科学的根拠は証明されていない「抗酸化物質」

ハンク・グリーン氏:おしゃれなスムージーや、いかにも科学的根拠のありそうなサプリメントなどの形をとって、「抗酸化物質を摂取するべきだ」と主張するニュース記事が、毎週のようにリリースされていますね。このような「抗酸化物質信仰」は、80年代から90年代初頭にかけて、「抗酸化物質は、病気予防に一定の効果があるかもしれない」と提言した、当時に台頭した研究が起源なのです。

食品やサプリメントメーカーがこのような研究に飛びつき、以来「抗酸化物質の効果」を喧伝してきました。しかし、「抗酸化物質の効果」をフォローアップする研究には矛盾が多く、科学者たちはいまだにその全容を解明できていません。

健康食品のコマーシャルを見る限り、「抗酸化物質」には、飲食するべきすばらしい健康効果が期待できるように思われます。しかし、化学【訳注;ケミストリー】においては、”antioxidant(「抗酸化の」もしくは「抗酸化物質」)”とは、形容詞というよりは名詞に近いものです。電子が対ではなく不対の状態の分子である、フリーラジカルを中和する化学物質や酵素の類を指すからです。

フリーラジカルは、細胞に著しい害を与えます。DNAを変化させたり、細胞の機能にとって大切な働きをするたんぱく質を阻害したり、絶妙なバランスで組織を結合する膜組織を破損したりします。

フリーラジカルは、食品や呼気などを通して、どこからでも体内に侵入してきます。フリーラジカルは、日光によっても、体内で合成され生成されてしまうのです。

酸化ストレスに長期間さらされると健康に害がある

人体の細胞は、抗酸化物質や酵素の広大なネットワークを用いて、人体が遭遇するさまざまなフリーラジカルを分解し、正常な状態を維持しようとします。しかし、体内で相殺できない量のフリーラジカルが過剰に生成されてしまう場合、細胞は「酸化ストレスを受けた」状態に陥ります。

残念なことに、泡風呂に浸かって『QUEER EYE』を視聴して(注;QUEER EYE;2003年-2007年FOXライフ放送の、5人のゲイ「ファブ5」によるライフスタイル改造番組)デトックスを図ったとしても、細胞のストレスを解消するには至りません。僕にとっては、有効な癒しではありますが。

体内の細胞が長期間、酸化ストレスにさらされた場合、健康に大きな害があります。

80年代から90年代にかけて、科学者たちは、ガン、心臓や神経変性の疾患など、老化によって起こるネガティブな作用の少なくとも一部が、酸化ストレスに起因するとして証拠を集め始めました。当時の研究は、抗酸化物質に富む地中海沿岸の食生活が、このような疾患の発症の低減と関連性があることを突き止めました。

検証を重ねた末、科学者たちは、食生活において抗酸化物質を補えば、このような疾患と関連性のある病気を防いだり、場合によっては回復させることができると仮説を立てました。これは素晴らしいアイデアですが、残念なことに裏付けが困難です。

研究者たちは、まず単一種類の抗酸化物質を投与してみて、試験管の中の細胞にはどのような影響が出るかを調べ始めました。すると、希望の持てる結果が出ました。例えば、いくつかの研究において、ビタミンEなどの物質を投与することにより、細胞膜への酸化ストレスによるダメージを軽減することに成功したのです。

しかし、このような細胞培養で得た結果を、生身の人体での臨床試験において、同じ抗酸化物質を投与して無作為化してみたところ、その効果には一貫性が見られませんでした。

果物や野菜を摂っている人は酸化ストレス起因の病気が少ない

例を挙げましょう。2005年に発表された「女性の健康に関する研究」という論文によりますと、約4万人の女性グループが、10年間、1日おきにビタミンEのサプリ、もしくは偽薬を摂取し続けました。これは、実験としてはかなりの規模の人数であり、信頼性の高い成果が期待できます。

この臨床試験においては、管理下の数値(シャーレでの実験を指す)に比較して、ガンと心臓疾患については、変化は見られませんでした。しかし、ビタミンEを摂取したグループに関しては、心臓に関連する死亡率に、24パーセントの減少が見られました。

ところが、2005年に発表された、約4万人を7年以上追跡調査した、別の研究によりますと、ビタミンEサプリを摂取した場合、心不全のリスクが増加したというのです。つまり、心臓に関連する死亡率が増加したことを示し、先に挙げた研究とは真逆の結果が出てしまったのです。

このような実験では、抗酸化サプリには、矛盾した結果が出されることが多く、個々の実験における発見を、額面通りに受け止めることは、ほぼ不可能です。事実、多様な健康面のバックグラウンドを持つ人々を対象としたさまざまな実験の結果を集めた、総勢約30万人というサンプルサイズで行われた、78件のランダム化比較試験をメタ分析したところ、抗酸化サプリには、実質的になんら効果が無いことが判明したのです。

一点だけ例外だったのは、抗酸化を3種類組み合わせて摂取した場合、加齢性の眼の疾患のリスクが、やや軽減されたことです。これは、うれしいですよね。とても重要な発見です。

このように、抗酸化サプリについては信頼性のある証拠が無いのですが、多くの研究において、果物や野菜を食事で多く摂っている人は、酸化ストレスに起因する病気の発症が少ないことがわかっています。シャーレ上での抗酸化サプリの効果が、ここでは見られたわけですね。

つまり、抗酸化物質を豊富に含んだ食事には、効果が見られるのです。

とはいえ、抗酸化サプリを人が摂取した場合の効果は、立証できていないのです。

いまだ解明されていない抗酸化サプリの真実

ところでこれは、単に投与量の問題である可能性もあります。抗酸化物質を、過剰もしくは過少に投与しているため、私たちが望む結果を出せていないのかもしれません。

もしくは、サプリにより増加した抗酸化物質の量を、体内の細胞が、抗酸化物質の生成を抑えることにより相殺してしまい、相対的な抗酸化物質レベルが変化していない可能性もありえます。

もしくは、単一種類の抗酸化物質では、臓器全体を疾患から守るのには十分ではないのかもしれません。単一種類ではなく、多岐に渡る、多様な抗酸化物質が必要とされる可能性があります。

前述のとおり、体内には、多種類の抗酸化物質があります。当然、果物や野菜に含有されている抗酸化物質も、多様です。実はこの多様性が、人体が、自然界から取り入れるフリーラジカルを中和する助けになっているのかもしれません。

個々の抗酸化物質の働きは、少しずつ異なります。例えば、ある個人に、ある種のフリーラジカルが過剰にあったとして、それに対して適切でない抗酸化物質を大量に投与したとしても、インフルエンザの人にばんそうこうを貼るような処置である可能性があります。要するに、正しい処置ではないのかもしれません。

いずれの理由にせよ、抗酸化サプリは、摂取を推奨されるに足る証拠が十分に存在しません。化学の力をもってしても、また食生活において抗酸化物質を摂取することが有効であるとわかってはいても、それは同様なのです。

人体は複雑であり、点と点とを結ぶサイエンスは、時に不可解ですが、むしろだからこそ、人はその究明に勤しむのです。いずれにせよ、抗酸化サプリの真実については、実はよくわかってはいないのです。