どう老いるかは、どう生きてきたか

佐々木常夫氏:今、私のもとにはタイムマネジメント、働き方改革の講演依頼がたくさん来ているのですが、冒頭にお話しした通り、今回幻冬舎さんは働き方ではなく、この『人生は理不尽』という老い方の本を書くことを勧めて来られて、「『君はどう老いるか』というタイトルでどうかな」とね、言ってきました。

人生は理不尽

あまり考えたことがなかったのですが、「どう老いるか」ということは、「その人が今までどう生きてきたか」ということになるわけです。例えば40代ぐらいまでの生き方、あるいは50代くらいまでの生き方が老い方になっているわけですよ。それまでの延長線上にありますから。若いときにやったこと、1回その身についたものというのは、なかなか変えられませんからね。

そうした意味で私は、この本の中で「死ぬまで楽しく働こう」と書いているところの最初の方に、「自分磨きはもういいよ」というように書きました。先ほど言った、その40代、50代で培ったものがありますからね。それをいまさら変えることはなかなかできない。人はあまり変わらないし、変われないということです。

それから、働くことに勝る生き甲斐はない。定年はありますが、なるべく健康であれば、あるいは病気の1つや2つがあるぐらいであれば、ずーっと働いた方がいいんじゃないかと思っています。4年くらい前ですかね、『マイ・インターン』という映画がありました。

ロバート・デ・ニーロが主人公です。70歳の設定ですね。彼が奥さんを亡くして旅行をしたり、音楽会に行ったりする。いろんなことをやって楽しもうと思ったのに、満ち足りない。やっぱり働くことが一番自分に合っている。彼は大手の企業の部長までいった人なんですよね。やっぱり働こう、と。

社長は40歳の女性。アン・ハサウェイが演じていて、つまり30歳年下の上司に仕えるというストーリーなんですね。彼は経験も豊富で、年齢もいっている。大手の企業の部長までいったのに、今度は秘書になったという。

その40歳の女性の上司に仕えるという努力をしまして、いろんな社員のためにがんばったり、社長のためにがんばったりすることが認められて、だんだんと信頼関係ができていくんです。彼女はもう、最初はバカにしておりまして。自分の仕事から外していたのですが、結局手伝ってもらうことになる。

このときに、ロバート・デ・ニーロが演じるベンという主人公が言ったのは「働くことが一番の生き甲斐だ」ということ。これは、やっぱり実感なんです。できれば、働き続ければいいのではないかと私は思っています。

定年後も小さな目標を作ることが生き甲斐になる

それから、定年後の仕事は、すこしでも稼げればいいのではないかと思っています。普通の会社は60歳定年制をひいていて、65歳まで再雇用しますね。いったん定年になって、退職金を払うので、給料が大幅に下がります。だいたい半分になりますね。ひどいところになると3分の1ですね。

けれども、例え少なくても働くチャンスがあれば、私はそれでも我慢すればいいと思います。私は東レ経営研究所の社長をやって、辞めるだろうと思ったんです。もうなにもすることがないから。そのとき、ちょうどキヤノンさんと付き合いがありました。キヤノングローバル研究所というものができあがるところだったんですね。

その話を聞いて、スタッフの方に「私を雇ってくれませんか」と言いました。「そういうことの若干のお手伝いはできますよ」と言ったら「んー」と言われましてね。「でも、やっぱり経済的には難しいから」と言うので、私は「10万円でいいです」とお伝えしたんです。

たぶん、働くチャンスがあれば、すこしでも稼げればそれでいいんじゃないかと思っています。それから、この読者層というのは、65歳以上くらいを踏まえておりますが。もうそうした年になったのであれば、先ほど「自分磨きはもういらない」といいましたが、若干の目標は必要です。

昔は、やっぱり「出世しよう」「お金を儲けよう」「ヒット商品を作ろう」といったように、大きな目標があったかもしれませんが、この年代になってきたら、小さな目標でいいからなにかを作った方が生き甲斐になるんじゃないかと思います。ちょっとだけ高い、小さな目標。

例えば、1日1万歩歩こう。人によっては100名城を巡ろうといった、そんな感じでなんでもいいんですが。そうしたものを持っていた方が、張り合いがあるのではないかと思います。地域活動ですね。会社を辞めますと、あれはおもしろいですね。突然付き合う人数が大幅に減っちゃうんですね。

自分が生きる舞台が、会社から家族と地域社会になっていく

昔の同僚とはたまには会うことがあってもね、その会社には行けませんよ。行ったところで邪魔者扱いですしね。後輩たちも、会社での関係がなくなると、ほとんど来ませんよね。結局、自分が生きる舞台というのは、家族と地域社会だけなんです。ですからボランティア活動をやったりね。

私の場合は頼まれてなのですが、ボランティアをやっていて一番大きいのは、秋田県の復興のための委員です。私は秋田の出身なのでね。またその他だと、マンションの幹事をやりました。私は頼まれたら断らない方なんでね。去年まで私が住んでいたマンションの組合の幹事をやりました。

けっこう頼られて、信頼されているようです。上の階の人の部屋に行ったりもしてね。なかなかいい世界ができていますよ。だから舞台を、会社から地域社会に移したらどうでしょうか。私の尊敬する先輩は、その地域ではありませんが、ボランティアで商売の人たちをサポートするような会をやっています。

それから、同窓会ですね。私は同窓会というのは、昔の自分に会いに行く会だと思っていますね。行けば懐かしいでしょ? 懐かしい自分が、ああこういうことだった、小学校時代、中学校時代、あるいは高校、大学。私は高校時代の同窓会、大学時代の同窓会、というように、その人によって偏ってはいますが、それは自分の思い出が一番詰まっているところに行くものです。

