2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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高橋遼氏:続いて「顧客のピラミッド」みたいな話をさせていただくんですけれども、これは顧客の階層と感情のお話です。
ここ、実はすごく重要なお話なんです。まだ買ってくれてないお客様、「トライアル顧客」ということで1回買ってくれたお客様、そして「日和見顧客」という、まあ今日はAの商品買うんだけれども明日はBの商品買ってあさってはCの商品買うというように、その日によっていろんなブランドを選ぶよというお客様、そして「継続顧客」という何回も繰り返し買ってくれるお客様ですね。
続いて「ロイヤル顧客」、その上が「熱狂顧客」といって、そのブランドのことが好きでしょうがないお客様、というピラミッドです。ここで注意しなきゃいけないお客様の階層というのがあります。実はそれが「継続顧客」なんですね。
皆さん顧客の分析をされているかもしれませんが、継続的に買ってくれているので一見すごくいい良質なお客様のように見えるんです。
私たちもこれまでいろんなアンケートをしてきたわけですが、実はオレンジの層のお客様って「なんで買ってくれたんですか? なんでいつも買ってくれるんですか?」と聞いてみると、意外と、家が近かったからとか、とくに不満がないから習慣的に買ってました、みたいな人が非常に多かったりするわけです。
あるアンケートだと、だいたい半分以上の人たちが、とくになんの感情もなく買っていた、みたいな結果が出てくることもあって、要はその感情が整っていない、習慣的に購入されている人たちっていうのがこの中にけっこう多く含まれている可能性があるんです。
これのなにが危険かといいますと、買ってくれてる間はいいけれど来週同じエリアに他の新規のお店がオープンしたり、来週ほかのブランドの商品が値引きのキャンペーンを期間限定で行ったときに、ぜんぶ浮気しちゃうようなお客様がこのなかに含まれているということなんですね。
継続顧客なので、顧客基盤をつくれていそうに見えるんですけれども、実はぜんぜんそんなことなくて。感情が伴った購買っていうのをつくっていかないと、すぐにお客さんっていうのは他社のキャンペーンによって浮気してしまうというお話だったりします。
この差は非常に大きいと思ってまして、どうやって「ロイヤル顧客」、もしくは「熱狂顧客」に変えていくことができるのかが重要になっていくんじゃないかなと思っています。
90年代には、CRM(Customer Relationship Management)という考え方がはじまって、いろんなソリューションツールとか導入されてきていたんですけれども、アンケートをとると9割以上が失敗に終わったみたいなことが言われていたりします。
失敗にはいろんな原因があると思うんですけれど、やっぱり購入量とブランドへの愛、これを私たちは「熱狂度」と呼んでるんですけれども、この「熱狂度」を混同してしまったために起こったんじゃないか、失敗したんじゃないかなと思っています。
買ってくれてるから私たち(ブランド)のことが好きなんでしょ、とブランド側は思いがちなんですけれど、実は買ってくれた人とブランドのことを好きな人と、更にはブランドのことを誰かに勧めたい人ってぜんぜん違う人種だったり、ベクトルだったりします。なので、これらのベクトルはそれぞれ分けていかなきゃいけないんです。
よくあるのは友達紹介キャンペーンですね。買ってくれた人たちに、お友達を紹介して会員になってくれたら何ポイント差し上げますとかこういう景品を抽選でプレゼントしますみたいなコンテンツがありますが、だいたいワークしないことが多いですね。
皆さんもうお分かりだと思いますが、そこには感情が伴っていないんです。買ってくれているから好きなんでしょ、という前提でキャンペーンや施策を走らせてしまうと、とくになんの感情もない状態なので、とくに勧める理由もなければ、下手したらプレゼント目的でとにかく入ってよみたいな感じで友達を紹介してしまうということもある。これでは、ほとんどワークしないですよね。
私たちとしては「熱狂顧客」の熱量をまず高めて、その熱量が高い状態で人に勧めてもらうということをやっていかなきゃいけないんじゃないかなと考えています。そうすると、まずは感情を高めるための取り組みをしなければいけないですよね。
本当に大切な顧客は誰ですかと聞くと、「お客様全員です」とおっしゃる方たちが多いと思います。それは間違ってはないと思うんですが、本当に本当に大切なお客様って誰ですかと問うたときに、私たちとしてはやっぱりブランドに熱狂してくれているお客様なんじゃないかなと。ブランドのことを好きでいてくれるお客様を本当に大切にすべきなんじゃないかなと思っています。
