運は、経営者にとって最も大切な資質の1つ

杉山全功氏(以下、杉山):杉山と言います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

ありがとうございます。ラストということで、みなさん、だいぶ期待されている方が多いと思いますけど、あまりたいしたことは言いませんので、軽く聞き流してください。

僕が選んだのは「運」というテーマなんですけども。今日は経営者の方が非常に多いと思うんですけど、ご自身で「運がいい」と思ってる人って、どれくらいいます? ちょっと手を挙げてもらえます?

(会場挙手)

あ、やっぱりけっこういますね。だいたい経営者って、自分が運がいいって勘違いしてる人が多いんですけど。

(会場笑)

笑ったでしょう、みなさん。でもね、僕、30年くらい経営に携わってるんですけど、最後は、経営者として成功するかしないかって、実は運じゃないかと思っていまして。運は、実は、経営者にとって、最も大切な資質の1つではないかなと思っているわけです。

もちろん、ほかにも必要な要素はいっぱいあります。営業ができるとか、数字に強いとか、アプリが作れるとか、英語が堪能とか。いろんな要素があります。でも、そんな要素1つひとつ持っても、最後、運がないと大成しないんじゃないかなというふうに思っているわけですね。

運。いろんな定義がありますけど、僕の言う、運の定義ですけども。つまり、人を引き寄せる力じゃないかなと思っています。徳と言い換えてもいいのかもしれませんね。

経営者に限らず、事を成し遂げた方というのは、大なり小なり、1人でやったわけじゃないんです。いろんなチーム、スタッフ、いろんな人の助けを持って、事を成しているんですね。なので、そういった、いろんな周りの人を巻き込む力。これを僕は運だと定義しています。

この運というものは偶然の産物なのか、ということなんですけど、違うんですね。過去にみなさんも経験があると思います。ものがうまくいったときに、「今思えば、あれって、あの人との出会いがあったよね」「あの人から、こんなヒントもらったよね」とか、絶対あると思うんですね。なので、運というのは、結果、これは必然なんです。運は、自分で呼び寄せることができるんじゃないかなと思っているわけです。

「上場請負人」と呼ばれて

ちょっと順番がシャッフルになったんですけど、僕のこと知らない方がたくさんおられると思うので、簡単に自己紹介します。杉山全功と言います。全て成功と書いて全功ですね。非常に欲張った名前ですごいなぁと。名前負けしてるとも言えるわけですけども(笑)。

(会場笑)

学生時代、そちらに座られています、KLabの社長の真田(哲弥)さんの設立された学生ベンチャーのリョーマに参加しました。それがきっかけで、ドロップアウト人生がスタートしたわけですけども。そのあと、ダイヤルキューネットワークという会社。そのあと、いくつかやったあとに、ザッパラス、enishという、この2社を東証1部まで上場させることができたというふうになっております。

2社目のenishのときに日経に出た記事があって、読むと、2度目の上場で「上場請負人」とか、すごく実務能力があるみたいに書かれてるんです。僕がすごく仕事ができるように、みなさん勘違いしてくれてるんですけど。

例えば、enishという会社。ゲームの会社なんですけど、僕がすごくゲームがわかるような感じがしません? さっきの平尾師範のように。だけど、僕のこと知ってる人はよくわかるんですけど、僕まったくゲームやらないんですよ。

1社目のザッパラスという会社にいたとき。これは、iモードで占いを配信する会社で、今が転機なんですけど、一世を風靡したんですね。占いですよ、みなさん。僕、占いにまったく興味ないんですよ。

(会場笑)

誤解を恐れずに言うと、信じていない。占いを信じていない僕が、今日、運について真面目に語るって、非常に矛盾してるわけですけども(笑)。

じゃあ、なぜゲームをやらない、占いもわからない僕が、この2社を上場させることができたのか? 単純です。ちょっとだけ、人よりも運が良かったんですね。これは、イコールほかのスタッフ、役員、社員に恵まれた結果だと思うわけです。

僕は、自分がなにもできないってわかってるんですね。なので、昔から、自分にできないことができる人と交わろうというのをすごく意識してきました。過去にそれを意識しようと思ったきっかけがあったんです。

「お前は運を持ってる奴なのか?」

約30年前、とある人との出会いがありました。初対面です。今でも覚えています。新宿の、タバコの煙がモクモクとした怖~い喫茶店で、ある人と出会いました。その人と出会って、初対面で言われた一言が、「お前は運を持ってる奴なのか?」って言われたんです。

