2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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中野信子氏(以下、中野):今は脳科学がメディアにも世界にも浸透して、それなりの時間が経っています。
それがまだ、マーケティングとか政治とかに本当に活かされているかというと、そうでもないですよね。どちらかといえば興味本位で内容が消費されているような感じで。とくに政治にはあまり活かされてない。
しかし、政治に本当に活かされるようになってしまったら、みなさんどう感じるでしょうね。いい活かし方をしてもらえればいいですけれども。例えば、先ほどお話した選挙の時なんか、意思決定をみなさんは自分でしていると思っていらっしゃると思いますが。
佐々木圭一氏(以下、佐々木):思いますよね。自分でしてないということなんですか? 意思決定を。
中野:そう。意思決定というのは意外に自分ではしていないものですし、自分でしたいと脳は思っていない。
佐々木:例えば、今「水を飲みたい」と思って、自分で選択して飲むということが、そうではない?
中野:これも「自分で選択した」と思わされていたとしたら、どうでしょう?
佐々木:そんなことがあるんですか?
中野:あり得ます。
佐々木:怖い話ですね。
中野:例えば、自分の意思でどこかの党に投票したとみなさん思っているかもしれませんが、もしその党に、無意識に投票させられていたとしたら、どうでしょう? そういうことがこれから起こりえないとは言えません。
すごく有名な例だと、サブリミナルというのが昔、話題になりましたね。
コカ・コーラの例が有名だと思いますけど、おやりになったという方ご自身が自ら「そのデータが十分でなく、一切を後悔している」と告白して、「サブリミナル効かないんじゃん? やっぱり」という認識が一般的になってはきたんです。
しかし、2006年に、ユトレヒト大学の研究チームがリプトンのアイスティーで同じような実験をやったんです。そしたら、実験室という限定的な環境という条件下でではありますが、リプトンのアイスティーの画像を出すということをしたらですね。
佐々木:映像のなかの1コマにアイスティーを紛れ込ませて、目には見えないようだけど、でも脳みそではけっこう見えてたりする。
中野:認知してる。見ていないとみんな思ってるんだけども、脳は確実に認知してる。それは何十ミリ秒とか、それぐらいのごく短い時間だけ提示するんですね、観客に。そうすると、なんと効果があったたんですよ。見せてないものよりも。
佐々木:やっぱり効くんだ。
中野:そうなんです、条件付きではありますが、やっぱり効くんだということがわかりました。
佐々木:それが効くということであれば、これはもう本当に仮定の話ですけど、例えば動画を作って、ある党の名前を、本当にすごく短くてあんまり目では認識できないぐらいの短いものを細かく入れていくということをすると、その党の名前が頭のなかには焼き付いてしまうので。
中野:もうなんてことのない風景、『世界の車窓から』みたいなね、ああいう番組のなかにちらっと30ミリ秒ぐらい小泉進次郎さんの写真が映るとか、そういうことをしておくと、「自民党入れたいよね」という気持ちになったりするかもしれないわけですね。
佐々木:なるほど。
中野:意思決定が自分のものではないということを「サブリミナル」という怖い例を出してご説明しましたが、これ以上にもっと自分の意思決定で行ってない、しかも人間が自分の意思決定をすることを、実は回避したがっているということを示す例というのはいくつもありますね。
例えば、『選択の科学』というシーナ・アイエンガーの本がありまして。
佐々木:センタクの科学。
中野:はい。チョイスですね。
佐々木:洗うほうじゃないんですね(笑)。
中野:違います(笑)。choose、choiceですね。
佐々木:わかりました。はい。失礼しました(笑)。
中野:すいません(笑)。
佐々木:あんまりそこはつっこむ必要はないと思ってるんですけれどね(笑)。
中野:あえてね。あえて。今のは注意を引くみたいな。大丈夫ですか、この話を続けてて?
