2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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朝倉祐介氏(以下、朝倉):はい、朝倉でございます。
(参加者から「ミクシィ!」の声)
朝倉:私は、15歳の時に競馬の騎手の候補生としてキャリアをスタートしました。以来、会社の経営も含めて、世の中で起こるだいたいすべてのことは、馬に例えて理解をしています。
(会場笑)
今日は、「走らない馬の走らせ方」すなわち衰退期に入った会社をいかに立て直すか。これを、株式会社ミクシィでの企業再生の経験をベースにシェアできればと思います。
走らない馬を走らすにあたって、私は3つの要素が必要だと考えています。理、心、運。
理。これはすなわち戦略だとか方針。頭で考えることですね。心。これは頭で考えたことをやり抜くタフネスさ、エグゼキューションの部分。運は読んで字の通りです。
問題は、この理と心と運、後付けでどれぐらい結果に貢献していたのか。この比率なんですけれども、私、ざっくりとこれ、1:4:5ぐらいだと思ってます。つまり半分以上運なんですね。運なんです。
(会場笑)
ただ、注意すべきことは、運というのはあくまで十分条件だということです。必要条件である理と心を突き詰めなければ、絶対に運というのは回ってこないと思っています。
今日、私がお話ししたいのは、走らない馬を走らせる上での必要条件、理と心の部分です。運についてはのちほどの杉山師範のお話をお聞きください。
(会場笑)
遡ること7年前、私、零細スタートアップの経営者をやっておりました。この会社を2011年に売却します。それが当時のミクシィ社です。
若い方のなかには最近もうご存じない方もいるんですけれども、当時のミクシィ社のメインの事業というのはSNS。ソーシャルネットワーキングサービス。
ただ、当時のミクシィは非常に苦境に立たされていたんですね。私が入社したあたりを境にして、きれいに右肩下がり。私が代表取締役に就任した期が上場以来初の赤字決算となりました。
時価総額です。上下動ありながら右肩に下がってます。私が就任した当日が、たしか時価総額180億円だったと記憶をしております。
私、外から入った人間だったものですから、半ばアウトサイダーなわけですよね。そうした人間から見て、当時の社内はどのように見えていたのか?
踊り場局面に組織内で観察された主な症状です。タコツボ化、神学論争。既存の事業の延長線上でしか物事を考えられない。戦略を考えられない。
独善的な戦況の解釈。Facebook、Twitter、LINE、こういったサービスにユーザーを取られ、売上を取られているわけですが、これらのサービスはソーシャルという価値観を世の中に広めていく、いわば仲間であるという、そういった解釈がなされて信じようとしてました。
(会場笑)
3番目、不作為の経営。とにかくなにも決まらない。なにも進まない。
こうしたなかで組織でなにが起こるかというと、犯人探しですね。悪いのは経営陣である、もしくは隣の〇〇本部である、と。そういった打ち合いが日々繰り広げられておりました。
一方、アウトサイダーである自分から見ると、ミクシィってすごくいい会社だったんです。優れたエンジニアがとにかく多数いた。130億円もある潤沢なキャッシュ。純資産160億円。これスタートアップ130回ぐらいできます。強力なブランド。ミクシィというブランドは日本のインターネットユーザーであれば誰でも知っていましたよね。
これを見て私が思ったのが、とにかく「もったいないな」ということです。零細スタートアップの経営者からすれば喉から手が出るほどほしいようなアセットがあるにもかかわらず、それがまったく活かされていない。バッターボックスにも立ってすらいない。
この状況に対して忸怩たる思いを感じましたし、もっというと腹が立ちました。「なにをぼやっとしとるねん。眠たいこと言うとんちゃうぞ」というのが、当時率直に感じたことです。
入社当時、私、平社員だったんですけれども、これは自分がなんとかしなければいけないと思って、勝手にいろんなことを始めました。
自主的な遊説活動。会社の中で声の大きそうな人間を捕まえて、「お前、この会社のことをどう思ってんだよ?」という議論をふっかけて回りました。10人中8人9人は「新参のお前がなにを言うておるんだ」というふうに斬り捨てられますけれども、なかには「おもしろいことを言ってくれるね」という人も出てくる。
今日も来ている、当時のCTOの松岡という人間は、私が声をかけてなかったら1週間後には退社してました。
サービスレイヤーへの不介入。これは神学論争に立ち入らないということです。私がやるのは株式会社ミクシィの再生である。サービスSNS「mixi」の改善ではない。これを明確に決めました。
タイムリミットの設定。時間があれば、ゆっくりとした体質改善、漢方治療でも間に合うわけです。逆に、時間が短ければ、これは緊急手術が必要だと。当時の会社の状況を見て、これは残されている時間は少ない。返り血を恐れずに外科手術をせざるをえないと判断いたしました。
そういう活動をしてると、当時の経営幹部陣から「だったらもういい加減、朝倉が経営やってくれ」というような話を受けました。そこで私がお願いをしたのが、辞表の提出です。
(会場笑)