皆さんのなかにもカスタマージャーニーを引いている方がいらっしゃるかもしれませんが、購入がゴールで終わってしまってるカスタマージャーニーってのがよくあったりするんですね。
ところが、これからマーケティングファネルが主戦場になってくるとすると、購入をしてからお客様の感情が高まって熱狂してもらうためには、どんなジャーニーを描くべきかというと、購入後の顧客の熱狂までがカスタマージャーニーの最終到達点なんじゃないかなと、ここまで意識をして設計していかなきゃいけないんじゃないかなと思っています。
ということで、まず1つめのお話ですね。なぜ今「熱狂顧客」に注目すべきなのかなんですけれども、マーケティングは「宗教の時代」に入った。今入っていますので、顧客が持つ文脈価値によってブランドの輪郭が形作られていますよ、というお話をさせていただきました。
そのなかでお客様を囲い込もうとするのではなくて、彼らが熱狂しているポイントを理解したマーケティング活動をすることが不可欠になってきますよ、というところが前半の重要なポイントになっています。
2つめ、その「熱狂顧客」はどんな人なのかを知る、というお話に入っていきたいと思うんですけれども。
本当に大切なお客様はブランドのことを愛してくれてるお客様、というお話をさせていただきましたが、ブランドに向けられている熱量、どういうふうな愛だったり、どういうふうな熱量がブランドに向けられているのかということを、どんな文脈のなかでそれを発揮されているのかということを理解していかなきゃいけないですね。
先ほど製品を中心としたコミュニケーションの限界というお話をしましたが、ここではサービスに関する2つの考え方というのをご説明します。
世の中には、サービスに対する考え方というのは2つあると言われてます。1つは「グッズドミナントロジック」という考え方ですね。この世のすべてのモノはかたちのある物とサービスに分かれますという考え方です。まあ当たり前の話ですね。モノとかサービス、というお話です。
今回お話しするのは「サービスドミナントロジック」という考え方です。このサービスドミナントロジックというのはおもしろい考え方といいますか、ちょっと変わった考え方をするんです。この世の中のモノは、物を伴うサービスと物を伴っていないサービスがあって、両方ともサービスなんですよ、という捉え方をするんです。
顧客の熱狂を考えていくときにはこのサービスドミナントロジックで物事を考えることがすごく重要になってきます。なぜかというと、サービスドミナントロジックにおける消費者の捉え方っていうのは、普通と異なるからなんです。
グッズドミナントロジック、この世の中のモノは物かサービスに別れるよという考え方のもとでは、消費者のことを企業が作り出す価値を単純に消費する人だと捉えているんですけれども、サービスドミナントロジックのなかでは消費者のことをこうした存在とは捉えていないんですね。
消費者、つまりモノを買ってくれる人たちを、企業と共創して価値をつくる価値共創者であると捉えています。消費者のことを、価値を一緒につくる人たちだという見方をするんです。
これがすごい重要な考え方なんです。(スライドを指して)例えばこれはいかにも高級そうなレストランの絵ですけれども、これが12月24日の夜だと思ってください。
ここに男性が集団で入ってきて、「とりあえずビール!」みたいな注文をするのって普通想像しづらいですよね。まずそういう人たちっていないですし、いたとしても相当空気読めてない人たちだと思うんですね。
イメージするとしたら、男女のカップルで、ちょっと小綺麗な格好をして、みたいな感じじゃないですか。
そういうシーンを考えたときに、この高級レストランの価値を誰が最大化してるのかという視点で捉えたとき、レストランができることというのは、店内を隅々まで綺麗にすることだったり、すごく美味しい料理やお酒を出すことなんです。
その中ですごくいい感じのカップルが、いい感じのシャンパンを頼んだりすることは、基本的にレストラン側ではコントロール不可能ですよね。そこで価値をどうやって最大化しているのかを考えると、その価値を 一緒につくっているのはお客様である、という考え方ができますよね。
レストランの格付けは、そのレストランだけじゃなくて、そこに来るお客様が一緒につくってるんだよといったことは、レストランの場合よく言われるんです。
この考え方を皆さんのブランドにも当てはめていく、というのがサービスドミナントロジックの考え方です。お客様を価値共創者、一緒に価値をつくっていく人たち、パートナーであると捉えているんですね。
「熱狂顧客」を知るというお話をさせていただいてるんですけれども、顧客が発揮している「文脈価値」ってなにかということを考えていく、ということをお話ししていきたいと思います。
本(熱狂顧客戦略)のなかでも紹介をしているんですけれども、「ほぼ日手帳」、使っていらっしゃる方いらっしゃいますか?