吉田哲氏(以下、吉田):大丈夫です(笑)。
中野:たくさんの品物を陳列しておいたほうが、売上が上がるだろうと多くの人は思いますよね。スーパーなんかでよくやりますよね。チラシにスペースぎゅうぎゅうに品物の名前を書いちゃう。
佐々木:ドン・キホーテとかね。
中野:まあ、ドンキはやったほうがいいのかな。条件にもよりますけど。だけども、実際には少なく陳列するとか、チラシにも限定的にものを載せたほうが売上が上がるよ、という話です。
売り場の滞留時間そのものは増えるんですけれども、結局選べない。なぜなら選択することが苦痛になるからです。選択肢が多ければ多いほど、選択をすることが苦痛です。
佐々木:なるほど。昨日ちょうどマツキヨに行ってきて。マツキヨで制汗剤、シュッてするスプレーあるじゃないですか。買おうと思って行ったんですけど。でも、店頭にこんなバケツにバーンと入ってたから、「もうこれでいいや」と思って、そのまま買った。ということですよね?
中野:そういうことですね。
佐々木:たくさんあるところから選ぶんじゃなくて、「ここにあるから、それでいいや」みたいな。
中野:そう。吟味して選ぶよりも、手の届くところにあるなにかを選んじゃう。結婚相手もそうかもしれませんね。
佐々木:そうなんですか?
中野:意外とそういうところありますね(笑)。吟味して選んだら絶対選べないから。もっといい人が現れて……。
佐々木:なるほど。先生はそうだったんですか?
中野:吟味して選びました(笑)。
(一同笑)
吉田哲氏(以下、吉田):ありがとうございます。続きまして、「伝え方のノウハウ」ということで、ここから佐々木さんにご説明いただきたいんですけれども。佐々木さんはいくつも伝え方の技術をご紹介されてますけれども、今日はそのなかの1つ「ギャップ」について。
佐々木:はい。ヒラリーさんの話があったので、ヒラリーさんの話でいきたいなと思うんですけれど。けっこう有名な演説のなかで、こう言っていました。
「あなたが成功しなければ、アメリカも成功しない」。
中野:いい言葉ですね。
佐々木:ヒラリーさんですね。それに対して、安倍首相は「一億総活躍社会」というふうに言っています。これ、実は見ていただくと、内容同じこと言ってるんです。言い方を変えてるだけで。でも、2人とも同じ趣旨のことを言ってるんですよね。
伝え方によって、人の気持ちというのが変わると思っていて。あえてこれを比べて言うならば、ヒラリー・クリントンさんのほうが僕はいいなと思う。
「一億総活躍社会」も悪くないと思います。キャッチーですし、頭に残りやすいし。ただ、コピーライター的にいうと、漢字多すぎで見にくいだろうとか、パッとわかりにくいだろうということだったり。
あとは、上のヒラリーさんのほうは「ギャップ法」という、正反対の言葉を入れてるんですね。「あなた」という一個人に対して、「アメリカ」という大きな国。正反対のものが入っているがゆえに人の心というのを動かすことができる。動かそうと思って、この言葉ができてるんじゃないかなと思います。
ちなみに次のページを見ていいただきたいんですが。けっこう有名な、みなさん聞いたこともあるかもしれないです。例えば、「ギンギラギンにさりげなく」。
これはある一定の年齢の上の方はみなさん知っていると思うし。歌手も思い浮かべてと言ったら思い浮かべることができると思います。
「ギンギラギン」というすごいポジティブでノリノリの言葉に対して、「さりげない」というすごい静かな言葉。正反対のものが入ってるから、心に届きやすくなる。
続いて、『燃えよドラゴン』のブルース・リーの名言。「考えるな、感じろ」という言葉があります。これも国際的にすごい有名な言葉になってますよね。
なんで、これが有名になってるかというと、もちろんその映画自体もいいです。ただ、この言葉自体の「考える」と「感じる」というのが、内容として反対のことが入っているがゆえに心を動かしやすくなってるという。
これで言うならば、本当は意味としては「感じろ」と言えば、それだけで内容は伝わるわけです。「考えるな」と言わなくても、意味として、「感じろ」ということだけを言えば伝わるにもかかわらず、反対の言葉を入れているがゆえに、言葉としてより伝わりやすくなってるし、聞いた人の気持ちを動かしやすくなっている。
