メディアも想定していなかったパンデミック

島村武志氏(以下、島村):ここからはヤフーのメディア事業を統括されています宮澤様をお呼びして、いろいろとお話を伺っていきたいと思います。

宮澤弦氏(以下、宮澤):お招きいただきましてありがとうございます。

島村:今日はお時間をいただきましてありがとうございます。実は宮澤さんとはけっこう以前から仲良くさせていただいて。

宮澤:そうですね。長きに渡り切磋琢磨してきた関係ですかね。

島村:最初は確か、NAVERまとめとヤフーの提携のご相談をずっとさせていただいてまして。あの時はヤフーさんがまだミッドタウンで、私は毎週のように通い喧々諤々的な(笑)、議論を日々させていただいていた。

それを振り返ると、今日このように一緒にステージに立たせていただいているというのが感慨深いです。

宮澤:LINEのカンファレンスにヤフーの者が登壇できることが夢のようというか、こんな日が来るのかと思いますね。本当に感慨深いです。

島村:そうですよね。今日はいろいろとお話を伺っていきたいんですが、まず私の発表をご覧いただいてどんな印象だったかを伺ってもいいですか?

宮澤:本当にLINEさんも激変する状況の中でいろいろご苦労されていたんだなというのを感じましたね。我々自身もこのあと出てきますけれども、感染症の拡大というのは今まで体験したことがなくて。

台風ですとか地震といったものは数々乗り越えてきてるんですけれども。この感染症がずっと続いて、しかもずっと自粛が続くような状況は経験なかったので。本当に苦労しながら。

島村:そうですね。それは私もメンバーたちとすごく話していた記憶があります。「そういえば我々、パンデミックってあんまり想定してこなかったよね」っていう。

地震とか災害、良いことか悪いことかは別に、ある程度やり方としてこうやろうということが予めわかって準備できているというところはあったんですけど。パンデミックは正直予測がつかないぞというところで。

ヤフー様の取り組みのお話を少しいただいてもいいですか?

ヤフーはコロナ禍で何に取り組んだのか

宮澤:先ほど島村さんからもありましたけれども、正しい情報を伝えるというところですね。1月の後半くらいからですかね、いろんな状況が新たに出てきて情報も錯綜して、デマもたくさんありました。

1つ例を挙げると、トイレットペーパーの原材料はほとんど中国だからトイレットペーパーなくなるぞというもの。これはデマだったわけですけれども。そういったものに対して正しい情報をどう伝えるのか。

1つ考えましたのは、やはり一次情報をそのまま発信することが大事なんじゃないかということです。例えば東京都であれば小池知事の定例のインタビューや記者会見、それから安倍首相の記者会見をリアルタイムで生中継することにかなり力を入れました。

次は、「知りたい」に答える。今回この知りたいというニーズそのものがいろいろと変化していったなと感じました。1つは自粛という行為が伴うものだったので、給付金ですとか行政的な手当というのも並行して行われるというところで。

最初はコロナ自体についての興味関心というのが非常に多かったわけですけれども、徐々に「自分の生活はどうなるんだ」と、あるいは「給付金はどうやったらもらえるんだ」というような生活に直結するテーマに対する関心。こういったものが増えていったかなと思っております。

それから右側にありますのは混雑レーダーという機能です。我々は地図などの情報サービスもやっておりますが、やっぱり混雑しているところに行くと密になる可能性が高い。それを避けたいというところで、こういった情報提供を心がけてやっていくようにしました。

島村:このレーダーはうちの編集部でも話題になっていました。やっぱりみんなの投稿物だけに頼ると提供できる情報の限界があって。そもそもみなさんスマホを持って行動されているので、それがマップに出るだけでそれ自体が情報の意味を持っているということで、すごく勉強させていただいた事例ですね。

宮澤:ありがとうございます。もともとヤフーでは天気予報に付属するかたちで雨雲レーダーというのを作っていて、非常にユーザーのニーズが高くてですね。雨雲がどこにあるかがわかれば濡れなくて済むと。これと同じようなことがコロナ禍でも起こるんじゃないかというようなことでやりました。

島村:急なスコールとか最近ものすごく多いじゃないですか。だから天気予報を見てやってても、なかなか実際の生活に応用できないんですよね。「これは通り雨っぽいけどあと何分くらいで過ぎるの?」とか。「しばらく続くの?」というのは雨雲レーダーで参考にさせていただいている実感がありますね。

コロナに付随する情報を積極的に配信

宮澤:今年のゴールデンウィークは「家にいてください」と政府からお願いされた、非常に例年にない期間だったと思っています。

子どもがいらっしゃるご家庭ですと、家族全員がずっと家にいることがどれほど大変かがよくわかると思うんですけれども。みなさんが家での時間を有意義に使いたいだろうということで、家にいる時ならではの、例えば教育ですとか、エンターテインメントのコンテンツを積極的に配信していこうということで。

あるいは家でできるトレーニングなどですね。スポーツのイベントもかなり自粛されていましたので、プロスポーツ選手に出ていただいてコンテンツとしてお届けするような、在宅での生活提案みたいなものも今回は力を入れたかなと思っております。

島村:必ずしもコロナ自体ではなくて、それに付随する生活の中で必要となるものがほかにもいろいろあるよねと。ちなみに、宮澤さんはお子さんがいらっしゃいますが、どんなゴールデンウィークだったんですか?

