2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ーーまず伊藤さんのことを簡単におうかがいしたいのですが、そもそも伊藤さんがブロックチェーンに興味を持ち始めたきっかけはどこにありますか?
伊藤佑介氏(以下、伊藤):簡単に私のキャリアから話すと、2002年に社会人になり、システム開発会社に入って、SEやエンジニア的なものをやった後、2008年に今も所属している博報堂に転職して、マーケティングテクノロジーをやっていました。
ブロックチェーンに興味をもったきっかけは、完全に個人的な話なのですが、2016年にWebニュースで(ブロックチェーンについて)すごくわかりやすくまとめている記事を見て、「わあ、何これ? インターネット以来の革命じゃない?」と通勤中に感動して。
2016年にはまあまあの社会人になっていましたが、それまでにインターネットなどの技術によるイノベーションがありましたが、そこには一度も参加しないまま来ていたので、人生でイノベーションの技術に出会うのはこれを逃したらもうないなと思いました。
ただ、まだ広告業界や所属会社に、ブロックチェーンの取り組みや仕事がなかったので、実は、2016年から2018年までは、個人的にブロックチェーンベンチャーと交流したり関係性を持ちながら、プライベートでいろいろなプロジェクトに参加していたんです。
それを所属会社のちょっと上の人が知ってくれるタイミングがたまたまあって、「そんなことをしているのはおもしろいね、もっとやってみたらいいよ」と言ってもらって、2018年に博報堂の中でブロックチェーンの事業開発プロジェクトを立ち上げることができました。
そこから、ブロックチェーンのテックベンチャーと一緒に、8つぐらいブロックチェーンの事業開発をしました。
そして、いろいろやっている中で、完全に心がブロックチェーンナイズされていって、「ブロックチェーンは共創を起こすためのテクノロジーである」という信念に至るようになりました。そう思うと、やはりいろんな会社で集まって共創を起こしたいと考えるようになって、2020年2月に、もともと付き合いのあったコンテンツ企業のみなさんに声をかけて、この「一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ(一般社団法人Japan Contents Blockchain Initiative。以下、一般社団法人JCBI)」を一緒に立ち上げました。
ーー一般社団法人JCBIはどちらかというと(ブロックチェーン企業というよりも)コンテンツ企業にスポットを当てた感じなのでしょうか。
伊藤:そうですね。そういう意味ですと、私自身2016年からずっとブロックチェーンのことを、特にコンテンツ領域にフォーカスしていろいろやっていました。
一般社団法人JCBIを立ち上げた背景は、2020年当時はまだNFTのバブルが来る前で、2020年の2月のちょっと前ぐらいは実はブロックチェーン業界全体が停滞していて、かつその中でのコンテンツ領域の取り組みも停滞していました。
その時に「なんとかしたい」と思って、コンテンツ企業のみなさん、特にIPを持っているところの取り組みが進まない理由を聞いてみたところ、その1つに、コンテンツ企業中心でブロックチェーンの理解を深めたり、いろいろな取り組みを一緒にする「場」がないという課題があることがわかりました。
それならそういう「場」があれば、もっとコンテンツ企業のみなさんがブロックチェーンの取り組みを安心して、一緒に集まって進められるだろうということで、そういう「場」を作ろうとして立ち上げたのが一般社団法人JCBIの発足の経緯です。
私はもともとブロックチェーン業界にいたので、ブロックチェーン・NFTテックベンチャーのみなさんともずっと交流があって、そういうコミュニティに入れてもらっていたので、日本のブロックチェーン・NFTテックベンチャーのみなさんが、その当時すでにすばらしい実績を積み上げていて、かつ世界で戦える技術力も持っていることを知っていました。
