『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』ともコラボする、たまごっちの懐の広さ

北野唯我氏(以下、北野):僕、バンダイさんのビジネスを見ておもしろいと思うのは、そもそもデジタルじゃないですか。デジタルで作られたものが実物になって、みんなもはやガンダムがそこにいるっていう(感覚で)、おもちゃで遊ぶみたいになって、それがまたデジタルになるということなので。すごいクリエイティブというか、創造しているなっていう。だってガンダムって、(リアルでは)もともといないじゃないですか(笑)。

松原誠氏(以下、松原):そうですね。

北野:でも僕らの脳みその中にはいる感じなんで。それはすごくクリエイティブな仕事だなって思いますよね。

松原:そうですね。やっぱりファンの方は心からキャラクターや作品を愛していらっしゃるので、僕らが妥協をしてしまうとあっという間にその世界観が損なわれて、それが伝わってしまう。

なので期待に応えるだけではやっぱり駄目で。期待を超えて初めて、感動を届けられると我々は思っていますので、ファンの方の期待をどう超えていくのかというチャレンジをする会社だと思っています。

北野:最近では、『呪術廻戦』を『たまごっち』にするんですか? どういうことですか、これは!?(笑)。

松原:そうですね。『たまごっち』も長く続くシリーズなんですけれども、やはりいろいろなキャラクターとのコラボレーションにも取り組んでおりまして。『呪術廻戦』も年内に予定しているんですけれども、その前に『鬼滅の刃』とコラボレーションして『きめつたまごっち』という商品を発売しました。

休日課長氏(以下、休日課長):『たまごっち』が、これだけいろいろ受け入れる幅のある商品だったというのは、作った時には想像してないですよね? 

松原:そうですね。『たまごっち』のスタートでいうと、ペットって飼いたいと思っても飼えないご家庭もあると思いますが、どうにかしてペットを飼いたいという夢を叶えてあげたいといった時に、実はおもちゃでそれが再現できるんじゃないかというところから『たまごっち』の商品企画がスタートしたんです。

そこにキャラクターというものが加わったことで、世界観がより今みたいなかたちに変わっていったということなんですね。

新しい企画を実現させるには、ある種の“独裁”が必要

北野:『ウマ娘』の話で聞いてみたいのが、例えば僕が社内で「『ウマ娘』はこういうのが良いと思うんです!」って提案されても、「いや、これウケんのかな」っていうか。判断がなかなかできないと思うんですけど。

なんでサイバーさんの中では「OK。よし、これに5年ぐらい投資しよう」ってできたのかって、会社の役員をやってる身としてはすげえなとか思うんですよね。

曽山哲人氏(以下、曽山):この企画を聞いた時は、僕自身もすごいと思いました。

北野:やっぱりそうですか。

曽山:サイバーエージェントの場合、各事業ごとにそれぞれ担当役員がいるんです。その役員が自ら考えてやっているっていうのがまず大きいですね。最前線で、こんなものがこれから流行るはずだとか、っていうのを考えてる。

一方で、全社員。若手の社員にも企画の会議があって。担当役員に直接提案する機会がけっこう多いんですよ。そういった場でヒントをもらいながらも、こういった新しい企画を最終的に実現させるには、ある種の独裁が必要だと思ってるんですよ。民主主義だけだと、たぶんアイデアが丸くなっちゃうんで。

そういう意味では独裁ってある程度パワーが必要なんですよね。上の人が社員と一緒に全力で戦っているからこそ人気IP(Intellectual Property 知的財産)が生まれたんだと僕は思っています。

北野:社内で「馬×少女が走るんです!」って言われたら。「課長! 決裁してください!」って言われたら。押せます?

休日課長:いや僕は、もう1つ上の人に任せますね(笑)。「良いんじゃない?」って言いながら。どっちにも良い顔しながら。

(一同笑)

コアなファン向けの事業が好調なバンダイ

曽山:休日課長さんのとこでいうと、『(ホメられたい僕の)妄想ごはん』(俳優の高杉真宙が休日課長役を演じるテレビ大阪のドラマ)って言うぐらいなんで、妄想ですよね。妄想ありきというか。こういうのになったらおもしろいんじゃないかというのを大事にして、どうせだったらインパクトがあるものにしようというのは、それぞれの部門で考えてくれてますね。

北野:また松原さんのお話に戻りたいなって思うんですが。(バンダイの)国外事業が好調って聞いてるんですが。これはコロナに関係あったりするんですか?

