スペースXのCOOによる、卒業式スピーチ

グウィン・ショットウェル氏:2021年の卒業生のみなさん、こんにちは! ノースウェスタン大学卒業式のスピーカーとなることを光栄に思います。

モーティ(モートン・シャピロ学長)、お招きに預かり感謝します。理事会のみなさん、そしてラニー・マーティン(ランディス・マーティン)理事長。理事会の仕事で6年間ご一緒した私をよく知っているとしても、少々リスキーであるこのスピーチに許可をいただき、ありがとうございます。

シカゴ市長のロリ・ライトフットの歩みに倣うことは光栄です。 去年、彼女はノースウェスタン大学にて厳粛なスピーチを行いました。(警察官に殺害された黒人男性)ジョージ・フロイドを称え、卒業生に私たちの民主主義への参加を訴えたのです。

ノースウェスタン大学の卒業式スピーチをするには、今年は特別な年です。 ノースウェスタン大学を私が卒業してから35年目にあたりますし、何にも増して重要なのは、1986年にNU(ノースウェスタン大学)をやっと卒業したスティーヴン・コルベアが、ちょうど10年前にここでスピーチを行い、今年2021年のスピーカーを予言したからです。

彼の言葉を引用しましょう。「卒業式の角帽を被り、『おめでとう』と言うように訓練された動物園のオウム」。自己紹介しましょう、動物園のオウムこと、グウィン・ショットウェルです。2021年卒業生のみなさん、おめでとうございます。

2020年は「混迷の年」

みなさんは偉業を成し遂げました。そもそも卒業はおめでたいものですが、2021年に卒業するみなさんは、さらに大きな成果を成し遂げました。混迷の年であった2020年を、今年に至るまで生き延びただけでなく、成功を収めました。みなさんは極限の苦しみのさなかでも、将来に集中し学問を修めたのです。

しかし、今後はまったく別の問題に向き合うことになるでしょう。劇的に変化した社会的・政治的・経済的状況が、今後はニューノーマルとなり、みなさんは今後、その中でうまく立ちまわる準備ができています。

なぜならみなさんはその真っ只中で暮らし、生き延びただけではなく、見事成功したのですから。ぜひ自分を讃えてください。そして、得た新しいスキルを活用してください。みなさんならうまくやれるはずです。

自分が「オタク」であることを誇りに思う

さて、私が学んだ宝石のような人生の教訓をお話しする前に、少し自己紹介をして話の理解を深めてもらいましょう。

私は母親であり、妻であり、メカニカルエンジニアであり、オタクです。 エンジニアの全員がオタクというわけではありませんが、私は自分がオタクであることを誇りに思っています。長年スペースXに勤務した会社員であり管理職でもあり、積極的な聞き手であり、牧場主、短気者、熱心なワイン醸造家でもあります。

欠陥があろうとも祖国アメリカを愛していますし、その社会的不正義を解決したいと思っています。 また、「おばあちゃん」にとてもなりたいのですが、子どもたちは今のところ私の夢に協力的ではありません。

私のノースウェスタン大学への道は、大学の北にある小さな町、イリノイ州リバティビルから始まりました。私はここで育ち、小学校と高校では優等生で、たいへん社交的な生活を送っていました。

母が『米国女性エンジニア学会』のイベントに連れて行ってくれた、まだ15歳か16歳の時、私はメカニカルエンジニアになる決意をしました。

願書を出したのはノースウェスタン大学工学部のみでしたが、工学部が最高峰だったからではありません。ノースウェスタン大学は、他の分野でも有名だったからです。大学ランクは少なくとも当時はトップであり、これは私にとって重要事項でした。

なぜなら、70年代後半当時のティーンエイジ女子としては……そうなんです、けっこう年いってるでしょ。絶対に「オタク」扱いされたくなかったからです。今では、自分がオタクであることをとても誇りに思っていますけどね。

親は子どもの「良きロールモデル」になることが大事

こうして私は無事、ノースウェスタン大学に入学を果たしました。今は合格できる自信が無いので、うまいタイミングで入ったと思います。そしてこの素晴らしい大学で、機械工学の学士号と応用数学の修士号の2つの学位を取得しました。

でも私は、ここで受けた工学教育は少々理論的すぎると考えています。最高のエンジニアとは、理論を実践に移せる人ですが、学部学生時代の私はほとんど実践に携わることができませんでしたから。

とはいえノースウェスタン大学は、幅広い思考の重要性を強調してくれました。数学や科学が得意なだけでは成功できません。成功するには、「全脳思考」を実践します。オッティーノ工学部長がこの概念を重要視して、ノースウェスタン大学の工学部門で非常にうまく運用してくれたことに感謝しています。

エンジニアとして駆け出しの頃、がんばって時間を捻出し、新しい家族を儲け、2人のすばらしい子どもを産み育てました。子どもたちは私よりもはるかに立派な人間であり、スペースXの社長どころか、宇宙の長になることだってできるでしょう。

1人はノースウェスタン大学の機械工学から2つの学位を得て卒業し、もう1人はスタンフォード大学の機械工学部と経営大学院の両方から卒業予定です。

将来、誰かの親になるかもしれないみなさんに、先輩としてアドバイスをします。子どもが大きくなったら何になるかを、決して押し付けないでください。子どもは確実に、その反対のことをします。 しかし私の母のように、子どもの良いロールモデルに自らなることもできます。ちなみに母は芸術家でした。

“自分が住む惑星”を選べる時代がやってくる?

