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広告業界のみなさん、いい「働き方改革」していますか?(全3記事)

男子学生の8割が「育児休暇を取りたい」 大企業が注目するイノベーションの新たな起爆剤は“休み方”

2019年5月27~30日、「Advertising Week Asia 2019」が開催されました。マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテイメントなどの幅広い業界が集い、未来のソリューションを共に探索する、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントです。本セッションは「広告業界のみなさん、いい『働き方改革』していますか?」と題し、クリエイティブディレクターの佐々木宏氏、株式会社ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏、人事コンサルタントの小西元紀氏、株式会社松田康利事務所代表の松田康利氏が登壇。さまざまな業界の工夫や失敗例を取り上げつつ、広告業界の働き方改革についてパネルディスカッションを開催しました。本パートでは、広告業界の働き方改革の現状や育児休暇の義務化などのトピックスを取り上げました。

ほとんどの会社で夜22時を超えないように働くのが当たり前に

松田康利氏(以下、松田):それでは、今日のテーマであります、広告会社では今どんな感じで(働き方改革が)進んでいるのか。人事データ担当の小西さんからリポートをお願いします。

小西元紀氏(以下、小西):ありがとうございます。もともと私は、JR東日本企画というところにいまして、人事に異動をしました。採用の仕事をやって、今はいろんな企業様とお仕事をさせていただいております。広告代理店は、仕事が多いけれども時間がかかるということもあって、各社いろんな取り組みをしていますので、少しその取り組みを紹介させていただきたいと思います。

広告会社はまず、電通さんの事件がありまして、徹底的に時間というところがテーマになってきています。今はほとんどの会社が、やっぱり夜の22時を超えないように働くのが当たり前になってきています。電通さんのリリースによると、その時間を区切ったというところによって、2016年に2,166時間が1人当たりの総労働時間だったのに対して、2018年でいくと1,952時間に削減できたということを言っていましたので、ある程度時間で区切ることも一定の成果はあったのではないかということを発表されていました。

ADKさんはノー残業デーをけっこう前からやられていて、「毎週水曜日は必ず帰れ」というようにしていました。これはもう定着されているそうなので、ノー残業、毎週水曜日にそのような取り組みをしています。

JR東日本企画はインターバルを設けています。要は、遅くなるときはしょうがない。でも、必ず9時間はあけて仕事をしようということで、インターバルをやっているということをしていました。

働き方では、時間だけではなくて、社員に裁量を課する裁量労働のようなこともあります。広告代理店各社、出版の講談社なんかも裁量労働を入れていますので、けっこう裁量労働はやっていますね。ただ最近は労基署も厳しいので、「それは本当に裁量労働ですか?」というようなことを言われるところも非常にリスクかなとは思います。

電通のロボット人事部、博報堂のサテライトビズなどの取り組み

小西:あと2つ目ですが、これはもう電通さん・博報堂さんを中心に、かなりRPA化に取り組まれています。電通さんの話をうかがったところ、いろいろRPAをされていて、だいたい全部で1,000部の工程を自動化して、20,000時間くらい削減されているということをおっしゃっていましたが。

松田:RPAってなんですか?

小西:ロボを推進していく、いかに機械化していくかというところになります。おもしろかったのが電通さんで、なにをRPA化しているのかと聞いたところ、PowerPointの清書をしている。なんか佐々木さんに怒られちゃいそうですが(笑)。

PowerPointで清書をしたり、あとは翻訳をしているなど。あと、今は情報センターも全部RPAに置き換えてしまって、LINEじゃないですけど、質問したらすぐ返ってくるようなかたちにしているというところもありました。

それを使わせるために、電通はロボット人事部というものをおいて、各部署に必ずその機械化を推進する役割の人として、それこそ営業を卒業された方などを置いて、とにかくロボット化をさせることを推進されているとおっしゃっていました。

あと3つ目、場所にこだわらない働き方へということで、博報堂さんの場合は、サテライトビズやシェアオフィスをかなり積極的に活用しています。今はモバイル端末で仕事ができる時代ですので、会社に戻って来なくていいよということをかなりされていました。

クリエイティブブティックなどもかなりそうしたところが増えてきていて、今日もいらっしゃっていますが、クリエイティブブティックのkiCkさんなんかは、そもそも「管理のない経営」を掲げていて、働く場所と時間もあまり気にしないよというようなことを言われていたり。そういったところもたくさんありますが。

Microsoftやヤフーは週休3日制を積極的に推進

松田:ありがとうございます。続いて、小西さんは広告会社以外でなにかおもしろい、気になるいい働き方改革はありますか?

