ダメな要素を詰め込んだ企画書とは
橋口幸生氏:今までこうすると読みやすくなるという話をしてきたので、ここで実際にダメな企画書を読みやすくしていく実践をしていければなと思います。これが例に持ってきた企画書です。これはダメな例ですね。
良い悪いは置いといて、こういう企画書って僕たちの広告マーケティング業界だとよくあるんですよね。これに続きが何枚かあります。
同じ言葉やカタカナ語を削る
こんな企画書がよくあると思います。あんまり読みやすくないと思うんですよね。今まで挙げてきた悪い例を全部ぶち込んでいて、修飾語だとかが無駄に長い企画書になっているので、これをどうやって短く読みやすい企画書にしていくかというのを、これからやりたいなと思います。まず1枚目のスライドからいきます。
「本日のご提案。『効く』マーケティングをコアとして、デジタルコミュニケーションによる「効く」を実現する、最適なマーケティングをデザイン。コモディティ化が深刻化した「ブランド」へ対し、ストラテジー(戦略)をクリエーティブすることで、解決へ導くソリューションをご提案します」。
なぜわかりにくいかというと、「『効く』マーケティングをコアとして、「効く」を実現する」とか。「マーケティングをコアとして、マーケティングをデザイン」とか。
ここは「マーケティング」と、文章に同じことが何回も出てきているとか。カタカナが多いことでわかりにくくなっているかなと思います。
なのでこれを見やすくしていきます。
例えば「本日のご提案」といって、最初に「このスライドはどういう役目なんですよ」というのが、ほかの文章よりちょっと大きいQ数で入るだけでぜんぜん印象が変わってくると思います。
「ドリーム・バーガーの課題は、ブランドのコモディティ化。ソリューションとしてはデジタル・コミュニケーションが有効と考えます」。
こっちのほうが、ずっとわかりやすいと思うんですよね。要は「コモディティ化が深刻だからデジタルでなにかやりましょう」と言ってるだけの1枚なので、これくらいすっきりとしたほうがずっとわかりやすいかなと思います。
キャッチフレーズの有効な使い方
スライド2ですね。「今の時代の生活者は、自分が食事するお店を、自分の純粋な欲求ではなく、スマホでレピュテーションを確かめてから選択します。つまり、生活者とスマホで多くの接点を持ったブランドが勝負を制するのです」。
これも「自分が食事をするお店を、自分の純粋な欲求」みたいに自分という言葉が2つ入っていたりと、なかなかわかりにくいですよね。これをどうやって短くしていくか。
このスライドのポイントは、「自分が行きたい店より、みんなが話している店」という、ちょっとキャッチフレーズっぽい見出しが入っているのが大切だと思っています。僕は企画書でもやるんです。これは大切だという部分とか、長いプレゼンでそろそろお客さんが飽きてくるだろうなというタイミングでキャッチフレーズを入れるというのは、非常に有効な方法なのでやってみるといいかと思います。
僕が今まで直接見たプレゼンの中で覚えているのは、すごく売れっ子のクリエイティブのチームがクライアントさんにメディアの提案をしたんですね。メディアの提案というのは、テレビCMをこの時期に流して、ネットのバナーとかはこの時期にやりましょうみたいに、何をどこにいつ出すかという提案です。聞いていてものすごくおもしろいものではないんですよ。
そのときに彼らがやっていたのが、クライアントさんからの発注が、自分たちの商品は進学シーズンに売れるから、進学時期に若者が見てくれるようにテレビCMとかWebバナーとかを買い付けてくれという注文だったんですね。
そのときにそのチームが返した企画書に書いてあったのが、「みなさんは自分の進学シーズンと言いますけれども、そんなのはメ―カーの勝手な都合で若者たちには関係ないですよね」と書いてあったんですよ。
「メーカーの都合を押し付けるんじゃなくて、若者たちの本当の気持ちになって出稿したほうがいいんじゃないですか?」と言っていて、そこで眠そうにしていたクライアントさんの目がパッと開いたんですよね。
その後、彼らが実際に提案したプランってすごく普通だったんですけれども、やはりその1行があるかないかでぜんぜん見え方が違っていた。そのプレゼンはそのチームが競合プレゼンで勝っていました。ただ単に情報をまとめるのではなくて、こういうちょっと目を引く1行が入ってくるというのは、とくに長いプレゼンだと非常に大事なんじゃないかと思います。
おおまかな意味がわかる見出しをつける
次が3枚目ですね。「本日、私たちがご提案する重要ポイント『コアアイデア』は『検索されるブランドからの脱却』です。
ここも「重要ポイント」とか「コアアイデア」とか、重要ポイントなのかアイデアなのかよくわからないですよね。