(会場挙手)
ありがとうございます、何人かいらっしゃいますね。
「ほぼ日手帳」をgoogleで画像検索してみると、けっこうおもしろいです。マスキングテープでページをカラフルに彩っている人がいたり、、ポエムを三行ぐらいで書いてる人もいたり、あとなんかイラストを描いてる人たちもいて、とにかくいろんな人たちがいろんな文脈でいろんな楽しみ方をされているということなんですね。
「ほぼ日」って2017年には60万部以上売れている大ヒット手帳なわけですけれども、単純にスペックだけで競争していたらここまでヒットしなかったのではないかと思ってます。(スライドを指して)「プロダクトのスペック」とか「フィジカルベネフィット」って書いてるんですけども。
プロダクトのスペックだけ考えていくと、24時間使えますよとか、土日も同じ枠で書き込めますよとか、糸かがりという製本だったりとかがあったりしますよね。
あとはフィジカルベネフィットとして予定以外にも書けるとか平らに開いてすごく書きやすい、ということはあるんですけれども、たぶんこれだけで勝負をしていたらここまで爆発的には売れてないと思うんですね。
これは、ほぼ日さんが言っていたわけではないので、僕がこういうふうに思っているだけなんですけれども、ユーザーにとっての「意味づけ」というのがやっぱり豊かだなと思っているんです。
ほぼ日って、ただのスケジュール帳ではなくて、毎日の出来事を振り返るときに自分だけのカラフルな人生の記録作品っていう価値がそのなかに発揮されてるんじゃないかと。もう、一つの作品になってるんですよね。
手帳という機能だけではなくて、その作品作りであるということで、日々の自分の作品っていうのをそこに書き込めるような意味付けが行われているんじゃないかなと思ってます。なので、そこで得られるメンタルベネフィットとして自分の毎日を豊かに彩ることができる、ほぼ日を使わなきゃそれができない、という点でほぼ日というのは非常に人気なんじゃないかなと思ってます。
実際、絵日記を描いていらっしゃる方がいたり、先ほども言いましたけどもポエム帳にしてたり、その日の気付きみたいなことを一言書いてる人、旅の記録とかマイ図鑑、収集したメモを集めていたり、買い物記録みたいなことで、自分の日々を豊かに過ごせるための1つの作品作りみたいなことで、いろんな使われ方をしていると。
この文脈の広さ、深さというところがまさに「ほぼ日手帳」をここまで人気にしている理由なんじゃないかなと個人的には思ってます。
ポイントとして押さえたいのは、「ユーザーは上から選んでいく」ってことなんですね。通常メーカーさんだったり製品を提供する側というのはどうしても下から考えてしまいがちだったりすると思います。普通は、まずプロダクトのスペックをどういうふうにするか、それからフィジカルベネフィット、メンタルベネフィット、みたいな感じで積み上げて考えていくと思うんですけれども。冒頭に申しあげたとおり製品の機能っていうのはどんどん差別化しにくい世の中になってるので、ユーザーっていうのは上から考えて商品を選んでいたりするんですよね。
やっぱり、ここにいちばん企業とユーザーのギャップがあるんじゃないかなと思っています。これ、インスタで見てもほぼ日ってけっこうおもしろくて、投稿を見るのが大好きなんですけれども、「#ほぼ日一年生」っていうハッシュタグがあるんですよね。
いまここで3万件、多分もっと増えてると思うんですけれど「ほぼ日一年生」3万件ぐらい投稿されてて、当然「ほぼ日二年生」もありますし、なんなら三年生、四年生、五年生だってあるんですけど、「ほぼ日コミュニティ」みたいなコミュニティはないのに、投稿する人たちが「ほぼ日一年生」というハッシュタグをつけて「はじめまして、ほぼ日一年目です。これからがんばっていきますのでよろしくおねがいします」みたいなことを書いてたりするんですよね。
ほぼ日の中には“積み重ねていく”みたいな文脈ってのはすごく深くあって、こういう人たちがネットをしてほぼ日を使っているから、そうじゃないライトなユーザーとかもこういった投稿を見て影響されて「ほぼ日っていいな」とか「ほぼ日の世界にはまりたいな」ということで購入をされているんじゃないか、というお話です。
じゃあこれ、ほぼ日が特殊なケースかというとぜんぜんそうではなくて。実はブランド名の紐付きで投稿されているハッシュタグって、けっこうおもしろいものがいっぱいあったりします。
(スライドを指して)例えばこれはまだ5,000件弱とかなんでそんなに多くはないんですけれど、バイクのヤマハさんですね。「#ヤマハが美しい」というハッシュタグなんですが、じわじわと熱が溜まっているような感じかなと思います。
