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世の中を動かす人たちの原動力(全5記事)

シン・テレワークシステムは“グチャグチャグチャ”から生まれた 登大遊氏がやばい部屋で作った、インチキ自作システム

未踏クリエータがもたらす新たな可能性を間近で体感できる場、「未踏会議」。未踏修了生たちが、未踏事業でのプロジェクトや、新たな技術への展望などについて話しました。【Special Discussion】では、村井純氏、登大遊氏が登壇。ファシリテータの田中邦裕氏を交えて、「世の中を動かす人たちの原動力」をテーマに語りました。全5回。2回目は、「シン・テレワークシステム」と「自治体テレワークシステム」を作った“グチャグチャグチャ”について。1回目はこちら。

“グチャグチャグチャ”から生まれた「シン・テレワークシステム」と「自治体テレワークシステム」

田中邦裕氏(以下、田中):登さんは、ソフトウェアで作ったものが使われてすごく普及してきたら、インフラ面までそれに合わせて作り変えていますよね。まずソフトウェアで作ることも重要だし、それを支えるインフラの部分も実は一体化して作らないといけない。そういうことが、登さんの課題意識の背景にあるんですかね?

登大遊氏(以下、登):そうですね。我々はけっこうインチキな手法で、バーッて作っているところがあるんですよ。行政的システムでそういうことをやる人はあまりいないんですけど、我々はやってみたら成功しました。ちょっと写真も持ってきたので、出してもいいですか?

田中:どうぞどうぞ、お願いします。

:1990年の大学の中には、こういう怪しいパソコン、サーバー置き場があって、我々もそこで勉強したんですが、最近そういうものはだいぶ少なくなっているんじゃないかと思うんです。

田中:昔の研究室はこんな感じでしたよね。村井研は今どうなんですか?

村井純氏(以下、村井):今でもこんな感じじゃない?(笑)。

田中:ちなみに、今回私が「未踏」で担当した水野君(水野史暁氏)というクリエーターは、まさしく村井研出身の子で、なかなかすばらしい成果を挙げました。ああいうガチャついたところで、はんだ付けしてがんばったというエピソードを発表してもらったんですけど、やはりそういう環境があったんですね。

:村井先生のネットワークは、WIDEみたいに実験用の目的で、日本企業の実験目的のネットワークは、その末裔みたいなのがわずかに残っているぐらいで、ほとんど消え失せてしまっていて、スライドの1の業務用ネットワークしか残っていなくて、IPAもこんな感じだったんです。

それで、どうやって行政向けのテレワークを作ったかというと、実は未踏では、「SoftEther VPN」というのを昔から作っていました。あと、他国の政府のファイアウォールをすり抜ける、分散中継システムも実は作っていて、これをベースに今回、「シン・テレワークシステム」とか「自治体テレワークシステム」を作ったんです。

今、新聞記事でこの自治体テレワークについてすごく真面目な報道がされていて、日本の半分ぐらいの役所で、7万名ぐらいの公務員の方々が、これで、毎日テレワークをしているんですが、実はこの裏はこういうインチキな自作システムです。

グチャグチャグチャって、すごく見た目はけしからんのですが、自分たちで作るのが楽しいからこういうものを今回作りました。神棚みたいなのがあって、「Raspberry Pi」を大量に並べて、これはIPAと、LGWANをやっているJ-LISと一緒に作りました。

特に我々が誇りに思っているのは、これが実験システムであるということです。ダークファイバーとか、自分たちでLGWANのネットワークと中継網をつないだんだけれども、今日もこの1本のファイバーに7万人分が流れていて、「これが切れると全部止まるぜ」みたいなスリルも満点です。

こういう楽しさが、昔はどこにでもあったのが、最近なんでも安定、安定って冗長になって、その冗長のプログラムが実は原因で余計不安定になっていたりする。これはおかしくなったらパッと直せる仕組みを作っているので、実はこのほうが結果的にいいんですよ。

我々は、村井先生の“グチャグチャグチャ”の部屋を十数年前に見て、非常に感動したんですよね。

村井:(笑)。

:同じような感じで我々は電話局の中に潜り込んで、こういうダークファイバーとか、SSL-VPNの中継システムとかを作ったんですね。NTT東の社内でもそういう文化を広めています。

次のスライドは、「未踏」に採択されると予算でサーバーなんかが買えるんですが、それでは足りません。ゴミ拾い大会というのがだいたいの大学にあるんですが、そこでサーバーを拾ってくるんです。

