2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
【コミュニティマーケティング最前線】トップランナーが語る実例と成功の法則 ーセッション①ー 「オープンイノベーションとコミュニティ」(全1記事)
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秋元洋平(以下、秋元):登壇者をお呼びしますので、みなさん拍手でお迎えいただければと思います。お一人目が株式会社NTTデータ・残間光太朗様、お二人目が佐川グローバルロジスティクス株式会社・原幸一様です。よろしくお願いします。
(会場拍手)
本日のモデレーターは、ログミー株式会社営業部長の秋元が務めさせていただきます。よろしくお願いします。
(プロモーションムービーが流れる)
残間光太朗氏(以下、残間):弊社はNTTデータというSI(システム・インテグレーション)をやっている会社です。今プロモーションムービーでご紹介させていただいたのは、世界20都市でオープンイノベーションコンテストを開いたときのものです。6年前からオープンイノベーション活動をやっています。
私、オープンイノベーション事業創発室の残間と申します。残酷の「残」に間抜けの「間」と覚えて帰っていただければと思います。「さあ、ともに世界を変えていこう」をキャッチフレーズにやらせていただいています。
オープンイノベーションということで、破壊的なイノベーションと既存のイノベーションを掛け合わせて、新しいビジネスを創発しようということでやっています。
NTTデータと、我々のお客様である大手の企業やスタートアップのベンチャー企業が、Win-Win-Winになるような新しいビジネスをつくる。こういう目標でやっております。
我々の本社が豊洲にありまして、「豊洲の港から」ということでベンチャー企業さんとのマンスリーフォーラムもやったりしています。コミュニティは4,000名を超えております。実績も数々出ており、6年の間に世界各地で、20件以上のビジネスが生まれています。
このように7つのテーマで(現在は8つ)デジタルビジネスをやっています。SDGsを掲げ、社会的インパクトを非常に重要視しています。社会的インパクトがあるものは、ビッグビジネスにつながるからです。
このように世界20都市を巡りまして、さまざまな企業と一緒にビジネスをつくっています。
ここにWeWorkさんがありますが、世界中にこのようなエコシステムがあります。左側がフランスの「Station F」、右側にあるのはブラジルの「Cubo」、次のページはポルトガルの「Lisbon HCB」ですね。
さまざまな国がエコシステムを応援して、スタートアップを集めて、国の力を強くしていこうという取り組みを行っています。私たちもそのエコシステムに加わりたく思っています。
これは宣伝でございますが、オープンイノベーション21の秘密 豊洲の港から奮闘記という本を出していますので、Amazonを見てください(笑)。
このように、「さあ、ともに世界を変えていこう」ということでやらせていただいています。よろしくお願いします。
(会場拍手)
秋元:ありがとうございます。それでは原さん、お願いいたします。
原幸一氏(以下、原):佐川グローバルロジスティクスの原と申します。よろしくお願いします。
佐川急便へ入社してドライバーから始めました。その後グループ会社である佐川グローバルロジスティクスに異動し、現在、経営企画部のビジネス企画課というところに所属しています。9ヵ月前から「WeWork 丸の内」に入り、情報収集や人材育成などをやっています。
なぜSGL(佐川グローバルロジスティクス)がWeWorkに入ったかというと、風土・環境を変化させたかったからなんです。佐川急便にいた頃は、トラックで配達に行くとお客様から情報が自然と入ってきたのですが、倉庫の中だとそれが難しいです。どうしても倉庫の中は閉ざされた空間になりやすいので、社員は最新情報をキャッチする場面が少なく、(情報との)出会いの場にふれられていないというのもあります。