松原:もともとコロナ前から海外事業はずっと伸びていたんですけれども。このコロナ禍における、いわゆる巣ごもり需要というものもあってさらに盛り上がっているのも多少はあると思います。

特に、BANDAI SPIRITSのほうでやっているハイターゲット向けの事業はずっと好調で。例えばプラモデル。さっきガンプラの話をしていただきましたけども。プラモデルの国内と海外のウェイトだと、実は海外のほうが大きく成長している事業もあるんですね。日本発のIPが世界へ。特にBANDAI SPIRITSの事業のほうで拡大しているところです。

言葉の壁を越える、日本のキャラクターの魅力

北野:松原さんは、海外にもいらっしゃったと思うので、HR(Human Resources 人材)、グローバルに見られてきたと思うんですけど。実際、海外の人とビジネスをしたり、話をしたりされてきたと思います。その中で、海外の人から見たバンダイさんの魅力とか、仕事を依頼したい理由ってどういうところなのか、肌で感じることはありましたか? 

松原:現地に行くと、やっぱり思うのが、いかに日本のキャラクターというコンテンツパワーが強いのか。あるいは、人じゃなく、キャラクターだからこその強みというのが、実は大きいんだろうなって思います。

世界共通の、言語を越えるような世界観とでも言うのでしょうかね。世界的にそうした力を日本が持っていることを感じます。私は2年間香港にいて、当然ですが、日本人だけでなく現地の方とも一緒に仕事をしていたのですが。

彼らも、本当にキャラクターが好きで。バンダイのことも、ちっちゃい頃からキャラクターとかおもちゃで遊んで知っていて。例えば香港あたりだと日本語がしゃべれるスタッフさんも多いんです。どこで日本語を習ったのかって聞くと、だいたいみんな「アニメで覚えてる」って言うんですよね。

休日課長:バンダイさんで働いてると、海外にバーッてすぐ行けるような雰囲気があるんですか? チャンスというか。

松原:そうですね。実は私自身も、行く前はぜんぜん英語が話せなかったんですよ。でも、「海外へ行けるのなら行きたいです」って言ってみたら、まさかの「行っていいよ」ということで。

曽山:最高ですね。

休日課長:最高です。

一度は世界を見てくることが、モノ作りにも影響を与える

松原:「いいですか?」って言って行かせてもらって。そんな感じです。なので、決して英語をしゃべれなきゃいけないわけでもないですし。もちろんしゃべれたほうが早いので有利ではあると思うんですけど。しゃべれなくても向こうで(習得できます)。それこそ必死に僕も勉強しましたけど。さっき言ったように、キャラクターの世界観って、言葉が違っても共通なので。どうにかなるっていうところですね。

休日課長:それは若い人でも同じ雰囲気ですか?

松原:はい。私のように行って戻ってきてる人間もいますし、進行形で行っている社員もいっぱいいるんですけど。

できるだけ一度は世界を見てくる。(そうすると)日本で世界を意識したモノ作りができる。そういう社員になってもらいたいという人材育成上のポリシーがあるんです。ジョブローテーションの一環として、海外にどんどんチャレンジをするように推奨してますね。

休日課長:制度的にそうなっているんですね。サイバーエージェントさんはどうですか? 海外に行かせる機会とかってあったり。

曽山:まだ私たちは海外の拠点がそれほど大きくなく、アジアなどにベンチャーキャピタルの部門があるぐらいなんですね。どちらかと言うと、日本国内で、グローバルカンパニーがネット広告を展開する時の依頼が増えていますね。

特に広告事業なんかですと、若いメンバーでもベテランでも、英語を使える人がいるので、グローバルカンパニーに対する提案がすごく増えています。

あと、ゲームで僕らもオリジナルIPを作っていたりするので。海外の、例えば中国の企業とコラボして、中国で発信してほしいなんていうことで実際に現地に出向いたりとか。そういう機会は、年次限らず若手でもベテランでもありますね。

世の中に絶対必要な「おもちゃ」を作る

北野:それでは、次のお題へいってみたいと思います。課長、次のテーマですね。

休日課長:そうですね。「『強い』『人気のある』エンタメビジネスが生まれる仕組みと秘訣」ということなんですが。採用する人材のどこを見ていますでしょうか、っていう。まず、バンダイさん。どうですかね? 

