「企業の行動原理」は、経済成長だけでなく社会性も重要な時代に

清水邑氏(以下、清水):では、ここからパネルディスカッションに入ってまいりたいと思います。本日は事前にいくつかテーマをご用意させていただいて、これを中心にぜひたくさん派生してお話ししていただきたいんですけれども。

では石丸さんからお聞きをしていきたいのは、先ほどの「企業の行動原理」ですね。エコノミーが20世紀、そしてこれからはエコノミー・ソーシャル・テクノロジーという3つのバランスをとっていくことなんだとお話しいただきましたが、あらためてこのあたりを詳しく、働く立場も含めて教えていただけますか? 

石丸晋平氏(以下、石丸):ありがとうございます。いくつか変化はあると思うんですけれども、やはり21世紀もテクノロジーと経済が紐付いて経済成長を遂げていく。そうすると、働く人に対する分配が増えるような仕組みがあったので、成長すること自体が、個人にとってもすごく有意義なことだったんだろうなと理解しているんですけれども。

今やその結果、例えば気候変動だったり、地球レベルの災害ですよね。今も九州とか広島の方では記録的な大雨によって、非常に大変な思いをされていますけれども。結果として地球全体のトラブルが生まれてきているんです。

そして企業も、日本とか先進国でこのまま経済成長を続けていくことがなかなか難しくなってきている。人口も減ってきたりする中で、テクノロジーと資本の関係だけでやっていくと、一部の人だけが非常にこう儲けて、それ以外の人たちがどうやって暮らしたらいいんだとわからなくなってくるような社会に、徐々にシフトしている。すごく社会問題化している現状があるのかなと思っています。

ESG投資とか、SDGsという企業の活動のガイドラインだったりが設けられてると思うんですけれども、やはりただ経済の発展だけを目指していくと、地球だったり生活だったり、人と人との関係が壊れていくということがわかってきていますので。

このあたりを、いかに社会性も踏まえて企業の経営活動をコントロールし、そこで働く人がしっかりと自分が見た実感に基づいて、企業活動の中で活動していく。こういったことが求められているんだろうなと見ている状況です。

これからは公私を区別する組織から、「全人格」でいる組織へ

清水:なるほど、ありがとうございます。熊平さん、企業の行動原理が変わっていく中で、今のお話にあった「個のあり方」というか。熊平さんからは「内省」という手法を教えていただきましたけれども。こういった変化をご自身もお感じになったポイントだったり、あとは働く人たちがどのように捉えて行動していけばいいのかだったり、ぜひそのあたりを教えていただければと思います。

熊平美香氏(以下、熊平):ありがとうございます。そうですね。石丸さんがおっしゃるように、21世紀の企業行動原理って、もう今までと同じじゃないというのは間違いないなと私も思います。その中で人事もそうですし、組織開発もそうなんですけれども、いろんな新しい考え方が世の中に出てきてるなと思っていて。

やっぱりこの新しい原理に合わせてなんだろうなと思います。その代表例として、ちょっと言ってみたいなと思うのが、「全人格」に変わることなんですけど。

要は今まで仕事の場ではこうだけど、個人としてはこうなんだとか言って、「今はどっちで聞いていますか? 公の私ですか、私(し)の私ですか?」みたいに、「公と私」がばしっと区別できるような、それが常識だったと思うんですけれども。

今や新しい組織論では、「全人格で会社にいろ」ということですよね。それってどういうことかなと考えると、「全人格」ということは、要するに「私の自分が会社の中にいていい」ということなんですよね。

SDGsとかその話にも全部つながっていると思うんですけど。会社的は業績を上げたいし、営業成績を上げたいし、自分の評価も上げたいと考えて、公の自分として成長の最大化みたいなことに付き合ってきた。でも私の部分、プライベートなほうの自分は、「本当は環境に悪いことなんてしたくないんだよね」みたいに、今まではみんなけっこう使い分けていましたね。

清水:なるほど。

熊平:でも今はそうじゃなくなってきている。だからどちらかというと、当たり前だけど個人のほうが、企業よりも強いわけですよ。目の前の利益だけではなくこれからの子孫のこととか考えられので。

ですから、人間が人間らしく企業活動に参加したほうが、結果的に企業活動が健全になっていくというパラダイム・シフトが、今起きていると思うんです。それはすごく大事なことだと思います。

リモートワークで起こった「公」と「私」の逆転現象

清水:なるほど。ありがとうございます。まさに以前石丸さんが別のセミナーで、ワークライフバランスという概念ではなく、生きる命の中にワークもあるんだというお話をされていました。今のお話、石丸さんはどう聞かれました? 

