自利利他の精神がチームを育てる
ラグビー日本代表・元主将が語る「ジャパン・ウェイ」の貫き方

廣瀬俊朗氏プレゼンテーション #2/2

2019年1月21日、「キャプテン廣瀬俊朗さんに聞く、『勝つこと』とチームの心理的安全性構築」が開催されました。組織行動学の用語である「心理的安全性」をテーマに、さまざまな有識者の人たちとコラボレーションして、少しでも多くのチームで心理的安全性を高めてもらうことを目的としているイベントです。今回のゲストは、2015年のラグビーワールドカップを日本代表のキャプテンとして戦った廣瀬俊朗氏。強豪・南アフリカを破るなど、躍進を遂げた日本代表チームの舞台裏と、廣瀬氏ならではのマネジメント論を展開しました。

エディー監督が変わった理由

金亨哲氏(以下、金):みなさんから何かご質問があれば、何件か受けたいなと思います。ぜんぜん違う文脈でも構わないですが。

質問者1:職場に置き換えて聞いて、めちゃくちゃ勉強になりました。そこで一番聞きたいと思っているのが、監督と廣瀬さんの間で、どう信頼関係を作っていったのかなと。

「勝つんだ! 勝つため、勝つため……」という上の人がいて、だけどチームを預かるリーダーは「仲間」というかたちでやっている場合、そこはなにか工夫しないとつながらないのかなと思って。

日本代表の時は、エディー(・ジョーンズ)さんといろいろやられている。東芝の時は、ちょっとずつ「何のためでしょうね?」としていって、どうマネージされたか、どういった動きをされたかをぜひ教えてください。

廣瀬俊朗氏(以下、廣瀬):東芝でやったようないろいろなことを、日本代表でも同じようにやっていたかもしれないです。僕らにはスポーツ心理学の荒木香織さんという方がずっと間に入ってくれていたんです。その方の存在が大きかったのは間違いないと思いますね。そういう科学的なアプローチと第三者、しかも女性というのは、僕らにとってはすごく助かりました。

彼女が言うには、エディーさんも最初は勝つことしかあまりこだわってなかったって言うんですけど、でも僕らが「憧れの存在」「応援されるチームになりたい」と言い続けたら、エディーさんも変わってきたらしいです。

だから、見返りを求めるじゃないですけれど、自分たちが言い続けていたら、たぶんセンスがある上司の人は「なんかこれ使えるな」とだんだん感じてくれると思うので、あまり見返りを求めずに言い続けて。

ラグビーで言ったら、やっぱり現場が見えないところがあるんです。現場の人がどう動いているのか、監督はめっちゃ気にしていて、「廣瀬がこんなことを言ってたら、現場が生き生きしてきたな」みたいなことは見ているので。

だから、上の人に見返りを求めるよりも、今みなさんが持っている職場とかチームが生き生きしてくることを見せると、上司の人は真似してくれるとか、何かを感じてくれると思います。

それで聞いてくれたらしめたものですけど、「僕らこうやってますよ」みたいな、そういうアプローチを僕自身はやっていくといいかなと思います。あとは、もしかしたらお酒の力がいるかもしれないです。

(会場笑)

あとは、エディーさんと僕の間でよかったのは、最後の「日本ラグビーを変えたい」という思いは一緒に持っていたというところです。いろいろな衝突もありましたし、「お前、何しとんねん?」「俺のこと裏切ったの何度目だ?」みたいなメールが朝4時ぐらいに来て、とても大変でした。

(会場笑)

試合で勝ったから、「なんとかなった」こともあります。

質問者1:(部署)飛ばされるのと、時間の勝負ですよね。

廣瀬:最初は時間がかかるかもしれないです。飛ばされるかもしれないですけど、それはもう「わかってくれない人が悪かったんだ」と思うぐらいの、そんな腹のくくり方でいいんじゃないかと思いますし、もし本当に飛ばされてしまったら、「それでも自分ができたことはなかったのかな?」と振り返るのは大事だと思います。常に矢印を自分に向けたいなと思います。

