日本のモノづくりで後手になりがちな、情報発信

田村大輔氏(以下、田村):では、続けてMOON-Xさん。(スライドを指して)これはホームページから拝借しているんですけれども。「日本のモノづくりを体現するブランド群を、テクノロジーを活用して世界中に提供していくことで、たくさんの人々の生活を豊かにする」という、これはミッション、あるいはビジョンという……。

長谷川晋氏(以下、長谷川):そうですね。会社のビジョンですね。

田村:特にこの日本のモノづくりみたいなところ。そこに立脚をされているのが、オリジナリティがすごくあるなと。ここはどういう課題感、あるいは原体験から生まれたものですか?

長谷川:僕の場合、けっこうグローバルな仕事が多かったんです。あるいはさっき申し上げたとおり、アメリカに住んで日本に帰ってきて。また、キャリアの途中で5年半ぐらいシンガポールに住んでいたり。キャリア的にも日系企業、グローバル企業、日系企業、グローバル企業を行ったり来たりしている中で、外から日本を見る機会もけっこう多くて。

だからこそやっぱり「本当に日本のモノづくりってすごいな」と、ずっと思っていたんですよね。あとFacebookの代表時代、地方創生のようなプロジェクトをやっていて、表に出てないところも含めて、日本中いろんなところに行って、本当に地場のビジネスをみなさんとお話する機会もありました。

日本って良いものを作っている方々や会社がたくさんあるなと思ったんですけど。得てして、そういう方々や会社は、情報発信は後手になっていたりします。それこそ僕らが運営していたInstagramを使うのは、最後の最後だったりするんですよね。

当時、僕はそういう中でもどう使いこなしていただくかというのをお教えしたり、情報提供をする立場だったんですけど。やっぱり「良いものを作る時に使う筋肉」と「情報発信をする時に使う筋肉」って、違うところがあります。

そういうモノづくりをされている方たちと、僕らみたいにインターネット業界出身の人間がコラボレーションしたほうがより良いんじゃないかということで。そういう良いものを作っていらっしゃる方の製品をお預かりして、僕らがブランドを作って、それをテクノロジーを使って発信して、提供していく。

それによって、日本だけじゃなく世界中の人たちにも知ってもらって、使ってもらって、愛してもらって。その結果、生活がすごく良いものになっていく。それはすごく素敵なことだなぁと思って、そういう原体験の中で、徐々に決まっていった会社のビジョンですね。

田村:ありがとうございます。次のトピックスの中で、具体的にこういうプロダクトを開発されていらっしゃるというところは、紐解いていければと思っております。ありがとうございます。

自分たちのミッションを丁寧に訴える、D2Cブランドたち

田村:今、パタゴニアさん・MOON-Xさんのミッションやビジョンのお話をお伺いしてきました。軍地さん、これらを踏まえて「特に最近、世の中的にこういうブランドが意志に立脚をしながらブランド推進されている」というお話を聞ければなと思います。先ほど実際に、3つ挙げていただきましたね。

軍地彩弓氏(以下、軍地):私も長い間、ファッション業界を見ていて。今も他の産業に比べて、エネルギー業界の次に地球汚染ですとか、水質汚染をやっているという、悪い部分……例えばみなさんが知っているように、余剰衣料を燃やしたりとか。そういうネガティブの部分がここ最近、すごくファッション業界で言われるようになっています。

今は逆にそういうものをバネにして「D2C」=Direct to Consumerというデジタル・オリエンテッドで始まったブランド、ミッションありきでブランドを作っているところがすごく増えていると思っています。

その事例で今回いくつか出させていただいたんですけれども、D2Cの対話の時に必ず出てくるブランドで、「Everlane」というブランドがあります。Everlaneというのは、出てきた時にすごくインパクトがありました。お洋服を作る時に、1枚の原価がいくらかかっているかって、ブラックボックスだったと思うんですね。

例えばAという百貨店で売っている1万円のシャツと、すごく安く売っている1,000円のシャツで、その原価がどれだけ違うのか。そんなに原価は変わらないということが、実はいろんなところで暴かれたりするようになってきていています。

Everlaneというのはまさに、ブラックボックスを取り払うtransparency(透明性)「まずその商品にいくら原価がかかって、いくら輸送費がかかって、いくら販管費がかかって、この値段になりました」ということを、きちんと明示するブランドとしてスタートしました。

