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「伝え方を科学する」 中野信子☓佐々木圭一☓吉田哲(全3記事)

「次の土曜空いてますか?」はNG 伝え方のプロが教える、絶対に断られない誘い文句

5月30日~6月2日にわたって開催された広告の祭典「Advertising Week Asia」で、脳科学者の中野信子氏とコピーライターの佐々木圭一氏、simpleshow代表の吉田哲氏が登壇。「伝え方を科学する」というテーマで、コミュニケーションについて語りました。

言葉のギャップによってわかりやすくなるのはなぜか?

佐々木圭一氏(以下、佐々木):先ほどギャップ法ということで、正反対のものを入れると言ったのは、僕たちはそれでわかりやすくなるというつもりではあるんですが。

中野信子氏(以下、中野):おっしゃるとおりです。

佐々木:単純に、例えば「考えるな、感じろ」というときに「感じろ」と言うと、その背景になにがあるんだろうとかと思うところを、「考えるな」という反対のことを言っていることで飲み込めて、「そういうことね」と、わかりやすくなるということなんです。

中野:わかりやすくなります。わかりやすくなるような感じがするのはなぜかというと、ギャップがあると驚きがありますよね。驚きというのは脳にとっては快感なので。

その快感があると、本当は自分が考えたわけではないのに、自分が考えたと錯覚しちゃう。実際に脳は活動しているから。意思決定する快感と、自分が驚きを感じたという快感は、厳密には違うけれども、自分の意識自体はそれを大してクリティカルには区別していないようなのです。つまり、快感を与えることによって相手の思考を止めたり乗っ取ったりすることができる。

佐々木:快感物質が出てるわけですよね。

中野:ドーパミンが出ます。

例えば、ドナルド・トランプがうまいのはそこですね。驚きのある発言をして、「これはおもしろい!」と脳に快感を感じさせて、「自分が意思決定するのはしんどいから、この気持ちいい意思決定に従いましょう」と無意識に体に教えこんでいくという、彼のいわば、脳を調教するみたいな手法です。

吉田哲氏(以下、吉田):ギャップが大きければ大きいほど、ドーパミンが出やすい。

中野:出やすいですね。

日常からそう遠くない驚きがドーパミンを発生させる

佐々木:ドーパミンというと、一般的にどういうふうに出るものなんですか?

中野:一般的には、自分が経験したことのない新しいもの。だけども新しすぎてはダメなんです、不安を感じさせてしまうから。自分の日常からそう遠くはない驚き、例えば自分のよく知っている人がなんか綺麗になったねとか。

佐々木:いつもの定食屋に行って、違うものを食べたらおいしかったとか。

中野:そうですね。コンビニに行って新しい、例えばアイスクリームが出てましたとか。それぐらいの他愛もない新しさ。

佐々木:なるほど。

中野:例えば私が、これでもけっこうギャップあると思いますけれども、これでモヒカンで来たら、みなさん「伝え方のレクチャーなのになんだろう?」と思いますよね。

佐々木:そうですね。なにを伝えたいんだろう?(笑)。

中野:これくらいの服装がギリギリかなと(笑)。

佐々木:いえいえ。そんなことないです(笑)。

吉田:では、続きまして、先ほど言葉のギャップということでしたけれども。今度は動画におけるギャップというのをご説明できればと思います。

動画におけるギャップのテクニック

最近スマートファーストと言われて久しいですけれども。「スマートフォンの小さい画面でもどう動画で見せるのか?」というのを、みなさん日々追求されているのではないかと思います。

今日よろしければ覚えていただけるといいかなと思うのは、simpleshowがドイツ本社で提唱しているノウハウなんですけれども、「organic digital」というノウハウがあります。

それがどういうことなのかというのを、実際の動画を見ながら説明させていただければと思います。90秒の動画です。佐々木さんの『伝え方が9割 2』が出た時に、その解説動画を作らせていただきましたが、そちらになります。

伝え方が9割 2

(解説動画)「これは実際にあったお話です。お目当ての人をデートに誘うとき、『次の土曜空いてますか?』。この伝え方じゃどうなるかわかりません。

『めったに予約の取れないイタリアン、今なら今週の金曜か土曜に取れるんです。予定どうですか?』。こう伝えたら大成功!