また、私たちが社外への情報発信が不十分というのもあります。佐川急便のことはみなさんご存知だと思うんですが、グループ会社がフィナンシャルや保険会社をやっていたり、トラックを作っていたり、海外のフォワーディング(お客様の貨物を希望の場所へ届けるための手配業務)をやっていたりすることは、あまり知られていないと思います。我々のロジスティクスという分野は、グローバルサプライチェーンをデザインする会社なので、その認知度を上げていかなければいけない。
そういった風土を変えたほうがいいんじゃないかということで、WeWorkに入っています。入居から9ヶ月が経ちましたね。
当初は情報収集が目的だったんですが、半年ぐらい経って気づいたのが、情報を発信しなければ情報も集まってこないということ。結局、情報というのは探すというよりは、発信すると勝手にやってくるというのが最近わかってきました。
あとは、自社のアピール・人脈形成。当社では、お客様に物流の課題が顕在化してはじめて相談を受けるんですね。お客様が物流に関して課題に気づいていない状態だと出会うことがないんです。WeWorkは、クリエイターやマーケターが多いので、そういった方と出会える場がなかなかないので、人脈形成としては非常にいい空間であるというところです。
原:あとは人材育成です。実は(弊社から)7名入っていまして、そのうちの半分は3ヶ月とか2ヶ月の期間限定で、全国から手を挙げた人たちが来ています。会社に対して問題意識や挑戦心をもっているので、自分で他社と関係構築し、プロジェクトを組んで、役員に提案しにいく、という感じでやっています。
活動期間が決まっていて、その中で何ができるかを自分で模索して動く。そしてまた元の所属部署に戻ったり、別の部署に異動したりしています。そうやって、会社全体の風土を変えていくようなことをやっています。
これにはポイントがあります。弊社ではKPIというものを設定していないんです。唯一あるのが「2ヶ月に1回イベントをやりなさい」ということだけ。それでとくに何か成果を求めるわけではないんです。これは役員と直結で活動できたことが大きいと思います。
既存の業務は一切持ってきていないです。もうゼロの状態で入ってきて、「何やろうかな?」というのを考えますね。途中をすべて省いて役員に直接報告・相談していくという感じでやっています。
その参考の資料をお見せします。6月20日の時点で620名、380社とお会いさせていただきました。
過去にイベントを5回やらせていただきました。参加型の双方向型のゲームやイベントをしながら、ごく自然に「佐川がWeWorkに入っているよ」ということを知らせています。
裏側では社内に対してイベントの目的や狙っている成果、そしてイベントのポイントなどをしっかりと押さえたうえで提案しています。
前回、「WeWorkの中で一番のダンディは誰だ?」という趣旨で、『勝手にダンディグランプリ』というイベントを開催しました。我こそはという人を集めて、1位の方にはオーダーメイドスーツをプレゼントしました。実は今日、優勝者が来ているんですけれどもね(笑)。
「いろんな会社さんが参画することでおもしろくなりますよ」ということ、「弊社と何か手を組むといいことがありそうだ」という話題づくりを今はやっていっています。
WeWorkにはいろんな方がいらっしゃると思うんですけれども、いろんなことをやっていく中で、名前を売ってくれる仲間が自然と増えてきていました。
官公庁もそうなんですけれども、いろいろな面で既存のお客様に対しても、ブランディングができているという実感はあります。営業先のお客様から、「佐川さんWeWorkに入ってるらしいですね!」とあちこちで言われると営業担当からも聞いています。この輪が広がれば、「佐川が何か新しいことをしようとしている」というブランディングが実現していくと思っています。
秋元:事前に原さんと残間さんとお打ち合わせさせていただいた中で、「オープンイノベーションで新規事業をやっていく中で、何が難しいんですか? 何が一番課題なんですか?」とおうかがいしたときに、出てきたのがこれなんですよね。
ちなみに新規事業に関われている方はどれぐらいいらっしゃいますか?