同じように「美女と野獣」もそうですね。この言葉、正反対の言葉が入っているがゆえに、人の記憶に残りやすい。そんな言葉になってるんじゃないかと。
今年の大統領選を見ていて、言葉によく注目しながら見てたりするんですけど。ヒラリーさんはオバマ大統領の言葉の使い方に非常に似てる、そんな伝え方というのをしてるなと思っております。
オバマ大統領の支持してた人たちをそのまま持ってこようとしてるんだと僕は思うんですが。例えば、オバマ大統領が就任演説で言っていた、みんながすごく感動して泣いたという言葉として、「これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ」。
中野:この人、本当うまいですね。
佐々木:上手ですよね。
中野:持ってかれる感じですよね。
佐々木:しますよね。それを聞いた、もちろん黒人の人とかもすごい泣いてる写真とかけっこうその時出ましたけど、日本人の僕でも「いいな」と思ったんですよね。
中野:なんかヒラリー・クリントンがおもしろいなと思うのは、学習能力が高くて、オバマ大統領のそういうところをちゃんと自分のものにしようとしているところ。そこがすごいなと思いますね。それをどこまでできるかというのが今回の勝負じゃないですかね。
佐々木:そうですね。オバマ大統領が演説しているところの映像なんかを見ていて、いまだにすばらしいなと思うし。まあ、ヒラリーさんもすばらしいけど、やっぱりオバマさんのほうがをドラマティック。
中野:つまり、シンプルさが足りないですね、彼女の場合は。考えさせちゃダメなんです。
佐々木:そうなんですね。
中野:意思決定を自分でしてるというふうに大衆には思わせたいけれども、それには実は考えさせちゃダメという。逆説的に(笑)。
佐々木:あんまり話しすぎないほうがいいということなんですか?
中野:話しすぎないほうがいいです。
認知負荷というのがありますね。脳というのは、ご存知かもしれませんが、1.5キロぐらいしかないんですね。1.5キロある人は大きいほうです、21世紀の現生人類にしては。
人間の体重と比べて非常に小さい器官なのにもかかわらず、ブドウ糖とか栄養とか酸素、これはもう人体の5分の1とか4分の1とかを使っちゃうわけです。
会社のなかにこんな部署あったらどうですかね。もう10分の1もないような人員しか割かれていないのに、リソースだけは、金だけは持っていく部署がある。そんな部署が「その90パーセントは使われていない」なんてことがあったら、即、切りたいですよね。非効率すぎる。
だから、本当はすごく重要なことをしているはずと考えるのが自然です。その上で、できるだけリソースを節約したい。つまり、自分で考えたり、意思決定したりするには、脳が消費するリソースが大きくなる、というコストがかかりますから、本当はやりたくないんです。
脳トレとか流行っているようなんですけども。私、「脳トレどうしたらいいですか?」「脳を鍛えるにはどうすればいいですか?」といつも取材されますけれども、もうね、答えるのがすごく嫌なのは、絶対にみんなやらないから。
佐々木:求めてるにもかかわらず。
中野:絶対やらない。しんどいし、そんなしんどいことをして「なんの役に立つんだ?」とやってるうちに必ず思うはずです。
そんなこと本当は脳はやりたくない。どんどん使わないで済む方向に、人類は技術を発展させてきたのに。人類の歴史を逆回しするようなことをわざわざ本気でやる物好きはめったにいない。本心では、どうしたら楽できるか、とほとんどの人が思っている。脳を使いたくない。脳をできるだけ使わないで、楽していろんなことをするにはどうすればいいのですか、というのが「脳を鍛えたい」という言葉の裏にある本音でしょう。そんな方法があるなら、それをみんな知りたいんだろうという。
佐々木:そうなんですねぇ。
中野:すると、脳をできるだけ使わせない伝え方が、シンプルで強力な伝え方(笑)。
佐々木:そうなんですね。
中野:そうなんですよ。
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