ですが、ブロックチェーン・NFTテックベンチャーのみなさんがいくら準備ができていても、IPを持っているコンテンツ企業のみなさんが技術的にも法的にも安心できないと、当然全体として取り組みが進まないため、コンテンツ企業のみなさんが法的にも技術的にも安心できる環境を一般社団法人JCBIという「場」で整えようと考えました。
そうすることで、日本のブロックチェーン・NFTテックベンチャーのみなさんが準備ができていて技術的に実現できる環境のもと、価値あるIPを持っている日本のコンテンツ企業のみなさんも法的にも技術的にも安心して、両者が一緒にブロックチェーンの取り組みができるようになり、それによって日本がコンテンツ領域のブロックチェーンの社会実装で世界をリードできるようにしたいと思いました。つまり、より準備が必要なコンテンツ企業側のみなさんに安心して取り組みを進めてもらえるようにするために一般社団法人JCBIを立ち上げたということです。
ーーブロックチェーンについては仮想通貨が先に注目を集めたので、仮想通貨イコールブロックチェーンみたいなイメージを持っている人がいまだにいたりして、それがまたイコールNFTで結び付いている人がいると思います。そもそものブロックチェーンの本質的な価値、仮想通貨ではないところのブロックチェーンの価値はどこにあるのかを、まず簡単に説明をしてもらえますか。
伊藤:ブロックチェーンの本質的な価値の誤った理解や捉え方が、NFTイコール仮想通貨という誤解を招いてしまっているのだと思っています。
そもそも、ビットコインのデータに価値があるかといったら、ブロックチェーンに記録されているただのデータにすぎないので、価値はありません。ブロックチェーンの本質的な価値は何かというと、一言でいうと、「企業を横断して利用できるデジタルデータを実現すること」で、それは仮想通貨でもNFTでも同じです。
では、なぜブロックチェーンを使えば株主や関係者がそれぞれ違う企業が、企業を横断してそのデータにサービスを提供するかといえば、理由は2つあります。
1つは、それがブロックチェーンという技術を使っていて、そのデータがほぼ改ざん不能であることです。企業は、改ざんされるデータに対してサービスを提供するのはリスクがあるので、もちろんしません。でも改ざんできないであろうデータであれば信頼できるため、A社もB社もみんな「この信頼できるデータに対しては、安心してサービスを提供できる」と思えるというのが1つ目の理由です。
2つ目の理由は、ブロックチェーンのシステムが特定の1社ではなく、複数の会社や関係者で共同で運営されているということです。これが何をもたらすかというと、フェアネスつまり公平感です。
あるシステムがどこか1社だけで運用されていたとしたら、いろいろなリスクがあります。例えば、その1社が運用をやめてシステムが止まったり、その1社が勝手にデータ書き換えたりするなどです。ですが、みんなで共同で運用していて、お互いにチェックできるようになっていれば、「公平に運営されているシステムに記録されているデータだから、安心してサービスを提供できる」となるということです。
このブロックチェーンの本質的な価値は、仮想通貨でも同じです。本質的な価値にのっとって、ビットコインは何をしているかというと、世界中の株主も国も違う仮想通貨取引所という企業が、企業を横断してこぞって、このブロックチェーン上のビットコインと言われる通貨のデータとお金を交換するサービスを提供しているのです。つまり、企業を横断してデータとお金を交換するサービスを始めたというのが本質的な理解です。
最初の話に戻りますが、ビットコインのデータには価値はなく、ビットコインのデータ自体を欲しいと思っている投資家はいません。では、なぜビットコインに価値があるかというと、投資家のニーズを考えるとわかります。そのニーズは何かというと、いわゆる金融資産とお金の取引をして、それによって収益を上げることです。
企業を横断してお金と交換できるデータ、いわゆるビットコインのような仮想通貨が生まれて、次いでそれを取引するサービスが生まれました。そして、投資家にとっては仮想通貨自体ではなく、その取引サービスのほうに価値があるのです。なぜなら、投資家からすると、A社、B社とたくさんの仮想通貨取引所という名のサービス提供企業があるので、1社が潰れてもほかにもあるから、その取引サービスを安心して使えるからです。しかも、そのデータが永続的に消えないため、サービスもほぼずっと続くということであれば、やはりそのサービスには価値があります。