(会場挙手)
けっこういますね。今回はここにフォーカスしてお二人にお話しいただけたらなと思います。
まず、よく困るのが「費用対効果」。残間さんからお願いします。
残間:これは必ず聞かれるんですよね。うちの会社でも、2年に1回ぐらいローテーションして役員が変わると、「お前、いくら儲かってるんだ?」「この活動がいくらで、どのぐらいの利益が出るんだ?」ということを必ず聞かれる。
毎回「そういう活動ではありません。これはイノベーションを生み出す活動なので、生み出すためには10年ぐらいかかります。ですから、チャレンジして失敗して、1,000個の中から3つ出てくるかどうかです」と伝えています。だから「継続するのが大事ですよ」と言うんですけど、なかなか難しいですよね。
立ち上げ当初は社内の説得はほとんどうまくいかなかったんですけれども、やっぱり社外の人たちがかなり応援してくれたんですよね。我々のやっている活動はすごくおもしろいと。
6年前に始めた当時は、スタートアップのみなさんはスタートアップのみなさんでコミュニティがあるんですが、我々は我々で(やっていて)、コミュニティの交わりがほとんどなかったんです。そこから、私たちが立ち上げたオープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」で各々のコミュニティを混ぜてやったんですよね。
これによって、大企業の人からは「やっぱりスタートアップの人っておもしろい」、「スタートアップの人からは「大企業の人とこういう話ができるのはすごくありがたい」という話になりました。お客様のほうから良い評判が伝わってきた。
それが巡り巡って、うちの幹部の耳に届くようになった。その件で呼び出されたときに言われたのが、「お前、なんかわけのわからないことをやっているじゃないか」「この活動はNTTデータらしくない。そこがいい」という言葉でした(笑)。
それまでは1〜2年ぐらいかかったんですけど、外の人と一緒にやらせていただくことによって、外の方々の評判に支えられていくという感じでなんとかやっていました。だから、新規ビジネス創発の実績は20件以上出ていますが、今でも費用対効果を聞かれると厳しいんです。
残間:あとはフラッグシップをつくることが重要と思っています。我々は革新的なビジネス創発を目的にしているので、「じゃあお前、100億円は儲かるのか?」と言われても、それはすぐに儲かるとはいえません。「でも、社会的なインパクトのあるサービスはできています」という言い方にして、「その社会的なインパクトは将来これだけのビジネスの可能性がある」(と伝えるようにしています)。我々は「フラッグシップ」と呼んでいるんですけど、そういう言い方をするようにしていますね。
秋元:ちなみに、外の方々を味方につけるときのポイントはありますか?
残間:外の方々もいきなりは来てくれなかったですよね。例えば営業担当経由で、何回も「お客様を呼んでください」と言っても、営業担当は「そんなわけのわからないイベントに、俺の大切なお客様を呼べるわけないだろ」ということになったんですよ。
だから、最初は仲間内で小さく始めているんですよね。その外の人も仲の良い人だけを呼びました。その中で「これは本当におもしろいから、呼んでくるよ」ということで、口コミで広げさせていただきました。
秋元:熱量の高い方が熱量を伝えていってくださった。
残間:だから、いきなり「大きいイベントをやります!」と打ち出しても、絶対失敗していたと思います。本当に小さいところから(始めました)。まぁ、それしかなかったんですけど。
秋元:それが今では世界で20ヶ国に。
残間:タイミングよく世の中にそういうムーブメントが起こったというのも後押しになったと思います。続けてこられて本当によかったと思います。
秋元:原さんはいかがですか?
原:私は残間さんほどはまだ出せておりません。今の企画課ができてから、まだ3ヶ月ということもありますが、やっぱり数字がつくこともあり、成果を強く求められるようになりました。
これはほかの大企業でもよく聞く話で、上司が代わると(運営方法も)変わるということです。
ただ最初の半年は、僕の中のミッションとして「継続しなきゃダメだ」と思っていました。この活動をまずは継続させるために、WeWorkの各拠点のキーマンを探しました。その各拠点のキーマンと呼ばれる方々が、佐川がweworkで有効的に活動していることを広めてくれました。