小西:電通さんのことをきっかけに、いろんな会社で、もちろん電通さんを中心に政府ごと働き方改革をされていらっしゃるので、いろんなことが議論されていると思いますが。

来年オリンピックが行われます。佐々木さんがいらっしゃるオリパラもありますが、来年の7月8月に向けて、政府はテレワークをけっこう推奨されていらっしゃるんですよね。そうした関係で、いろんな企業が今年からかなりテレワークの取り組みをされています。

Microsoftさんやヤフーさんは、週休3日制を今年から謳っていて、積極的にされていたりもしています。そもそも佐々木さんの連さんのような働き方じゃないですけど、やっぱり副業を解禁している会社もすごく増えてきているという感じがします。

話題になったヤフーさんやソフトバンクさんなども徹底的にやっているというようなことがありました。先ほど労働時間について小室さんがお話されていましたが、私が今入らせていただいている伊藤忠さんは、朝方勤務を徹底していて、朝方勤務推奨のため朝食を支給していたり、原則残業は20時までといった取り組みをされています。

松田:完全にオンタイムに戻りましたね。

(一同笑)

世の中を引っ張っているのは限られた人

松田:みなさん、ありがとうございます。では、佐々木さん。

佐々木宏氏(以下、佐々木):はい。

松田:しゃべり足りないと思いますが(笑)。佐々木さんは昔から本当にシンガタで一緒にやらせていただいていましたが、無駄な時間が嫌いなんですよね。だから、本当に登壇しているのにずっと黙っている……。

佐々木:松田くんのしゃべりがけっこう無駄だと思っているんですよ。

(一同笑)

佐々木:時間がないのに。今日、僕は働き方改革についてということ自体が、あまり(気が)乗っていないんですよ。

お二人はコンサルというレベルじゃなくて、それぞれすごく実業があるし、小室さんは昔から、僕の相談相手と言ったら失礼かもしれないけど、なにかと僕のセンスの悪いところを正してくれる。もちろん女性の目線というものもありましたが、若い人の目線など、いろんなものを授けてくれて、本当にありがたかったんです。今はどんどん偉くなって、働き方改革の人のようになっているのね。僕はそれが寂しいんですよ。

小室淑恵氏(以下、小室):寂しいんですか(笑)。

佐々木:小室さん自身は資生堂にいらして、ものすごく仕事ができて、やっぱりこの美貌と、それからこのしゃべり方の説得力がすばらしいから、こういう人はなかなかいないわけですよね。やっぱり限られた人がものすごくグイグイと世の中を引っ張っているという感じはあるんですね。

これは小室さんの話でいうと、男が女がとか、若者が年配がとか、いろんな区分けをして統計を立てるのはいいんですけど、そういうデータより、これからAIが基準になってくるじゃないですか。

僕は、ま、高齢者の枠にいますが! 意外とスマホを使いまくっているし、操作が速いですし。とにかく僕は今LINEばっかりなんですよ。LINEはやっぱり一番素晴らしい。

もっと違うものが出てくるかもしれないけれども、iPhone以上のものがなかなかでてこないかなと。これを使うことで働き方改革ができるし、AIにも負けないと思っているんですね。人のコンサルなんかやっている場合じゃないので(笑)。

小室さんはすごく成功例が多いからいいんですが、やっぱり難しい表などを見せて、成功していないのに成功例を作っちゃう人もいっぱいいるんでね。こうした人に騙されないようにしましょう、というのも僕の役割。ちょっとビートたけしみたいになっているかな。

(一同笑)

休むのではなく、うまいサボり方をするという考え方

佐々木:本当にそういう感じですね。僕がいた会社が働き方改革の発火点になっていたので。でも、それが素晴らしかったと思うんですね。とってもいい会社だったし、本当に文句のないぐらいの感じで卒業したんですが。

だけど、やっぱりああいうことが起きて、そして、すごく真面目に対応したと思います。日本が働き方改革に発信力を持って、ここまでぐいぐい来れたのは、あの出来事だったと思うんです。大変不幸な悲しい話だったけれども、逆に言うと、ものすごく影響力があったなと。

でも、僕らはもっと働いた方がいいと思うんですよ。働くのをやめようじゃなくて、量じゃなく、質。質が悪い働き方をして、しかも量減らそう、ではね。考える時間は減らさないほうがいいですよね。常に考えた方がいいし、常におもしろいこと、センスがいいことをやらなきゃいけないのに、センスやおもしろいといった基準が、あまりこうした働き方改革には出てこないんですよね。

センスが悪いことを考えて、しかも働く時間を短くしてなんて言ったら、日本はだめになっちゃいますよ。そう思うので、偉そうですが、僕が今日ここに呼ばれて、最初に自己紹介だけして帰ろうと思ったんですが、これだけが言いたかったんです。

本当に働いている人は休みなんてなかなか取れないんですよ。休みを取れたと思っても、なかなか気持ち的には休めていない。そのかわり、その人が病気にならないためには、うまいサボり方をするのが僕は一番いいんじゃないかと思いました。休む、ではなく、サボる。働かないとサボれないから。

はい、偉そうにすみません。以上です。

松田:ありがとうございます。

佐々木:なんかアウェイな感じで。

(一同笑)

松田:いえいえ、いえいえ(笑)。

男子学生の8割が「育児休暇を取りたい」

小室:少し休みつながりで言ってもいいですか?

