口がすべって1億円の損失を出した、営業時代の大失敗

北野唯我氏(以下、北野):とはいえ、採用でそういう(素直でいい)方を採ったとしても、それを 文化として根付かせていくようなところって、また別の話だなって思うんです。企業文化みたいなところで、構築とか醸成で気を付けているポイントがあれば、うかがってもよろしいですか? 曽山さんから、ぜひ。

曽山哲人氏(以下、曽山):企業文化を作るのって、すごく難しいんですよね。文化って見えないので。私たちは「経営者の言行一致」っていう考え方をすごく大事にしています。例えば、サイバーエージェントには会社の価値観をまとめたミッションステートメントがあるのですが、その中に「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを提供する」って言葉があるんですよ。

こんなことを言ってる会社は、日本だとけっこう少ないと思うんですけど。うちは「セカンドチャンスあり」だと、まず言っている。私たちサイバーエージェントの役員陣も、全員何か大失敗してるんですよ。上手く成功してキャリアを積み上げた人はぜんぜんいなくて。上にいけばいくほど、何か大失敗してる。

私も営業時代に、自分の口がすべって1億円損失を出したことがあるんですけど。シャレにならないじゃないですか。

休日課長氏(以下、休日課長):シャレにならないですね。

曽山:だけど、その時がんばって乗り越えて、一緒にやっていくなら守るよ、っていうのが僕らなので。経営者がそれを守っているかを、社員は見ています。経営者が言ってることとやってること、言行が一致してるかどうか。これが企業カルチャー醸成の最初の入口じゃないかなと思ってますね。

バッターボックスで「見逃し三振」だけはしない

北野:バンダイさんはどうでしょうか。

松原誠氏(以下、松原):我々もですね、チャレンジということをまず一番大事にしている会社です。それこそ、失敗を恐れない。我々の会社では、失敗して怒られることってないんですね。1個だけ、怒られるのはチャレンジしないことですね。

よく、バッターボックスの話がありまして。バッターボックスに立ったら、一番やってはいけないのは三振ではないんだと。見逃しの三振だと。なので、空振りでもいいから、三球とも思いっきり振ってこい、みたいなですね。そのうち、一発ドカンとデカいのが出るんだと。

そういう、いかに「失敗しちゃいけないんだよ」っという風土にしないか。我々も過去、大きな失敗を何回も繰り返して今の会社になったという歴史があります。失敗を恐れずチャレンジする姿勢は、今の新入社員からずっと上の役員まで、みんな同じです。

北野:ただですね、もし僕が学生さんなら素直でいいやつじゃないんですけど(笑)。とはいえですよ。「怒らないからね。やってみなさい」って言われて、やったらめちゃめちゃ怒られるっていう経験で育ってきてるので、ちょっとひねくれちゃってるんですけど。

(一同笑)

北野:それはどうなんですか? 実際、例えばエピソードで「こういうことがあったけど、チャレンジで許された」とか。今の学生さんならたぶん気になると思うんですけど。それは2社とも、どういうふうに返されますか?

松原:チャレンジするために、まず大事なことは目標だと思うんですよね。どういう目標を持って、どこに向かってチャレンジをするのか、最初に決めたことが非常に重要だと思います。自分がチャレンジするという思いを持ったもの(最初の設定)に対して、例えば(途中で)折れてしまったという時もあると思うんですけど。

そういう時には、「目指すべき方向はここだったはずだぞ」と。失敗したから怒るということではなくて。今やろうとしてる方向が少し違ってきちゃってるんじゃないのか、ということで叱咤しつつもサポートしていく、ということになるのかなと思いますね。

北野:なるほど。目標が大事だと。

社内の失敗談を隠さずオープンに伝える「ヒストリエ」

北野:どうですか? サイバーエージェントさんは。

曽山:サイバーエージェントの場合だと、失敗のケーススタディが社内で共有されています。「ヒストリエ」って呼んでるんですけど。撤退したプロジェクトの当事者にインタビューをして。当時、例えば役員3人でやってたけど、結局撤退しちゃいましたと。その当時、どんなことが起きてどんな裏側があったのか。

例えば当時のリアルな心境とか、ケンカした時にどうやって収まったのかとかですね。子どものケンカみたいな話も含め、そういったシーンが「ヒストリエ」上でケーススタディとして公開されてるんですよ(笑)。

その人たちが社内でみんなバリバリ働いてるわけですね。失敗した人たちが、今活躍しているという事実。この事例をたくさん増やすことで、「本当に失敗してもいいんだ」と安心できます。それはファクトを共有するということでやってますね。

休日課長:おもしろそうですね。ドラマ化してほしい!