それでネットワークにつなぐんですが、どうも我々のネットワークは、規模も小さいし、上流はどうなっているんやと昔から興味を持っていました。

InteropのShowNetで、もっとすごいデルタ棟というのがSFCの1階にあるらしいということで見に行きました。(スライド)左側が2007年当時の村井先生のところの写真で、これはすごいと。こういうグチャグチャな回線の中に、ものすごく本物が入っていました。

村井:(笑)。

:最初、これはインチキやと思っていたんですよ。インターネットというのは、もっとほかに中心みたいなものがあって、これは素人なんじゃないかと思っていたんですけど、歴史を見るとそうではなくて、これが最初で、こういうところにあとからつながってきたと知りました。

感動して、遂に10年経った時に、IPAの中に村井先生の“グチャグチャグチャ”を作ったんですよ。

村井:本当だ(笑)。

:この間、中村修大先生のところを見に行ったら、「古いものはもう整理してしまいましたわ」と1階の部屋がだいぶきれいになっていたので、重要だけどグチャグチャグチャという密度においては、このインチキ部屋が今日本一なんじゃないかなと思っています。

村井:(笑)。

田中:なるほどね(笑)。

:そんな感じで、実はWIDEプロジェクトの精神の分岐という感じでやっているところであります。

思いついたことを先にやると部屋は絶対に汚くなる

田中:これ、グチャグチャの意味するところは何なんでしょうね? 僕はエントロピーなのかなと思っていて。整理された部屋は、エントロピーがすごく低いので、熱量が低いし、チャレンジが起こりにくい。

グチャグチャが本当にいいかどうかは別としても、やはりこの世の中はエントロピーがあらゆるところで低くなっているのかな。

村井:おもしろいことを先にやりたくなると、きちんと整理してから先にやるより、やりたくてしょうがないからやろうってなる。そうすると必ずグチャグチャになっちゃう。

思いついたことをやりたくてしょうがなくて、まずそれを先にやっていると、絶対に部屋の中は汚くなるんだよね。だからそういうのと同じだと思います。でも、これでも相当きれいだよね。

田中:そうですね、そんなに汚くは感じないですね。

プロと交ざることで学生はきれいに配線することを覚えた

村井:あのさ、ニューヨークタイムズのビジネス欄に、「日本に逆らってインターネットをやるジュン・ムライ、インターネット・サムライ」みたいな、「ムライ」で韻を踏むタイトルの記事に出たけど。

ニューヨークタイムズのカメラマンがすごく変わっていて、例えば、「コマツがキャタピラーと戦う」とかだと、でかいキャタピラーの下にコマツの社長が寝ている写真とか、そういうのばかり撮るわけ。

田中:あははは、なるほど(笑)。

村井:おもしろいなと思っていたんだけど、俺のところに取材に来た時、岩波書店にモックのケーブルがグチャっとあって、「申し訳ないけれど、その下に入ってこれを持ちあげてくれない?」と言われて、その写真がガンッと出て、すごく恥ずかしかったのを憶えているんだよね。

あの時はもう本当に汚いけど、最近はさっきのInteropもそうなんだけど、プロが出てきているじゃない。データセンターは、なにか事故が起こった時のなんとかとかやっているから、ものすごくきれいにしておかないといけなくなったわけ。そういう人たちと一緒に学生が仕事するようになって、器用な配線をするようになってきたんだよね。だから、俺たちの時と相当違うよね。俺たちの時は、そんなプロっていなかったからさ。電電公社にいたのかもしれないけど、電電公社もイーサネットばっかり引いているとか、そんなことやっていないから。

だから、プロとアマが交ざる経験ができるようになってきたのは、ある意味いいことで、その結果として、きれいにすることも覚えてきたのかなという感じはするけどね。

田中:なるほど。今の話を聞いていて、見た目のきれいさと、チャレンジしやすい環境がつながっている部分もあるし、つながっていない部分もあるのかなとは感じました。

あまりにも整理され過ぎて、ルールが整備されて、なにかやろうとしてもなにもできないとなると、やはり登さんが言うように、チャレンジできないんだと思うんですね。

ただ、そういう環境の中で、それでもケーブルをきれいにしたほうがいいよねと学べるんだったら、それはそれでありなのかなと思いました。

(次回へつづく)

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