あとこの「激戦のバトル」というのもよくやりがちで、戦いという意味の言葉が2つ被っている。馬から落馬みたいな文章になっていますね。
「それを勝ち抜くためには、ターゲットが『今日は何を食べよう?』とスマホで検索する前に、『今日はドリーム・バーガーで食べよう』と脳内で思い浮かべてもらうことが重要です」。
これを僕がどう直したかというと。
「目標『検索されるブランドからの脱却』」。下のほうの細かい文章を読まなくても、だいたい意味がわかるという見出しをつけておく。「お客さまが『今日は何を食べよう?』と検索する前に、『今日はドリーム・バーガーで食べよう』と思い浮かべてもらいましょう」と。
体言止めを使って文末が単調になるのを防ぐ
これが4枚目ですね。「そこで、お客さまのマインド・フローをデザインします。検索する前に、デジタルアドで徹底的にターゲティングします。ここを攻めることが重要です。そうすると、食事何しよう! と思った時に『ドリーム・バーガーに行こう』となり、来店へつながります」。
これも、「ここを攻めることが重要です」とか、なんの意味もない文章が入っています。
「戦略。生活者が検索する前に、デジタルアドでターゲティング。『食事、何にしよう』と思った瞬間に、『ドリーム・バーガーに行こう』と呼びかけ、来店へとつなげます。
ここでやっているのが、「デジタルアドでターゲティング」と体言止めをしていて、そのあとに「来店へとつなげます」という文章をやっています。
例えばダメな例のスライドみたいに、「デザインします」「ターゲティングします」みたいに「です」で終わる文章とか「ます」で終わる文章が続くと、文章ってすごく幼稚な印象になります。体言止めとかを使って、なるべく文末の表現とかを変えていくというのは、読みやすい文章の1つのポイントかなと思います。
「エグゼキューションは『ドリーム・バーガーの肉ムービー』です。『美味しい』『本格感』をストレートで差し込むシズル感を最大化したドリーム・バーガーの旨いが凝縮された7秒Web動画を発信します。『食事何しよう』と検索する前に、デジタルアドで徹底的にターゲティングします」。
ここをどう直したかというと。
要は映像を作るんだよということを言えばいいだけなので、あまりこういう遠回しな言い方をしてそれっぽい体裁に整えずに、そのまま書いたほうがずっとわかりやすくなるかと思います。
映像が浮かんでくる文章は聴衆を飽きさせない
「ドリーム・バーガーの美味しさを『視覚と聴覚』の五感へ差し込むクリエーティブ……」。これは実際、僕が見た企画書から抜き出しています。視覚、聴覚って2つしかないのに五感と言っていたり、「綿密にディレクション」みたいな修飾語を使っていたりします。
「まず1つ目、視覚へ差し込むことを計算した『おいしい肉カット』。そして、2つ目、聴覚へ差し込むお肉が焼けるシズル音を活用した音。この2つの点を抑えて動画をつくります」。
これをどう直したかというと。
「美しい赤みとあふれる肉汁を、あますことなくとらえた映像。それをさらに引き立てる、お肉がジリジリと焼ける音。ドリーム・バーガーのおいしさを『視覚』と『聴覚』の両面から表現しましょう」としてみました。
ここでやったことって、おいしい食べ物の映像を作りますというプレゼンをしてるんだから、そのおいしい食べ物が絵に浮かぶようにしたほうがいいなと思ったんですね。例えば「視覚へ差し込むことを計算した『おいしい肉カット』」と言われるより、「美しい赤みとあふれる肉汁を、あますことなくとらえた……」と言われると、それが絵に浮かぶじゃないですか。
「それをさらに引き立てる、お肉がジリジリと焼ける音」という表現も、そういうお肉のおいしそうな映像が絵に浮かんでくると思うんです。読んでいて絵が浮かんでくる文章を書くというのは、読んでいて退屈しないので大切なポイントかなと思っています。
「言葉の鎧」を脱いで身軽になる
今のは『言葉ダイエット』で僕が言っている、長くてまわりくどい企画書をいかに短くて端的な文章にしていくかというポイントです。
ここでまとめていきます。これは前半で見ていただいた、意味不明なビジネス文書の例ですよね。遠回しで変に丁寧なんだけど、卑屈でよくわかんない仕事の文章がなんでこうなるのかというと、目的以外の要素がいろいろ入っていると思うんですね。
忖度とか気遣いとか保険とか、いろんな人がいろいろ言ってきたからあれも入れなきゃいけないとか。言葉がどんどん窮屈になっていくことを、僕は言葉の鎧という言い方をしています。それですごく息苦しい文章になっていると思うんですよ。
仕事って競争であっても戦争じゃないので、鎧を脱いで身軽になる。自分を出していくことが企画書を作るうえで、実はポイントになるのかなと思っています。