「Tellus」で実現される宇宙データビジネス

小笠原治氏(以下、小笠原):こんにちは。さくらインターネット、小笠原です。平日の昼間にこんなに来てもらえると思わなかったんですけど、さきほど椅子が増やされていたりして、宇宙系のこういうイベントで珍しいなと思いながら。

今日の午前中に「Tellus」のローンチということで記者発表させていただきまして、午後からは少しライトな感じでお話しできればいいなと思っています。

さきほども映像を流していたんですけれども、衛星データを使って、こういう表現もできるということで。今日来ていただいている中で、とくに夏野さんは経産省側にいながら、Tellusを民間の視点で見ていただく立場でもあるんですけど、前回の集まりの時に「もうちょっとインパクトいるよ」「もうちょっと派手にいこうぜ」というお話をいただいたので、急遽映像ができあがったという(笑)。

夏野剛氏(以下、夏野):ちゃんと派手でうれしいです。

小笠原:はい(笑)。

まず、今日のトークセッションの中で少しお話ししていきたいなと思っているのが、この第2部の1発目ですね。こちらは「Tellusで実現される宇宙データビジネスと期待すること」という話です。少し先の話をしたいと思っています。

このあと、『WIRED』の編集長さんやドミニク・チェンさんに来ていただくセッションでは、もっと先の未来、もっと期待できる、ワクワクするお話をしていただこうと思っています。では、紹介を兼ねて少しお話を進めたいと思います。

司会者:それでは、私からみなさまのご紹介をさせていただきます。慶應義塾大学大学院・特別招聘教授、夏野剛様。株式会社B Inc.代表取締役社長、福野泰介様。株式会社Ridge-i代表取締役社長、柳原尚史様。シャープ株式会社常務・研究開発事業部本部長、種谷元隆様。そして、ファシリテーターは、さくらインターネット株式会社フェロー・京都造形芸術大学教授、小笠原治が務めます。

(会場拍手)

それでは、みなさま、あらためまして、よろしくお願いいたします。

夏野剛氏が説く、「宇宙利用産業」の未来

小笠原:自己紹介といっても、夏野さんはみなさんご存じだとは思うのですが、「宇宙データ×ビジネス」で、3〜5分ぐらいお話しいただきたいなと思っています。

夏野:はい。3〜5分で。私はいろいろなことをやっているものですから、「なんで宇宙にいるんだ?」と思う方がけっこういらっしゃると思うので、なぜ僕が宇宙に関わっているかをお話しします。実は内閣府宇宙開発戦略推進事務局がありまして、内閣府で政府の「宇宙産業ビジョン」をまとめたことが3年前ぐらいにありました。

僕は知りませんが、いろいろな経緯があったらしく、そこは基本的に「宇宙人」だけで構成されている委員会なんですね。普通は宇宙人というとエイリアンなので、変な人のほうを宇宙人といいます。しかし、この宇宙産業においては、宇宙産業にずっといるつまらない人たちのことを「宇宙人」といいます。

私は唯一「地球人」として、宇宙人の会議に参加しました。「宇宙産業の規模はいくらだっけ?」という話から始まるわけです。(スライドを指して)「宇宙利用産業」はGPSのデータも入っているので、裾野を広げると1兆2,000億円です。直接宇宙っぽくないものも含めた宇宙機器産業だけ見ると3,500億円で、なんと日本の畳産業とほぼイコールです。

「畳、最近見てねぇなぁ」みたいな……そういう規模だということから愕然としまして、「携帯産業と一緒じゃないか」と思いました。携帯産業のほうが規模は大きいけど、構造は一緒でした。

それから議論が始まりました。私は地球人なので、宇宙の専門的なことは専門の委員の方にお任せしたのですが、ここで強く思ったのが、「今までにないことを、3つぐらいやらなきゃまずいよな」ということです。

ちなみに、さきほど登場した(さくらインターネット株式会社 xData Alliance Project シニアプロデューサーの)山崎秀人さんは局員として、その場にいました。

なにをしなければいけないかというと、宇宙産業の周辺産業である「宇宙利用産業」をどれだけ広げていくかで、それが宇宙産業にとって重要なんです。そこには衛星データというものが厳然としたビジネスチャンスとしてあります。

しかしながら、この衛星データがあまり積極的に使われていないので、「もっと利用を促進するためには、オープン&フリー化が必須だ」という話が出てきました。「これはいいな」と思ったのが1つです。