これまで19年近くの間、私は最高峰とは言わないまでも、一流の物理学者かつエンジニアである、イーロン・マスクの元で働いてきました。

そして、スペースXを従業員10人の小企業から、10,000人近くの大企業へと、年間収益をゼロから数十億ドルへと成長させる手伝いをしてきました。さらにアメリカにおいて、再び商業的な宇宙船打ち上げ事業が興る手伝いをして、それに伴い何万もの雇用が生まれました。

私が最も誇りに思っている業績の1つは、国産有人ロケットや有人宇宙船の打ち上げを、アメリカで再び実現させたことです。

私たちは現在、宇宙船『ドラゴン』に世界各地からの乗客を乗せて飛ばす段階にあり、今年のうちには、史上初の民間による飛行ミッションを行います。

一般の民間人が数日間、地球を周回するのです。そしてこれは、ほんの手始めに過ぎません。いつしか人類が、地球・月・火星のいずれかを選択して定住できる道を作り出したのだと信じています。

いずれはもっと遠く、他の恒星系や銀河系に人が住める未来が来ることを願っています。私はよく、「別の星の人に会って、どんなファッションをしているか見てみたい」と冗談を言います。生きている間に実現できないのはわかっていますが、私の仕事が少しでもその基盤になったり、第一歩として役立つことを願っています。

リスクに飛び込んで、わくわくする仕事をしよう

さて、自己紹介が終わったところで、次はいよいよアドバイスの時間です。まずざっと3つ並べてから、後から順に話していきましょう。

とんでもなくばかげた目標を設定し、達成するために努力しよう。例え達成できなくても、失敗することを恐れないでください。全力を尽くそう、他者に協力的になろう。人に優しくしよう、ただし最小限度に留めよう。人に敬意を払おう。

失敗した時には間違ったことを認め、潔く別の道を進みましょう。もっと良いのは、何かを試みて望む結果が得られなくても、失敗と考えず成長だと捉えることです。

2002年にスペースXへの入社を検討していた時には、なかなか決断がつかず、何週間も迷っていました。誰も成功したことのない業界の、小さなスタートアップ企業に入るのは、たいへんリスキーに思えたのです。当時、パートタイムのシングルマザーだった私にとっては、コンフォートゾーン、つまり安全地帯からはるかに逸脱しているように思えたのです。

ここロサンゼルスの高速道路で車を運転していた時、天啓は訪れました。私はなんてばかだったのだろう。私がこの会社に入ってみて、失敗しようが倒産しようが、世の中に気にする人なんているでしょうか? その瞬間にわかったのは、挑戦することがなにより大事だということでした。リスクに飛び込んで、わくわくする仕事をしようじゃないですか。

その時に「ノー」と言っていたら、どんな人生やキャリアを歩んでいただろうかなどとは、想像したくもありません。そこそこうまくやれたはずではありますが、このすばらしい会社の一員ではなく、今のように一流の人々と共に働いてもいなかったことでしょう。この仕事を引き受けなかったとしたら、それは明らかな間違いだったのです。

数十回にも及ぶテストの末、ロケット着陸に成功

ビジネスレベルでは、ロケット着陸に関連する技術と運用技術を取得すること自体が、スペースXにとって大きな風評被害のリスクがありました。実際、私たちは常に競合他社やメディアから、失敗のたびに批判を受けていました。しかし私は、これらの失敗をプライドの拠り所と考えていました。

ロケットを「自律スペースポートドローン船」に着陸させる最初の試みでは、ロケットは船に墜落しました。着陸こそしませんでしたが、このごくごく小さな標的は、発射場から数百マイルも離れた広大な海上にあったにも関わらず、ドローン船に命中したのです。

何十回か試みた後、私たちはついにロケット着陸に成功しました。それ以降、ロケット着陸はほぼ成功するようになりました。まだ危なっかしくはありましたが、毎回ほぼ成功だったのです。以来、この技術は私たちのビジネスに大切な役割を果たしてきました。

火星への定住を実現するにも必要不可欠です。着陸ができなければ、地表に人は運べないのですから。

「すばらしい仕事をしたい」という思いが原動力に

「全力を尽くそう。他者に協力的になろう」という話をします。私は事業開発担当副部長、つまり営業部長として採用されました。仕事に腕を振るい、顧客を獲得できたので、今度は顧客の飛行ミッションを管理する、会計及び財務担当が必要となってきました。収益が上がって来たのです。