このハッシュタグでは、ヤマハのバイクでツーリングに行って景色が綺麗なところで写真を撮って、それをInstagramに上げているんです。
おもしろいのは「#ホンダが美しい」とか、「#スズキが美しい」っていう投稿は数10件くらいしかないんです。なぜかヤマハだけ「#ヤマハが美しい」というハッシュタグが投稿されていたりします。
あとは「#トミカ収納」っていうハッシュタグがけっこう盛り上がっていまして、数1,000件とかなのでまだまだなんですけれど、トミカをいろんな棚だったり収納グッズに綺麗に収納して投稿している人もけっこういたりします。
あとは、インスタだけじゃないんですけれども、カシオさんが「#チープカシオ」っていうハッシュタグでけっこう投稿されてまして、これも3万件ぐらい投稿されてるんですね。チープカシオって1,000円ぐらい、すごく安く買える時計を、自分のファストファッションと組み合わせて「#チープカシオ」というハッシュタグをつけて投稿されているということで、ツイッターとかけっこう盛り上がっています。
これ、カシオさんがべつに「#チープカシオ」というハッシュタグを自分たちでつくったわけではなくて、ユーザーが勝手にこういうふうに盛り上がっているというお話なんです。こういう熱量から人々が影響を受けてブランドの意思決定をしたり、それに影響されたりということが日々ソーシャルメディアのなかで行われているということです。
じゃあ、こういう人たちを理解するためにはどうすればいいのかというと、私たちがよく言っているのは、マーケティングファネルの右側をしっかりとかたどっていきましょうということなんですね。
先ほどのほぼ日やヤマハ、カシオのユーザーって、ある意味このマーケティングファネルのいちばん右側のほうに到達してしまった方々が非常に多かったりするわけですよね。
もうすでに商品を持ってて、ぜんぶ通りすぎて使って熱狂しているユーザーの人たちが多いので、「この人たちがなんで熱狂したんですか」というところを逆引きするということをよくやっています。
インタビューやいろんな手法を用いて調査しているんですけれど、この人たちがなぜ熱狂しているのか、当然その足跡というのがあるはずで、なにかしらの経験を辿ってここまで来ているんですよね。その人たちがどんなルートを通ったのか逆引きで調べていきます。
皆さんもぜひ意識してみていただきたいんですけれど、リサーチ業界自体で言われていることらしいんですが、リサーチって“聞くリサーチ”から“発見するリサーチ”にどんどん切り替わっているそうなんです。「なんでそのブランドのこと好きなんですか」とか「なんでその服着てるんですか」「なんでその財布買ったんですか」みたいなことを聞いても、好きなものってなかなか言語化できなかったりするんですよね。
「なんとなく買いました」とか「なんかよくわかんないけれども影響されて買っちゃいました」、みたいな人たちが非常に多かったりするわけです。
人間ってそういう脳の構造をしているらしくて、嫌いなものについてはすぐ理由を言えるんですよね。「その食べものがなぜ嫌いか」みたいなこととか、仲が悪い人がいたとすると「あの人のことはこういう理由で嫌いなんだ、理由は3つあって……」みたいなことってちゃんと言えると思うんですね、言語化できてると思うんです。
それなのに、なんで好きなのかってことについては意外と言語化できなかったりします。そういうときに「なんで熱狂したのか」と問い詰めても答えてくれないので「どういうふうに熱狂したんですか」という足跡をまさに聞きながら、その人がなんで熱狂したのかを明らかにしていくというプロセスで調査をするんです。
インタビュー対象者の相手から出てくる言葉っていうのは、どういうふうな体験を辿ってこんなふうに熱狂しましたよ、という“How”のところ。その“How”が聞けたら、その体験のなかで「なんで熱狂したんだろうね」というのはマーケターが考察するところですね。
ただ、対象者の口から出てくることはなかなかないと思っていただいたほうがいいですね。
2つめですね、「熱狂顧客」はどんな人なのかを知る、というお話です。「ブランドは価値を提案できるが、提供はできない」とよく言われます。こういう楽しみ方をこういう感じでしてください、といえたのは製品が機能を明確に差別化できた時代だったからなんですね。
いまはもう、どういうふうに楽しめるかはお客様に委ねられている時代なんです。