石丸:そうですね。本当につらい思いをされた方はたくさんいますが、コロナで得た気づきってまずはそこなんですよね。今まで「公」という部分に、プライベートを持ち込むな、感情なんか持ち込むなと。ちゃんと求められている成果を上げろというのが基本的なルールだったと思うんですけれども。

今や会議にお子さんが入ってくるのがリモートワークの常識。そういう状況になって、しかも今感染がまた広がってる中で、なかなかオフィスに出てこられない。人の命がまず第一。人生が第一。その中でいかに働き続けるか、つなぎ続けられるかということが、公と私の順番が逆転した瞬間だったと思います。リアリティをすべての人が感じることができるようになったのかなと思っていますね。

熊平:そうですよね。私がもう1つすごく思っていることが、学習する組織とかのコミュニティでは、もう何十年も持続可能性に関して活動している人たちがいっぱいいて。その人たちが語っていたのが、人間は自然の一部だけど、マシンはそうじゃないし、企業体もそうじゃないですよね。

だから自分と同じ自然を痛めて幸せなはずがないという。人間本来の内発的な「自然のありよう」をよみがえらせれば、こんな問題は解決するはずだと言われたことがあって。それも今日お話ししながら思い出しました。

清水:なるほど。確かにそうですよね。人間は自然の一部ですね。ありがとうございます。

親と子でさえ違う「経験」と「価値観」

清水:ちょうど今、石丸さんの発言の中に「Web会議だと子どもも」という、子どもや家族の話も入ってきたので、1個だけここで質問を取り上げさせていただきたいんですが。

最初にご質問いただいたんですけれども、「子どもにどうしてもありたい姿を押しつけてしまいます。親としても多くの気づきを得ることができました。子育てって難しいと改めて思いました」という感想をいただいているんですが。

先ほどの内省だったり「ありたい姿」みたいなもの。熊平さんはまさに小学生にもワークショップを開催されていますけれども、ここの親と子の関係で、ぜひ何か示唆をいただければと思います。

熊平:本当に子育てって難しいですよね。親は子どもの幸せを願うばかりで、その幸せのためにあれこれ考えたりするわけなんですけど。でも、子どもは親と違う人格なんですよね。だからそこはまず1つ認識しなくちゃいけないことなんだろうなと思います。

あとはやっぱり子どもの特性を見ていただいて、そこを伸ばしてあげることが、すごくいいことなんだろうなと思います。でもいずれにしても、こう書いてくださっている段階で、この方がお父さんかお母さんかわからないけど、健全な親に間違いないんです。

私も一応、1回親をやったことがあります。もう子どもが成人し、親業は卒業したんですけれども。リフレクションは親にとってすごく大事だと思います。私はもうしょっちゅうリフレクションをして、子どもにも「ごめんなさい」って言わなきゃいけない時は言いました。じゃないと、いつも完璧ではいられないので。がんばってください。

清水:ありがとうございます。

石丸:親子の関係と会社をあまり紐付けすぎないほうがいいかもしれないですけど、今の話を聞きながら思ったのが、熊平さんの認知の4点セットの中の「経験」は、やっぱり人それぞれ違って、その裏側の感情だったり、価値観も違ってくる。それは親と子でさえそうですよね。

その中で、組織とかコミュニティってどうしても同じ経験を求めてきて、できるだけ価値観を画一的にすることで、コンフリクト(衝突)とか、自分にとって不都合なものを減らしてこようとしている動きが、もしかしたら共通してあったのかもなと。そういうことをお話をうかがいながら気づいたりしました。

熊平:あぁ、それは間違いなくありましたよ。

石丸:そうですよね。それぞれが経験したり見てるものが違うんだということを、少し自覚をして見ていくことが、いわゆる「対話」と言われていることなのかなと思ったりしましたね。

創造性を求められる時代に必要なのは、「多様性に対する免疫力」

熊平:そうですね。やはり今までは、「違わない」ほうが合理的。それこそ経済合理性ですね。「100文字で説明しないと理解できない人より、一言ですべてがわかる人がいい」みたいに、生産性を上げてきたんだと思うんですけど。