当時はサングラスでちょっと怖い感じでした。続けざまに言われたのが、「俺は、運を持ってる奴としか付き合いたくねぇんだ」と。みなさん、初対面でこんなこと言います?(笑)。運がない奴とは付き合いたくないと。まぁ、それは「あります」って言うしかないですよね。その場では。

なんでそういうこと言うのかなと思って、その人に聞いたんです。「どういうことなんですか?」と。その人は芸能関係の仕事をされていたんですね。ドラマや映画のプロデューサーをやっていらした。その人が言うには、「役者の演技がうまいとかは関係ないんだ」「あまり意味をなさない」と。「結果が一番大事なんだ」と。数字ですよね。

やっぱり、結果を出す役者というのは、スタッフに恵まれてるというわけです。つまり、下手は下手なりに、周りのスタッフが、その人に合う役柄を考えるわけです。その人を引き立てるようなセリフを考えるわけですよね。もっと言うと、周りのキャスティングも、その人を引き立てるようなキャスティングをするわけです。

個々の能力はもちろん大事なんですよ。大事だけど、それだけで結果には結びつかない。やっぱり全体のチームなんだというわけです。僕、当時は「どうせそれは芸能界特有の話でしょ」と心の中で思ったんですね。あまり真剣に聞いていませんでした。

でもね、30年経って、今わかるんですよ。「あ、これは実は経営も一緒だなぁ」と。どんなに優れたトップ経営者が1人いても、1人じゃ何事もできないんですね。やっぱりチームというのが、すごく大事なんじゃないかなと思うわけです。

実際、こういった運が僕に味方した事件がありまして。これは本邦初公開なんですけど、先ほど言いました、真田さんたちと一緒にやったダイヤルキューネットワークという会社が、いっとき倒産しかかったわけですけれども、その話をしたいと思います。

今からさかのぼること28年前、真田さんはじめ、GMOの副社長の西山さん、一緒にやっていた松本浩介、今はシンガポール行ってますけど加藤順彦、今Indeedの日本代表をやっている高橋信太郎。

こういったリョーマの面々が中心になって、ダイヤルキューネットワークという会社を作ったわけですよ。若い方はまったくわからないと思うんですけど、音声による情報課金型サービスの走りなわけですね。

僕ら、大阪からみんなで大挙して東京に来ました。設立2年目でよかったでしたっけ? もっと早かったでしたっけ? 真田さん。

真田哲弥氏:1年目から。

杉山:あ、1年目ですか。失礼しました。設立してすぐに月商1億円超えですよ。みなさん。

今みたいにベンチャーってあまりなかったんですね。とくに調子のいいベンチャーって。なので、マスコミにすごい取材をされて、ちょっといい気になっていたというか、まあまあちやほやされた時期がありました。

一転、倒産の危機

ただ、好事魔多し。一躍時代の寵児になったわけですが、NTTが規制をするわけです。誤解がないように言いますと、僕らはまじめな情報サービス提供をやっていました。でも、わりとほかの業者さんはアダルト系の番組とか、出会い系。

今でこそ、みなさん出会い系アプリって普通のサービスとして受け入れてますけど、当時は出会い系ってアダルトだと世間的には捉えられちゃったんです。それで、規制が入って、一転して倒産の危機ですよ。

「これはいかん」ということで、各役員がみんなで資金繰りに走るわけです。それこそ真田さんは、ご親族の方はじめ、みなさんに頭を下げて資金繰りに走りました。ある役員は会社のいろんなものを売りました。もう本当に車はもちろん、机、鉛筆、電話回線にいたるまで。もうとりあえず現金だと。

僕はといいますと、当時、僕は渉外担当の役員をしてまして、その危機の半年前に知り合った徳間書店グループの人にコンタクトを取ったわけです。なぜかというと、実はその時に出資の申し出があったんですね。

さっき言ったように、マスコミにいろいろ出ていたので、「お前らおもしろそうだから出資してやるよ」みたいな、ちょっと上から来てたんですよ。

先ほど言いましたけど、僕らはちょっと調子に乗った部分もあって、その時はお断りしてたんですね。でも、会社が倒産の危機だということで、「半年前にあの人、出資してくれるって言ってたよな」って思いついて電話したんです。