宮澤:一緒に虫をどういうふうに捕るかとか、育てるかとか、昆虫採集みたいなコンテンツを家で一生懸命見ながらですね。今年はカブトムシに息子がハマりまして(笑)。かなりカブトムシにフォーカスしたコンテンツを見ていましたね。

島村:うちは子どもたちは在宅大好きで、外に出るのが面倒くさいみたいで。まったく苦にしていませんでした(笑)。ずっとゲームばっかりしていたような感じだったんですけど。でもやはり、その時その時の過ごし方とか、例えば折り紙を折るとかでもそうだし、何か家の中での遊び方であったりとか、居心地よく過ごす快適な環境ってやっぱりご家庭で違いますもんね。

宮澤:子どもの年次によってもだいぶ変わりますよね。

島村:かなり変わりますよね。そういうところがけっこう表れたかなと思います。ありがとうございます。

ユーザーに直接問うアプローチを多用した理由

宮澤:そしてですね。これちょっとおもしろい試みですけれども、ユーザーに問うことに今回は力を入れました。

島村:なるほど。

宮澤:1月からあまりにも毎週のように状況が変わり、政府からの要請も刻一刻と変わり、政府と東京都でもまた変わりというようなところで。情報ニーズも最初は世界全体の情報から、最後のほうは自分の区でどういう対応をしているのかとか。あのレストランは感染症対策をしているのかとか。個室の予約はできるのかとか。こういう具体性を持った地域の情報にかなりフォーカスしていく変化がありました。

こちらで考えたことを一方的にお届けするだけではニーズを満たし切れないと思いまして。直接ユーザー様に「どういうコンテンツが今必要ですか?」と問うてみようということで、ユーザーに聞くアプローチをかなり多用したのが今回だったかなと思っています。

その中で、例えばGo Toの企画をもう少し知りたいとか具体的な問いが多ければ、それに対して対応していくような取り組みを進めてきたというかたちです。

島村:なるほど。届ける側が一方的に考える「これが必要だろう」ということでは対応し切れないような個別の状況が存在していたり。我々もみんなが今何を求めているのか自体も(つかみきれず)、(平常時の)日本的な全体感が少し薄いように感じました。

仕事を見ても業種によってもぜんぜん置かれてる状況が違いますし、在宅で働けるところもあればそうでないところもあって。置かれている状況が変わってしまう中ですぐに相談できるみたいな。ちょっと調べてほしいとか教えてほしいというような、ある種ちょっと昔のQ&A的な役割ということですよね。けっこう集まりましたか?

宮澤:そうですね。最近よく記事の下にアンケートなどを入れるようにしていることもあって、けっこうライトに回答できるようなインターフェースになっていまして。比較的多くの回答が集まりました。

特にコロナだけだったらよかったんですけれども、みなさんご存知のように「コロナ×台風」とかですね、「コロナ×避難指示」とか。こういう掛け算で災害が出てくる時に、我々が経験できないエリアにいたりすると、実際どういうニーズが必要なのか困り果てるようなことがありましたね。

島村:ありがとうございます。すごく参考になります。

届けられなかった「患者さんの声」

島村:ヤフーさんは昔からサービスをずっとやられていて。ただニュースを届けるだけじゃなく、コミュニティというか、コメント欄もそうだと思うんですけど、積極的にユーザーと一緒に作っていくようなものが昔からあると思うんですけど、今後は拡大していく感じですか?

宮澤:そうですね。先ほどお話させていただいたとおり、情報としてはまず一次情報をしっかりと届けるところと、届けたコンテンツに対してはユーザーからの声を反映させていく。あるいは、次の取材対象はユーザーの声で問うていくというかたちでの循環を作っていけたらいいなと思っているところです。

島村:やってみて課題感でいうとどうですか?

宮澤:今回は走りながらすべてを考えるというところで、後手後手に回りながらやっていたところは否めないと思っております。2回目だったらもっとうまくやれるかなということは多々ありましてですね。

例えばもっと多くの情報を事前に用意しておくこともできるでしょうし、もっと多くの情報を正しく届けるところでは役に立てることも多々あったかなと。今回はできる限りのことを、できる限りの状態で届けるのに汲々としたところはあると思います。

島村:例えば正しさのところで言うと、もちろん政府発表だったり政策、支援的な話は一次情報というのはまさに正確さを担保する情報としてあるとして。

一方で必要とされる情報がいわゆる政府発表とかではなくて、近所のスーパーでとか、マスクがあるのないのだったりとか、SNSを含めたいろんな情報が錯綜する中で、でもニーズはあるわけですよね。そういう情報を知りたいって言うことに対して、我々はどう担保していくべきだとお考えですか?

