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「ビジネスマンの企画書術」橋口幸生氏(全4記事)

「させていただきます」を使わない方がいいのはなぜ? “丁寧な人マウンティング”に陥らないための文章術

著名なゲストをお招きしたビジネスパーソン向けのイベント・動画・記事などを毎月公開している、奈良新聞デジタル会員限定コンテンツ。今回はその中から「ビジネスマンの企画書術」と題し、心を動かす伝え方のプロであるコピーライターの橋口幸生氏に学ぶビジネス講座の内容をお届けします。人に刺さる企画書、選ばれる企画書の極意を知りたいビジネスパーソン必見です。本パートでは、読みやすい文章を書くためのポイントを紹介しました。(本記事の講演は4月18日にオンラインにて実施されました)。

受け手への想像力が足りない表現が世の中にあふれている

橋口幸生氏:話を元に戻します。さっきの異常に長いメールを見ていてもわかるように、仕事において人って書きすぎちゃうと思うんですよ。なんで書きすぎてしまうのかと思ったときに、「相手が自分の書いた企画書なりメールなりを全部読んでいる」と無意識に思い込んでいるからだと思うんですね。

きつい言い方をすると、受け手への想像力が欠けているのかなと思っています。これは企画書や文章に限らず、日本中で見られる問題なんじゃないかと思っています。

(渋谷駅構内立体図を見せながら)例えば渋谷駅。みんな「渋谷ダンジョン」と言っているように、もうわけがわからないですよね。渋谷に来た人がこの地図を読み込んで、いろいろ書いてある標識は全部理解しているという前提に立っているから、こういう設計をしたんじゃないかと思っています。

(渋谷駅構内の写真を見せながら)こうやって見ると、やっぱりみんな迷うから矢印だらけです。「ヒカリエに行きたいなら……」と、たぶん迷う人が大勢いるんでしょうね。「ヒカリエ 中央改札へ」というパワポっぽい矢印が2枚も3枚もある。

広告も企画書も読み飛ばされる前提で書く

あとは軽減税率。もう、ぜんぜんわかんない。ビックリマンチョコは8パーセントだけど、プロ野球チップスは10パーセント。ステッキチョコは容器が資産じゃないから8パーセントだけど、カラーペンチョコは食べ終わったらペンとして使えるから税率は10パーセントと高い。

あとゴーゴーラムネはふたの部分にシールが貼ってあるため、笛として使えないから資産ではないけど、プチラムネは容器を笛として使えて資産にあたるから税率が高い。これを駄菓子屋のおばあちゃんやおじいちゃんが全部理解してくれると思っているから、こういうトンチンカンなことをしちゃうんじゃないかと思います。

僕たち広告会社の人間が広告の仕事を始めて最初に言われることって、「広告を見たくて見る人は1人もいないんだ」ということを、とにかく叩き込まれるんですよ。この広告の考え方を企画書にも応用してみるのがいいかなと思うんですね。みんな忙しいので、ビッシリ企画書を書き込んでも読み飛ばしちゃうから、それを前提に書こうよというのがまず大切なのかなと思います。

修飾語だらけの企画書は読みづらくなる

読みにくい企画書の問題って、いろいろあると思うんです。“修飾語だらけ問題”というものがあると思います。例えばこれは僕がお手本というか仮に書いてみた、ありがちな読みにくい広告のコピーです。

いろいろ言ってるけど、なんかわかんない。たまにポエムとかって揶揄されるような広告コピーって、多いと思うんですよね。なぜこれが読みにくいのかというと、修飾語だらけなんですよね。

リーディング・ブランドと言われても、「リーディングってどういうことだ?」と思う。次世代のモバイルイノベーションというのもよく言われますけど、なんだかよくわからないし。「革新的で洗練された」「上質とか」「ダイナミック」「かつてない」「パワーアップ」「圧倒的」とか。

良いものなんだと言おうとしているのはわかるんですけれども、具体的にどう良いのかぜんぜんわからない。こういう文章を書いていくと、やはり読み手にはなかなか届かないかと思います。

企画書ってどうしても、自分や自社を良く見せようとするものなので、こういう修飾語を使って文章のかさ増しをしがちなんですけれども、読みやすい企画書という観点からは得策ではないのかなと思っています。

具体性のあることだけを書く

これは書き換えてみたものなんですけれども、内容はまったく同じです。

前のものよりずいぶん読みやすくなっていると思います。ここでやったことは、「リーディング」「次世代」「革新的」「洗練された」「圧倒的」とか、修飾語を全部削除したんですね。やったことは、「シェア1位」「最新モデル」「手からすべり落ちにくい」「スクリーンの解像度が高くなった」「バージョンアップ」とか、具体的なことだけを書いたんですよね。

圧倒的とかリーディングブランドとか抽象的なことを言われても、受け手によって解釈が違ってしまってよくわからないので、具体性のあることだけを書くというのが仕事においては大切なのかなと思います。

見落とされがちな「改行」と「一文一意」

2つ目が気を使いすぎ問題ですね。これはさっきの「ネガティブながらもポジティブにお願いします」というメールとか典型だと思います。例えばこれは、また別の人から来たメールを一部改編したものです。