「すいません、出資の話ですけど、今でも出資してもらえますか?」って言いに行ったんですよ。世間ではもう規制が入って、会社が倒産しかかっているというのに、恥も外聞もなく行きました。

でも、普通断りますよね。だって半年前に1回断ってるんだもん。けっこう上から目線で。でも、その担当の人がすっごい親身になって話を聞いてくれました。

その方が言うには「いいよ。徳間に繋いでやるよ」って言ってくれたんです。「あとはお前ら、自分でプレゼンしろ」と。僕と西山さんで一生懸命資料を作りました。もう一世一代のプレゼンを徳間社長の前でやりました。

たぶん、徳間社長は事業の内容はまったくわかってなかったと思います。でも、若い人が一生懸命やってるので、「わかった。助けてやる」って言うわけですよ。「やった」と思ったんですが。

でも、実際のオペレーションになると、そうは問屋が卸さない感じで、いろいろ言われるわけです。「やっぱり直接お金入れるのはダメ」と。今で言うガバナンスの問題ですね。なので、徳間書店グループの子会社を作ってやる、そこで債権債務も買い取ってやると。人も100人ぐらいいたんですけど、30人ぐらいリストラして連れてこいということで、なんとか継続させることになりました。

運がいい人は、人に恵まれている人

でもね、最後どうしても資金繰りに詰まったんです。その本体の会社が。僕と西山さんでその時やっぱり無心に行きました。「お金貸してください」と。でも徳間社長が「お前ら担保はあるのか?」って言うわけですよ。普通、担保あったら「お金貸してくれ」って言いませんよね。銀行行ってますよね。

黙っていたら、徳間社長が言うには、「お前らサインしろ」って言うんです。連帯保証。「どっちだ?」と。「めんどくさいからお前ら2人ともサインしろ」って言われまして。

今でも覚えてるんですけど、公証役場ってみなさん知ってます? 公証役場、今でこそきれいなビルにけっこう入ってますけど、当時、新橋の公証役場って汚い雑居ビルだったんですよ。

徳間書店グループの顧問弁護士に両脇を抱えられて連れて行かれて。「サインしろ!」って。もう今で言うと、半分、拉致・監禁状態ですね。サインしましたけど。

そんなこんながあって会社は倒産の危機を回避したわけですが、そういったいろんな人の助けがあって、会社が助かったわけです。

その時のリョーマ、キューのメンバーの方も、そんなに負債を被ることもなく、倒産することもなく、今の活躍につながっているわけですが、やっぱりこの、断ったのにもう1回お願いしたら話を聞いてくれた、この人と出会いがなければ絶対になかったわけです。

この人というのが、実は冒頭に話した、初対面で「お前、運を持ってるのか?」って言った人なんです。「お前は運があるか。俺は運があるやつしかつきあわない」って言った人です。つまり、「運があるやつとしかつきあわない」と言っていたその人が、実は最大の運を僕らにもたらしてくれたわけですね。本当に人の縁というのは大事だなと思いました。

時は流れて30年後。佐藤直樹さんとおっしゃるんですけど、今は日テレグループの日活という映画会社の社長をやられています。プロデューサーとしては、『着信アリ』とか『ガメラ』をやったりした人ですけれども、もう本当にこの人との出会いがなかったら、僕らの今はないなと思って感謝してます。

縁があって、僕は今、実はこの会社の社外役員をやってるんですけど、もう30年にわたるつきあいです。たぶんこのなかに生まれてない人もいると思うんですけど、なんか大河ドラマになっちゃってますけど、人の運というのは本当に大事だなと思っています。

まとめですけれども、運がいい人というのは、人に恵まれている人です。これは偶然ではないんです。なので、みなさんの日々の意識付けがすごい大事です。

偶然ではないということは、コントロールできるんですね。つまりいい経営者というのは、運、人を呼び寄せることができるわけです。

今日は若い経営者の方がいっぱい来てると聞いています。前のほうに座ってる方は、非常に成功していろんな運を持ってる方なので、ぜひこういう方と交わって、経営者の方々は自分自身の運勢を、運気を上げていただきたいなと思っています。

そしてみなさんもし成功したならば、というか、ぜひ成功してほしいわけですけど、その運をぜひ次代の方に伝えていただきたいなと思っております。

以上をもちまして、僕のプレゼンとさせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございます。

(会場拍手)