せっかく私が、理の考える部分で戦略・方針を立てても、心の部分を捻じ曲げられればなにもできません。したがって、やらせるんだったら、みなさん、全員辞表を出してくださいということで、辞表を出してもらいました。これ、私が平社員の頃のお話です。
(会場笑)
そうこうして、私は執行役員になり、代表取締役になりました。
これが、4年前の通期決算発表でお話していた内容です。
これをもう少し噛み砕くと、SNSに固執しないで、とにかく利益にこだわろうということを言っていました。まあ、当たり前の話なんですけどね。
あと、潤沢なキャッシュからキャッシュフローを生み出していこうということ。また、ミクシィという会社自体が、そもそもスタートアップだったわけですから、新しい事業をどんどん生み出す、そういう風土を取り戻そうと。こういった話をしていました。
大方針に沿って、とにかく、いろんなことをやっています。いろんなことをやっていて、成功したことも、失敗したこともあったんですけど、本質的に取り組んでいたのはなにか? それは、サービスと会社の密結合の解きほぐしです。SNSの呪縛から、どうやって会社を解放するか。そういうことにチャレンジをしていました。
そういったことをやって、その後、ゲームのヒットもありましたし、企業買収、事業売却の成功もありました。なにより、スタッフの奮闘もあって、業績はよくなっていきました。こんな感じですね。
その後も、就任期間中こんな感じ。ホッケースティックというのは、こういうのを言います。時価総額もこんな感じになりました。就任時180億程度だったのが、5,000億程度まで伸びました。
(会場拍手)
ありがとうございます。
以上を踏まえて、私なりに思う、走らない馬の走らせ方。これを3点にまとめたので、共有したいと思います。
まず、第一に、解くべき課題を間違えないということです。なにを言っているかというとですね。もしも、私が、SNSとしてのミクシィを改善しようと思っていたら、先ほどのような結果は、絶対に出て来なかったと確信をしています。なので、経営者たるもの、最初に、自分たちが取り組む課題とは一体なんなのか、これを間違えてはいけないと思っています。
2点目、私は、これが一番重要だと思うんですけども、人ではなく、環境に働きかけるということです。経営者として、当然、組織の内側、もしくは、組織の外側に対して、我々はこういうことをやっていくんだということを熱心に言葉を尽くして伝えていきます。
しかし、残念ながら、時間も限られており、また、私にカリスマ性なんてものはありません。さらに、創業経営者のような、いわば、呪術めいた影響力というのを組織内に及ぼすことが、私の場合はできませんでした。
したがって、私はなにを考えたのかと言いますと、自分たちが行きたい方向に、自然と人が流れるような環境をどうやって作るか。そのことに専念しました。
1つ、具体例を上げましょう。2012年当時を振り返って、ネイティブアプリのゲーム領域がガラ空きだということは、おそらく、この会場にお集まりのみなさん、誰もがわかっていたと思います。当時、コロプラさんくらいしかいなかったですからね。ただ、いろんな会社さんあるなかで、できないには、できない理由があったと思います。
開発体制の話もあるでしょうし、また、当時のプラットフォームさんとの関係性の話もあったと思います。一方で、我々ミクシィは、どちらかと言うと、プラットフォーマー側です。なんのしがらみもないわけですよね。「ネイティブアプリのゲームの市場が空いてるんだから、やりゃあいいじゃん」という話だったんですけれども、当時、そういったことを、言葉を尽くした結果、「はい、検討しまーす」と言うものの完全にスルーされる、そういう状態でした。
そこで私がなにをやったかと言うと、当時のミクシィのゲームプラットフォーム運営事業、これを、事業提携を通してすべてDeNAさんにアウトソーシングしました。その結果、なにが起こるかというと、会社内にプラットフォーム運営の事業というものがなくなるわけですね。仕事がなくなる。なおかつ、そこに従事していた人たちの仕事がなくなるわけですよね。そこまできて初めて、「ゲーム作ろうぜ」という掛け声が現実味を帯びて、みんなが真剣に考える対象になります。
経営者のみなさんであれば、これが社内にどれだけハレーションを生むことなのかということが、よくおわかりだと思います。大混乱でしたが、これはもう腹をくくってやるしかないと決めていたので、やりきりました。そうこうして、ネイティブアプリを1本、2本、3本と作っていった結果、当たったのが、『モンスターストライク』だったということです。
最後に、発病前の予防が大事。大企業病というものは、発病前の予防が、一番大事です。今までお話してきたようなことをいろいろやってきたわけですけど、変革というのはとにかく面倒くさいんですね。みんな変わるのは嫌だし、そんなことやりたくないし。私ももう2度とやりたくありません。こんなこと。
なので、こんな面倒くさいことをわざわざやる必要がないように、常日頃から、自分たちの会社をアップデートしていくこと。これを常態化するような環境をどうやって作っていくか。そのことに専念することが、なによりも重要だと考えています。今日、お集まりの成長中のスタートアップ経営者のみなさんには、ぜひ覚えておいていただきたいポイントです。
以上、私から、走らない馬の走らせ方でした。ご参考になっていただければ、幸いです。ありがとうございました。
(会場拍手)
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