それは比較的シンプルな時代ですよね。「クリエイティビティ」って石丸さんもおっしゃってたけど、創造性を求められる時代になったら、その生産性の高さは1ミリも役に立たない、なにも産まない生産性ですね。

石丸:そうですね。おっしゃるとおりです。

熊平:だから変わらなきゃいけない時になってきてるなとすごく思います。

石丸:本当ですね。変わらなきゃいけないと個人が感じやすいですよね。今、合理的な組織で働いている側面は誰しもあると思うんですけれども、それがリモートワークで、同じ空間にお子さんがいるという環境だと、そこは合理性が通用しない世界なので(笑)。やっぱりシンクロさせていく必要があるなと思いますね。

熊平:一方で、対話力を上げていかないと、違いに直面した時にみんながフリーズしちゃうから。これもまた「生産性低すぎ」って思って。

石丸:そうですね。

熊平:だから「多様性に対する免疫力」を上げていかなきゃいけないとも思います。

会社の中で「個人的な話」をするメリット

清水:ありがとうございます。今日ご用意していたテーマからいこうと思っていたんですが、想像以上に視聴者の方からご質問をいただいたので、まずいただいたご質問のテーマに沿ってお聞きしていきたいなと思っています。

2つめが、「どうしたら社員が全人格を出し切って会社に貢献してくれるようになりますでしょうか。上司部下の関係などではなかなか難しいと思いました」です。

石丸:確かに。

熊平:フラットなんですよねぇ。

清水:そうですよね。今の組織の制度ような上下の関係がある中で、この方はおそらく部下の方に全人格を出していただきたいと思ってると思うんですが。熊平さん、ここのあたりはいかがですか。

熊平:うーん、一応そういうことに関してもいろんな理論が出てきていて、やっぱりいわゆる「個人的な話」はするべきなんだと言われています。

清水:なるほど。

熊平:仕事以外の話の雑談。「週末はなにしたの?」とか、いわゆる職業人以外の人格の部分も普通に話すということを、会社の中でやらなきゃいけないって言われていて。「やらなきゃいけない」というのが、どうなんだろうと思いますけど。やったらいいと思います。

清水:なるほど。

熊平:個人的な話をすると和みますよね。さっきのお子さんが会議に登場しちゃうとかも、和むじゃないですか。違う雰囲気になりますよね。「あぁ、みんな人間だな」みたいな。

清水:そうですよね。ふだん会社という場所だけで接していると社員同士でしかない関係性なのが、その人のお父さんの側面が見えたり、お母さんの側面が見えたりすると、また見方も変わりますよね。

部下との距離を縮める方法は、上司が「失敗から得た学び」を共有すること

熊平:そうですね。あと直近の出来事から学び振り返るリフレクションって、うまくいくこともいかなかったことも振り返りができるんです。そういううまくいかなかったことの振り返りを上司の方が平気で部下と一緒にやれたら、もうイチコロです。

清水:なるほど。

熊平:失敗はすごく共感できるし、ただの恥を晒す話でもないし、学びを得ている美しい姿でもあるから。すごく距離が縮まると私は思います。

清水:ありがとうございます。石丸さん、ここらへんはどうお考えを受け止めますか。

石丸:僕はみなさんと同じく働く1人としての意見になっちゃうかもしれないですけれども、まずは、自分自身ができるだけ「全人格」でいることがすごく重要なんだろうなと思いますね。

ここが組織人としての上司の側面が強すぎると、上司というペルソナというか、仮面をかぶったかたちになって、それでは全人格が出ないような気がしますので。

他者の行動に対して見て見ぬ振りができるような「余白」も大事

石丸:まず自分からというところは、すごく心がけていることです。ちょっと僕がワーカホリック(仕事中毒)すぎて、逆に引かれてしまう側面があるので、ちょっと同僚のみなさんがいたら「えー」って言われるかもしれないですけれども。できるだけ他者の行動に対しては見て見ぬ振りが大事だなと思ったりしています。

全部「これどうなの?」「あれどうなの?」とつなげるのではなくて、理解できないことや、なにか熱中してやっている瞬間は、いっとき黙っておくというか。できるだけそこに対して見ないようにする。

例えば、「ここ勉強したいから、ちょっと稼動が減ります」とか言われて、「減っちゃだめだよ」って思うんですけれども。まぁ、一生懸命勉強したいと言ってるから、ちょっと問題が起きるまでほっとこうかなとか。それぐらいの余裕があって、そのかわりトラブルが起きたら一緒に向き合ってねっていうスタンスを持つ。できるだけ余白を持つようにしないと、なかなか都合どおりにはいかないものだと思います。人格で大切なことももそのあたりかなと思います。

