リモートワークへの社員の反響は?

――業界について伺えたので、ここからは御社の取り組みについてお聞きできればと思います。コロナが流行り始めてから、御社で「原則出社禁止」と「各種手当の拡充」が発表されましたが。それを決定された背景と、社員のみなさんの反響を伺えればと思います。

田中:社員の反響としては、手当に関しては「ありがとうございます」という話なんですけど、出社禁止に関しては「会社には行きたい」という人もいます。私自身も家に居るよりは、会社に行ったほうがいい。でも朝起きるのも面倒くさいし、家も悪くないかな(笑)。

実際に「精神的につらい」という人も少数ですが出てきていて。やっぱりさみしいんだろうなと思いますよね。

とはいえある新卒社員がおもしろいことを言っていて、大物になるなと思ったんですけど。「どう?うちの会社に入ってずっとリモートワークだけど」って質問に対して「いや、快適っす!」って言ってて。

「今までは親から『家に居ずに外に行きなさい!』って言われてたのに、今は『家に居なさい』って言われるから、俺の時代来たなーって思います」って。

――(笑)。

田中:なかなか大物になるな、と。僕は年上の人でも年下の人でもフラットに接しないといけないと思っていて。新卒の人とか20代の人とかの意見を肯定的に受け止めて聞くと、すごく学びが多いんですよ。

「あ、そうだよな」って思って。最初「在宅だったら手当がほしい」みたいな話があって。「みんなで苦難を乗り越えないといけないようなときなのに」とか一瞬思ったんですけれども、「ああ、そうだな」って思い直したんですよね。

会社としてもなにか報いられることはあったほうがいいんだろうなと思ったし。いろいろ発見はありましたよね。

コロナ後の社内課題は、コロナ前からあった

田中:あと社員が「コロナや在宅のせいでこういう問題が発生して」とか言っているんですけれども、そのほとんどはコロナ前からあったんだろうなと思うんですよ。

僕は、前から「ハンコをやめろ!」って言い続けていたんだけど「この業務に支障が」という話が出て。それで「社員に無理やりハンコを無くさせて仕事を増やすのもな」と思ったんですけど、マクロで見ると絶対に仕事は減るんですよね。だからやっぱり、ハンコは無くすことにしました。

あと電話が嫌いなんですよね。「電話を無くそう!」と言い続けています。でも社員は「電話を無くして、お客様が取れなくなったら困るんじゃないか?」と。

本当に今回、電話はどうしようかと。ただ確かに、お客様には申し訳なくて。「電話がある前提で契約いただいたお客様に報いられていない」というのはあるし、これは早急に考えなければいけない。やっぱりお客様あってのことなので。

ハンコの話に戻すと、例えば社員と会社が契約することもあるじゃないですか。執行役員だったら執行役員契約って毎年してますけれども、その契約も電子契約に変えることになりました。「これまでなんでハンコをついてたんやろ?」と思うわけですよ。

だからそういう感じに変わりましたし、そもそも「会社に来んでもええんじゃないか?」とずっと思い続けてきたので。なんのために会社に行くんだろうってずっと思ってたんですよ。

社員に問うても「どうなんですかね」みたいな感じで答えも出ないし。だから、社員がすごく困ってはいるので、それをいかに助けようかというのが最近、僕が思っていることですかね。

「出社しない前提」で議論する

――御社は「コロナが収まった後、5月以降も原則リモートワークにする」と発表されましたが、それも「出社しなくてもいいんじゃないか?」と思っている人たちを助けるというようなイメージだったんでしょうか? 