こういうD2Cブランドは、必ずホームページに「about」といった自分たちのコンセプトだったり、サステナビリティというバナーがあります。そういうところで、本当に懇切丁寧に自分たちのミッションを伝えていますね。これがEverlaneの例です。

あと今年「allbirds」が日本にも進出しました。IT系の企業の社長が、必ず履いていると言われる(笑)。今スニーカーも、足元を見ると「あ、allbirdsだね」と言われるぐらい浸透していますが、みなさんも履いてるかな?(笑)。

これも素材からして、まずサステナビリティだったり、自然由来の竹だったり。コットンでも、なるべく地球に負荷がかからないような素材を使っていたりします。なにしろ、そのIT業界で革靴を履かなくてよくなった企業経営者が履く、一番快適な靴という、快適性をミッションに生まれています。

ここも自分たちのミッションを、ホームページにすごくきちんと出しています。(スライドを指しながら)「減らす、オフセットする」。今までのライフスタイルを切り替えるようなミッションを持って、自分たちのブランドがスタートしたということをちゃんと伝えています。

アパレル業界は「利益追求型」から「問題解決型」に

軍地:D2Cは、ここ10年ぐらいで急に生まれてきています。今までの企業って、こういったミッションを後付けにするところがけっこう多かったんですよね。

田村:そうですね。

軍地:特にアパレルというのは、最初に利益追求型というか、いろんなニッチなところを見つけてきたり、新しい市場を見つけてきて。そこに対してブランディングして、企業形成してきたというのが今までの流れだったと思うんですけれども。ここ数年は逆に、ミッションだったり問題解決型とよく言われていて。allbirdsみたいに「快適でお仕事にも履きやすい靴を提供する」というふうに、まず問題を先に提供して、それを解決するようなブランドなので。

ワンイシューと言っていますけれども、問題を1つに絞りきったようなブランドがすごく出ています。最近の日本の事例でいうと、ちょっとおもしろかったのが、女優の柴咲コウちゃんがブランドを作ったんですね。女優さんがブランドを作るというと、どうしてもインスタグラマー・ブランドみたいに……。

田村:そうですね(笑)。

軍地:ね、思うじゃないですか(笑)。自分が着てかわいいものをインスタを通して売るという。それも1つのD2Cなんですけれども。彼女がもう圧倒的に違うのは、環境負荷のない素材を使ったり、リサイクル、アップサイクルということを、全部盛り込んだブランド作りです。「MES VACANCES」というのかな?

これもググっていただければわかると思うんですけど、バナーに、サステナビリティと自分たちのミッションが書かれています。そういう意志表示をきちんとしてスタートするブランドが、ここ数年増えてきたなという印象があります。

田村:ちなみに、こうしたブランドが増えてきたのには、どういう背景があると思われます?

軍地:最初に言ったみたいに、これ以上ファッションブランドや新たな企業が生まれなくても、もう世界は回っていますよね。だけど一方で、既存企業が作ってきた“悪”みたいなもの。例えば廃棄物が多いとかCO2排出だったりとか、フットプリント問題とかいろんなものがあります。

そういうものを解決していかないと、もう世の中的には成り立たないというところで。さっきのパタゴニアさんも、そういう意味ではすごく業界に影響を与えていると思います。そういう存在意義のあるブランドがあれば、新たに企業を起業する必要がないぐらいのところに来ているんだと思うんですよね。

今までみたいに「利益追求型で儲かるからビジネスをスタートしました」というのも、もちろんアリなんですけれども、そうすると今度は市場がついてこない、ユーザがついてこないという印象があります。

高尚な思想・原体験がないのはダメなこと?

田村:ありがとうございます。一方で、よく直面するケースがありまして。いろんな会社さんとミッションなどのお話をさせていただいたり、お手伝いをさせていただく中で、たまに聞かれることがあるんですね。それは「自分は特にそういう高尚な思想みたいなものとか、あるいは原体験みたいなものを持っているわけじゃなくて、市場的にすごく可能性がありそう(だから事業をやっている)」とか。

特にテクノロジーなどは、やっぱりそういうケースが多いと思うんですけど。まだ誰もトッププレイヤーが存在していないからこそ、そこに賭けたいという観点で事業をされている。「それってあまりイケてないことなんですかね? 思想がないってだめなんですかね?」と言われるケースがあるんです。

個人的には、ぜんぜんそんなことはないなと思うんですよね。ある種、先天的じゃなく後天的でも、事業を進めていく中で「その事業ならではの課題」ってたぶんあるはずなので。そこに向き合って後天的にミッション、あるいは使命みたいなものをより深く据えていくのもすごくありだし、重要なのかなと思っているんですが、その辺りどう思われますか?