そうすると、経営層も「もっと継続しないとわからないな」という空気になってきたんですね。そして継続は決まったんですが、きちんと部署として確立したために、次は費用対効果がドーンとやってきました(笑)。継続になった瞬間に数字がついた。
でも、すぐには成果は出ないじゃないですか。この次のミッションは、残間さんみたいに何年も継続してやれるように理解してもらうかが重要と思いますね。
秋元:次のテーマは「温度差がある」。経営陣と現場との温度差や、社内でもリソースを提供してくれる部署との温度差といったテーマですね。残間さんはすごく苦労されたんじゃないかなと思うんですけど、いかがですか。
残間:本当にいろんなことで温度差(を感じること)ばかりなんですよね。立ち上げたころも「お前らは本当に楽しいことばかりやっていていいな」と言われました。現場は「明日も提案だ」「システムがうまく動かない」など、そんなことばっかりやっているわけですよね。
我々の活動に参加してもらいたいなと思って気をつけていたのは、「我々がビジネスをつくる部隊ではない」という言い方です。「ビジネスを創る支援をするアクセラレーション部隊である」とずっと言っています。
つまり、「我々はビジネスは立ち上げません」という宣言をしているんですね。「事業部のみなさまが主役です。我々はその主役の人たちを後押しする組織です」というかたちにしています。
オープンイノベーション活動で世界20都市をまわっていますが、ビジネスをやるときは必ず事業部が最初から関わって、事業部自身がビジネスを立ち上げるということを意識しています。
大企業の新規ビジネス企画組織のあるあるなのですが、例えば20〜30人の企画要員を集めて新規ビジネスを立ち上げてしまうと、必ずこれを事業部に引き渡さないといけなくなるときがくる。大きい組織じゃないと投資ができないので、「引き取ってください」と渡そうとするんですけど、「引き取ってもいいけど、これはお前が考えたアイデアだから、失敗してもお前のせいだよ」ということになってしまい魂が入らないんですね。
逆に事業部の中に新規企画組織を創ると、既存のお客様のニーズに引っ張られたり、クレーム対応などがでると総動員で対応となり、非連続な新規企画がまともにできなくなる。
だから、我々はその中間のアクセラレータ組織という位置づけにして、オープンイノベーションをやるときも、事業部がベンチャーを見つけて一緒にやるという決定をし、最初から事業部が新しくビジネスを考えるスキームに巻き込んでしまう。我々は支援に徹して、事業部に主役になってもらうことで温度差をなくそうとしています。「我々が創ったものではない」「成果は事業部のもの」というかたちです。これは事業部とのやりとりの話ですね。
経営陣とのやりとりは、先ほど話したことですね。外部の方からの評判を積み上げていただいたことでずいぶん目をかけていただけるようになってきたかと思います。
秋元:ありがとうございます。原さんのほうは?
原:うちはまだ仕掛けている案件が少ないですが、それでも温度差は感じます。おっしゃる通り、実行部隊ではないので企画や絵などを描いて、「これでいける!」とやや興奮気味で会社に提案しても、基本的にはみんな既存の実務があるため、温度感を伝えるのにパワーが必要です。
通常の業務がある上に「えっ、俺、これやるの?」というのがみんなにあるので、結局やるところまでフォローしないと動き出してくれない。そういう感覚はありますね。
経営層は基本的には概ね応援してくれますが、「あとは任せた」となるので、その狭間に置かれたときに、実行部隊との温度差を埋める活動にパワーがいりますね。
秋元:パワーがないと解決できないんですかね。
原:ここってたぶん感情的なものが大事だと思うんです。「本気でやるんだぞ」と見せつけないと、誰だって動かないですよね。
秋元:よく聞かれるのが、新規事業の担当の方も会社から辞令を受けてやるわけで、その方も温度差がいろいろあったと思うんですよね。うまくいく、いかないというのもあると思うんですけど、そのへんをなにか解決できるヒントはありますか?
原:たぶん「行け」と言われて行く人は、最初のうちは「えー」という感じだと思います。でも、そうなったら、もうやるしかないと思うんですよね。けっこうつらい状況だとは思いますが、本人が覚悟を持ってやらないと誰も助けてくれない。とはいえ、WeWorkもそうだし、味方は絶対にいるということですね。それを発信し続けると、手助けしてくれる人が意外といるんだなとここに来て実感しています。
秋元:それは社内外含めて?