田中:そうです。あと前提ってすごく重要で。出社しない前提になると、変えることって多いと思うんですよ。

というのも「出社する人どうするんですか」みたいな話に付き合うと、結局「出社すること前提のものの考え方」になるんだけれども、そこを「出社しない前提」で考えることがすごく重要なんじゃないかなと思っていますね。

例えば電子契約なんかもいろいろあるけれども「出社した人がハンコを押せばいいじゃないですか」とか言うわけですよ。そうじゃなくて、出社しない前提なので「出社しないと考えたらどうなの?」みたいなことになるわけですよね。

遅刻・定時の考え方にしても、農業だったら「太陽が出たら刈りに行くか」みたいな程度だし。今、生産機器ってさくらの場合だとパソコンと脳ですよね。そう考えると、日が出たら仕事を始めて日が沈んだから仕事をやめたっていいわけですよね。

「一応、8時間は働こうね」というぐらいの話でいいと思うんですよね。それでどこに居てもいいし。それを基本でやればいいんだけども、でも「出社しなければならない」と思っている人によって、出社前提のルールが残ったりするのは非常にまずいと思っていて。

「出社する人は妨げないけれども、うちは出社しないことが前提なんだよ」というのがすごく重要なんですよね。すべての議論のときに「いや、出社しない人はどうするんですか?」と言えるので。

かつ、うちは大阪が本社なんだけれども、東京支社に居る人が多い。役員も東京支社に居る人が多いんで、東京の会議に遠方からzoomで参加してる人はマイノリティなわけなんですよね。

でも全員がzoomになると対等なので。東京に居た人は当初「やっぱり対面じゃないとやりにくい」とか言っていましたけれども、もともとzoomで入っていた遠方の人は「最近のほうが話しやすい」と言ってますから。これはもう、例外なく全員が。

オフィスは「仕事のための場所」ではなくなる

――なるほど(笑)。そういえば最近、コロナの影響でオフィス解約するスタートアップが増えてきていて。

田中:ありますね。

――かつリモートワークが前提になってくると「オフィスってなんだったんだろう」と思うのですが。

田中:僕は「オフィスは減らしません」と宣言しているんですね。ただ、前から「増やしません」とも言っていたんですよ。リモート前提でやりたいから増やしたくないと言ってたんですけれども。ズルズルと東京の支社もワンフロア増えちゃったんですが、今回ようやく「オフィスは減らさないけど増やさない」という話に落ち着きました。

ただ、出社しないとできないことってあると思うんですよ。僕、1番出社したい理由って「たこ焼きパーティーをしたい」ってことなんですよね。

――(笑)。

田中:社員の中からも「たこ焼きパーティーがしたい!」という意見ってすごく多くて、直接DMで来たりもするんですよね。これの本質は何かというと、会社ってしんどくて行く場所でもないと思うんですよね。本来、人生の多くの時間を使う場所なんだったら、楽しく過ごしたいと思うし。たぶんこれから会社に行くのは業務のためじゃなくなって。仕事はしないけどちょっと雑談しに行く、とかね。「そこら辺のバーに行く」ぐらいの感覚ですよね。

やはり、リレーションシップ。人間関係を構築するとか。あと部門によっては「週に1回だけ会社に行きましょうか、この日は」みたいなのを申し合わせてもいいんだろうし。やはり一人でやると寂しいですからね。

人間って、リモート前提には体の構造ができてないと思うんです。本当に一部の適応能力ある人だけで作った、リモート前提の会社ってありますけれども。会社の制度とか風土をリモート前提にしたとしても、人間の適応力でいうと我々はそこまで行けそうにないなと思うんで。折衷案としては会社に来てもいいよと。

ただ「会社に来ることは特殊なことなんだよ」としつつ、会社に来たら快適に過ごせるような空間を用意したいな、と。今、大阪も東京もすごいスペース余っていますから。だって10人しか出社しないと、1人100坪ある計算になりますからね。

――100坪!

