事業者向けの仮想通貨事業をスタート

前田恵一氏(以下、前田):余語さんが今やっていらっしゃるブロックチェーンまわりの話は、どちらかというと金融機関向けの話になるんでしょうか。

余語邦彦氏(以下、余語):そうですね。この会社、実はうちの近所に住んでいた東大の大学院の、博士課程の学生さんと一緒に去年立ち上げたんです。日向さんと言ってまだ28歳なんですけれど、彼は東大の物理専攻で、頭の中がバイナリー・コードみたいな人なんです(笑)。

改正資金決済法が2017年4月に施行されたんですけれど、金融庁に登録すれば仮想通貨を堂々と扱ってもいいという画期的な法律です。それが施行されると決まったときに、FX事業者などが「ドル」「円」「ユーロ」といった品揃えの中に、ビットコインやイーサリアムを加えたい、ということでワーッと手を挙げたんですよ。

でも、どうも仮想通貨を扱うためにはウォレットがいるらしいと。誰が作ってくれるんだと言って、いろんなSIerに声をかけても誰も作れない。回りまわって、日向くんのところに問い合わせがまわってくるんですよ。それを僕が横で見ていて、「それだったら作ってあげたら?」と言ったんです。

一社一社が受託開発をしていても割が合わないから、「じゃあ、パッケージ・ソフトにしてみんなで使ってもらたらいいじゃん?」ということで、バーッと潜在的顧客を2人で一緒にまわって市場調査をして、これならいけると。それで立ち上げた会社なんですね。おかげさまで去年の8月に会社を立ち上げて、基本設計をして、10月くらいから開発を始めて、7月にビットコインバージョンと、9月にイーサリアムバージョンが完成しました。

事業者向けなので、あくまでもみなさんがスマホにインストールして使うのとはまた違って、いろんな意味でのセキュリティとかスケーラビリティとか、そういうのをちゃんとしないといけないんですけれど、順調に立ち上げて6月にはベンチャーキャピタルから投資も入れました。

僕は1990年代にシリコンバレーで仕事をしてたこともあって、いわゆるゴジラ企業、マイクロソフトとかオラクルみたいな新生企業がガーッと成長していくのを経験値として知っていたので、日本でもそういうこと実現したいなと思っていたんです。

そういうモデルを実践してみようと思ったら、今のところうまくいっています。 ただ、ご存じのように昨年1月にはコインチェックでや9月にはザイフ(Zaif)で仮想通貨がハッキングを受けて流出するという事件があって、金融庁が急に規制を強化して新規参入の審査プロセスが停滞してしまったんです。

せっかくいい法律を作って、日本発で世界に先端技術の発信ができていく。そういった珍しいケースで非常にいいことをやったなと思っていたのがちょっと残念ですね。

投資したいと思えるのはどんな事業?

前田:ありがとうございます。今、お三方の顔を見ながら思ったのは、出資したりされたりみたいなことを、けっこう根強く経験されている方々が多いなという印象があります。とくに出資するときは、社会がどうなっていくかもそうですし、その方がどういう素質の方なのかみたいな観点で出資されているだろうと思います。

人柄の話はけっこう属人化しすぎているところもあるんですが、実際どういうことに投資してみたいか、そういう心が動くかどうかみたいなところを、とくに丈くんに聞いてみたいなと思います。

平尾丈氏(以下、平尾):前ちゃんは名モデレーターですね。この3人の共通項を、メタ化してこうしてくるのはありがたいですね。でも、ずっと会話すると最後なにかひと言言って終わりなのかなと思うんですね。

前田:(会場のみなさんが)ぜんぜんついてきてない。

平尾:眠いのかな。もうちょっと起きてくださいね。

(会場笑)

僕はたぶん、日本人だとほぼユニークなところに、ほぼ誰も入れていないところに入れていると思います。

余語:知ってるよ、それ。できたてのとき、僕が訪ねていった。

平尾:会社にですか。めちゃくちゃいい会社で、ありがとうございます、余語さん。こういう感じで権威の方が支えていただけると、僕のオーソリティがない話にいい感じで文脈が付くんですよ。

(会場笑)