『AとB、どちらがいい?』と聞かれると、人はついどちらかを選んでしまうもの。コツは選ばれてもいいもの2つを用意すること。これは伝え方の技術の1つ。『選択の自由』。

料理にレシピがあるように、伝え方にもレシピがあります! 『伝え方が9割 2』は、あなたが伝え方のレシピを身につけて、すぐに使えるよう徹底的にこだわっています!

まず記憶に定着する『実践ストーリー』。次に読むだけで練習になる『アウトプット型構成』。そして、実際の講演を体験できる実況中継。

また、今回新たに3つの技術、『ナンバー法』『合体法』『頂上法』が加わり、強い言葉を作る技術が8つにパワーアップしました。

コピーライター人生18年。私が苦労してたどり着いた伝え方のレシピを、最短で手にいれてみませんか? 待望の第2弾、いよいよ発売!」

吉田:こちらの今見ていただいた動画、どういうギャップがあるのかということなんですけれども。1つは手書きのイラストであるということです。先ほどorganicといったもののなかには「手書き」というところもあります。

一見すると子供の落書きのような下手な感じのイラストですが、これは瞬時に理解できるということと、親しみを生むという効果があります。

そして「モノクロ」。通常、ネット用の動画というと、フルカラーのCGアニメーションとか、CMをそのまま流したりということなんですけれども。あえて白黒にすることで逆に目立つというギャップの効果があります。

とくに白黒は明度差が一番高いので、色を使ってないほうが心配なようでいて、一番目立つということですね。これ、白黒な画面なので、スマートフォンの小さい画面でも非常にわかりやすく見えています。

これ、実際simpleshowの本社でやった調査ですけれども。白黒は、通常のCMですとか、カラーのCGアニメーションと比べると「より見やすく印象に残る」という調査結果が出ております。

“ミラーニューロン”を動かす仕掛け

「本物の手」を使っている。これもorganicです。先ほどミラーニューロンのお話がありましたけれども、このミラーニューロンはいろんな部位に反応するなかで、手に一番反応するんですよね。中野先生の専門だと思うんですけれども。

Webマーケティングにおける動画というと、冒頭の3秒をどう作るのか、とかが重要だと思います。Facebookも3秒で1カウントですけれども、その冒頭の3秒でリアルな手を出すことによって、見てる人が瞬間的に注意せざるえない状態を作ります。あとは物語の転換を手を使うことによって、集中も維持できるということですね。

あとは「紙工作」。いま見ていただいた動画はイラストを描いて、実際に紙を切り抜いて、手で動かして、天カメで撮影して、コマ撮りで撮ってます。

なので、紙工作をすることによって、随所でアナログっぽいところが出てきます。影が出てきたり。そのアナログ感で驚き、あとは親しみを生むという、このギャップ効果です。

こういう効果をsimpleshowという会社はドイツでも日本でも大学と一緒に共同研究しています。今の動画を見て、たぶん先生は初めてご覧になられたと思うんですけれども、率直なご感想を。

中野:そうですね。気づくところとしては下前頭回という、さっきご説明した場所にあるであろうミラーニューロンを動かすいろんなギミックが仕組まれているなという話です。

手に反応するというのはなにかというと、運動野というのがありますね、脳には。運動野はなにかと言いますと、手を動かすための領域ですね。この領域、どこにあるかというと、頭頂葉と前頭葉の間ぐらいといいますかね、その辺にあるんですが。

手の領域はどこかというと、下前頭回とかミラーニューロンの近くにあったりします。手を動かすとミラーニューロンも動くというのは、なんとなく実は領域が近いからということが言えそうな感じがするわけですね。まあ強制的にミラーニューロンを動かすような、そういう仕掛けがあったとしても驚かない。

もう1点、共感の領域というのは、もっと別にもありまして。眼窩前頭皮質とか、あとは側頭葉の一部で、文脈を読む領域ということで知られている部分があります。

こういった領域もアナログ感とか、親しみやすさを感じるところといえそうですから、そこを刺激しようとしているんだなということを感じます。

伝え方のカギを握る“自己効力感”

吉田:ありがとうございます。時間が押してしまっているので、最後に1つ共感について簡単に触れたいと思います。伝え方のノウハウのもう1つのポイントが「共感」。シンパシーですね。共感してもらうにはコツがありますということです。

先ほどの佐々木さんの『伝え方が9割 2』も、このメカニズムです。自分ごとからスタートすることで、情報が「自己効力感」の高い物語になる。

WhyからHowというストーリー展開はsimpleshowの型で、はじめにデートに誘おうと思って失敗しちゃった男の人の話が出ます。男性ならだいたい経験してるパターンですよね。これを見ることで、冒頭で「自分ごと化」ができます。