曽山:ありがとうございます。それ、「ABEMA」の企画担当に今度提案してみます。「休日課長さんからいただいた」って言って。

(一同笑)

北野:2社の共通するところって、やっぱりエンターテイメントとか、世の中にダイレクトにインパクトを与える事業を持たれているってことだと思うんですけど。そういう会社の人事だからこそのおもしろさとか、魅力って何かあったりしますか?

曽山:事業が生まれると同時に人事の取り組み方も考えて、その数がとても多いというのが一番ですね。例えば、今まで広告事業でネクタイしてスーツを着ている法人営業のチームしかなかったところに、今度は「アメーバブログ」や「ABEMA」のエンジニアとかクリエイターがいる。もうこの時点で服装がぜんぜん変わるわけですよ。

(人事は)そういうメンバーが働きやすいカルチャーって、どうやって作ればいいんだろう? と考えることができる。会社がチャレンジをすればするほど人事制度も新しくなるということなので。良い意味で、人事は休む暇がないんですよね。

北野:なるほど、確かにね。違いますよね。

曽山:そうなんですよ。

休日課長:確かに振り幅がすごそうです。

曽山:それぞれが働きやすい環境を作っていくというのは、すごく大変ですけどめちゃめちゃおもしろいという。

多様性のある組織をまとめるのは、価値観と最小限のルール

休日課長:でもいろんな人がいすぎて、バラバラになりそうで。そこらへんはどうしているのかなという。

曽山:そうですよね。以前と比べると職種やキャラクターは多様化しています。すごく寡黙な人もいるし、すごくハイテンションの人もいるので。そういうバラつきがある中で大事にしているのが、やはり価値観ですね。

先ほども紹介したミッションステートメントです。さっきの「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」のようなキーワードが10個ぐらいあって、それらを大事にしましょうと。

例えば「チームサイバーエージェント」という言葉だったら、僕らはチームプレーが大事だから、個人主義はダメよと。チームでやりましょうねということが規定されている。最小限のルールだけを決めて、あとは自由にしています。

休日課長:なるほど。確かに最小限のルールは、はっきり決められていたほうが「ここは自由にしていいんだ」というのがわかりやすくなるからいいかもしれないですね。

仕事は待っていても来ない、バンダイの社内カルチャー

北野:松原さん、どうですか?

松原:私自身が実は中途で入っているので、別の会社にいたこともあるんですけども。バンダイに入社して、まず「非常にエネルギッシュな会社だなあ」というのはすごく思いましたね(笑)。

熱量の伝え方って、人それぞれなんですよね。言葉巧みに伝える人もいれば、寡黙だけれど、熱量の強い人も当然いる。総合すると、やっぱり熱量がすごく高い会社だなって。

「なんでこういう人ばっかりなんだろうな」と思うんですよ。おそらく、このバンダイという会社は70年以上続いてきた歴史の中で、何かものごとを「世の中に出したい」「見てもらいたい」「遊んでもらいたい」って提供し、発信し続けてきた結果、こうなってきたんじゃないかと。

自分たちがエネルギッシュに何かを発信し続けていないと、会社の存在意義そのものがなくなってしまうので。それを熱量に変えて伝えていくことをやめてしまったら、やっぱり会社自体も社員自体の成長も止まってしまう。

例えばよく言われるのが「仕事は待っていても来ない会社だ」と。「私がこれをやりたいです!」と言った人のところに仕事が来るという文化なんですね。「仕事の報酬は仕事」という格言がうちの会社にはあって(笑)。

仕事の報酬は普通お金じゃないですか。「私、それをやりたいです」ってがんばって結果を出して、「よかったね。ここまでがんばって本当にお疲れさま。本当におめでとう。よかった。じゃあ次の仕事だよ」と言ってまた仕事が来る(笑)。

「仕事の報酬は仕事」。そういうことで成り立っていった会社だということもあって、やっぱり熱量があるのかなと。人事としてそういった熱量を持つ、素養のある方と、いかにタッチポイントを持って出会っていくかというのが、醍醐味の1つかなと思います。

あとはもう1つ、ぜんぜん違うことなんですけど、私もそれまではスーツを着て仕事をしていたんですが。この会社に入ったらもうほとんどスーツを着ることってないんです。あまりにもラフな格好で家を出ていくものですから、近所のお子さんとかに「あそこのパパは仕事してるのかなぁ」って(笑)。

(一同笑)

曽山:噂されていた?

松原:ずっと10年ぐらい言われていたのを僕は知らなかったんですけど(笑)。言われていたらしいですというぐらい。

曽山:あとあと知ると(笑)。

松原:はい、そうなんですよ(笑)。もう本当にいろんな服装、いろんな髪型の社員がたくさんいるので、そういう意味では非常に自由。そういうところも人事の1つのおもしろさなのかなと思います。