「平尾さんは何の役に立つんですか?」と面談される側に

平尾:どちらかというと、世の中を変えるパラダイムは、僕もインターネット企業の社長をやっていながらちょっと悲しいんだけれど、インターネットの薄いプラットフォームの、さらにアプリケーションサイドのさらに薄いところでだけでやっていると、なかなかリアルに行きづらいところがあります。

なので、こういったぜんぜん違うテーマであったり、いろんなところに張っているんです。次の世の中のルールを変えそうな会社に投資しているという感じです。

でも、自分は生涯起業家でいたいと思っています。投資家の立場で投資をしているわけではまったくなく、起業アントレプレナーとして対峙していますね。そういう会社さんは順番待ちなんですよ。名VCたちが順番待ちで、もうシェア合戦になっているんです。

だからこちら側が面談されます。逆に投資サイドが起業家ピッチをやってもらって「投資します」となることはまったくなくて、投資家が面談されるんですよ。「平尾さんは、何の役に立つんですか?」みたいに(笑)。

ベンチャーキャピタルの責任の重さ

前田:僕はモデレーターとして咀嚼ができていないです。もしよかったら、余語さん、どういうご感想をお持ちでしょうか。

余語:要するに、自己資金でやっているわけですよね。僕なんかは自分が支援しているベンチャーを通して、ベンチャーキャピタルからお金を集めたんだけど、人からお金を預かって投資すると機関投資家を裏に背負うので、また大変で……。

平尾:僕は大好きですよ。ベンチャーキャピタルの方。すごく大好きです。

(会場笑)

余語:私自身も親分が大前研一なので、一緒にベンチャーキャピタルを作ろうかという話もありましたが、いろんな事情があってそれは流れました。今思うと、ベンチャーキャピタルをやらなくてよかったなと思うんですよ。

人からお金を預かってそれを投資すると、ものすごい責任を負うわけじゃないですか。だからそのベンチャーにも、ものすごい厳しい条件を提示しなきゃいけない。あれやると本当に人が悪くなると思うんですよ。やはり自己責任で投資するのはすごくいいことだよね。

だから僕は自己責任でやっているけれど、ほんのちょっとしか出せないので、すごくうらやましいです。

平尾:またまた(笑)

余語:でも、平尾さんの会社が上場する前はベンチャーキャピタルから入れたんですか?

平尾:MBOのタイミングで、僕は本当にやる気がものすごくあって変なヤツだったんです。

「自分よりこの事業が出来るヤツは誰もいない」くらいな気持ちで、20代のときにやっていたんですけれど、お金がないんですよね。自分が入った会社はずっと伸びているんです。さっき前ちゃんが増収、増益をずっと噛みながら言ってくれましたけど、聞こえてたよ(笑)。

伸びてはいるんですが、伸びれば伸びるほど資本政策は難しくなってきて、MBOといってもお金を貸していただけない。お金もない。信用力もない。そのときにジャフコさんに助けていただいて、LBOみたいなかたちでやりました。

余語:じゃあ、さっきの発言取り消すね。

平尾:(笑)。すごく助かりました。 今日はいっぱい権威をいただきたいなと思います(笑)。

想像もしていなかったグローバリゼーションの波

余語:先ほど紹介されて、今日2人とも初めてお会いしました。先ほど雑談の中で英語をやらずに来たということで、TOEICを受けるという話をしていたけれど、海外で投資家と話すときはどうするんですか?

平尾:僕、一応今日は格好つけていこうかなと思ったんですけれど、正直、本当に英語が大事だなということをお話ししたいんですよ。

(会場笑)

たまたま僕は数学だけできたんですよ。母親が学習塾の先生をやってくれていたおかげで、家に塾のプリントがたくさんあったんです。貧乏だったし、家に帰ってプリントばっかりやっていたので数学だけはすごくできるんです。前田さんほどじゃないけれど。

前田:なんで持ち上げるのかわからない……。

(会場笑)

平尾:これは、上げて、もっと上にするというメソッドです(笑)。この世の中でこんなにグローバリゼーションになるなんてまったく思っていなかったですね。もう15年くらい、学生時代も外資の友だちは多かったと思うけれど、みんな給料が高いから(外資系の会社に)行ったくらいのイメージでした。