原:そうですね。自分で抱えてしまうとダメなので、全部オープンにしていったほうがいいと思います。
残間:うちの中でも「イノベーションができる人とイノベーションができない人がいる」という言い方をされることがあります。「イノベーションができる人がうちの会社になんているわけがないだろう?」ぐらいのことを言う人もいるんですよね。
それはまったくのウソだと思っていて、場所がその人を変えると思うんですよね。ですから、そういったところに放り込まれて、背水の陣を敷かれるとやるんだと思うんですよ。
私も、どうやって社内でイノベーションをやったらいいのかわからないときに、原さんが言われたように、外に行ったんですよ。外のいろんなイノベーションをやっている人たちとお会いさせていただいた。
そのときには、うちの会社なんてレガシーだと思われていたので、「イノベーションなんてやらないでしょ」「ゆくゆく衰退していく企業でしょ」くらいに捉えられている。そういう意味だと、そういったコミュニティにも入れないんですよ。
最初は壁の花だったんですけど、ところが、何回も行っていると「また会いましたね」という雰囲気になっていくんですよね。おもしろい人と友達になると、おもしろい人を紹介してくれるじゃないですか。
いろんなイベントに顔を出して、「別のコミュニティの方々はこういうやり方でやってるんだ」とすごくわかってきたんですよね。それでいろんな人が集う「オープンイノベーションっていいな」と思いはじめた。なので新しい自分がワクワクするような環境に触れたら「新しいことができない人はいない」と思っています。できるんですよね(笑)。
さっき原さんが言ったとおりで、覚悟を決めてやろうと思えば、イノベーションをできない人はいないんじゃないかと思います。だから、そういう環境に置いてあげることがすごく大事な気がします。
秋元:わかりました。次のテーマは「評価制度」です。
お悩みの方が多いとは思うんですけれども、どれだけがんばって協力者を得ても、協力者の評価はなかなか反映されない。逆にオープンイノベーションに貢献したとしても、それがキャリアやサラリーなどに反映されない・評価されないことが、大企業にありがちの構造的な問題かなと思います。そのへんについて、お二人の会社ではどうされているんですか?
原:これがすごく大きい壁ですね。初めは部署がなかったので、もともと所属していた部署所属のまま人が集まってやっていました。「これどうなんだろうな」とすごく思っていました。
僕は営業出身なので、やったらやった分だけ評価がついてきた側からすると、最初は戸惑いました。でも、今自分がしていることが、大きくみれば、みんなのため、会社のためになっていることも感じていました。
当然こういった成果を見出しにくいという問題は見直さないといけないと思っています。実行部隊に渡すとき、担当者になる人は本来の業務がありつつやらないといけないので、それはどう評価されるのか。
でも、費やす時間やパワーは必要なので、そこの評価がすごく見えづらい。だから真剣に考えないと、おもしろくなりません。今、その壁にぶち当たっているんです。
秋元:なるほど。わかりました。
残間:まったく同じですね。ある程度大きい会社になると、評価制度には歴史があるんですよね。だからなかなか簡単には変えられないんですよね。変えなきゃいけないというのは、みなさんわかってはいるんですよ。
うちの会社もそういう意味だと、ずいぶん変えようとしている。チャレンジしている人たちが評価されるようにしていこう、という制度に変える動きにドライブがかかっています。
そうはいってもドラスティックに変えるのは、すごく難しいんだと思うんですよ。最終的には利益が出たり、大きなプロジェクトをやったりした人たちが評価される。会社の売上に貢献し、業績に貢献すれば当然ですよね。
その中でも新規をやらなければいけない。しかもやりたい人たちがいる。これは間違いないですよね。僕の場合は、当然評価はしてほしいですけれど、あるときから「評価されなくてもいい」と思い始めたんですね。
どういうことかというと、ある意味の危機感なんですよね。会社の危機感であり、自分への危機感でもある。こういう経験を自分が積んでおかないと、「この会社が万が一潰れたときに自分は果たして生き残っていけるのか?」という問いなんですよ。
会社内の評価ってすごく気になっちゃうんですよ。でも、これからどんどん世の中が変わっていく。そのときに「自分が継続的に生きていくためには、自分はどんな成長をしなきゃいけない?」となる。
オープンイノベーション活動は、ものすごいビジネスをつくる人たちの波にのまれる活動なので、そういう意味ではビジネスをつくるためのノウハウが見えるんですよね。そういうモチベーションで自分自身もやっています。そして、なんとかうちに来いと人材を引っ張っているときも、そういうモチベーションを持ってもらおうと思っています。
とはいえ、優秀な社員は上司を忖度して、「いやー、私はまだまだ」と言いながら、会社から評価されるほうに行っちゃう(笑)。そこが相変わらず難しいですけど、私自身の評価へのモチベーションの上げ方は、会社に縛られない人材になれるかというところに持っていくようにしています。
秋元:会社の制度としては、新規事業に関わるものではないんですか?