今日時点においてもビットコインのデータ自体には価値はなく、価値を生み出しているのは、言葉を換えると、世界中の仮想資産取引所による企業を横断して取引サービスを提供するアライアンスなのです。アライアンスが組まれていて、世界中のどの仮想通貨取引所でも安心して継続的にお金とビットコインのデータが交換できるサービスが提供されていることが投資家にとって価値があるのです。そうであるにもかかわらず、ビットコインのデータに価値があると考えるのは、かなり表層的な理解であって、それが誤解を招いているのです。
ビットコインなどの仮想通貨が正しくて、今のNFTが間違っている大きなポイントは、ターゲットのユーザーとそのニーズを履き違えていることです。
ビットコインなどの仮想通貨が正しいのは、このお金とデータを交換するというサービスのターゲットユーザーを正しく投資家と捉えていることと、そのターゲットユーザーのニーズを、金融資産とお金を交換して利益を得ることと正しく見定めていることです。
一方で、今のNFTの間違いは、仮想通貨と同じブロックチェーンを使っているからといって、よく考えることなく、同じようなデータの売り買いをするというサービスを、ただ横スライドでやってしまっているところにあります。
そしてNFTの最大の間違いのポイントは、NFTの本来のターゲットは、投資家ではなくて、いわゆるコンテンツファンであるという当たり前のことを見誤っていることです。当然のことですが、コンテンツファンがコンテンツを楽しんでいる時間の中で、コンテンツを売買するといった、取引にかけている時間はごく一部です。遊戯王やポケモンカードなどの売買はありますが、それはコンテンツ業界全体の中のメインのユースケースではありません。
多くのコンテンツファンは、コンテンツを見たりプレイしたり聴いたりして、「コンテンツを利用すること」を楽しんでいるのであって、「コンテンツを売り買いする」というニーズがメインではありません。つまり、NFTのターゲットユーザーであるコンテンツファンは、「コンテンツを楽しんで利用すること」をニーズとして求めているのです。
ですので、本来NFTが提供すべきものは、ビットコインなどの仮想通貨のような投資家向けの取引型のサービスではなくて、ターゲットユーザーであるコンテンツファンのニーズに応えた利用型のサービスでなければいけないのですが、実際には現在、取引型サービスに終始されてしまっているような状況になってしまっていて、そのような利用型サービスの開発が進んでいません。
NFTで実現すべきは、売り買いの取引型のサービスではなくて、発行されたNFTというコンテンツを、企業を横断してコンテンツファンが楽しめる利用型のサービスなのです。コンテンツの利用こそがマーケットボリュームの大きいコンテンツファンのニーズなのに、売り買いのサービスばかり提供していてると、結局マーケットボリュームの小さい暗号資産投資家しか相手にできません。今そこが見誤られているので、NFTはマスに普及せずに、ニッチな状況になってしまっているのです。
時々例で言うのですが、NFTが本質的なイノベーションを将来起こしたとするとどうなるかというと、私の8歳の娘が、10年後の18歳の時に、私にこう言うんです。「パパの時代ってさ、LINEでスタンプ買ったらさ、そのキャラクターはLINEのサービスの中でしか使えなかったの? それって終わってるね」と。
そして娘はこう続けるでしょう。「私の時代はもちろん、LINEでキャラクターを買ったらそれでVR空間にアバターで入れるし、もちろん漫画アプリに行ったら主人公はそのキャラクターになるし、ゲームはもちろんそのキャラクターでプレーできるよ。デジタルコンテンツをお金まで払って買って、1つの会社でしか使えなかったなんて終わってる!」と。
重要なのは、その時に娘は決してNFTなどという言葉は使わないということです。たとえば今日現在、「インターネット売ります」とか「インターネット買いたいな」と言うような人はいません。なぜなら、みんなインターネットは情報を流通させるためのツールに過ぎないと知っているからです。