そして2つ目は、政府の「宇宙産業ビジョン」にも書かれているんですが、宇宙産業の規模が3,500億円しかないのは、要はリスクマネーが流れ込んでいないじゃないかと。ホリエモンの活動がいいかどうかはわからないんですけど、ああいう動きがどんどん出てきて、それに100倍のお金が集まるようにしなきゃいけないんじゃないかと。つまり、「リスクマネーの供給」も、今回「宇宙産業ビジョン」に書き込まれています。

もう1つ思ったのは……言っちゃいけないと思うんですけど、あえて言っちゃいます。4社のメジャーなベンダーがいるんですけど、「なんで4社もいるんだ?」と思いました。これを産業再編しろと力強く言っていたのですが、これは書き込まれませんでした。

このように、すごく大事なポイントが3つあると思っています。そのうちの最も重要なものの1つが、実はこの衛星データの利活用です。この衛星データの利活用を促進するためには、まずはオープン&フリーのインフラを作るべしと。そこから、今度は経産省側でそれをどうやって進めるかという研究会が始まって、私が座長をやらせていただいて、今に至るということです。

このTellusが出てきたことは、もう我が子が生まれたみたいにうれしいですし、それから、スライド右のような絵にするために、非常に大きな大きな第一歩が、このTellusであると言えると思います。すいません。4分かかりました。

小笠原:いやいや、4分でよくここまで、すべて語っていただけたなと思うんですけど(笑)。

「宇宙データ×オープンデータ」の予見

小笠原:日本(の宇宙産業の規模)は1.2兆円です。世界中の38兆円という規模の中で占めている割合はかなり低いのが現状ですので、それを変えていくために、ここに至ったということになります。ありがとうございます。

続いて、当然、衛星データだけでは価値を生みにくいと思っていますので、B Inc.の福野さんから少し「宇宙データ×オープンデータ」ということでお話をいただきたいと思っています。

福野泰介氏(以下、福野):(スライドにドローンの映像を流しながら)派手にということなので、ちょっと1機飛ばそうかなと。

小笠原:(笑)。

福野:私、オープンデータに関しては経験が長く、2016年に「オープンデータ伝道師」ということを政府CIOから任命されまして、最近はスライドのドローンと一緒、オープンデータについて布教・啓蒙をしています。

今、プログラミングができると……今日も(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の)田中邦裕さんから「開発者を増やす」という話がありましたけど、アプリが作れると、できることが非常に多いですね。でも、残念ながら作れる方がそんなに多くない。

この中でプログラミングに自信がある方いらっしゃいますか?

(会場挙手)

いないですね。たぶん3パーセントもいないんですよ。

小笠原:いないです(笑)。

福野:私は、2010年にWebを発明したティム・バーナーズ=リー氏に会いまして。夏野さんも関わられているW3Cに加盟した時の話なのですが、ティムは、HTML5などを一切無視して、オープンデータを推進する話をしていたのが印象的でした。

地元である福井県鯖江市に帰って、「市長、オープンデータやりましょう」ということで始まったのが、スライドの左側です。2012年に日本で初めてのオープンデータが自治体で始まりました。

その後、昨年、めでたく全都道府県にオープンデータがある状態になって、いまは300以上の都市がオープンデータを始めている。このデータをいかに使いやすくするかが、実は私がここ何年も取り組んでいることです。

日本の人口分布のターニングポイントは18歳

福野:どんなデータがあるかというと、実はまだつまらないデータなんですね。人口統計や公共施設、避難所など、ごくごくありふれたデータです。

今後、もっと細かいデータやもっと役立つデータが自治体から出てくるようにするためには、我々がもっと利用しなきゃいけないので、「開発者をいかに増やすか?」をテーマに燃えております。こちらもサイトのほうでありますので、またご覧ください。

人口に関して、スライド左側が福井県の年齢別人口分布、右側が東京の年齢別人口分布です。形がまったく違うんですね。

特徴的なのは、福井県は18歳を過ぎると人がガクッといなくなるんですよ。その分はどこへ行ったかというと、みんな東京に行きます。東京は、その18歳以上がグッと増えますよね。

もう1つ。これ、けっこう危ないんですよ。地方はどこもこの福井県と同じようなかたちをしてますが、年々子どもが減っています。2〜3パーセント減っているんですね。なので、「保育所が待機児童ゼロです」とか言っている場合じゃないんですね。