さきほど申し上げた通り、顧客はブランドにとっての価値共創者である、一緒に価値をつくっていく人たちである、とまず捉えることが大事ですし、「熱狂顧客」が発揮している「文脈価値」、さっきの“How”のところですね。インスタのハッシュタグだったりのお話なんですけれども。「How」、つまりどういうふうに熱狂していったのかというその足跡を知ることによって、ブランドの輪郭を明らかにしていくことってのが重要です。
私たちも、よくそういった熱狂的なファンの人たちと会う機会が多いんですけども、意外と企業の人たちは自分たちのブランドがどういう風に好まれているのか、どんな愛され方をしているのか、というのをご存じないケースが実は多いんだな、というのが実感でして。
意外とそこって明らかにされていないので、これを明らかにしていくことはとても重要なことなんじゃないかなと思っています。
3つめは、「熱狂顧客戦略」から考えるコミュニティの在り方、ということでちょっとコミュニティのお話です。ここでお話ししたいのは、コミュニティをどう運用してどう会話を盛り上げていくかということではなくて、もう少し広い視点です。
コミュニティって1つの手段で、手段としてのブランドコミュニティというのをマーケティング戦略上でどういうふうに機能させていけばいいのか、どんな役割をもたせていけばいいのかということにフォーカスをしてコミュニティの話をさせていただけたらなと思っています。
実はブランドコミュニティというのはすごい前からあって、いまコミュニティの本ってすごく世の中に出ていますよね。、こんなに「コミュニティ」って言われてるのってちょっと異常なような気もするんですけれど。けっこう前からコミュニティについては語られていたんですね。
いままでのブランドコミュニティというのは、立ち上がっては消え、立ち上がっては消えていて、実はけっこう閉鎖もされている歴史があったりします。
私たちも10年ぐらいソーシャルメディアのなかでユーザーの動きとかを把握してきたわけですが、なんでブランドコミュニティって閉鎖するんだろう?ということを考えたときに、だいたいこの5つの理由に落ち着いたんですね。
1つめは、冒頭でもお話ししたんですけれど、コミュニティのなかにいる会員の熱量と購入金額を混同して考えてしまいがち、というところがあります。
買ってくれてるからといって好きなわけではない、ということですね。好きなベクトルと買ってくれてるかどうかのベクトルってぜんぜん違います。そこを混同して考えてしまうことは、よく起こるミスです。
2つめは、ユーザーがコミュニティ内に滞在しつづけてくれることを前提で設計されているという話ですね。
ひと昔前、PCで皆さんがデジタル体験をしていた時代では、けっこうオンライン上でリッチなゲームだったりオンライン上ですごくエンターテイメントなコンテンツを長時間かけて体験する、みたいなことが成立したんです。
いまは、ぜんぜんそんな時代ではないですし、ソーシャルな時代、スマホの時代なので、やっぱり一駅分でコンテンツを消費してもらうためにはどうすればいいかみたいなことで、いかにライトなコンテンツで体験をしていただくかということが非常に重要になっているということが一般的に語られてると思うんです。
ブランドのファンだからといってずっと濃いコンテンツを体験しつづけてくれるかというとぜんぜんそうではなかったりするんですよね。そのコミュニティのなかでリッチすぎるコンテンツっていうのを出しつづけてもやっぱりコミュニティの運用負荷もかかりますし、なかなかそれを体験してくれないというところが、運用負荷がかかってしまって閉鎖をしてしまうという一つの流れだったり。それが2つめのポイントとしてあるかなと思います。
3つめは、コミュニティのコンテンツに触れれば自動的に参加者の熱量が高まる、という幻想ですね。コミュニティのなかで定期的に会話やディスカッションをしていれば、ずっと熱量は上がっていくじゃないかと、ブランド側は思いがちなんですけれど、実はぜんぜんそんなことありません。
コミュニティのなかで会員の熱量、ブランドに対する熱量が高まるっていうのは、なにかこう特別な体験があったり、ブランドの中の人、社員の人たちと触れ合ったり、ブランドマネージャーから特別なお手紙を貰ったり、またこういったリアルな場でブランドとの接触機会を設けたみたいなことだったり。なにか“特別な体験”によって熱量が高まるというのが非常に多かったりします。
コミュニティでディスカッションしていたからといって延長線上で熱量が高まる、というわけではないということですね。そういった幻想を抱いてしまったために失敗してしまったコミュニティもずっと見てきました。
4つめからが、けっこう致命的といいますか、重要なポイントになってきます。コミュニティ会員の売上向上によるビジネスインパクトを求めてしまう、というお話です。