軍地:昨日、おもしろい話を聞いて。企業倫理みたいなところでけっこうお話をするところが出てきたので、企業倫理について研究されている慶應の先生とお話ししていたんですけど。今でこそ、エシカルなどで倫理性ってすごく言われるじゃないですか。

アメリカなどはけっこう早かったですよね。「ノブレス・オブリージュ」というふうに。それはキリスト教の影響がすごく大きいと思うんですけれども。やはり富めるものだったり企業体がチャリティーをやったりすることで社会還元するというのが、アメリカではけっこう普通にあったことだと思うんです。

それについて20年前、ユニクロの柳井さんに「お宅の会社さまはそういう取り組みをやらないんですか?」って(慶應の先生が)聞いたそうです。そしたら柳井さんは「私たちは商売をいかに回すかで、手一杯です」とおっしゃったんですって。

でも今、UNIQLO TOKYOがこの間、銀座にできましたけれども。そこに行くと、どれだけユニクロが地球環境負荷を与えない……例えば水質改善したジーンズのラインだったり、実際にTシャツをバングラデシュとかに送ったりとか。いろんなCSR的なことをやっていて、それをお店で伝えているんですよね。

企業の性質も、そのぐらいガラッと20年で変わっていて。だからスタートは、やはり企業ですから利益追求型で行くんだけれども、後付けでもそういうものはこの2000年代に入って、より必要になってきた。

特に2010年を越えて、そういうことがないと、もうその企業自体の持続可能性みたいなところが、ある程度難しくなってきているんじゃないかなという印象を受けて。20年の差でこれだけのことが起きたのかというのは、すごく印象的でしたね。

田村:なるほど。確かにもう少し前だと、ある種、付加価値のような位置づけでCSR活動などが行われていた側面も、もしかしたらあるのかなと思うんですけど。今はおっしゃるとおり、もうすでに「やらないとまずい」という(笑)。持続可能性に直結するような課題感があるのかもしれないですね。

ブランドってもっと自由であるべき

長谷川:田村さん。僕がちょっとセットバックして考えると、実はブランドってもっと自由であるべきなので。おっしゃるとおりさっきの、高尚なビジョンがないということも、ぜんぜんありだと思ってるんですよね。確かに今目立っているのは、そういうサステナビリティやエシカルだったりするんですけど、すべてのブランドがそういう意志表明をしなきゃいけないかというと、まったくそんなことはないと思うんですよね。

(このセッションが)本当にいいタイトルだなぁと思っているんです。「意志表明するブランドのつくり方」ということで、大切なことは「どういう意志を持ってるのか?」ということがあることだと思っていて。それは何でかというと「そもそもブランドって何のためにあるのか?」という話だと思うんですよね。

今日は若手の起業家もいらっしゃって、お忙しいと思うので、そんなことをなかなかふだん考えることってないと思うんですけど。そここそがたぶん大事だと思っています。ブランドがある場合とない場合で、何が違うのかという。何が違うから、何百年もブランドというものが存在してきたのか? ということのほうが、たぶん大事で。

それはなんでかというと、ビジネスROIがミートするからだと思うんですよね。なんでそこに合うかというと、ブランドがあることによって毎回毎回「怪しくない、こんな会社です」「こんな製品です」とか。「こういうスタンスの会社でこんなメンバーです」とか。

「こんな特徴です」みたいな自己紹介を、会社だろうが製品だろうが毎回必ずしなきゃいけないと。それってマーケティングコストが異様にかかって、ビジネスとして成立しないから。それを貯めていくものとして、ブランドがあるんだと思うんですよね。

だから別に意志表明の話も、今に始まったことじゃなくて。そのためにブランドがあるのであれば、当然、なんらかの意志はやっぱりもともとあるもので。ただ単にそれが表面化しているかとか、形にできているかとか。あとはその意志自体がどういうものなのかという話であって。必ずしも高尚なものじゃなきゃいけないというほど、ブランドって狭い概念じゃないと僕は思っています。

田村:そうですよね。ありがとうございます。非常におっしゃるとおりで、実はそこの意志の高尚の具合というよりは、あるかないかというところがすごく重要なのかなと思われますよね。ありがとうございます。