2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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山中礼二氏(以下、山中):みなさんからSli.doでもいくつかコメントをいただいていますね。ちょっとピックアップしたいと思います。こういうのがあります。
「資本主義は世界平和に貢献すると思います。ただし民主主義とセットである場合。このカップリングがどう世界で役割を果たすのか。今とても気になります」。このご意見についてどう思われますか? 資本主義は平和に貢献するけれども民主主義とセットでなきゃいけないんだと。
林礼子氏(以下、林):なんとなくそのコメントの裏に控えているものを感じてしまうがゆえに、ちょっとコメントしがたいものがあるんですが(笑)。そのとおりだと思っていて。先ほどから個人と組織と申し上げておりますけれども、組織の中には当然、個人がいて。個人の思いがキチッと発現できる。
発現というのは「言葉を言う」(発言)じゃなくて、appearのほうですね。expressと言ったほうがいいのでしょうか。個人の想いを自由に表現していろんな多様性を包摂して議論していく中で、失敗したり成功したりしながらいい方向に向かうというのが、ちょっと理想的すぎるかもしれませんけれども、あるべき姿だというふうに思っているので。今のコメントということについてはそうだなと考えております。
安川新一郎氏(以下、安川):私も今ちょうどそのご質問で思い出したんですけれども、ご存知の方いらっしゃるかもしれませんけど『国富論』を書いたアダム・スミスが『国富論』の10年前に、同じ10年をかけて書いた『道徳感情論』という本があります。アダム・スミスは生涯2冊の本しか書いてないらしいんですけれども。『The Theory of Moral Sentiments』という本で。
アダム・スミスは自由主義経済学の創始者の前に、倫理学者でなんですね。なので、人々に対する共感みたいなものをそれぞれが持っている社会において、初めて資本主義というのは成り立つと言ってます。
それぞれがお互いのことを思いやってMoralを持って、MoralとSentimentというお互いを癒しあったり、ケアしあったり、お互いの感情を慮りあう社会において、そういう人たちに世の中を任せると、王様だとか、独裁者とかが統制経済をやるよりも資本主義というのはうまく回る。そういう意味で一言だけ「自由放任=レッセフェール(lassez-faire)」っていう言葉を言ったという話なんです。
倫理感をもってケアしあうっていう民主主義ですよね。民主主義がみんなお互いのこと、自分の利益も追求するんだけれども当然お互いのことだとか、最大の幸せみたいなものを考えるという事は、アダム・スミスも言っていた資本主義の大前提です。
そういった意味でご質問のとおりで、違ったかたちの資本主義もしくは新自由経済主義というのが台頭してきていますけれども、どこかで大きなひずみなり、ゆがみを産むんじゃないかなと僕は個人的には思っています。
山中:お金のリターンというものだけを目的にするような、そういうキャピタリズムはどうしても大きなひずみが生まれてくるということですね。
安川:必ずしもお金のリターンという話だけでもなくて、一部の少数の意志を反映させたい。その統制のために資本主義の力を使う国というのは、どこかでゆがみが起きるんじゃないかなと思います。
民主主義を前提というご質問で言うと、そういう政治のところまで含めた今のご質問かなと取って、そう答えました。
山中:ありがとうございます。
山中:ほかのコメントも読みたいと思います。こういう方がいます。
「金融の人や行いをお金を介在してつなぐこと、そしてお金が回る仕組みを提供すること。切れるハサミをどう使うかは使い手次第でしょう。そういう意味で、アフターコロナの世の中に必要な営みにお金を回すことがこれからの金融マンの使命ですね」。そういうコメントをいただいています。林さんのお話にインスパイアされた方は、私だけではなかったかと思います。
もう1人いらっしゃいます。「テクノロジーなどは超速で進化しているが、人間の本質はほとんど変わっていない。平和にするのも戦争にするのも、世の中を良くしたいか否かも、すべて人の決断と実践力次第。ただグローバル企業が利権を独占化する今、彼ら次第だと思います」。そういうコメントもいただきました。
企業というものの意志ですね。人間は倫理観を持って関わるのが求められるということは理解したのですが、企業がどういう意志を持って関わるのか。関わるべきなのか。関わろうとしていくのか。これについてはどうでしょうか?