そのあとで、やり方を変えたら成功して。その成功の背景にはこういう技術があると。私が18年間かけてつかみ取ったレシピをすぐに身につけられる本ですよ、というかたちで結論になるんですけれども。

みなさんも真似できると思いますので、ぜひ覚えていただきたいですね。とにかく序盤で自分ごと化させるということです。

そして、「自己効力感」というのは、モチベーションよりも前のプロセスで「自分でもわかりそう、できそう」という気持ちです。これが起きないとモチベーションにつながらない、ということです。

(スライドを指して)「本物の手」というのは先ほどの、ミラーニューロンのお話です。

(スライドを指して)「BGM」。実は、このソリューションが出てきたぐらいからJazzの旋律がリッチになってます。これ、聞いてる人が無条件・無意識でウキウキしてしまうんです。なので、音楽でもやろうと思えば共感というのを高めることができます。そういうことです。

(スライドに)「教えて中野先生! その時、脳の中では?」

中野:音楽ですか? 体感する時間も思考のクロックも変わりますね。

吉田:そうですね。

中野:いろんな実験がたくさんあって。人間がいかに周りの環境に支配されて、自分で意思決定してないかということがよくわかる。

吉田:自己効力感というのは「自分でもできそう」と思わせることですよね?

中野:そうですね。なにかを選ぶというときに、「自分で考えました」という感じを与えるのが自己効力感を与えるという仕掛けですよね。

「このお水を飲んでくださいね」と言われると、そう指示した人の意図が意識されますから、その通りに行動しても自己効力感は得られないですよね。ここにお水を置いておいて、喉が渇いた状況を作っておいて。誰かが飲んでいる、私も一口欲しい、という状況を与えないと。

そういった状況の仕掛けを作って、一部分だけをやらせるというのが、自己効力感を与えながら自然に選択させるための、有効な方法なんです。

「デートしませんか?」という誘い方ではダメ

吉田:そうですね。選択の自由で、佐々木さんのさっきの動画にも出てきましたけれど。動画を作る時のポイントは、動画に全部をつめ込まないで、選択できるような仕掛けを周りに作っておいてあげる。

そうすることによって、選択の自由はあるんですけれども、見てる人は自分で全部考える必要もないので、全部わかった気持ちになって、次の行動にいくかもかもしれないということですよね。

中野:ほかの例では、塗り絵がありますよね。枠があらかじめ書いてあって、そこに色を塗ってもらうやつ。あれみたいなものです。

「みんな、自由にキャンパスに絵を描いて」と言うと、思い思いのものを描くので、一方向に誘導するというのは難しい。そもそも、白紙だと絵が描けないという人もいます。意外と、自由に、というのは難しいものなのかもしれませんね。でも、塗り絵だったら、「自分が決めた色を自由に塗った」という感じを与えながら、しかも、意外とみんな同じパーツには同じ色を塗ったりするんですね。比喩でお話しましたが、そういう誘導の方法があります。

佐々木:はじめから、つまり描かれてるものがあるがゆえに、やりやすい。

中野:そうですね。自己効力感が得られる上に、ある程度の誘導もできるという。

佐々木:なるほど。先ほどのデートの誘い方でも、「金曜と土曜だったらどっちがいい?」というふうに言われているがゆえに、そこから「じゃあそれだったら、こっちかな」と、まあ頭あんまり使わないで。

中野:そうそうそう。「決めた」という感じは与えられるという。

佐々木:「デートしませんか?」とかだと、なんかいろいろ考えちゃって。

中野:「本当はこの人すごい下心あるんじゃないか」「下心あるとこっちも思われるんじゃないか」みたいな。「誘われてうれしいと思われたら嫌だな」とかね。

佐々木:いろいろ頭使って、「めんどうくさいな」となっちゃう。そういうことなんですね(笑)。

吉田:わかりました(笑)。さて、みなさん今日は時間が本当に押してしまって恐縮です。短い間ではありましたけれども、ギャップ法ということと、共感を高めるということを、いろいろな角度で科学技術をご紹介しました。

ぜひみなさんのプライベートやお仕事でも活用していただければと思います。質疑応答の時間がなくなってしまって、すみません。今日はありがとうございました。

佐々木:ありがとうございました。

(会場拍手)

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