同様に、NFTやブロックチェーンも、価値を流通させるツールにすぎません。そう考えると、今の「NFT売ります」とか「NFT買いたいな」という状況はどうでしょう。ツールにすぎないNFTを売り買いすることに終始している今の状況は、やはり何か捉え違いをしているのではないでしょうか。
このようにブロックチェーンの本質的な価値の理解が誤っているために、正しい考えに及ばず、ターゲットとニーズが違うのにもかかわらず、ビットコインの成功を見て、そのまま同じような取引型のただ売り買いするだけのサービスをやっていると、このまま一向にNFT市場が発展していかなくなってしまうというのが、今の課題だと思います。
ーー一方で、NFTは非代替性トークン、Non-Fungible Tokenという名前から、コピーできないデジタルコンテンツというイメージを持つ人もいるのかなと思っています。
伊藤:そこにもすごく誤解があると思っています。時々、NFT自体がデジタルコンテンツそのものだと思っている方がいるのですが、シンプルにいうとNFTはデジタルコンテンツに付いている保証書にしかすぎず、デジタルコンテンツそのものではありません。
NFTのデータとは別に、デジタルコンテンツのデータが存在しているので、75億円で売れたBeepleさんの作品も、今でもサイトに行けばJPEGのデジタルコンテンツの画像データがあって、誰でもダウンロードできます。ですが、その証明書としてのNFTのデータは買った人のお財布と呼ばれるウォレットのみに入ります。
なので、NFTという保証書を売り買いしているだけで、それに紐づくデジタルコンテンツを売り買いしているわけではありません。また、NFTという保証書がコピーできないだけで、それに紐づくデジタルコンテンツのデータはいくらでもコピーできるので、そもそもコンテンツを守っているわけではありません。
NFTは保証書として利用できるだけなので、BeepleさんのNFTを購入した人は、「自分がこの作品を持っているんですよ」ということを証明する保証書としてNFTを利用しているにすぎません。このように、NFT自体はデジタルコンテンツではないのです。
「NFT=デジタルコンテンツ」という誤解を生んだことに、ビットコインなどの仮想通貨も少し影響していると思っています。
これまでお話ししたとおり、NFTはコンテンツのイメージがありますが、実際にはコンテンツそのものではなく「NFT≠デジタルコンテンツ」で、コンテンツに紐づいた保証書「NFT=デジタルコンテンツの保証書」にすぎません。一方で、NFTとは異なり、ビットコインなどの仮想通貨は、そのデータ自体がデジタル通貨となっています。つまり「仮想通貨=デジタル通貨」ということです。
このことが「NFT=デジタルコンテンツ」という誤解を少ししやすくしているかもしれません。なぜなら、「仮想通貨=デジタル通貨」なので、きっと「NFT=デジタルコンテンツ」だろうとみんな思ってしまうからです。同じブロックチェーンを使っていながら、仮想通貨とNFTにこのような違いが生まれる原因は、仮想通貨とNFTのデータ構造が異なる点にあります。
まず、ビットコインなどの仮想通貨のデータ構造を説明すると、すべての情報がブロックチェーンシステムに記録されています。具体的には、「どのウォレットIDから」「どのウォレットIDに」「何コイン」が移転されたかという3つの項目すべてのデータがブロックチェーンシステムに記録されて、ブロックチェーンの中だけで完結しています。
一方で、NFTは、上記の3つのデータ項目のうち、1つが仮想通貨と違います。1項目目の「どのウォレットIDから」と、2項目目の「どのウォレットIDに」という部分は同じですが、3項目目が仮想通貨の場合は「何コイン」という金額の数量データであるのに対して、NFTの場合は「何のコンテンツ」という画像や動画などのバイナリデータになる点が違います。
そして、この3項目目のコンテンツのデータが、そのまま動画や画像のバイナリデータとしてブロックチェーンシステムに記録できればいいのですが、実はそれはできません。なぜなら、ブロックチェーンシステムには、動画や画像といった大きな容量のデータは記録できないようになっているためです。その理由は、世界中の人が仮想通貨の賞金を獲得するために競い合って行う、マイニングという賞金争いゲームにあります。
