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意志表明するブランドのつくり方(全4記事)

パタゴニアのミッションが「How」から「Why」に変わった理由 元日本支社長・辻井隆行氏が語る、意志の変遷

2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)において「意志表明するブランドのつくり方」について、MOON-X株式会社 Co-Founder CEO 長谷川晋氏、元パタゴニア日本支社長 辻井隆行氏、株式会社gumi-gumi 代表取締役 軍地彩弓氏がスピーカーを、株式会社パーク 代表取締役/コピーライター 田村大輔氏がモデレーターを務めて語り合いました。本パートでは「パタゴニアの事例に見る『意志の変遷』」などについて話します。

購入の決め手となる「意志」の築き方

田村大輔氏(以下、田村):みなさん、こんにちは。よろしくお願いします。我々は「意志表明をするブランドのつくり方」というセッションとして、お送りさせていただこうと思っています。

今回、主にブランディングと呼ばれる領域のセッションになるんですが、みなさんも最近、こういった言葉を目にしたり耳にしたりすることが増えているかなという気がします。

以前「コト消費」という話があったと思うんですけど、最近は「エモ消費」とか「イミ消費」とか。あるいは「信念買い」。「機能買いから信念買い」という流れが増えていたり。あとは、クラウドファンディングのMakuakeさんなどが提唱されていらっしゃる「応援購入」。

顧客との関係性としての共犯関係「推し活」みたいな話もあったりしますね。これらは消費行動の変化が激しい中で、よく使われるワードなのかなと思っています

今までは、機能や価格が顧客が選ぶ目線だったと思います。そこに信念、あるいは意志、思想というものが、購入のもう一つの決め手になっている。そうした動きが、すごく活発になっている気がしています。なのでこれらに共通する、意志みたいなものの築き方、あるいは実践の仕方について、今日は深掘りしていければと思います。

意志といっても、わりと概念的・抽象的なものだったりするので。(スライドを指して)もう少し噛み砕いてみました。よく耳にすると思うんですが、ミッションやビジョン、理念、思想やストーリーというところが、意志に当てはまるものかなと思っています。

こういうものは、今、いわゆるブランディングやマーケティング活動の一側面で、使われていくシチュエーションがすごく多いのかなと思っています。

その一方で、もう少し本質的なところを見据えると、その事業やプロダクト、もっと言うと組織や採用。要はその企業活動全般に対して、ある程度、一貫性を持った“傘”になりえるようなものだと、より実践がちゃんとかたちとして伴っていくのかなと考えています。

なので、今回はその意志や想いを、企業活動のあらゆるところで一気通貫させていくにはどうしたらいいのか? という観点で掘り下げようと思っています。

元パタゴニア日本支社長・辻井隆行氏

田村:前置きが長くなってしまいましたが、ここから登壇者のみなさんをご紹介します。今回モデレーターを務めさせていただく、PARKの田村と申します。僕はスタートアップを中心として、会社のミッションやバリューの部分でお手伝いをさせていただいたり、あとは地域の開発プロジェクトなどをお手伝いしています。つい最近は、自社プロダクトとして、メンズスキンケアブランドを立ち上げたりしています。

では辻井さん、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

辻井隆行氏(以下、辻井):みなさん、よろしくお願いいたします。今は自己紹介するほどのことがないんですが(笑)。パタゴニアというアウトドアのアパレル企業に、1999年ぐらいから昨年まで、20年ぐらい勤めていました。前半は店舗にいたり、それこそマーケティングの部門にいたりと、卸売りに携わらせてもらったりといろいろな経験を積ませてもらい、後半10年間は日本の支社長という役割を担わせていただいていました。

退職したあとはわりと自分の足元を見つめて、自分自身の生活の在り方などを少し変えていったり。あとは田村さんとも、もしかしたら近いところがあるかもしれないですけど、これからの社会ですごく大事になってくるだろうと思っている「自律分散型ネットワーク社会」というかたちへの手伝いなどをしています。

