2025年には、社員の4割が50歳以上になる

黄瀬真理氏(以下、黄瀬):みなさま、こんばんは。本日のセミナーは「ミドルシニア世代のキャリア自律を高めるために~キャリアコンサルティングの現状と課題~」をテーマにお届けします。

司会を務めさせていただきます、プロティアン・キャリア協会の黄瀬と申します。よろしくお願いいたします。本日は、一般社団法人才知修養学舎と、一般社団法人プロティアン・キャリア協会の共催でお届けしてまいります。

4月の法改正(高年齢者雇用安定法)により、企業は従業員を70歳まで雇用する努力義務を負いました。2025年には50歳以上の社員が40パーセントを占めるとも言われており、企業にとって「60歳まで」というスパンではなく、「70歳までどのように個人と関係性を築いていくか」が課題となっています。

そうした中で、注目が高まっているミドルシニア世代のキャリア自律をテーマとして、その大きな鍵となるキャリアコンサルティングについて、本日のセミナーではお話を進めていけたらと考えております。

プログラムのご紹介をいたします。まず最初に、一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事でもあります、法政大学キャリアデザイン学部教授・田中研之輔氏より「変化の時代のプロティアン・キャリア理論」をお伝えしてまいります。

次に、日本で最初のキャリアコンサルティング室を立ち上げ、今なお現役でキャリアコンサルティング普及のために全国で活動されている、浅川正健氏よりお話しいただきます。

その次に、NTTコミュニケーションズにて2,000人もの社員の方と面談をし、ミドルシニアの方の心を動かし行動変容につなげてこられた、浅井公一氏にお話しいただきます。

そして「人生100年80歳現役社会」創造フォーラムを主宰する、須東朋広氏がファシリテートをする、パネルディスカッションを行っていきます。パネルディスカッションで、みなさんのご質問を受け付けていきたいと考えておりますので、ぜひ積極的にチャットで気づきや感想、質問などを投稿いただきますようお願いいたします。

そして最後に、今日のTwitterのハッシュタグは「#キャリア自律」ということで、セミナー中、またはセミナーが終わったあとに気づきなどを投稿していただき、本日ご参加されている方同士でつながる機会としていただければと考えております。

優先度の高い「ミドルシニアのキャリア自律」問題

では、最初の講演に入っていきたいと思います。田中先生、よろしくお願いいたします。

田中研之輔氏(以下、田中):みなさま、こんばんは。よろしくお願いいたします。時間が限られていますので、さっそく入ってきたいと思ってます。

浅川さんと浅井さんと須東さんは、このテーマに関心がある方にとってはかなりファンが集まるんじゃないかなという、豪華なキャスティングです(笑)。私も本当に楽しみにしていました。いただいてる1時間半の中で、私は冒頭15分ほど話していきますので、よろしくお願いします。

初めての方もいらっしゃるかもしれないんですが、多くの方はオンラインやどこかでご一緒してるかなと思います。今、法政大学に着任して14年目を迎えており、ゴールデンウィークはずっと本を書いていました。初稿を編集に上げてから2~3ヶ月かかるので、11月頭ぐらいには出るんじゃないかなと思います。今、キャリア本の3冊目で、合計で26冊目の本を書いてます。

キャリア論を専門にしていまして、今朝は2つ経営会議をやって、そこから授業で19時までゼミをやって……Zoomはいいですよね(笑)。授業を抜けてきて、今は学生に任せていますが、そんな感じでやっております。

ミドルシニアのキャリア自律を高めるのは、今一番やるべきことというか、私も優先順位の高いトピックで考えています。日頃からTwitterなどもやっているので、もしまだ交流できてない方は交流させてください。

今日、私からお伝えしたいのは、キャリア自律でミドルシニアを活性化する必要があるということなんですね。それはヒューマンキャピタル(人的資本)の最大化だと思っていて、経営戦略とキャリア戦略をつなぐ時に、キャリアコンサルティングはこれから本当にメインのバイパスになるんじゃないかなと思ってます。

ちょうど今年の『日本の人事部 LEADERS』で、伊藤邦雄さんがお話ししていたことです。伊藤さんと私は世代は違いますけど、考えてることは近いと思います。

キャリア開発の分野から、ヒューマンキャピタルの最大化について触れているわけじゃないので、その辺りを我々がみなさんと一緒に考えながら、「何をすべきなのか」「何を考えるべきなのか」ということに向き合ったらいいんじゃないかなと思ってます。

ベンチャーも大企業も、キャリア開発が課題になっている

田中:私のキャリア論の1つの強みが、プロティアン・キャリア(環境変化に応じた柔軟なキャリア形成)です。これ、キャリア自律の最新理論なので「キャリア自律といえばプロティアン・キャリアだ」というふうに、英文でも書かれています。「プロティアンの理解がまだもうちょいだよ」という方は、ぜひキャッチアップしてほしいなと思います。

『ビジトレ』は、僕もけっこう好きな本です。3人(田中氏・浅井公一氏・宮内正臣氏)で書かせてもらったんですが、調査プロジェクトで浅井さんのところに「浅井さんの実践を書かせてください」と言って、ここまで形になりました。

『ビジトレ』ともう1冊、浅川さんの青本(『企業内キャリアコンサルティング入門』)が、キャリアコンサルタントの中では必須の教科書になってるんじゃないかなと思っていますので、ぜひ読んでみてください。

ビジトレ: 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発

口だけの研究者が嫌いで、とにかく手を動かす・足を動かす・企業の中に入るということをやっていて。「プロテア」という、キャリア自律の最大化の1つのサービスをローンチしたり、今、Another worksというベンチャー企業でも、そういった開発をしています。