松原:そうですね。我々には、社内で誰もが知っている共通言語として、「同魂異才」という人材ポリシーがあります。

「才能っていうのは人それぞれでいいんだ」という意味です。つまり、まったく同じ人っていないんですけど。やっぱり良さってそれぞれあって、それでいいんだと。

会う方のどこを見ているかって言いますと、例えば我々の会社に入って「これをやりたい」って言った時に、やり遂げようとする思い、魂。これがすごく大事になってくる。

我々の作るものは、我々自身がやる気を持って「世の中にこれを発信したい!」ってよっぽど強く思ってないと。いわゆるおもちゃは、そこになきゃいけないものではないじゃないですか。

休日課長:そうですね。必需品ではない。

松原:ですけど、我々はそれが世の中に絶対必要だと思ってもらいたい。そのためには、我々自身がそこにすごくこだわりを持って、強く発信しなきゃいけないので。それ(必需品ではないこと)をこじ開けていくには、相当強い気持ちが必要なんですね。

そういう思いを持ってやり遂げられる方は、非常に活躍できる素養をお持ちなのかなっていうことで。そういうところがあるかどうかっていうのは、見てる中の1つかなと思います。

「素直でいいやつ」は変化対応力が高い

北野:サイバーエージェントさんは採用する人材、どうでしょうか? 

曽山:採用基準、僕は1つありまして。「素直でいいやつ」という言葉を掲げてるんですね。なんでこれになってるかって言うと、もともと会社のビジョンが「21世紀を代表する会社を作ろう」というもので。20世紀を代表する企業って日本からもたくさん出たから、21世紀を代表する日本企業になってグローバルにいこう、っていうのが僕らの夢であると。

そうすると、今の事業だけでいけるかっていうと、いけないんですよね。今後も絶対に変化が求められます。つまり変化対応力が必要なんです。そうすると当然、変化対応力の高い人材が欲しいと思うんですね。素直でいいやつの「素直」っていう言葉は、「ものごとをあるがままに見る」ということを指してます。

トレンドが何か来た時に「いやいや、流行んないっしょ」って言うんじゃなくて、「これ来るかも」って受け止められるかどうか。これはすごく大事にしてる感じですね。面接で「素直?」って聞いても、みんな「素直です」って答えちゃうので(笑)。

休日課長:そうですよね。

曽山:そうなんです。なので、インターンシップで企画を出してもらったりとか。グループワークの中で周りとの関係性をどう作っているかとか。採用するにあたって、そういった点を見させてもらうことが多いですね。

休日課長:見ているのは「素直かどうか」っていうところで。

曽山:そうです。相手を否定してばっかりとか、論評だけするけど案は出さないとかっていうのだと、素直ではないですよね。きっと周りからいいやつとも思われてないはずです。

(一同笑)

曽山:最終的には「一緒に働きたい人と働こう」ということを、僕らの中では大事にしてますね。

アイデアを出す時は「ネガティブに考えてポジティブに生む」

休日課長:わかりやすい基軸というか、素直って、なるほどな。

北野:課長はどうですか、「素直でいいやつ」、いけそうですか?

休日課長:いけるんじゃないかなあ(笑)。

(一同笑)

曽山:ぜひお願いします!(笑)。

休日課長:素直で、いいやつかどうかは……。ちょっと中身がこじれてるかもしれないですけど。

北野:「素直でいいやつだけど、こじれてるやつ」はいけますか?

曽山:最高です。

(一同笑)

北野:最高?(笑)。

曽山:最高です。「ABEMA」の番組企画やゲームの企画、広告にも通じる話ですが、企画を考えるにあたって、普通に前向きオンリーの考え方じゃダメなんですよね。僕らは「いやいや、そんな甘くないでしょ」とか「実際、社会はもっと違うでしょ」っていう自己否定を、企画会議でみんなしてるんですよ。

「ネガティブに考えてポジティブに生む」って言葉が社内であるぐらい。いろんなアイデアを徹底的に自己否定して、「それはないないない!」ってネガティブに考えて。考え抜いて「良いのが出ました!」って言って出そうっていう。

北野:「素直でいいやつ」って、小学生でも習う単語だと思うんですよ。「素直」「いい」「やつ」って。それを面接で見られてるってなったら、逆に「どういうことだろう?」みたいな。難しいですよね。

休日課長:そうですよね。僕、マッチするんじゃないかなって、今ちょっと(思いました)(笑)。

曽山:間違いないです。確かに。

北野:妄想も得意ですから。

曽山:最高です! ぜひお願いします!(笑)。

(一同笑)

休日課長:おもしろい(笑)。