絵画の贋作を見分けるには

ハンク・グリーン氏:絵画を扱う商売というのは、有名な画家の作品にはいくらでもつぎ込める、という人々を相手にすれば、とてもいい商売です。とはいえ、それは大金さえつぎ込めば望む絵画を手に入れられるという世界ではありません。正真正銘のレンブラントを手に入れたつもりが、まんまと贋作をつかまされてしまっていた、なんてことになってしまうことにもなりかねないのですから。

贋作とは、現存する絵画の模倣、もしくは有名画家の作風を真似て、有名画家の新たな作品として製作されたものです。では、真作かどうかはどうやって鑑定されるのでしょうか?

鑑定の基準は3つです。画家の画法と筆遣い、そして、何年にもわたる、誰にどのような経緯で作品が渡ったのかを示す記録を見るのです。しかし、科学で贋作を暴くこともできます。顕微鏡やX線、化学分析を用いると、その道のプロが見るよりも確実に偽物を暴けるのです。

絵画の表面という点から見て行きましょう。古い絵画作品には、クラクリュールと言われている、網目模様のひびが入っています。クラクリュールは、歴史と出所を紐解く鍵となります。

油絵は色の付いた顔料と油、そして筆運びを滑らかにするものの蒸発しやすいという点を持つ溶剤とで描かれています。油は固体層を固める、つまり、色の層をはがれにくくします。しかし、時間が経つとその効力は弱まり、固まった色の層はひび割れるのです。気温の変化と湿気、もしくは処理の仕方によって、です。

クラクリュールの形状は絵の具の化学反応と絵画の扱われ方によります。贋作者は偽のクラクリュールを造り出すために溶剤洗浄剤を使い、早く乾かして、ひび割れを造り出すために熱処理を施します。

人工的につくられた古めかしさは、本物の年月を経た絵画のクラクリュールの模様と比べると不規則なものなのですが、裸眼でそれを見分けることは困難です。

顕微鏡による検査や認識ソフトを用いて調べればそれが本物のひび割れなのか、作為的につくられたものなのかをいち早く見抜くことができます。偽物のひび割れはクラクリュールのひび割れの模様とは異なりますし、下に何かが描かれた形跡の無い絵画は偽物である可能性が高いのです。

というのも、絵画は一見なにも隠されてはいないように見えますが、科学者が赤外線やX線を使って絵画の表面を探ってみると、絵の具の層の下に下絵と呼ばれる絵が描かれているのがわかるからです。下絵は、当時の画家の心境、もしくは心変わりすら知らせてくれるのです。

下書きに鉛筆や木炭を用いて何かを書き込んだ画家が、色付けの段階で手直しをしたり、下書きとはまったく別の物を描いている、というようなことなどです。

ゴッホの作品を見つけ出した手法

また、赤外線は絵の具の層の下のキャンバスを映し出し、下絵を暴き出します。キャンバスのような淡い色の領域は赤外線を反射させますが、木炭のような黒い領域は赤外線を吸収します。歴史ある絵画に下絵が描かれているかどうかを調べてもらったらなにも見つからなかったという時は、偽物を掴まされていると言えるのです。

この技術は現存する真作の絵画の確信性を上げるのにも一役買っています。「野花とバラの静物画(Still life with meadow flowers and roses)」はゴッホの作品とされていますが、絵画の歴史上ではそうではありませんでした。ゴッホの絵画にしては大き過ぎる上に、署名の位置がおかしく、また、ゴッホは一度に多くの花を描くことが無いから、という理由からです。

2012年に蛍光X線元素分析法を用いた下絵の分析が行われました。一定以上のエネルギーを持つX線で絵画の絵の具の層を照射し、絵画の原子から電子をはじき飛ばすと、そこが空きます。その空いた場所に外殻電子が落ち込むことで、分子毎ごとに変化するX線が放射される、という働きを利用したのです。

蛍光X線元素分析法は、そのらしくない絵画の深層から筆づかいの癖を割り出し、ゴッホが作者だという真実を暴いたのです。また、素敵な花が描かれているこの絵画にはまったく違った場面、2人の上半身裸の男たちが打ち合いをしている場面が描かれていたことも暴き出したのです。

その絵はゴッホが弟に宛てたの手紙の中に出てくる、「今週は2体の裸のトルソー、2人のレスラーを描いた大きな作品の製作をした」、とする絵画で、その時まで発見されていなかった幻の作品だったのです。

ゴッホがキャンバスを使い回していたことがわかったことで、このらしくない静物画が正真正銘の本物だと誰もが認めることとなったのです。

科学者にとって、絵画を作成する時に必要な材料、顔料とキャンバスは最も注目すべきところです。絵画には色んな化学が詰まっています。化学の用いられ方はその時々によって変化します。有機顔料が使われていたり、合成顔料が使われていたり、といったふうに。画家によっても使う顔料は違ってきますので、化学分析で絵画が真作かどうかを調べることができるのです。

例えば、絵画の分子の構成成分は劣化し、細かな成分となり、分離し、分解してしまっていることに着目し、質量分析法を使うのです。

質量分析法とは、炭素とは異なる構造形式で炭素よりも質量があって、放射性のある炭素14、炭素12など、違いのある個々の原子を検出し、分子量の比率を調べる方法です。絵画は炭素の記録が隠されているのです。

1950年の終わりに行われた核実験は、炭素14の生成量を世界中で増やすという結果を引き起こしました。「ボム・ピーク」、と呼ばれている時代です。

炭素14はキャンバスの材料となる、綿を含む全ての生物に取り込まれました。このことが、フランスの画家、フェルナンド・レジェの作品の贋作を見抜く決め手となったのです。

科学者は顕微鏡で見れるくらいの、色の付いていないわずかなキャンバスの断片を取り、加速器質量分析と呼ばれているとても繊細な高度な技法を用いて炭素14の痕跡を確かに見つけたのです。

キャンバスが製作されたのは1959年であることは明らかなのですから、1955年に亡くなったフェルナンド・レジェの作品であるはずが無いのです。

これらの処理科学は絵画というものを理解する上でとても重要になってくるものです。科学者は歴史に名を馳せた歴史家と共に、精巧な贋作に一手を投じるのです。