疲弊した組織になることを防ぐために

質問者2:廣瀬さん、貴重なお話をありがとうございます。廣瀬さんのお話をおうかがいしていると、本当にスポーツの世界でもビジネスの世界でも、言い切るというか、コミュニケーション能力だとか、人としての心の知能指数と言うんですかね。どれだけ人の思いを汲み取ってあげられるかとか、いわゆる技術などスポーツの力ではないエリアの価値が大きいんだなと思いました。

私は企業の人事部のみなさん向けて、アドバイスをお届けする仕事をしているんですが、もう疲れ果ててるんですよね。組織の中が疲弊しているんです。そういう状況の中で、やる気だとか、意義や大義みたいなものを「みんなで見つけよう!」と、ギアをグイッと入れるための施策やアプローチの仕方について、廣瀬さんだったらどう思われるか、教えていただきたいなと思いました。

廣瀬:そんなダメな組織があるんですね。

(会場笑)

ケースバイケースなのかもしれませんが、どうしたらいいんでしょうね。

:ちょっと挟んでいいですか。僕が廣瀬さんとコミュニケーションをとりながらいつも感じるのが、「何かをやろうよ」といったときに、ものすごくワクワクしてくださるんですよね。僕も「これおもしろいな」と思ったものはワクワクするんですけど、ワクワクする人が1人いないとまず難しいんじゃないかなと個人的には思っています。

逆に言うと、誰かをワクワクさせてあげられれば、その人がワクワクを次の共感につなげていくことができるんじゃないかなということも、今僕がうかがった感じでは思いました。

廣瀬:なるほど。それはおもしろいかもしれないですね。確かにいきなり全員を変えることはできない気はするので、いかに仲間を作るかがすごく大事だと思います。

そういう意味で、僕らもリーダーシップグループというのがあって、ワールドカップの最後では31人でしたけど、そのうち8人ぐらいのリーダーシップグループがあったんです。そこで週1回ぐらい、いつもチームで「どんなふうになったらかっこいいんだろう?」「今、問題はなんだろう?」と考えました。

そうすると、何か問題が起きた時に早めに摘み取れるというか、向こうも困った時にすぐ言えるというか。めっちゃ疲弊した組織になることを未然に防ぐようなアプローチをしたいなとすごく思いました。

そうなってしまったら、ちょっとずつ仲間を増やすのとは別に、自分自身が生き生きするというのもすごく大事かなと思います。かつコーチングもしながら、いつもいい状態にする。

まず、チャレンジかなと思います。ダメだったら解散でいいんじゃないですか? 「何やってるんですか」「情けないわ」「そんな会社、誰も幸せにできませんよ」といって。

(会場笑)

こんな感じで、「辞めたいから辞める」と言えばいいのかなと思います。そんなこといったらダメかもしれないけど……。

「最初は何のためにやり始めたんですか?」「ただ単に適当に働いて、適当に生きるのが、あなたの人生なんですか?」みたいに言っちゃうかもしれないです。それで子ども、もし家族がいるなら、「それ子どもに見せたいですか?」とか。調子いいこと言ってるくせに、自分の職場で腐ってるなんて、「なんじゃそりゃ」みたいな。そういうところに行きたいとすごく思いますし、解散というのもありかもしれないです。

:ありがとうございます。大丈夫ですか?

質問者2:ありがとうございます。

「ちやほやされたい」が原動力に

:ほかには? はい、ぜひぜひ。

質問者3:ありがとうございました。ずっとラグビーのことを思い出しながら聞いていました。廣瀬さんの言葉は、やはりキャプテン、リーダーのものだなと思いました。リーダーシップには、人柄とか、仲良くとか、信頼とか、背中で見せるとか、いろいろあると思うんです。

大義も、だいたいワールドカップに行く場合は、だいたい「ワールドカップって何のためにあるの?」といったら、わかりやすいですけど。「2019年に憧れられる存在、カッコいい存在でいよう」と旗立てたあとに、キャッチフレーズとして、みんなでシェアができたと思うんですが。

その言葉はキャプテンが廣瀬さんだからこそ出てきた言葉なのでしょうか? それとも、チームの中で話しながら紡いだ言葉なのでしょうか? 