宮澤:今回でいくと、実際の患者さんの声はほとんど届けられなかったと思っています。これは接触するべきではないというのもありまして。一方で患者さんからの実際の声をしっかりと届けていかないと、コロナにかかると実際どういうものなのかが想像ができないので自粛をしないとか。

やっぱりリアルに想像ができると怖いので、ちゃんと自粛しようというような啓発にもつながっていくと思います。そこらへんはもう少し工夫できたところはあったと思ってますね。

島村:私がちょっと思うのが匿名性を担保することの大事さです。例えば個人的なことになればなるほど、情報を外に出された時の危険性というのがあって、それはしっかり守らなきゃいけない。

一方で、その話を知ることが誰かを助けることにもつながる。その情報が(別の誰かの)参考になることにもつながると思うと、うまくそこを解決できるソリューション。匿名性はある程度担保されているんだけど、実在性はわかっていて、デマではないというか。嘘でおもしろ半分に書いているものじゃないことがわかる仕組みがあるといいですかね。

宮澤:そうですね。もう少し公衆衛生のために情報をどう活かしていくのか、使っていくのかというところは今回大きくテーマになったなと思っています。

New Normal時代に必要なのは「生活圏の情報提供」

今までそういう考え方でサービス作りはしていなかったんですけれども、国全体がパニックに陥るような状況というのはもう少し公衆衛生をデータで見ていって、正しい情報発信をしていくところに、一歩進んでいけるといいかなと感じましたね。

島村:本当にその通りだと思います。ヤフーさんもこれから新しく情報が作られていく部分とか、先ほどの枠組みだったりチャレンジしていこうと思われているところが多々あると思うんですけど。

我々ニュースプラットフォームで言うと、New Normalとして求められているものは何なのか。どういう在り方を作っていかなきゃいけないのかというところに関してはどうお考えですか?

宮澤:そこはぜひLINEさんのご意見も伺いたいなと思うんですけど(笑)。

島村:逆に質問が返ってきたという(笑)。私は毎日メンバーとも協議する話で、やっぱり情報流通というものが、いわゆるマス的な量をたくさん流すことが注意喚起になると。情報の量によって強弱をつけようとする在り方がだんだん通用しなくなるのかなっていうのをすごく議論していて。

それよりはコミュニティが大事になるんじゃないかという。例えば自分たちの生活圏で、同じような立場にいる人たち同士だからこそわかることだったり、シェアできることがあって。それを全国区で届けようと思っても、ノイジー過ぎるよという状況に対して、課題意識を持っている人たちがちゃんと集まるというか。

なにかしらのかたちでコミュニティを形成していて、その中に信頼関係があって、あの人が言ってたら実際にそれは起きている、とわかることも含めて、そういった仕組み作りや基盤作りもやっていくべきじゃないかなって考えたりしますね。

宮澤:我々もまさに今、地域のコンテンツを拡充していこうと考えておりまして。やはり今回コロナの報道というか、やり尽くした挙句、最後はやっぱりユーザーのみなさんは地域の情報を求めるというところに帰結したと思っています。

これは日本だけじゃなくてアメリカ、ヨーロッパも含め、自分の身の回りの生活圏で何が起きているかに帰結していったというような推移を見ていると、まだまだ僕らは地域圏、生活圏の情報提供はインターネットとしてはできてないと思います。

島村:確かに。

宮澤:ここをもっと充実させていく。一方で具体的に何でも出せばいいわけでもなくて。実際に陽性反応が出て、そのエリアで生活ができなくなった方もかなり多くいらっしゃると聞いています。みんながきちんと生活できる粒度で、どういう情報を出していくのかが今後の1つのテーマになってくると感じました。

島村:すごくそのとおりだと思いますね。ヤフーさんとなかなかお互いのプラットフォーム同士で起きていることを話すことがなくて(笑)。我々はヤフーさんがやられている事柄では見ることはありますけど、中で考えていることを共有する場がほとんどなかったのでとても興味深いです。

結局、一番身近なところが一番情報が少ないよねというか。実はそこがないと生活とか自分の行動を変えるというか、助けるような情報提供ってなかなか難しい。

よくコンテンツサービスを考える時に、私は音楽が好きですけど、どうやって自分の好きな音楽を集めてきたのか。最近だとAppleのレコメンドとかいろいろありますけど、私の時代は近所の音楽に詳しいお兄ちゃんみたいな話があって(笑)。

同じような生活圏を共有していて、その人がいいよと言っているものを、聴いてみようっていう。そういうことってある種、情報伝達の原点でもありますし、そこをうまくインターネットの中で、連動していけるような世界があるといいかなと思っておりますね。

今日は短いお時間でしたけど、非常にいろんなお話をさせていただいてとても勉強になりました。

宮澤:コロナはまだ続いてますから、がんばりましょう。

島村:続いてますしね。最近の傾向としては落ち着きつつあるかなというところですけど、まだまだこれからというところで。私たちもしっかり伝える責任を果たしていきたいと思っております。

ヤフーさんもそうですが私たちもそうです。お互いが切磋琢磨しながら、情報の新しいNew Normalを実現していきたいと考えております。以上で私のセッションは終わりとなります。ありがとうございました。