あとはここも田村さんと似ているんですけど(笑)。ミッション、ビジョンをもう一度きちんと見直していきたいという企業、一般社団法人、あと高校生の同好会といった団体のお手伝いなどをしています。今日はよろしくお願いいたします。

元Facebook Japan代表取締役・長谷川晋氏

田村:では続けて、長谷川さんお願いします。

長谷川晋氏(以下、長谷川):みなさん、こんにちは。長谷川です。去年の8月まで、Facebook Japanの代表取締役をやっていました。これは僕がすごいわけじゃないんですけど、その4年間の中でInstagramが爆発的にヒットしたり、Facebookでいろんな体験をさせていただいたんですけど。そのあとMOON-Xという、宇宙事業っぽい名前の会社を創業しました。

実際には、宇宙事業はやっていなくて、上半期だけでクラフトビールの「CRAFT X」というブランドを出したり、田村さんと被っているんですけど、男性用・女性用のスキンケアのブランドとして、6ヶ月で3ブランドくらい出しました。それを通して会社のビジョンを達成しようとしているので、その辺りの話もさせていただければと思います。よろしくお願いします。

田村:よろしくお願いします。ちなみに、(スライドを指して)左下の組体操はなんでしょう?(笑)。

長谷川:自己紹介的なスライドと言われたので、一番左は僕が人生の地獄を見た時のシーンです。2歳から9歳まで、アメリカのシアトルで育って、現地の幼稚園・小学校に行っていたので。初恋もアメリカ人のキューティーという女の子という感じだったんですけど(笑)。

急に父親の転勤で日本に帰ってくることになって、日本の公立の小学校にぶち込まれたんです。日本語もあんまり上手じゃなかったので(笑)、ルー大柴みたいな感じで、いじめられそうになったり。その時に最初のほうに見た光景が組体操で(笑)。やっぱりみんな同じ服を着て、人は人の上に積み重なってピラミッドを形成するというのが、アメリカにはないコンセプトなので。

軍地彩弓氏(以下、軍地):ははは(笑)。

長谷川:「この国、なんやこれ? めちゃくちゃクレイジーやな」と思って衝撃を覚えた時の写真です(笑)。

田村:なるほど。「古き良き日本の象徴」みたいな感じですね(笑)。

長谷川:もう本当に衝撃的。でも、ものすごくリスペクトはありましたけどね。アメリカ人は普通はあんなのできないので、「すごい国やな」と思った時の写真です。

田村:なるほど(笑)。ありがとうございます。

ファッション・クリエイティブ・ディレクター軍地彩弓氏

田村:では続けて、軍地さんお願いします。

軍地:軍地彩弓と申します。ファッション・クリエイティブ・ディレクターという肩書きにしているんですけれども、もともと長いこと女性向けファッション誌の編集をしております。最初のほうですと『ViVi』という雑誌を20年近くやって、そのあとにコンデナストという『VOGUE』を出してる会社に移って『VOGUE GIRL』という雑誌を作ったり。

一時期『GQ』をやっていたんですけれども、今は『Numéro TOKYO』で、エディトリアル・アドバイザーをやっています。それとは別に、ドラマのファッション監修のお仕事もしています。(スライドを指して)この写真に載っているのが、今年公開になった『FOLLOWERS』。Netflixでの配信なんですけれども、蜷川実花監督のドラマのファッション監修をやったり。

あとは経産省のお仕事で、今のファッションサプライチェーン委員に入った。いろんなコンサルティングもしていまして、企業のミッション設定やスーパーマーケットのPBデザインの監修に関わったり、ファッションを中心・軸足に、いろんなこと・世の中を見ているというポジションで仕事をしております。

田村:なるほど、ありがとうございます。軍地さんとメッセンジャーでやりとりをさせていただいた時に、D2Cとかだと、割とミッションからブランドの立ち上がりが始まっているといったお話をお伺いして「なるほどなぁ」と思ったので。のちほど、そういうところも深掘りしていければと思います。よろしくお願いします。