「ベンチャーだけやってんでしょ」と言うと、そうではなくて。キリンさんや富士通さんやKDDIさん、三井情報さんなど、8社の大企業が参画しているキャリアオーナーシップ、まさにキャリア自律を動かすところの責任者をやっていて。こちらも1年間のプログラムで、「キャリア自律型のキャリア開発とはなんぞや」ということを、喧々諤々のオープンディスカッションをやっています。

「人材版伊藤レポート」というのは、ぜひみんなで共有したほうがいいと思います。これ、経産省のホームページから無料で見られますので、私も何度も読み直してますね。

彼らが何を提示しているのかというと、ここ(スライド)に赤字で書いているように、シニア人口が増えるけど、それに対してどうしたらいいか。まさに「ミドルシニアのキャリア自律が課題だよ」と、右側に書いてありますね。自律的なキャリア開発が課題なんですよ。

これをやれる人がいないんですよね。だから1つの突破口は、やっぱりキャリアコンサルタントの方たちがそういう意識を持ってやるしかない。人事部にできたかというと、これまではできなかった。それはやっぱり「管理部門」と見なしている人たちが、まだまだ多いので。

富士通さんのキャリア開発の取り組みも非常に興味深いです。人的資源管理ではなくて、いわゆる人材開発やキャリア開発といった動きがいろんなところで見られるようになってます。

キャリア自律は「人事」ではなく「人材戦略」

田中:みなさんの中に詳しい方がいらっしゃるかもしれないですが、現場は「人事」と「経営戦略」がやっぱり乖離しちゃっています。人事は管理・調整・コントロールすればいいと思ってるので。そこにキャリコンの方たちが「いや、違うよ」と入ってくださることによって、人事部門がバイパスになって、経営戦略や事業戦略に紐付くかたちで人材のグロースを担います。

その1つの共通のメッセージが、キャリア自律。組織内キャリアだとそうはならないわけだから、自律型のキャリアをやることによって「それぞれがパワーアップしながらやっていきましょうね」ということなんですね。だから今、コロナの中で1つの物語としては、かなり一貫したものが流れ出しているんですね。

やるべきは、「DX」と「CX」と僕は呼んでいて。DXはデジタルトランスフォーメーションで、CXがキャリアトランスフォーメーション。今日は我々はCXのほうをフォーカスすればいいと思うんですけれども。

今、何が起きているのかなんですが、「働き方改革」「日本型雇用の刷新」「コロナ」の3つの歴史的モーメントで、本当に辛い思いをしてる方たちも多いかもしれないんですけど、「自律した従業員を増やすチャンスだよ」ということを、みなさんと握りたいんですよ。

だから僕も「絶対に今のうちにキャリア自律型にして、CXを起こしていって、組織を引っ張っていく“強い個人”を育成していかなきゃいけないよね」と、経営者とも人事のCHROクラスとも話します。管理する人材開発ではなくて、キャリア開発を応援する事例を増やさなきゃいけないよね。『ビジトレ』は、その事例の一つです。

私自身が何をやっているかというと、キャリア論の系譜の中でダグラス・ホールが1976年に打ち立てた「プロティアン」をリバイバルするかたちで、2019年に日本に紹介して協会も立てて、今日を迎えています。

これも「人材版伊藤レポート」にあるんですが、このへんがポイントです。「人事」と考えずに「人材戦略」。キャリア自律として、経営陣や執行役層やCHROクラスと何を語り得るのかということを、「キャリコンの仕事じゃないよ」と言っている時代は、もうやめたいんですね。実はそれが、キャリコンの方たちの可能性だということを一緒に考えたいです。

こちらの赤字の中心部にあるのが「個人・組織の活性化」です。組織の中で何をやるか、「リスキリング」を駆動させるのは誰かといったら、今までコントロール・管理していた人事部門だとなかなかできないから、人事とキャリコンの方たちがタイアップして、ミドルシニアへのキャリア開発をリブーストしていかなきゃいけないんです。

キャリアコンサルタントの役割は、経営戦略と人事戦略の連携

田中:私自身も、協会を一つのプラットフォームにしながら、自律型キャリアを推進する企業群と連携したり、自律型キャリアを進める事業開発にコミットしています。やるべきことは、経営戦略・事業戦略・キャリア戦略の3つを走らせながら、キャリアブレーキを特定すること。

ミドルシニアでは何がブレーキになってるのかは、今からの浅川さんや浅井さんの話に詳しく出てくる可能性がありますが、何を解決すればアクセルを吹かせるのか。

僕がモデルとして考えているのは、この中心にキャリアコンサルティングを据えることです。だから、2・6・2の組織(組織では優秀な人材が2割、平均的な人材が6割、下位の人材が2割に分かれるという考え方)の「2」の部分で、隠れて相談しにいくんじゃなくて。企業の現場にキャリアコンサルティングの方や部門の方がいて、オンラインでもいいんですが、そこに相談することによって、企業そのものが成長していくようなモデルを作りたいと思ってます。

私は今日、何をみなさんと考えたいかを一言で言うと、連携・提携を通じて、現状は何が問題で、何を分析することが課題なのか。それで終わるんじゃなくて、後半でチャットを交えながら、具体的な解決策をいろいろみなさんと考えていければと思ってます。

やるべきことは1つです。ミドルシニアのキャリア自律の必要性はもうわかっているので、それをどうやってやるかというと、今までキャリコンの方たちがやってきた役割だけだと入りきれないところに入っていって、経営戦略と人材戦略を連携させるロールを担って展開しましょう、ということが、私からのオープニングトークになります。

黄瀬:田中先生、ありがとうございました。