「冒頭の方でも記載いただいてはおりますが、前〇〇くんからもお伝えさせてもらったような、インスタの〇〇さんの時に出したような、取材→企画で今回の大事な〇〇ポイント! というような形で軸をしっかりみせれるといいのですがいかがでしょうか? 例えば〇〇さんの場合も:大食い:挑戦の源はたくさんの食事が源! →大食いのモチーフを活かす、とか、〇〇バランスに挑戦→〇〇バランスに挑戦! とか、たゆまない練習(挑戦)が彼の独自の〇〇を生んだ→〇〇とか。それぞれの企画に宿る〇〇ポイントをより見せて頂いたほうがクライアントにも落ちやすいかな、と思いましたがいかがでしょうか?」

これは実際僕に来たメールなんですけれども、いまだになんて書いてあるかまったわからないんです(笑)。こういう文章を読んでまず思うことは、改行してくれ!ということですよね。当たり前のようでいて、企画書とかメールとかでも改行しない人ってたくさんいると思うんですよ。1つの意味が終わったら改行することが、当たり前のようでいて意外とやらないので大切なのかなと思います。

あと1つの文章には1つの内容しか書かないというのは、すごく大切です。これを一文一意と言うんですね。これは企画書とかメールとでも、1つの内容が終わったら文章を区切るというのは意外とみんなやってないすごく大切なポイントです。

さっきの文章を読むと、いろいろ言ってるんですけど、言いたいことは「企画の軸を明記したいです。前回のインスタ提案のようなイメージ」ということなんですね。いろいろ言いたいことはあっても、それを1つの文章に詰め込もうとすると、文脈がねじれてよくわからなくなる。1つの内容が終わったら丸(。)をして次の文章に移るということが、意外と見落としがちな大切な部分かと思います。

言葉を括弧や中黒でつなぐのは禁止

あとこれも企画書でよく見る文章です。練習(挑戦)というふうに、括弧や中黒でつい言葉をつなぎたくなるじゃないですか。これをやるとめちゃくちゃわかりにくくなるので、言葉を括弧や中黒でつなぐのは禁止というふうに徹底するといいと思います。

例えば「コンセプト・アイデアを提案します」とか企画書でよく見かけますけれども、コンセプトとアイデアはぜんぜん違うものなので、よくわからないですよね。コンセプトであればコンセプトと書いたほうがいいし、アイデアであればアイデアとしてしまったほうがいい。

あと「ストラテジー・戦略」とか。これ同じような意味ですけれどもね。これも意外とみんな中黒とかですぐつなげるんですけれども、どちらかに絞ったほうがずっとわかりやすくなりますね。

あと方向性(企画)もよくありますよね。方向性なのか企画なのか、言葉の解釈をめぐって揉めることもすごくよくあります。括弧とかで似たような言葉を重ねるのはダメ押しでやりがちなんですけれども、やらないほうがすっきりとした読みやすい文章になるということが言えると思います。

「させていただきます」問題

あと「させていただきます」問題というのがあります。この「させていただきます」という言葉はおかしいんじゃないかみたいな記事を、僕がちょっと前に会社のWebサイトに書いたらすごくバズって、驚くほど多くの方に読まれました。たぶんみんな、心のどこかでちょっとおかしいなと思っていたんでしょうね。

例えばこういうメールとか、すごく来るようになりましたよね。「ご相談させてください」と。「ご相談させてください」と言っても、なんだかよくわからないですよね。やってほしいのか、こっちに判断を委ねているのか、よくわからないことが多い。

もっと遠回しになると「ご相談させていただければ幸いです」とか「ご相談させていただければ幸いと存じます」。これは実際に、この前僕に来たメールの文面です。「ご相談させていただくことを、ご相談させていただけないでしょうか」。もう何が言いたいのかさっぱりわかんない! 要するに「やり直せ」ということを言いたいだけだと思います。気を使いすぎて、却ってイライラする文章になってしまっている。

ここで食い止めないと、日本語が破壊されるんじゃないかと思ってしまっています。とはいえ、「させていただきました」とついつい僕も書いてしまいそうになるので、「いたしました」と言い換えるのがいいんじゃないかと思います。

例えば「確認させていただきます」とか「受賞させていただきました」とか。よく芸能人「入籍させていただいたことをご報告させていただきます」と言いますよね。これって全部「確認いたします」とか「受書いたしました」とか「入籍いたしました」と言い換えれば、十分礼儀正しい印象を与えられるし、日本語としてもこっちのほうが美しいのでいいんじゃないかと思っています。

「度を超した丁寧」にいいことは1つもない

なんで「させていただきます」みたいな言葉がいけないのかと言うと、慇懃無礼とよく言うじゃないですか。丁寧って度を超すと却って感じが悪くなると思うんですよ。度を超すと卑屈になると思うんですね。ビジネスにおいて卑屈になると、相手から舐められるのでいいことは1つもないんです。これはすごく気をつけたほうがいいんじゃないかと思います。

丁寧な人マウンティングで、変なマナー講師みたいな人がすごく増えてきています。最近、お賽銭の金額マナーの話が出回っていました。

お賽銭を5円にするとご縁があるとか、二重にご縁があるように25円にしたほうがいいとか、「これ以上の硬貨(効果)はない」という意味で500円を払ったほうがいいというマナーを言っている人が本当に大勢いるんですよね。

これに対して痛快だなと思ったのが、出雲大社が「祈りの心は、お賽銭の変な語呂合わせで左右されることはありません」とピシッと言い切っていて。こうやって丁寧な人マウンティングをやっていてもキリがないので、どっかでやめといたほうがいいなということかなと思います。

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