軍地:よろしくお願いします。

パタゴニアの事例に見る「意志の変遷」

田村:今回、大きく4つ、トピックスをご用意してみました。まず1つ目ですね。「『意志』が生まれるまで。そしてその明文化のプロセス」。ここはブランドの立ち上げに対して、どういう背景のもと、その意志が確立していったのか。あるいはそれをどうチューニング、あるいは明文化していったのかという話を聞いていければと思います。

まず、辻井さん。前職、パタゴニアの事例をご紹介いただければと思いますが、昨年にミッションが変わりましたよね。

辻井:そうですね。

田村:パタゴニアさんって、30年ぐらい前にブランドを立ち上げてから今に至ると思うんですけれども。個人的な印象としては、立ち上げ当初から本当に軸がブレていない、奇跡的な会社なのかなと思っています。

今まで辻井さんが日本の代表を務められていらっしゃった中で、どういうブランドの立ち上がりで、その課程でどういう意志の変遷があったのか?というところを、簡単にお話をいただけないでしょうか。

辻井:意志というところで言えば、ミッションは事業運営のすべての基準になるもので、みんながよく「北極星みたいなもの」と言うとおりです。「なんで自分たちが存在しているか?」という存在意義だと思うんですよね。だから、もしこの世からパタゴニアがなくなっても何も社会が変わらなかったりインパクトが出ないんだったら、その存在意義もないことになります。

田村さんがおっしゃったより、ちょっと長い期間、50年近く……創業者のイヴォン(・シュイナード氏)という人がビジネスをやっている中で、やっぱりビジネス自身が環境を破壊しているということを自分の目でも見てきたし、間接的にも学んできました。

そうすると、最低限、自分たちが事業活動をすることによるネガティブインパクトはゼロにしよう、と。その上で、よりポジティブなインパクトを出せるようにやっていこう、というのが(スライドを指して)上に書いてあるミッションです。

つまり、自分たちが内部でやっていることの端から端までで、ネガティブインパクトをゼロにすることが、本当は最初にやるべきことだと僕自身は考えています。本業で環境破壊を続ける一方で、スタンドプレイ的に1つ里山を買って「植林してます」という事例はけっこうありますよね(笑)。そうじゃなくて、まずは自分たちのネガティブインパクト(をゼロにすること)、その上でポジティブに(インパクトを与えていく)。

ミッションは「額に飾るもの」ではない

辻井:一昨年までパタゴニアが使ってきたミッションが生まれ変わった背景には、気候危機というものが本当に危機的状況になってきたことがあると思います。多くの方々が指摘する通り、2030年にティッピングポイントが来るから、それまでにどうにかしなきゃいけない。そういう状況の中で、ミッションが変更されたことを僕自身は、イヴォンの危機感の表れと受け取りました。

変更される前のミッションには「『何を』をやりなさい」ということが記されています。「最高の製品を作り、環境に対する悪影響を最小限に抑える。そしてビジネスを使って環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」。読めばわかる通り「何を」が書いてあります。けれども、今のミッションには「何のために(「Why)」しか書いてない。一人ひとりがきちんと考えて動きなさいと。

この新しいミッションは、実は外向きのメッセージというよりも、日本では700~800人、アメリカ本社では数千人いたパタゴニアの社員に向けて「あなたたちがやるんですよ」というイヴォンのメッセージだと僕は受け取りました。もう部外者ですけども(笑)。

長谷川:あはは(笑)。当時はまさに、代表としていらっしゃったタイミングですよね?

辻井:そうですね、一昨年の年末だったと思うので。

田村:なるほど。よくミッションって、額に飾るものではなくて、いかに日常的にポケットに入れて持ち歩けるか。要はどれだけ端的に言えるか、どれだけ覚えやすいかという目線って、すごく重要だなという気がしてるんですよね。

そういう意味では「How」から「Why」に思いっきり舵を切ったところに、大きい軸足は変わらないものの浸透のスピードは一気に変わってきたな、ということを当時、個人的には感じました。

辻井:なるほどね。それは本当にイヴォンの狙いだったかもしれないですよね。その前からも経営判断の軸足は、常にミッションにありました。そこはあまり変わらないですけど、自分の責任として向き合いなさい、ということはすごく感じるようにはなりましたよね。

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