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「ビジネスマンの企画書術」橋口幸生氏(全4記事)

プレゼン下手でも、企画書が書ければ怖くない 誰も教えてくれなかった「企画書の書き方」

著名なゲストをお招きしたビジネスパーソン向けのイベント・動画・記事などを毎月公開している、奈良新聞デジタル会員限定コンテンツ。今回はその中から「ビジネスマンの企画書術」と題し、心を動かす伝え方のプロであるコピーライターの橋口幸生氏に学ぶビジネス講座の内容をお届けします。人に刺さる企画書、選ばれる企画書の極意を知りたいビジネスパーソン必見です。本パートでは橋口氏が、ダメな企画書の事例とともに「なぜダメなのか?」を考える大切さを語りました。(本記事の講演は4月18日にオンラインにて実施されました)。

電通コピーライターの橋口幸生氏に学ぶ「企画書術」

橋口幸生氏:『ビジネスマンの企画書術』というタイトルでお話しいたします。橋口です。軽く自己紹介いたしますと、コピーライターとしてやっています。代表作は、堺雅人さんが出ている「スカパー!」のキャンペーンや『鬼平犯科帳』のポスターのほか、ANA、プリッツ、FRISKなどを担当しています。このあともいくつか紹介します。

ここでいくつか自分の担当した仕事を紹介させてください。映像を流します。もし音声や映像に不具合があったら教えてください。

(映像再生)

たぶん僕がこれまで担当した中で一番長いのは、堺雅人さんの「スカパー!」のキャンペーンで、もう7年くらいやっています。長いキャンペーンなのでいくつか設定が変わっていて、今は堺さんが家族と一緒に「スカパー!」を観るという仕組みでやっています。

グラフィックはこんな感じですね。「家を楽しくするのはテレビだ。」というコピーでやっています。「家族でスカパーを観て楽しいよね」というメッセージをずっとやっています。

これはFRISKのポスターで、2年くらい前に作ったものです。「集中には、きっかけがいる。」というコピーや、「見たことのない景色は、一歩ふみ出した先にある。」というFRISKのキャンペーンをやっていました。

これはANAです。ANAって『スター・ウォーズ』とコラボしていて、スター・ウォーズ・ジェットとか飛ばしているのをみなさんもご存知だと思います。新3部作が公開されるたびにコラボの広告を出していて、それを2、3年ずっと作っていました。これはスターウォーズの新3部作の1作目(『フォースの覚醒』)が公開したときに作ったものですね。

コピーを書くだけではない、コピーライターの仕事の領域

これは5年くらい前に作ったCMです。映像を流します。

(映像再生)

5年くらい前には、のどごし<生>の、のどごし夢のキャンペーンというものです。いくつかCMを作りました。第1弾の長州力さんとやったものですね。

これはG・U・M PLAYというスマホにつなげて歯を磨くガジェットですね。今でもAmazonなどで販売されています。ネーミングやコンセプト作りなど、この映像の企画をひと通りやりました。

GUM PLAY for Kids (ガムプレイ フォーキッズ) スマートハブラシ アプリ連動 こども用Amazon Dash Replenishment 対応商品

コピーライターというと、キャッチフレーズを書くというイメージがすごく強いと思うんですけど、今のコピーライターってCMやポスターも作りながら、こういう仕事もたまにやるというスタンスの方が多いんじゃないかと思います。

最後が、僕が去年の末に出した本です。『言葉ダイエット』という企画書や仕事における文章をどう上手に書くかという本も書いたりしました。ここでまとめた内容をもとに、今日は『ビジネスマンの企画書術』というタイトルでお話ししたいなと思っています。よろしくお願いします。

言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術

企画書やメールの書き方はなぜか誰も教えてくれない

ここからが本チャンですね。『ビジネスマンの企画書術』。企画書術というタイトルがちょっとおもしろいなと思いました。

企画書術ってなぜか誰も教えてくれないと思うんですよね。どの会社も新人研修で名刺の渡し方とか電話の取り方とか、わりとどうでもいいことは教えてくれるんですけれども(笑)、肝心の企画書とかメールの文章をどうやって書くかというのは意外と誰も教えてくれないなと、僕はずっと思っていました。