田中:100坪あったら相当いい空間が作れますよ、本当に。「集中する場所作ってくれ」と会社によく言われるんですけど、それだったら家でやっとけという話なんですよね。

――ああ、確かに(笑)。

田中:会社で寝るくらいだったら、眠い日は家で仕事したらええからという話なんですよ。だから「会社というのは、コラボレーションする場所だ」というつもりでつくっているところあるし、うちもそうでしたけれども、もっと寄せていいはずなんですよね。

1人でやりたいときは家で、もうずっと1人で家に居てもいいような。さっきの新卒くんみたいな子は家に居ても良くて。「月に1回だけはみんなで会おうよ」みたいな。「たこ焼きパーティーするからさ」でいいと思うんですよね。

リモートでもやることは変わらない

田中:あと、仕事の業務の量なんですけれども「リモートになると、今まで以上に成果が求められるようになる」と言いますけれども、今までも成果求めていますから。「出社すれば成果求めなくて、在宅だから成果求める」とかないので。「会社に来ても成果出せよ」という話でしかないんですよね。

アウトプットがないと、さすがに上も分かるじゃないですか。「こいつ、仕事してないな」って。要は「8時間働いているかどうか」を見る必要ってないと思うんですよ。

どっちかというと、8時間以上働いたときは残業代つけないといけないんで。それだけはちゃんと明確に8時間以上の時間管理をしないといけないけれども。それは違法にならないように。

ただ、8時間勤務しなくても違法にはならないじゃないですか。会社との関係性だけなんで。そうなると「8時間働いてますか?」を計る必要もないし。

「働いているように見せている人」って面倒くさいんですよね。仕事を作ってくるし。あと「働いているのをちゃんと計ろう」ということによって起こるオーバーヘッドは、もったいないと思うので。だとすると、そんなに働いているか働いていないか目くじら立てる必要ってないんじゃないかと思いますよね。

――成果できちんと評価できているなら、そこは問題にはならないということですね。

田中:強いていうなら、今、人事を中心に「忙しい人と忙しくない人を可視化しよう」と。忙しくないっていっても、それは別に悪いことじゃないから、と。忙しい人がすごい疲弊しちゃうのも良くないし。

あと、究極的にまずいのは「俺、こんなにがんばっているのに、あいつぜんぜん仕事していない」となると、がんばった人がやる気なくしちゃうんで。モチベーション下げちゃうから。そこへの手当だけだと思うんですよね。

サボっているかサボっていないかということを目くじら立てるよりも、やはりがんばっている人に報いて、そうじゃない人を最終的にちゃんと評価のときにチェックイン、チェックアウトしていくということだけだと思うんですよね。

会社なので利益出たら最終的にはいいわけだけれども、利益を出すためなら何やってもいいというわけでもないし。

10年単位、100年単位、まあ100年は僕生きていないけど。10年、20年単位で見て、損しないように会社としてしないといけないから。そうなるとやはり従業員尊重しないといけないし、顧客尊重しないといけないというのは当然だと思うんですよ。

それで株価が上がれば株主も儲かるんで、やはりそれが従業員、お客さん、株主も得するというだけの話だと思いますけどね。そんなに特殊ではないですよね。儲けてなんぼなところは間違いないんで。ただ、それを短期的に持ってくるか中長期で持ってくるかだけだと思います。

「インフラ業界で働く」という尊い仕事

――ありがとうございます。では最後に、インフラ業界で働く人々にメッセージをいただければと思っております。

田中:やはり尊敬される仕事だと僕は思うんですね。「在宅勤務が重要だ」とか「働き方改革」といっても、インフラ業界ってどうしても「その場所にいて仕事しないといけない」と。その人たちにいかに敬意を表すことができるかということと共に、すごく尊い仕事をしているんだということを感じていただきたいと。

その上で「尊い仕事をしている」って名誉的なものだけではなくて、ちゃんと対価を貰っていい人たちだと思うんで、そういうふうに社会が変わるように私自身もがんばりたいと思うし、やはり、その対価を貰えるような大事な仕事をしていて、かつ、そういう仕事を自分自身もちゃんと広げていけるんだという、自信とやりがいとあとは責任感を持って仕事をしてほしいなと思っています。