一方、東京は、ここ最近のトレンドで少しずつ子どもが増えているんですね。これはどういうことかというと、東京から地方に若者が帰らなくなってしまっている。ということで、東京の一極集中がここ最近言われている話ですが、ぜんぜん最近のトレンドではないということが、データを見れば、明らかだったはずなんですよ。

この単純な人口データだけとっても、未来は見えていたはず。衛星からのデータも含めて、さまざまなデータを活用すると、これからの未来は見えるので、「じゃあそこから何を作ろうか?」ということに話をシフトしていけるんじゃないかなと思っています。

最近は、鯖江市内のIoTを使って、さまざまなリアルタイムオープンデータを取っています。今回飛ばしたドローンはおもちゃですけど、もう少しいいドローンを飛ばして、リアルタイムなデータをどんどん捕捉していく。そして、それをTellusと組み合わせることにチャレンジしていきたいなと思っております。

小笠原:ありがとうございます。福野さんが言われているようなIoTや、こういう地上空間のデータは、僕らは「ミクロなデータ」という言い方をしていて、ここに衛星データである「マクロなデータ」を組み合わせる。こういったことで新たな価値を生むことを一緒に取り組んでいけたらいいなと思っています。ありがとうございます。

「宇宙データ×ディープラーニング」を紐解く

小笠原:Ridge-iさん、柳原さんからは、「宇宙データ×ディープラーニング」ということで少しお話しいただきたいなと思います。

柳原尚史氏(以下、柳原):はじめまして。Ridge-iの柳原と申します。

弊社の紹介になるんですけれども、ディープラーニングのコンサルティングと開発を行っておりまして、スライドに挙げているのは事例になります。

ごみ焼却炉向けに、ディープラーニングを使ってクレーンを自動化したり、「SAR」の画像に対してオイル流出の検出を行ったりしています。あとは、外観検査で異常検知といったものを製造業向けに行っています。

意外と有名になったものとしては、白黒の映像をカラーにする技術をNHKアートさんと開発しまして、そちらが実際に『NHKスペシャル』等で使われております。

この中の事例でSARの画像があるんですけれども。衛星画像にはだいたい2種類あります。光学画像と、SARと言われるマイクロ波を飛ばして、その反射を見て撮るものです。スライド左側はSARで海を撮った画像です。

実は、こちらの中に原油の流出が混じっているんですけれども、これを人目で見極めるのは難しい。そこで、実際にディープラーニングを使って検出することに成功しております。

こちらは実験段階ですが、このようにSARの画像や、衛星データに対してディープラーニングをかけ合わせることで、オイル検出に関わらず、ものすごい知見が得られるんじゃないかと思い、この衛星データのオープン&フリーの取り組みに関わらせていただいております。

衛星データは、先ほど夏野さんのスライドにありましたが、3,500億円と8,000億円という内訳を考えると、3,500億円というのは、だいたい衛星を作ったりロケットを飛ばすお金に使われています。

8,000億円がどう使われているかというと、残念ながらほとんどが衛星通信に使われています。リモートセンシング市場はいくらぐらいかというと、国内で56億円。これが2014年時点なので、今だったら60億円ぐらいかなと思います。

ただ、こちらがきちんと発展することで、2050年には259億円……先ほどの夏野さんの2兆円みたいな、2030年の規模にいこうとしたら、600億円から、アグレッシブプランで1,000億円ぐらいに広がるのではないかと推定されております。

こちらのリモートセンシングというところに市場の伸びは見込まれているのですが、課題になるのがデータの大きさと解析の難易度です。

超大容量通信のカギを握るのは

柳原:スライドは、今回Tellusに入っているデータの画像とサイズなんですが、10テラバイトだったり、250テラバイトといったものが平気で飛んできます。これが1日のデータで、複数日になったりすると、とんでもないデータのサイズになってくるので、1人では扱えないです。

そういった計算資源といったところも、ものすごくクリティカルになってくるので、今回Tellusが無料提供するコンピューティングリソースは、それを解消する重要な手段になるのではないかと期待しております。

また、こちらのデータが増えることで、現時点では定性的なデータについてどういうことができるのか。Google Mapなどをイメージするとわかりやすいのですが、地図といった情報を見たりする。