なので、教えてくれないから結果として、みんな現場で学んでいると思うんですよね。たまたま付いた先輩とか上司がどういう文章を書いているのかを観察して、その通りにやるという人が多いと思いますし、僕もそうしていました。

これってたまたま、まわりに企画書を書く人がいればラッキーで自分も上手になれるんですけれども、やはりそんなに上手な人っていません。ほとんどの人が、ダメな企画書をお手本に書いているんじゃないかと思います。

例えばどんな感じかというと……。(スライドを見せながら)企画書ってこういう感じのものが多いと思うんですよね。これは僕が仮で作った、よくある見にくい企画書の例です。

(企画書の文言を読み上げる)「既存の調味料ユーザーにとどまらず、まだ、若くて自炊の習慣がない若い人たちに対して効果的なアプローチでメッセージを伝えて、今後、ABCソースを自分事ととらえる将来的なヘビー・ユーザー(SNSで発信)となっていただくことを狙います」。

それで、よくわからないパワポっぽいイラストとか矢印が貼ってある。

(引き続き読み上げる)「『自炊するならABCソース』のポジションを設定(自炊初体験のオケージョンをABCソースが提供)、その後もABCソースのロイヤル・ユーザーになってもらう機運を醸成します」というようなことを言っています。

しゃべりが下手でも、企画書が書ければプレゼンは怖くない

こういうやたらカタカナが多くて、カッコが多くて、矢印貼りまくってて、いろんな色を使っている企画書を書いている人が多いです。みんなそういうものを見て育っているから、こういうものを書くようになっていくと思うんですよ。

僕は正直、企画書の文章は、まわりくどく微妙な企画書文体みたいなもので書かなきゃいけないと思っていたんですね。なので社会人になってから、さっき見たみたいなあんまり読みやすくはない企画書をずっと書いていました。それが当たり前だと。たまにほかの会社から送られてくる企画書も全部そうなので、そういうものなんだと思ってやっていました。

ですが、社会人4年目くらいのときに社内外で一目置かれるクリエイターの下に付く機会があったんです。その人の書く企画書というのが、ものすごくわかりやすかったんですよ。なにより普通の言葉で書いていました。

そのときに「読みやすく書いていいんだ!」と。やっぱり活躍してる人って、普通に読みやすい文章を書いているんだなと。今まで自分が読んでた文章ってへたくそな文章だったんだということに気づいたんですね。今日はその気づきをこのZOOMのお話でも、みなさんと共有したいなと思っています。

よく若手のビジネスマンの方とか学生さんとかに、立場上いろいろ聞かれるんです。「自分は人前でうまくしゃべれないんです」と言う人がすごく多いんですけれども、正直しゃべりって下手でもすごくいいと思うんですね。自分の身の回りを見ても、滑舌が悪くても活躍してる人って別に普通にいると思うんですよ。もちろん上手に越したことはないですけどね。

プレゼンっていわゆるひな壇芸人とかではないので、フリートーク力みたいなのはあんまり必要なくて、スライドとかの文章が読みやすければなんとかなると思うんですね。なので十数年間ひどい企画書を読み続けてきた経験を活かした僕の企画書術を、今日はお伝えできればなと思っています。

「ダメなものがなぜダメなのか」を考える大切さ

例えば僕がさっきの『言葉ダイエット』という本を書くきっかけになったメールがあるんです。みなさんもこんなメールを受け取った経験がないかなと思っていて。

これ、実際のメールを一部改編して貼っています。(スライドを読み上げる)「皆さま 上記、基本的には、〇〇の意見に、クライアントも同じ方向を向かうと思いますが、クライアントは撮影の際も、ここの表情にこだわりを持ってみてました。なので、本編の……」。本編というのはCMの編集のことですね。「編集の際に、変更後の説明も、〇〇からのネガティブがありながらも、いつも通りポジティブな方向で、橋口さんから丁寧に説明いただけると助かります」と書いてありました。