松田:もちろんです。

小室:今年の春、働き方改革という法律が1つ通過したので、一旦その上限をつけるという大仕事を、一応大企業であれば法律対応をしてクリアしたわけなんですね。そうすると本当にこれからどのように働くのか? ということの中身がやっと問われてくるというか。法律対応に必死すぎて、時間を減らす話をしすぎちゃったんですよね。

けれども、ここからは、その中身の提案というようになってくる。おもしろい動きなのが、今年に入ってから男性への育児休業の取得を大企業の経営者がすごく前向きに語り始めたんです。これまでこんなことはなかったの。「男がなんで休むんだよ」と言われていたんですね。

今までの大企業、とくに製造業のトップなんていうものは、そうしたことについてすごくネガティブでした。でも、この間アイシンさんといううちのクライアントなんですが、その伊勢社長が「なんで頭1つ抜きん出る採用戦略ができないんだ」「男子学生が今求めているものはなんなんだ?」と。

今、男子学生の8割が「育児休暇を取りたい」と言っているんですね。でも、実際の取得率は5パーセントなんです。この75パーセントのギャップが叶えられるところに若者は集まるようなんですよね。そこを狙って、この「育児休業100%宣言」というのも、宣言しようということになった。

意外なんですが、三菱UFJ銀行も男性の育児休業をほぼ義務化したようなんですね。「こうした動きの狙いは何なんですか?」と、いろいろな企業のトップに聞きにいったら、「男性は入社して同じコミュニティにずっと居続けるから、ぜんぜん発想がおもしろくなくなっちゃうんだ」と。育児というハッピーなことで一旦休む。

それによってぜんぜん違うコミュニティに入って、自分の業界では偉いと思っていたのにそうでもない、ぜんぜん通用しないというところで、別コミュニティに入って打ち砕かれたり、育児は時間をかなりかけないとコミュニケーションが取れないので、質というわけにはなかなかいかないんですが。そうしたところに自分ががっつりコミットをしなきゃいけなかったりという別の体験をして、それを持って戻ってきてくれる。

「これが会社にパラダイムシフトを起こすんじゃないかという、そうした期待をしているんだよね」ということを、わりと堅い企業のトップから言われて、私も勉強になったんです。

そうした今のイノベーションが起きない、とくに製造業などはすごく行き詰まっていると思うんですが、そうしたイノベーションが起きない企業が新たな起爆剤として、どう休むのかを考えているということが、今年は出てくるんじゃないかと思っています。

松田:そうですね。

発想を変えるには、女装して買い物に行くくらいのきっかけが必要

佐々木:今ので思い出したんですけど。小室さんもお子さんがいらして、子育てなどをしながらも、すごくいっぱい働いていますよね。昔、松田くんとやっていたイオン。私は途中でパッと消えたんですが、最初に私が言ったのは、イオンってショッピングで奥様向けという会社なのに、うちの会社に男ばっかりくるんですよ。

(一同笑)

幕張から30人くらいいらして、オヤジばかり。「男だ!」みたいな感じで、みんなで「主婦たちの気持ちは……」といろいろ語り合ってるんですね。

(一同笑)

そうだったんですよ。僕らが提案したのは、「性転換をしましょう」と言ったんですよね。女性の気持ちというと、すぐ自分の家の娘や奥さんに話を聞いてという感じです。「うちの娘がこう言っていました」なんて、その方のお嬢さんの意見が女性の代表みたいになるのもねーと。

もうとにかく自分自身が女装をしてでも、女性になりきって買い物に行きなさい、と。スーパーマーケットなどに行って、いろいろと発想を変えるきっかけを作りなさいと言いました。でも、これはその場ではみんな「ウハハッ」と笑って終わっちゃったんですが、やったほうがいいと思ったんですよ。やっぱりそのぐらいやらないと、体でわからないことは頭でわからないといいますか。そうしたお話をしたんですが。

松田:やっぱり、同じ目線にならないと無理じゃないですかね。それは今日、いろんなセッションということで、だいたい共通のテーマなんですが、それが当たり前な人にとっては「当たり前だから変えない」という感じです。

本当はいろんな人がいるんですよ。すごく熱心にみなさんの話を聞いていたらあっという間にそろそろ時間なんですけれども。広告業界は本当に工夫次第で、佐々木さんもおっしゃったように、無駄な時間・無駄なやり方は山ほどあると思うんですよね。

それを前向きにどんどん潰していって、ロボットにしてもいいし、やり方を変えてもいいし、人を変えていくのでもいいといった形で、一人ひとりにできることはまだまだいっぱいあると思うんですね。だからそのように、いい働き方改革。もうただの時間削減にならないような、もっと知恵のあるコミュニケーションベースのステップの働き方改革がいいなと思っております。

それではどうもありがとうございました。

(会場拍手)

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