林さんの話を聞いて私、非常に明るい希望が生まれた気がするんですけども、世の中の企業みんながそういうふうに動いていこうとしているのか。みなさんの目にはどういう光景が映っていますか?
林:ほかのコメントも見ていて「そんなきれいごとなわけでもないよね」という雰囲気のコメントもあるように思って。そのとおりだと思っていて。やっぱり人間って欲深いものですから、企業ってちゃんと儲けないといけないので。
我が社も別にボランティア団体じゃないので「いいこともしようね。だけど儲けなきゃダメだよ。No excuse」というのが、我々の会社で言われていることなんですけれども。
私がESG投資なりこういうものがサステナブルに続いていくためには、やっぱりESG投資なり責任あるいろんなことをやっていくことで、結果として収益が上がっていくんだということがきちんと示されていけば「そんなきれいごとじゃないよね」と言う人たちもだんだんマインドが変わっていくんじゃないかな? と期待をしているということと。
あと組織で感じていることは、やっぱり社員も含めて「これが大事なことなんだ」ということをマネジメントが本気でコミットして社員に伝えていくということが、本当に大事だと思っていて。私もだいぶ洗脳されてきたような気がするんですけれども。企業、とくに我々のような大企業としての責任というものを感じてやっていくこと。
かつ、そういうことであればこそ、今の若い世代も魅力を感じて社員になってくれるのかなというふうにも思ってますし。お客様との取引も順調にいくんじゃないかと思っているので、決してきれいごとじゃないんだということを認識して、実際の行動に移していくということじゃないかなと思っています。
山中:ありがとうございます。企業の経営者の立場で考えますと、資本市場からもESG投資というかたちでプレッシャーを受け、同時に人材マーケットからはちゃんとしたことやってる会社なんですか? と。そうじゃないと、大学生に私たち就職したくありませんと言われちゃう。両方からの非常に強いプレッシャーを、企業の経営者としても感じている時期なのかなと思いますね。
その中で、いかに結果として収益を上げながらパーパスを追求していくか。そんな戦いに企業が乗り出していこうとしているのかなということを感じています。
山中:まだまだお話をお伺いしたいのですが残り4分になりましたので、パネリストのみなさんから最後に一言ずつ今日の参加者のみなさんに……あ、こういうふうに振りましょうか。私たちに何ができるのか? というテーマで一言みなさんからメッセージをお願いいたします。どなたからでもけっこうです。
丹羽優喜氏(以下、丹羽):じゃあ私からよろしいですか? 一応、事前のリクエストで私と似たような境遇がもしいらっしゃるとして、そういう方にメッセージをということを聞いてましたので。
私はもともと大学の研究者で、技術の人間だったのが今こういう会社の代表ということでやらせていただいていて。そのきっかけというのはやっぱり技術と出会ったことなんですね。出会ったときにこれがこういう社会問題、社会課題の解決につながるんじゃないかって1つ気づけたことと。もう1つ、そこに飛び込もうと思えたことが今の自分を作っていると思っていまして。
技術者さんって技術に集中してしまうと、なかなかほかのことが見えなくなっちゃうんですけれども、その2点です。いろんな課題にふだんからアンテナを立てておくということと。もちろんこれに参加されているみなさんって、アンテナが立っていると思うんですけれども。
もう1つ、やっぱり技術から社会って距離があるので。それをつないでやろうと飛び込む。こういうプレイヤーでいるということは非常に重要かなと思っていますので。そういったところを、まあ私をお手本にしてって言うとおこがましいんですけれども(笑)。
そういう方の勇気になるような活動をこれからも続けていきたいと思いますので、みなさんの背中を押せるようなかたちで私もがんばりたいと思います。
安川:丹羽さんのお話の流れで、私も何ができるかということを考えたんですけれども。今日1日、知事からのお話もそうですけど、やはりコロナというのは数ヶ月の感染、インフルエンザがちょっと流行ったねっていう話じゃなくて、かなり社会の基礎疾患の構造的な問題を含んでいると思います。