予定飛行経路のやり取りや、打ち上げ許可交渉なども必要となり、私はそれも引き受けました。成功が誰の目にも明らかになった途端、競合他社による攻撃的な参入が始まったので、ワシントンD.C.の行政機関に働きかけて、防御せざるを得なくなりました。顧客向けの大型イベントの前に、自らカーペットを掃除機で掃除したことなどをよく覚えています。

2008年、私たちがこれまでで最大の契約を獲得した時、つまり科学実験用品や貨物を国際宇宙ステーションへ往復運搬する、約2億ドルの契約を見事NASAから取り付けた時のことです。

イーロンはパートナーを必要としており、私にそれを依頼しました。すばらしい仕事をしたい、ただそのために、私が常に広い視野を持って、会社の他の部門にも協力的に貢献して来たことが、恐らく大きな原因でしょう。

難しい問題の解決策を見つける、最良の手段

「人に優しくしよう、ただし最小限度に留めよう。人に敬意を払おう」。みなさんが毎日接するすべての人は、何らかの“悪魔”と戦ったり、問題を乗り越えようとしています。

満員の地下鉄で職場に向かう時、時間が無い時にスーパーの行列に並ぶ時、職場での会議で誰かにイライラした時には、よく覚えておいてください。

スペースXには、「『嫌なやつ』などは存在しない」というポリシーがあります。「嫌なやつ」は、他人の話に割り込み会話を強制終了させたり、無理矢理捻じ曲げ、貢献したくなくなるような、敵対的な環境を作り出します。これでは難しい問題を解決するために必要な、優れた革新的な途方もないアイデアの共有はできません。

要は、難しい問題の解決策を見つける最良の手段とは、より大きな声で話すのではなく、より相手に耳を傾けることなのです。自分のアイデアと大きく異なる場合は、特に同僚のアイデアを受け入れましょう。

すべての子どもに行き渡る「教育」を

取り立てて「スピーチのアドバイス」としてはまとめませんでしたが、特に今年、2021年の卒業式スピーチで話すべきだと思われる、非常に重篤な問題についてお話しします。

私はさまざまなことを心配していますが、十分な知識がないため、今はまだみなさんに役立つアドバイスを提供できません。しかし、将来的には解決に乗り出したいこれらの問題を、今年の卒業式のスピーチで話さないわけにはいきません。

まず、この国の子どもたちが心配です。この国が時代遅れにならないために必要である、有能で生産的な人材を生み出す教育を、この国はすべての子どもに与えてはいません。すべての子どもは、私たちの未来をより豊にするための人材です。そして私たちの未来は、テクノロジーによって推進されるはずです。

だから私は、この国の子どもたちの科学と数学のテストのスコアについて、とても心配しています。中国が1位、アイルランドは12位です。アイルランドは私の祖先の出身地で縁があるため、単に取り上げているだけです。そして米国は、なんと25位です。

パンデミックで広がり続ける、さまざまな格差

数学と科学の25位同様、読解力も低迷していますが、なお悪いのは、最低得点の生徒と最高得点の生徒の間のギャップが広がっていることです。この国は、子どもたちの将来の備えを怠っているのです。

私はこの国が大好きです。ですから、パンデミックの間に増幅された、この国の経済的・社会的・人種的な断絶が広がりつつあるのが心配です。子どもの教育に無関心である限り、このような問題は解決できません。

私たちは、隣人にきちんと敬意を払っていません。互いにしっかりと耳を傾けていません。国として人として、直面している本当に重要な問題に、誠意を持って取り組んではいないのです。

私自身、この国が抱えるこれらの問題の解決に、まだ取り組んではいません。だから、しょっちゅうどうしたらよいか、腕を組み唸っています。そろそろこれらの問題に着手して、解決に取り組むべき時が、すぐそこまで来ているのかもしれません。ひょっとしたら、みなさんと一緒にこれらの問題に取り組むことができるかもしれません。

たとえ少人数でも、世界を変えられるかもしれない

ここまでお話ししてきたのは、クレイジーなアイデアを尊重し、それに対して耳を傾け、評価をすれば多くのことが達成できると私に教えてくれた、私の実体験です。他者に協力的であり続け、全力でがんばっていれば、十分報われます。少なくとも私はそうでした。

資源を無駄にすること、特に人的資本を無駄にすることは、道徳的かつ倫理的な罪悪です。スペースXにいる私たちのような少数グループの人材でも、1つの産業をまるごと変えることができたのですから、もしかしたら世界を変えることだってできるかもしれません。

子どもの頃、そしてまだキャリアの駆け出しの頃から、私の友人や同僚、そして私自身が前へ進むことを注視しつつも、常に頭のどこかで、もしくは後からふと「世界のために何か良いことをすべきだ」と考えてきました。

しかし人生経験を積むにつれて、その考えがバージョンアップされ、より良い世界の追求があなた自身の前進につながるようなキャリアを見つければ、はるかに人生が豊かになるということがわかってきました。みなさんは今まさに、より良い世界を求めるために必要であるすべてを持っています。

ご卒業おめでとうございます。みなさんのご多幸を祈ります。