「ジャパン・ウェイ」という言葉が出てきたので、それはすごくで言われていることなんですけど、その話をお聞きしたいなと。

廣瀬:僕がキャプテンになった時には、「憧れの存在」ということは僕自身がけっこう考えていたことでもあったので、言えたところはあります。苦しんだのは、2年間キャプテンをやったあとにマイケル・リーチがキャプテンになった時、最初あまりそのことを大事にしてなかったんです。

ラグビーの場合、外国人はけっこうシンプルに勝つことを求めていて、ニュージーランドの人はとくに勝つことだけに集中するところがあって、マイケルの口から「何のためにやろう」みたいなことが出てこなかったんです。

3年目の春は9連勝ぐらいしていたんですけど、なんとなくチームがハッピーじゃなかったんです。「困ったな」みたいなことを、スポーツ心理学の荒木さんとずっとしゃべっていて。

春のシリーズが終わって、夏合宿が(長野県)菅平であったんですけど、その時にリーダーシップグループでいろいろなことを話し合った中で、堀江翔太という選手が「俺らもっとちやほやされたいな」と言ってくれたんです。これで僕は「よっしゃ! しめた!」と思ったんですよね。「ラグビーをこんなにがんばってるのに、なんかぜんぜんだな。もっとサッカーみたいになりたいに、ちやほやされたいよね!」みたいな。

(会場笑)

「それ! 憧れの存在だ!」と思って、あの一言は僕にとってはすごく大きかったと思います。今はマイケル・リーチもそういうことをすごい大事に思っています。

今の日本代表に関していうと、ジェイミー・ジョセフさんという方が監督をされているんですけど、彼は今勝つことだけにフォーカスしているんです。今までテストマッチの経験もなかったし、ワールドカップをみるのも初めてなので、やっぱり「勝ちたい! 勝ちたい!」と思ってるんですよね。

マイケルは前回の経験から「何のために勝つの?」「もし負けたとして何を残せるの?」と考えることをすごい大事だと思っていて、今度はマイケルがそこでどうチームを作っていけばいいかを考えて悩んでいるので、おもしろいなと思いますね。勝つか負けるかはわからないです。もし勝つということだけ掲げていたら、試合に負けるってわかった時に、みんなのパフォーマンスってどうなるんですかね。もしかしたら、もう勝てないって諦めちゃうのかな。

でも、もし憧れの存在になるという目的があれば、負けるとわかっても、そこからどんな姿勢を見せるかが大事ですよね。そこにはまだ「憧れられる存在」に近づける要素があると思うので、やっぱり目標じゃなくて目的をみんなでしっかり共有できるのかが、すごく大事かなと思います。

質問者3:ありがとうございました。

「自利利他」のキャプテンがチームを育てる

:ほかにいらっしゃいますか? お願いします。

質問者4:なぜずっとキャプテンとリーダーで居続けられたのかなということと、キャプテン・リーダーとして成長していくためにどういうことを日々心がけられたのかという2点をお聞きしたいです。

廣瀬:自分からキャプテンをやると言ったことはないので、全部選ばれてたまたまキャプテンをやらせていただいたというのが本当のところです。僕自身、昔からキャプテンシーなんかまったくなかったと思ってますし、人前で話すのも大嫌いで。もう発表会とか本当に嫌なんですよ。

昔バイオリンをやっていたんですけど、小学校で男の子でバイオリンやってるって珍しいじゃないですか。音楽の先生に言うと、うれしくなってバイオリンを持ってきて、みんなの前で弾けって言われたんです。本当に嫌やったんです。でも、なんとかみんなの前でこうやってやったんですけど、もう嫌で嫌でしょうがなくて、弾けなかったんです。泣いちゃったんですよ。

それぐらい人の前に出るのは嫌だし、リーダーシップがあったわけじゃないので、おかんにも「なんであんたキャプテンなの?」と何回も言われたので、それぐらいの感じで。

(会場笑)

おかんの中では、ある程度周りを引っ張っていくというか、どんどん先導していくのが今までのキャプテン像だったんでしょうね。僕は、サーヴァントじゃないですけど、いかに周りの人に活躍してもらうのかを考えながらやってきたので、今までのキャプテン像と違かったのかなというのはすごくあります。だから、今にうまくマッチしてくれたなと。

