドアップコメディアンたちは通常、立ってマイク1本でやるんですが、彼らはやはり「マイクとの距離感の魔術師」だと、あらためて発見したんですよね。

アフロマンス:いや~、おもしろいな。

藤田:おもしろい。

志の春:私、トレバー・ノアっていうコメディアンがすごく好きで、彼は話術もすごい。これまで私は話術や話芸の部分に注目していたんですけど、彼は自在にマイクとの距離を操っていることに気づいて。それで話の中に距離感と臨場感を出していたんだってよくわかったんですね。

ラジオCMのおもしろさは「音声だけで仕掛ける工夫」があること

アフロマンス:僕、すごく詳しいわけじゃないんですけど、賞を取っているラジオCMって、けっこうおもしろいんですよね。

今の話じゃないですけど、完全に音声だけで、どういう仕掛け方をするかみたいな工夫があって。

志の春:はい。

アフロマンス:例えば、てっきり家族の会話かと思っていたら、実は家族じゃなかったのが後でわかったり。でも、これって絵が付いていたらすぐわかっちゃうことなんだけど。

例えば、実は宇宙人の話だったり。あとは、今おっしゃったように、音で距離感を出したり空間を感じさせたり、すごく音声を駆使するじゃないですか。そこにも、何か落語のヒントがありそうだなって聞きながら思いました。

藤田:そうですね。

アフロマンス:いろいろラジオCMを掘ってみるとおもしろいかも。

志の春:次やる時は、会場にスピーカーをたくさん設置して、この場面はこっちから音が出てくるとか、あっちから出てくるとか、もうちょっといろいろやってみたいなと思いますよね。

アフロマンス:いや~、おもしろい。

藤田:おもしろい。

志の春:でもそれは、一発やってみたからこそだなって、つくづく思いますね。

藤田:新しい体験ですね。

アフロマンス:副産物ですよね。

志の春:ええ。

アフロマンス:僕もすごくそれ思います。