これ、何て書いてあるかまったくわからないじゃないですか。本当に衝撃を受けました。「ネガティブがありながらもポジティブってどういうことなんだ!?」と思ったんですよね。最後の一行で僕に責任を押し付けたいんだなということだけはよくわかりました(笑)。「おまえは何を言ってるんだ?」とか思ったりしました。

さっきの文章を書いた人がダメ人間かというとそんなことはなくて、むしろ僕とかよりすごく空気が読めて、その場への気遣いができる人なんですよ。だけど、そういう人ほどいろんなことを考えすぎた結果、さっきみたいな「ネガティブながらもポジティブにお願いします」みたいになってしまうんじゃないかと思っています。

さっきの文章をもう一度出してます。何が言いたいかというと、「ごめんなさい。僕たちが提案した企画にNGが出ました」というだけのことを言ってるんですよね。こう書けばいいのに、責任を取りたくないとか嫌われたくないとか、いろんな思惑が駆け巡った結果、非常に遠回りなわかりにくい文章になってしまうと。

良いものが良い理由を考えるのはすごく大事なんですけれども、ダメなものがなんでダメなのかというのを考えるのもすごく大切だと思っています。

例えばTOTOウォシュレットのコピーで「おしりだって、洗ってほしい。」という伝説の名コピーがあります。意外と普通っぽいというか、そんなにうまいこと言ったなという感じはないじゃないですか。だけど、これを「おしりを洗おう!」としてしまうと全部台無しになっちゃうと思うんですよね。

このいい例をダメにしてみてわかったのは、「おしりを洗おう!」というのはいわゆるメーカーの意見の押し付けだけど、「おしりだって、洗ってほしい。」というのはおしりの視点で書いたコピーだから、みんなが共感できるものになっている。

メーカーの「売らんかな」というのが出ていないから、みんなが共感できるコピーになっていると思うんですね。こうやってダメにすることによって、良いものがなぜ良いのかわかるというのはけっこうあるかなと思っています。

もし『AKIRA』のタイトルが『東京エスパー』だったら?

例えば『AKIRA』というアニメがあるじゃないですか。今も東京オリンピックの中止を予言したと話題になっていますよね。『AKIRA』という大人気漫画が仮に『東京エスパー』というタイトルだったら、ぜんぜんおもしろくなさそうじゃないですか。

でも『AKIRA』と『東京エスパー』で、会議室で偉い人がハンコを押しやすいのは『東京エスパー』のほうだと思うんですよね。なぜなら、なにも間違っていないから。実際、東京でエスパーが戦う話だし。むしろ『AKIRA』って主人公の名前でもないしぜんぜんSF感がないので、上に上げるときに偉い人が「これ意味わかんねぇよ」と言ったら終わっちゃうことだと思うんですよ。

けど、『AKIRA』というSFらしくないタイトルが付いてるからちょっと読みたくなるんだなということが、この比較からわかるんじゃないかと思います。

あと『ブッダ』という漫画もあると思います。僕は子どものころ、これを本屋で見てすごくびっくりしたのをよく覚えています。「『ブッダ』って何だよ」と子ども心に思ったんですよね。なんの説明もないし、「ブッダなんて漫画になるの?」とびっくりしたのをよく覚えているんです。

例えばこれが『釈迦伝説~悟りへの長い旅~』とかになってしまうと、やっぱりすべてぶち壊しじゃないですか。これも1つも間違っていないので、上司に上げたら間違いなくハンコは押してもらえると思うんですけど、こういうことじゃないと思うんですよね。『ブッダ』という、なんの説明もなく投げっぱなしのタイトルだからすごく読みたくなるということがわかるんじゃないかと思います。

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