ただ、今後Tellusに私が期待している部分としましては、どんどんセンシング手法が多様化していくところです。SARに限らずドローンのようなものが入ってくるかもしれない。そして、それが時系列的に拡大したり、またはこういった、光学データと人流データ、作付状況みたいな統計情報などが混ざることで、さまざまな知見が生まれてくるのではないかと思います。

とくに、この多次元化していくデータから、新しい知見を出すところで、AI・ディープラーニングはものすごく有効ではないかと思っています。夏野さんや小笠原さんが主宰されている委員会にも入って、活用を提言させていただいているといったところが、私の活動になります。

小笠原:ありがとうございます。僕らもデータは、いわゆるディープラーニングだったり機械学習など、一般的に「AI」といわれているものの餌みたいなものかなと思っていて。その餌が大量にあるのが、こういった衛星データ周りです。ほかのさまざまな統計データなどを組み合わせることで、価値が生み出せるんじゃないかと考えています。

「衛星データ×画像解析」の可能性

小笠原:今回、一番の変わり種というか、シャープが衛星データを扱うことについて、午前中の記者発表の時でも何人かの記者さんから「えっ、本当ですか?」と聞かれたんですが、「衛星データ×画像解析」ということで、少しお話をいただきたいと思っています。

種谷元隆氏(以下、種谷):ありがとうございます。最初に夏野さんが言われたあの4社の中に、残念ながら我が社は入っていなくてですね。幸運だったのかもしれないんですけれども。

なぜ私がここにいるのかを少しお話しいたします。少し宣伝させていただきますと、12月に放送衛星・BSを使った8K放送が始まりました。

幸い、弊社では8Kの受像機を作らせていただいて、世界ではまだ当社しか作っていないものなんですけれども、高精細な画像をいかに簡便に使って、なおかつ、人間が見る上で非常に自然に見せるのかという技術を作ってきました。

今回「SHARP 8K Lab」というかたちで、研究開発事業の一環として、テレビ放送はもうすでにみなさんに受像機として提供しているんですが、8Kで培ったさまざまな映像を使った技術をそれ以外の産業のところにもどんどん出していけるんじゃないかと思います。そこで今回、Tellusのこういう取り組みをうかがって、もしかして我々と同じような方向性やダイレクションなのではないかと思いました。

例えば、みなさんは8K放送をまだあまりご覧になっていないかもしれないんですが、地上波では当然2Kの画像が流れてきます。それを8Kのテレビで見るために「超解像」という技術がございます。

2Kの画像を8Kにしようとすると、1枚の絵を16倍に引き伸ばすようなことが必要です。そのときに、人間の目で見て非常に美しく自然に見せることを……放送の場合は当然ながら動画対応が必要なので、リアルタイムで処理してアップコンバージョンすることが、スライド左下の絵です。

こういう独自のIPとLSIを、このTellusという世界に活用する。静止画の場合が多いんですけど、スライド右側は我々の技術とAIと組み合わせたものです。この「線形補間」と書いてあるのが、単純に拡大したらこうなることを示したイメージ図です。これに対して、AI超解像を用いると、文字が非常に見えやすくなります。

車の台数を数えるにしても、AI超解像を用いると、「確かに車でこんだけ混んでるんだな」とか、極端にいうと、車と車の隙間まで見えるようにできますね。

こういうところで、まずは私どももコントリビューションさせていただきますし、なによりも、この新しいビジネスを作っていく上では、AIも大事なんですけど、AIの手前にやはり人間の発想など、「こういう価値を作りたいんだ」という思いを持つ人をたくさん増やすのが、一番大切だと思います。

そういうところにビジュアライズという技術を提供させていただきながら、我々は生活家電から来るデータも持っていますので、そことTellusの技術やデータを組み合わせて、新しいビジネスをつくっていくところにも一歩踏み出したい。そういう思いを持っております。

小笠原:はい、ありがとうございます。一番最初に衛星データの画像を見た時に、単純に「粗いな」と思っちゃったんですよね(笑)。みなさんはGoogleマップなどに慣れています。ただ、それはそれでいい世界だと思うんですが、できる限りマクロでデータを取ると、そのデータが大量に必要になった時に、データ取得コストが安くなると思ってます。

正しいデータは、それはそれで大事です。ただ、それをどんなビジネスにしていくかというところを想起する時は、人間側がやっていく。そういう時に見やすく、見て何かを発想できる画像にしていくところに、すごく期待をしています。