「非中央集権であるべき」という思考停止

ーー実際問題、権威付けというか、どこかが保証しないとオラクル問題が解決しませんとなった時に、これは一方で、先ほどの現実と理想の話になってくると思うのですが、例えばその権威付けをしているところが、場合によっては暴走して、勝手に価値をすごく高めてしまうような、そこのやりたい放題になってしまわないのでしょうか?それこそ、中央集権的に。

伊藤佑介氏(以下、伊藤):いわゆる理想的な自律分散、非中央集権、自己主権が現実的にはそのまま社会実装できないので、一番にブロックチェーンの社会実装を果たした仮想通貨は今どうなっているかみてみましょう。

確かに仮想通貨を所有する人は増えましたが、理想で思い描いたようにみんなが自己主権的にウォレットで仮想通貨を自己管理して所有しているかというと現実はそうではなく、ほとんどの人は仮想通貨取引所さんに代わってウォレットを管理してもらっています。

結局、今の仮想通貨ですらも、仮想通貨のデータ自体は非中央集権になっているのですが、それを管理する主体は仮想通貨取引所さんといういわゆる法人の会社という信頼できる主体がその役割を担っています。理想的な自己主権を実現するためのウォレットが現実的には不便すぎるため、みんなに代わって仮想通貨取引所さんがいい意味で中央集権的に管理してくれているのです。

だからこそみんな、いつものWebサービスで使っているような便利で現実的なID、パスワードを使って、仮想通貨取引所さんのサービスにログインして、快適に仮想通貨の取引ができています。ですので、そこでは現実をクリアするために、「中央集権=便利」といういい意味で中央集権を受け入れているのです。つまり、現実社会はすべてが「中央集権=悪い」という単純なものではないということです。

そしてよく理解しなければいけないのは、仮想通貨ですらも、理想的に非中央集権として存在している部分と、そうではなく現実的にいい意味で中央集権を受け入れている部分の両方があるということです。

ですので、さきほど言った単一の信頼できる主体というのはNFTだけがということではなくて、仮想通貨ですらも一部分はそういうものを受け入れていて、いい意味で中央集権的な管理主体として仮想通貨取引所さんがいる状態になっているのです。

今一度考えるべきことは、はたして本当に、なにか団体や会社や組織のような主体が存在しているものが社会においてすべて悪いのか?ということです。そもそも団体や会社や組織は何かといえば、一人ひとりの個人が責任を持って何かをしようと思って集まっている、個人の集合体です。それにもかかわらず、「団体や会社や組織のような主体は中央集権的であるためすべて悪い」という考え方があるとすると、それは極端すぎると常識的に誰もが思うでしょう。

当然人間は、必要に際して集まって力を合わせてなにかをすることはあります。個人と集団というのは一概に相反するものではなく、実際にはそこには濃淡があります。

濃淡で考えると、何人以上の集まりだったら中央集権で、何人以下の集まりだったら非中央集権なのかということも明確な線引きはありません。ビットコインは誰でもマイナー(採掘者)になれます。そして、今いるマイナーは1万程度です。

では、10,000だったら非中央集権的に運営されていて、5,000だったら中央集権なのでしょうか。確かに、ビットコインのノードが1とか2だったら中央集権的だなと思うのかもしれませんが、「じゃあ100だったら中央集権ではなくなるのかどうか」とか「あるいは1,000からは非中央集権になるのか?」と、誰も単純には白黒つけられません。

そのように、非中央集権、中央集権というものも濃淡のグラデーションがあって、ここまでが中央集権で、ここからが非中央集権などと明確には言えません。私ももともとブロックチェーンの非中央集権という考え方が好きで、そこに惹かれてこの領域をやっていますし、とても理想的な思想でそれは活かすべきだと思っています。ですが、そのすばらしい技術を社会実装して進めていくためには、その進展のフェーズごとに、現実的に対応しなければいけません。

社会を人間が構成していて、私たち自身、1人で生きている人は1人としていない中で、ブロックチェーン技術を使う時には、どこの部分がいい意味で中央集権に、責任を持つ個人が集まる団体にしてもらうのがよくて、どこの部分は非中央集権に、団体ではなく個人が自由にできたほうがいいか、現実的によく考えていくことが社会実装を進めていく上では大切です。

ビットコインなどの仮想通貨でさえも仮想通貨取引所さんといういい意味で必要なことをしていくれる主体がいて社会実装がされているのですから、同様にコンテンツのNFTや貿易のNFTでも、もちろんそういった主体が社会実装のために必要な部分があるのは当然のことです。

そしてそれはなぜなら、その主体がしてくれることが、顧客にとって価値があることだからです。仮想通貨取引所さんがウォレットを顧客に代わって管理してくれるのは、それが顧客にとって利便性という価値があるからです。

どの部分は非中央集権にした方がいいのか、一方でどの部分はいい意味で中央集権的に誰かに管理してもらったほうが顧客に価値があるのか、ということを冷静に見極める必要があるのです。

ブロックチェーン技術そのものではなく、その背景にある考え方が受け入れられている

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