ただ、毎回行っても、だいたい同じような話ですよね。だから、あんまりたくさん行ってもしょうがないと私は思っていますが、ときどき行くのはいいだろうと。幹事の勧めというのは、できればということですね。

私の場合は、頻繁にやるのは大学の同窓会です。ワンダーフォーゲル部という山登りの会に入っておりました。毎日訓練をするし、それから月に1回は山登りに行きますからね。兄弟のようなものだったんですよ。

私は就職して大阪に行っている間、18年間1回も同窓会をやっていなかった。東京に戻ってきたら「あいつならやってくれるだろう」というように頼まれて、やったんですよね。

老後の安心は人間関係がカギ

2月の第4金曜日には東レの社員クラブ。18時からというのを、仙台から福岡から、30人くらい来ましてね。16時くらいから来た人もいるんですよ。東レの応接室で大騒ぎになりまして。受付の女の子に怒られました。18時から始まったのが、2次会、3次会と続いて夜中までいっちゃって。私は最後に宣言した。

「昔はあれだけ仲良かったものが、18年間も1度も会わないでいるのはおかしい。こんなに仲がいいんじゃないか。これからは毎年やる。今日、この場所、2月の第4金曜日に東レの社員クラブを催すから、招集状がなくても来い!」と。それから今はざっと70ですが、40歳の時から30年間毎年やりました。

最初はずっとそこでやっていましたが、年を取ってくると、私は東レも辞めたことですし、東レを会場にするのはやめました。レストランで、2月は寒いから5月か6月に。全員の日程を聞いて、一番集まりそうなところでやる。この頃は奥さんを連れてくる人もいましてね。

囲碁の会や小旅行会などもやって、すごく仲が良いですよ。台湾に移住した人もいました。年金生活が日本じゃ大変だから、台湾へ行って暮らそうだなんて、すごいですよね。生活費が3分の1だって。日本の年金で余りがあると言っていましたよ。

台湾で同窓会をやろうと言うから、2月にやりましたよ。日本は寒いですが、向こうへ行けばあったかいですからね。台湾というのは、すごくいいところですね。本当にびっくりしました。だからみなさん、できれば幹事をやってはどうでしょうか。

老後の安心は人間関係がカギということは、この間、岸見一郎さんと対談した際に改めて感じたことです。岸見さんは『嫌われる勇気』という本を書いた人で、今日の新聞で190万部を売ったと書いてありました。まだ売れていますね。まあ200万部は超えてくるでしょう。

アルフレッド・アドラーの教えを書いたんですね。私はアドラーのことはあまり知らなかったので、3冊ほど読んでから対談に行きました。そうしたらですね、このアドラーの考え方は、私の考え方と似たようなところがありました。ちょっとご紹介しますね。

一人ひとりが長所を活かし、お互いをリスペクトする組織の強さ

3大心理学者のアドラーの心理学を一言で言うと、「人はいつでも変われる。誰でも幸せになれる」と言っているんですよ。その条件がいくつかあります。そのうちの1つ、1人で生きている人は誰もいない。必ず誰かとつながっている。対人関係を持っています。その対人関係の中に喜びを見出し、幸せを見出していく。ところが、すべての悩みは対人関係にあるのです。

その対人関係を上手くやろうと思ったときに、アドラーは人生は他者との競争ではない。我々は同じではないが対等である。人間関係を縦ではなく横で捉えなさいといっているんですね。縦というのは上司と部下、親と子ですね。昔であれば男性と女性。私は30歳のときから、自分の年下も年上もみんな“さん付け”で呼ぶようにしたんです。

私より若い人でも、私を超えるものを持っている人がいるんです。私より年上でもね、私の方が得意なものがあります。みんないいところ、強いところを持っているんですよ。だからそれを認めて、そうした強さを認めて、それをリスペクトして、組織運営をしていくと、組織が活性化していくんです。

部下たちは私の指示に従うのではなく、自分で考えよう、自分で提案しようと行動に移るわけですね。この間、私は帝京大学ラグビー部の監督の岩出さんという方と対談をしました。この帝京大学というのは、大学選手権を9連覇している学校です。

社会人ならまだわかりますよ。ところが学生というのは、卒業していくんです。3年、4年が中心ですから、その人たちは卒業していくわけです。そのラグビー部が、9年連続でなぜ優勝できたのかという質問をしたところ、岩出さんはこう言ったんですよ。

「私は部員に対して、いつも申し上げています。『君たちがラグビーをやる目的は、ラグビーの試合で勝つことではない。ラグビーを通じて自分が自立すること。成長すること。チームのために貢献することだ。だからラグビーをする前に授業に出なさい。きちんと挨拶をしなさい。整理整頓をしなさい。4年生も1年生もない。みんな平等だ。お互いにリスペクトしなさい』。それで、1年生がやっていた雑用を、4年生に移した。これが秘訣です」と。

私は秋田の出身ですが、去年の夏の甲子園の金足農業。決勝までいったでしょ? 東北の高校では、甲子園に行く高校はほとんど全部、関東・関西出身です。ところが、金足農業は9人全員が秋田県出身の公立高校。この監督が、まったく同じ指導をやっているんですね。今、スポーツ業界は大変な見直しに入っているんですよ。

日大のアメフト部に代表されるような、監督の指示が絶対という、あれからそうした上から目線の命令調をやめようということになった。これからはもう、生徒の自主性を重んじて、その生徒が自立してチームのためにどう貢献できるかということを考えるようになっているのです。