ビットコインの場合は、約10分に1回、6.25ビットコインの賞金を争うゲームをしているのですが、そのゲームの参加条件として2009年の最初のビットコインの取引から直近の取引までの全取引データを保存しなければならないというルールがあります。そして、たくさんの人がこのゲームに参加してもらうためには、その全取引データを記録するストレージ代の負担を低くしなければなりません。つまり、その費用負担が高くならないようにするために、ブロックチェーンシステムは、大きな容量のデータは記録できないようにされているのです。
もしも大きな容量のデータを記録できるようにすると、ゲーム参加者が保存しなければならい全取引データを保存するためのストレージ代が高くなり、ゲーム参加者が減ります。実は、このゲーム参加者の数が減れば減るほど、そのブロックチェーンシステムのデータの改ざん耐性が低くなるので、記録できるデータ容量を大きくすることができないのです。そのためNFTの3項目目の「何のコンテンツ」のところに、大容量の動画や画像のバイナリデータは記録できません。
ではNFTは、3項目目の「何のコンテンツ」という画像や動画をどうしているかというと、バイナリデータが直接入れられないので仕方なく、その画像や動画を保存しているWebサーバーのURLだけを記録しています。URLはテキスト情報なので、データ容量が小さいからです。
このように実は、NFTの価値の源泉であるコンテンツのデータは、ブロックチェーンシステムには記録されておらず、改ざん耐性も、永続性もない、ただのWebサーバーに記録されてしまっているのです。
細かいことを補足すると、ブロックチェーンシステムにコンテンツのデータを直接記録しているNFTも一部あります。例えばドット絵や小さい絵のNFTは、画像のデータ容量が小さいためブロックチェーンシステムに直接記録できます。しかし、それは高いクオリティを求める一般のコンテンツファンが求めるものにはなり得ないため、そのようなNFTだとマスには広がらないでしょう。
また時々、そのURLがIPFSのサーバーを指していれば、ブロックチェーンシステムにデータが記録されていなくても永続的にデータを保存できるという話があります。ですが、これはかなり誤解があって、実際にはIPFSが保証しているのは、データが永続的に保存できるということではなく、そのデータを指し示すURLが永続的に変わらないということにすぎません。具体的には、そのデジタルデータのハッシュ値を取ってURLを構成していることから、そのコンテンツを指し示すURLのアドレスというのが永続的に変わらないという仕組みであって、データの保存が永続的に続く仕組みではありません。
というのも、結局IPFSサーバーといってもWebサーバーと変わらず、そのサーバーが落ちればデータがなくなるということです。IPFSイコールデータが永続的に保存されるということではなく、指し示すURLがハッシュ値で構成されているので、その画像のURLが永続的に変わらないというだけです。
また、分散型のIPFSなら永続的にデータが保存されるという話も時々ありますが、分散型のIPFSであっても結局は報酬が伴わないデータは保存されなくなるため、ずっとアクセスされないコンテンツは報酬がもらえず、保存されなくなります。ですので、分散型のIPFSにデータを保存すれば必ずしも永続性があるのかというとそうではありません。
このように、IPFSを使ったとしても、Webサーバーのコンテンツのデータの永続性が担保されることはないため、結局、NFTの価値の源泉となるデジタルコンテンツには永続性がないわけです。
つまりNFTは、「仮想通貨=デジタル通貨」の仮想通貨とは違って、「NFT≠デジタルコンテンツ」であって、価値の源泉であるデジタルコンテンツはWebサーバーに記録されているため、対改ざん耐性や永続性もないという課題を抱えているということです。
このように、NFTの価値の源泉であるデジタルコンテンツがブロックチェーンの外部にあるという課題があると何が起こるかというと、もともと言われているブロックチェーンの技術的な問題が起こります。それは「オラクル問題」というものです。オラクル問題は何かと一言でいうと、「ブロックチェーン上に刻まれたデータは決して改ざんできない、しかしブロックチェーンに書かれているデータが正しいかどうかはブロックチェーン技術では保証できない」ということです。