高齢化が進んでいて実はコロナ禍以前に日本の医療はかなり医療崩壊寸前だったと。団塊の世代が後期高齢者になっていくので、既に問題になってきていただとか、政治の意思決定の遅さの問題だとか不透明さの問題。さまざまな社会の基礎疾患が露呈した。
1ついいことがあったとしたら、スタートアップにもステージによって違うんですけれども、とくにまだまだディープテックでこれから研究開発をやっているグランドグリーンさんのような会社でまだ売上がこれからだっていうところは、とくにこの数ヶ月急に売上が落ち込むとか飲食店みたいなところがなかったですね。
逆にこれを機に規制を見直そうだとか、コンセンサスが非常に生まれた。遠隔医療もそうですし、教育のIT化もそうですし、こういう新しい動きというものがここで一気に変わる1つのきっかけになったのではないかなと。
そういった意味ではダーウィンの進化論ではないですけれども、最も強いものとか最も優秀なものが生き延びるではなくて、最も変化に早く対応したものが生き残る。そういった意味では日本にとっての1つの大きなチャンスなのではないかな? と思ってます。
やはり世界の平和に今後つなげていけるようなアフターコロナ、ウィズコロナの時代をうまくスタートアップの人たちと一緒に作っていければなと。それが僕のライフワークと思ってやっております。
山中:安川さんありがとうございます。じゃあ林さん、最後に締めのラストメッセージをお願いします。
林:何ができるのかなと改めて、私はみなさまのように技術もなければ幅広い見識もないので、できることは金融機関の社員としてグローバルに何が起きているのかということをよくよく理解しながら、じゃあそれで日本の社会にどうやって貢献できるのか。
それは金融機関として貢献できるのか、個人として貢献できるのかということを、今日お会いしたみなさまとか、いろんな想いを同じくする人たちと議論を交わして前に進めたらいいなというふうに思っています。
山中:ありがとうございました。3人のすばらしい登壇者の方々のお話をお伺いできて私も本当に勉強になりました。なんとか金融の新しい流れ、あとは安川さんのおっしゃるようなタレントの新しい流れまで組み合わせて、いいイノベーションを起こしていきたいなというふうに思いました。
同時に、きれいごとで終わらせないという林さんのメッセージですね。すごく心に刺さりまして。経済的にも稼ぐ、リターンも出す、なおかつ社会も変えるんだという両立を私個人もぜひチャレンジし続けていきたいなと思いました。
以上で3番目のパネルを終わりたいと思います。参加してくださったみなさん本当にありがとうございました。登壇者のみなさんもありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
山中:では成瀬さんにバトンをお渡しします。
成瀬久美氏:山中さんお疲れ様でした。ありがとうございました。そして安川様、丹羽様、林様もありがとうございました。
金融ってとても大きなテーマで、とくに先ほどおっしゃっていたESG投資だったり社会的責任投資だったりが出てきてはいますが、一方で矛盾じゃないですけれども、ちゃんと私たちの生活も成り立たさなければいけない。企業をちゃんと保たなければいけないとか。投資する企業によってはリターンがちゃんとないとダメだとか。
それはある観点からすれば至極、当然のことだなと思いますし。そんなに資本主義って簡単になくなるものではないので、やっぱり今日山中さんが一番最初(のセッション)におっしゃっていたマネー、テック、ピース。
さらにその大元をつなぐとマネー=ピースになるように、きちんとこういったすでに従事していらっしゃるみなさま方、そして安川様はロビイングもやってらっしゃると思うので。そういった国をつないだり、いろいろな団体をつないだり業種をつなぐ……山中さんもそうだと思いますけれども、業種をつないだり。そしてその実践の場、丹羽さんもそうですよね。アグリという立場で取り組んでいらっしゃったり。
それが必ずいいかたちで具現化して金融市場のほうにもいい影響をもたらしながら私たちもその恩恵というものがよりいいサステナブルな仕組みのほうに回っていったらいいななんてことを思いながら聞かせていただきました。ありがとうございました。
以上をもちましてセッション3を終えさせていただきます。
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