今思えば、僕は最初からいいキャプテンだったわけではないと思います。高校代表のキャプテンをやらせていただいた時も、周りからいろいろ言われました。「お前が何したいかわからない」とか、それこそ「なんでお前なの?」もありましたね。「俺がキャプテンやろうと思ってたのに」と。わりとすごい苦労して、蕁麻疹とかも出ちゃって、あかんなという思いもありました。

でも、今こうやって自分なりのキャプテン像を確立できたのは、成長好きというか、知らないことに触れるのが好きだからというのがありますね。

あとは人が活躍しているのを見るのが好きというか、みんながワクワクしてやっているのを見るとすごくうれしくなって。それはその人のためにもなってますけど、それが返ってきてる気がするんですよね。

僕は「自利利他」という言葉がすごく好きなんです。人のためにやっていることが実は自分の成長のためになってて、新しい世界に到達できる。そういう思考でずっとやってきたから、キャプテンとしてどんどん良くなっていけたのかなと思います。あと僕は基本的に性善説を信じるので、「この人たちはやってくれる」と思っているんです。やってくれないのは何か理由があるからだと。

だから、練習中にミスをした時に「何してるんだ?」と思うよりも、わりと「この人はなんでミスしちゃったのかな?」と考えるんですね。「もしかしたら家族が風邪をひいてたのかな」「昨日寝れなかったのかな」「俺が違う言葉をかけてたらがんばれたのかな」とか、そういうことをずっとやってきたから、よくなってきたのかなと思います。

質問者4:ありがとうございます。

繰り返し目標を共有する意義と効果

質問者5:今日はどうもありがとうございます。勝つことが第1の目標である組織から、その先の「何のために勝つのか?」を大義に据える組織に変わるって、すごく大きな変化だと思うんです。組織でそういう大きな変革をもたらそうとするときは、たいてい抵抗勢力が出てくると思うんです。「……と言ってもさあ」みたいなことを言う人がけっこういたり。

まず、ご自身がキャプテンをされていた時にそういう抵抗勢力があったのかと、もしあったとすれば、そういう人たちをどう治めて、結果的にチームを統一していったのかについておうかがいできたらうれしいです。

廣瀬:ラグビー日本代表が一番簡単だったと思います。憧れの存在とか、日本を背負ってやれるというのはすばらしいことなので、みんなすぐ納得してくれたかなと思います。でも、失礼かもしれないですけど、だんだんレベルが下がると、確かにそういうことが浸透するのは難しくなっていくと思います。

僕自身は機会があるごとに言い続けることを大事にしました。日本代表だったら、練習のときにミスしたら、ミスしたときになんて言うか。「なんでミスしてんだ」と言うのか、「俺らって何のためにやってんだっけ? 勝ってあこがれの存在になりたいよね。それでこのパフォーマンスってどう思う? こんなんでええの? 幸せになれるの?」と言うと、何人かの選手がだんだん響いてくれる。

あとは、メディアの記者会見で「僕ら、憧れの存在になるために勝ちたいんです」と。何か機会があるごとにずっと言い続けるというのが僕がやってきたことです。あとはリーダーシップグループがあったので、自分の分身をいっぱい作って、その人たちにもその人たちなりの口で言ってもらう。抵抗勢力の人もきっと仲が良い人がいるんですよ。仲が良い人が変わってくれたらその人も変わってくれたりするので。

いっぱい口を増やすのもすごく大事だという気がするので、終始僕の口からだけでその人たちに浸透させようとは思わず、いろいろな口からなんとかしてこの人に浸透させたいなと思いましたね。

あとは見返りを求めないというのも大事かもしれないです。「こうしなきゃいけない」ということはあまり言わないので、「俺はこう思う。みんなはどう思う?」とか。「ああ、そういった考えもあるんだね。今度それで試してみる?」といってやっていってみる。そういうことをやっていったら変わってくれると思います。

デール・カーネギーの「盗人にも五分の理を認める」じゃないですけど、相手にも主張があるので、それをバサッと否定すると、相手はもっと意固地になっちゃうので、そこで「僕もそれわかるよ」という姿勢を見せるだけでも違うと思います。

さっきの子どもの話どういう話も一緒かなと思いますけど、「認めてあげるよ。その気持ちわかる。でも、俺らはこうしたいんだ」というのがすごく大事かなという。バサっと切ると、しんどいと思います。

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