前田:そうだね。

平尾:こんなにグローバリゼーションが来るとは思っていなかったですよね。

前田:思ってない。

平尾:無理矢理言わせました(笑)。自分も含めて日本人の友人たちは英語が得意じゃない人が多いですが、アジアの人たちはみんなしゃべれますね。英語はなかなか難しいんですけれど、(前田氏のほうを見ながら)聞いてがんばっています。

前田:よくわからない圧がくる。なんなんだろう。

かわいがられる起業家が得られる有益なアドバイス

前田:投資の話の文脈があって、出す側のお気持ちとかをお話しいただけますか。実際、今田さんが直近で承ったという感じで、実際にやってみて、やるに当たってどういうことをお感じなったかとかはありますか。

今田:資金調達に関してですか?

前田:そうです。

今田孝哉氏(以下、今田):そうですね、基本的にお金が必要な部分もちろんあると思うんですけれど、やはり仲間が必要です。自分たちが実現したい世界にどれだけ多くの人を協力者として巻き込んでいけるかが大事だと思ってます。

そういった意味でいうと、これまで自分自身が当事者として経営をしてきた経営者の方とか、またその領域に詳しい方とかに、いかに一緒の船に乗ってもらえるかが経営者の勝負だと思っているんです。最初からいろんな人を巻き込もうと思っていたので、そういった部分では今回複数の大先輩方に協力していただける形になったので、大変有難いと思ってます。

そこからアドバイスもたくさんいただいていますし、いろんな人の紹介もいただいています。株主含め、そういった仲間が増えていくということは素晴らしいことだなというのは改めて思っていますね。

平尾:すごく立派な起業家たちがたくさん応援していますよね。僕は1回も声がかからなかったんですけれど、どういうアドバイスをもらえるんですか?

今田:アドバイスでいうと、ファイナンスのところとかで、ネットとかには決して載っていないような「こういう手順でいくといいよ」「今のフェーズではこういう人たちを巻き込むとよりいいんじゃないか」みたいな。僕の場合は株主の方が自分で一度事業をやっていた方々ばかりなので、ファイナンスのこともしかり、事業のこともしかりですけれど、経験談も含めて教えていただけるのは大きいですね。

平尾:いいですね。こういうかわいがられる起業家はすごく得ですよね。そういうふうに生きてきたかったな。

国内で投資をしないのはなぜ?

前田:今田さん、平尾さんみたいな人はどうですか。先ほど「平尾さんを見て育った」とおっしゃっていたじゃないですか。

今田:はい。

平尾:正直、関係なく言ったでしょ、あれ。

今田:IVSで毎回ずっと見ていたんですよ。

平尾:なんで声かけないの?

今田:平尾さんがそもそも投資してるとは知らなかったんですよ。

平尾:え?

今田:国内ではそんなに投資されてないですよね……?

平尾:ああ、ほとんどやってないです。お金がないなら意味がないということですね(笑)。

今田:そういうわけじゃないですよ(笑)。

平尾:アドバイスがもらえなそうだなという。

今田:でも、平尾さんの話はよくしていました。投資されているイメージは国内ではあまりないですよね。国内ではされていますか?

平尾:国内ではほとんどしていないです。

今田:そうですよね。基本的には海外ですよね。ちなみに、どうして国内でされないんですか?

平尾:国内でも少しだけ投資してるのですが、今の所あまり自分の軸にマッチする企業に出会えてないです。でもfeverはすごくいいですよね。僕は男女とか国境とか宗教観とか差別が大嫌いなので、まったくフラットですよ。中国にもっと行きたいんだけど、なかなかパイプがなくて。アメリカでも相手にされづらいです。ほとんど入れていない。

前田:ありがとうございます。

平尾:なんでそんなに元気ないの?

前田:元気はあるんだよ。どう球を投げようかなと(考えている)。

平尾:どう料理しようかなと。いいですね。こちら、ちゃんと隣の新しい経済圏で。

前田:経済圏は、もはやいいかなという感じもするけれど(笑)。