熊平:余白って大事ですよね。

石丸:はい。やっぱり僕は、焦りすぎて自分の感情が反射的に出てしまうような状態だと、おそらくうまくいかないような気がしますね。

熊平:素晴らしい。よくわかります。

清水:熊平さん、「余白って大事ですよね」っておっしゃった意図もぜひ教えていただきたいなと。

熊平:そうですね。やっぱりギリギリの中で動いている時って、自分の目標だったり、なにかしらに焦点がいきすぎていて、それ以外のことに対して目も心も向けられないじゃないですか。そうなってくると人間的なところどころか、周りの人の存在すら意識にのぼらないような状況になったりもする。そうなると限界だなと思いますね。余白をどうやって作っていくかも、1つすごく重要なことだと思います。

今の時代は、余白を作るのは難しいと思うんです。やりたいこととかやるべきこととか、もう山のようにあるから。

余白を作るためには、「やったほうがいい仕事」をやらない

清水:本当に私自身も余白が大事だと感じているんですが、お二人にぜひお聞きしたいことで、余白を作るためになにか意識してることってありますか? 

組織の中にいると直近の目標だったりとか、それから特にSNSも発達して、社内のSNSもいっぱいありますよね。受動でもたくさん情報が入ってきたり、やるべきことが入ってきたりする中で、どうやって心も物理的にも余裕を持つのか。なにか工夫があればぜひお二人から教えていただきたいなと思いました。

石丸:じゃあ私から。なかなか難しい質問ですよね。実際余裕がないなっていう自分を、日々確認しているんですけれども。自分の中ではコツが2つあって。1つは、「やったほうがいいぐらいの仕事は、やらないと決める」というのはけっこうやっています。

清水:なるほど。

石丸:やったほうがいいことって、羅列すると1万でも2万でもどんどん出てくるんですけれども、それを上から順番に処理していくと、本当に時間的にも心の余裕もなくなっていくので。本当にやらないといけないことって1個2個しかないと思った時に、なにが大事かを考えるのが、まず1つめで。

もう1つは、なかなか忙しい時もあって、時間的な余白が作れないという時。言い方は難しいんですけれども、自分の中の「無責任さ」もやっぱりちょっと持たないといけないなと思っていて。

しっかり「これを必ずコミットして成し遂げる」ということは絶対に、それはそれで1つ重要なんですけれども。一方で、できない時、あるいはみんなでトラブルを抱えている時に関しての心の余裕って、作れると思うんですね。

「死んでもやる」というスタンスだけではなくて(笑)、それがうまくいかなかった時に、次どうしようということをみんなで向き合えることに重きを置くと、トラブルもある意味チームワークを強化してくれる1個の外圧ぐらいのものだと捉えられるので。少しそこの見方は多面的に捉えるようにはしています。

途中で軌道修正をして、「やめること」を決める

清水:なるほど。ありがとうございます。確かに、やったほうがいいかもなって、けっこう出てきちゃいますよね。

石丸:いっぱい出てきますよね。本当は「やってみるけど、すぐやめる」もありなんですよね。熊平さんはいかがですか。

熊平:私もそうしたいですね。すごく勉強になりました。

石丸:ありがとうございます。

熊平:私は、まずは健康ですね。健康管理。体力が落ちると、心が狭くなる。なので、健康状態を維持するというのが大事ですね。その次は、けっこう段取りとか見通しを立てることとかに時間を取るようにしています。

清水:なるほど。

熊平:あと動けばいいだけみたいな状態をうまく作るようにして、考える時間と動く時間を分けたりしています。最近はもちろんリフレクションして、しょっちゅう軌道修正しています。もうやめよう、これやめようって。

清水:ある種通じるのは、リフレクションを通じて熊平さんは「やめることを決めている」ことも大きく影響しているということですよね? 

熊平:そうですね。

石丸:「見通しを立てる」って、自分で1回考え切ってみるというか、まず考えを持ってみて、それを捨てられるかどうか。試しながらいつでも捨てられるようなものなんだけれども、この最初の考えがないと、やっぱり混乱してしまうなと思ったので。少し表現は違ったんですけども、「大事なことを見定める」というのと少し似たニュアンスがあるかもしれないなと思いましたね。

熊平:確かに。

清水:ありがとうございます。

リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術