残間:変わってきました。今までの利益中心のやり方から、ビジネスをディベロップメントする人を育てていこうとか、特殊な技能を持っている人たちを高い給与体系の中に入れようとか、そういう取り組みは始まっています。
それをどうドライブしていくかがすごく難しいですよね。イノベーションをつくったときには、本当にそれがイノベーションかどうかはわからない。5〜10年後じゃないと、ビッグビジネスになるかどうかはわからないので、最初に評価するのはすごく難しい。
だから、チャレンジして失敗した回数が何回かで評価したりすることも考えないといけないですね(笑)。
秋元:費用対効果を見てしまうと、新規事業やオープンイノベーションなどは構造的に成り立たない。もう無理だということですね。芽が出るかわからないものに対してやっていく部署だと、会社も担当者もきちんと理解し、共通認識として捉えることが大事ですね。
残間:そうですね。多産多死の仕掛けづくりができるかどうかにかかっているのではないかと思っていますね。
秋元:ありがとうございます。お二人にご質問がある方がいらっしゃいましたら、手を挙げていただければと思います。
質問者1:お話ありがとうございました。役員以上の社長と役員をいかに巻き込むことが大事だなと共感を抱いたんですが、同時にいかに全社的に社員の人の当事者意識を高めるかが大事かなと思っています。
リクルートだと、社内で全員社員を巻き込むような新規事業提案制度をやっています。そういうものを検討されていらっしゃるのか、あるいはできないのか。そうであれば理由を聞いてみたいです。
原:弊社のグループではベンチャービジネスグランプリという企画をやっていまして、全社員対象でビジネスアイデアを出します。最終選考では会長の前でプレゼンするんですね。優勝したら賞金ももらえる。事業として可能性がありそうだと判断されれば、継続して事業化が検討されるんです。
私は、2014年に優勝したんですよ。当時の応募総数は1,000件ぐらいでした。それで事業化しそうだったんですけど、結果的にはしなかったんですよね。ベンチャービジネスグランプリは継続していて、検討途中のものもあるんですが、実質的な事業化はまだ1個もないと思います。
残間:うちの会社では、20年ぐらい前に社内ベンチャー制度ができました。そこから社内ベンチャーが生まれた実績があるんですね。ただそれは最初の1〜2年は盛り上がったんですけど、それ以降は鳴かず飛ばず。
その結果、社内ベンチャー制度で生き残ったのは、2社か3社ぐらいしかないですね。それが失敗経験になってしまっているんですよ。ですから、「社内ベンチャーは前にやったけれども、うまくいかなかったよね」という空気がありますね。
今、それを変えようとしていて、社内からもベンチャー的な新規事業をつくっていかないといけない時代になったと話を進めようとしています。もう一度それをグローバルで復活させようという動きをしています。何とか今年度中にはできるようにしたいと思っています。
新規事業アイディアは、事業部が主体として進めていくということになればいいんですけど、これからは既存の業界を壊すようなビジネスをつくっていかないといけないじゃないですか。そうすると、主体となる事業部がないことがでてくるんですよね。
そんなディスラプティブなビジネスのパッションを持った人がいたとしたら、そいつを軸に新しいビジネスを立ち上げるというアクティビティをつくらないといけないと思っています。それがベンチャー的にビジネスを立ち上げることだと思ってるんですよね。なんとか大企業から新しいベンチャーを生み出せるような仕掛けを、もう一度つくりたいと思っています。
秋元:ありがとうございます。これにて第1部セッションを終了させていただきたいと思います。あらためて残間様と原様に大きな拍手をお送りください。ありがとうございました。
(会場拍手)
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