オラクル問題が結論づけることは何かというと、「もしブロックチェーン上に外部を参照するデータがある場合は、その参照されている先のデータが正しいかどうかは単一の信頼のある主体が保証しなければ担保できない」ということです。
実は、このオラクル問題が発生しないブロックチェーンの数少ないユースケースの1つが仮想通貨なのです。それはなぜなら、通貨というのは外部の権利や何かに紐づくことなく、信用創造から生まれ、単独で存在するものだからです。
例えば「ドルは米国の通貨です。ご存知のとおり米国は強い国です。その強い国である米国が発行したドルという通貨をみなさん信用しますよね?」というのに対して、他の国が「はい、信用します」と信任して、それで信用創造されています。つまり、ドルの価値を裏付けるために紐づくものは何もありません。このように、外部の何の価値にも紐づかなくゼロから信用創造されるものは世の中にはあまりなく、通貨はその数少ないものの1つなのです。
ですが、ブロックチェーンの第一の社会実装である仮想通貨以外のブロックチェーンのユースケースは、NFTしかり、ほかのほどんどすべてでオラクル問題が発生します。
そして、ブロックチェーンの第二の社会実装になりつつあるNFTも、仮想通貨とは違ってそのオラクル問題が発生します。つまり、コンテンツを保存するWebサーバーのURLというブロックチェーンの外部の情報を参照しているため、そのWebサーバー上のコンテンツが、本当の権利者のものか、著作権を侵害していないかなどといった信頼は、単一の信頼できる主体が保証しなければ、担保できないのです。
そこで、一般社団法人JCBIは、社会に対する信頼を重んじ、過去から現在そして未来にわたってファンのために責任をもってコンテンツ事業を行なっていくコンテンツ企業が集まった団体として、世界に冠たる日本のコンテンツのNFTの信頼を保証する存在としての役割を果たして、このオラクル問題を解決しようと活動しています。
また、コンテンツのNFTではなく、物流のNFTでも実は同じようなオラクル問題が発生しています。具体的には、物流のいわゆる荷物がどの場所まで到達したかを保証する保証書をNFTのデータとして、NTTデータと貿易会社と船荷会社と港の会社が集まって、一緒に共同運用するブロックチェーンシステムに記録する取り組みがされています。それによって、今までは荷物の到達データの共有ができず、海の上の荷物の到達データは船荷会社のWebシステムの中だけに、港に着いている荷物の到達データは港の会社のWebシステムの中だけに、とそれぞれの会社のWebシステムの中だけでしかわからなかった荷物の到達データを、ブロックチェーンシステム上に、荷物の到達を保証する保証書のNFTデータとして記録して共有しているのです。
このユースケースでもNFTと同じくオラクル問題が発生するため、ブロックチェーンシステム上に記録された、いつどこからどこに到達したというある荷物のデータが、外部の現実世界の実物のリアルの荷物と実際に正しく紐づけてられていることは、単一の信頼できる主体としてのNFTデータと貿易会社と船荷会社と港の会社が集まった企業団体が担保しています。
このように、仮想通貨以外のNFTを含めたほとんどのブロックチェーンの活用においては、オラクル問題により、外部を参照するデータの信頼を保証するために、単一の信頼できる主体が必要となります。ブロックチェーンは自律分散、非中央集権、自己主権を実現するための技術なので、理想的にはそういう主体が不要であればいいと私も思っています。ただ一方で、実際の社会や産業に現実的に適応するためには、やはりこの問題をクリアする必要があります。ここの理解が進まないと、いつまで経っても、ブロックチェーン技術がリアルな社会で本当の意味で生かされることにならず、社会実装が進んでいかなくなってしまうことを心配しています。
(後半につづく)
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