これは1ともすごく連携してくるんですけれども、コミュニティのなかの人たちって基本的にはコミュニティに入っていない、非会員の人たちよりも買ってくれてるケースが多いので、その人たちにとにかく買わせようとしてしまいがちなんです。
やっぱりコミュニティのなかの人に売ろう売ろうとすると、だんだん熱量が冷めていきますし、コミュニティから離れてしまうんですね。コミュニティのなかの人たちにビジネスインパクトを求めてしまうとやっぱり成功しないケースが多いかなと思います。
5つめは、4ともつながるんですけれども、コミュニティの成果をコミュニティのなかで求めてしまいがち、ということですね。よくコミュニティのROI(費用対効果)が測られると思うんですけれど。
コミュニティのなかで成果やインパクトを求めることはできないので、コミュニティと一緒に、その外でどんな成果をなしていくのかが重要になってきます。
コミュニティのなかだけで成果を求めてしまうと、やっぱりコミュニティが閉塞してしまう結果に陥ってしまうっていうケースは、体感値含めてなんですけれどもよく見てきました。
じゃあどうすればいいの?という話になるんですけれど、コミュニティの目的というのは実は2つあると思っていて。
もちろんブランドが達成したいビジネスゴールというのもありつつ、一方でユーザーとともに実現したいことも並行してあるんじゃないかなと思ってまして。右側のビジネスゴールに関しては企業視点でのビジネスの手法ということですし、左側のユーザーとともに実現したいことというのはユーザー視点での、ユーザーがコミュニティに関わる動機そのものだったりすると思うんですね。
この2つのベクトルをいっしょくたにして考えてしまいがち、というところは、やっぱり1つの大きなボタンの掛け違いになっていくのかなと思います。なので、我々としてはまずユーザーとともになにを実現したいのか、というところからコミュニティを考えていくことが重要なんじゃないかと考えているんです。
コミュニティの最も重要なポイントというのは、ユーザーがコミュニティに参加する動機づくりということで、「熱狂顧客」の熱量をどういうふうにコミュニティのなかで捉えていくのかということをまず考え、そのうえで企業としてのビジネスゴールをどう持っていくのか、という順番で考えることが重要なんじゃないかと思ってます。
そうしないと、どうしても企業都合のコミュニティになってしまうし、さっきのコミュニティのようにとにかく生簀(いけす)の中に顧客を囲ってそこに売り続ける、みたいな状態になってしまいがちなんです。
いくつか例をご紹介します。長野県にあるクラフトビールメーカーに「ヤッホーブルーイング」というメーカーさんがあるんですけど、ヤッホーブルーイングさんってご存じの方いらっしゃいますか。
(会場挙手)
ありがとうございます、半分ぐらいの方がご存知ですね。非常に熱狂的なファンが多いことで有名なブランドです。
この人たちがなにをやっているかというと、ビールメーカーなんですけれども、都内でイベントを開いてまして、ファンをそこに招待して、社員とコミュニケーションを取りながらそのブランドのことを伝えたり、お客様の声を聞いたりする取り組みを定期的に行っていたりするんですね。
なにかオンライン上でコミュニティを持っているわけではないんですけれども、リアルな場でコミュニティづくりをされていらっしゃいまして、有名なのは年に一回北軽井沢で開かれる「超宴」というイベントがあります。
そこに熱狂的なファンの人たち、約1,000人が集まって、1泊2日でお酒を飲んで過ごすというキャンプイベントなんですけれど、全部社員の方々が運営しているんですね。とにかくリアルな場で「熱狂顧客」の人たちと会って体験してもらい、自分たちもヤッホーブルーイングの魅力を伝えていく、というようなイベントをやっていたりします。
乾杯の際も、とくに濃いファンの人たちと一緒に乾杯の儀式をやったりお客様と一緒になってイベントをつくっていいらっしゃいます。さっきの「価値共創」と一緒ですよね。
あとは、これだけではわかんないと思いますけれども、マツダのロードスターの新車の発表会とかって、こういった会場でやられるらしいんですね。
実はこういったプレスイベントって通常、広報やメディアの方々を、プレスをいちばん最前列に置く。これが方程式だったりするんですけれども、マツダの場合はこの最前列にブランドの熱狂的なファンの人たちを招待しているそうです。
マツダは熱狂的なファンの人たちを大切にしているので、彼らを最前列に置いて、一番最初に商品を知らせたい、という思いでそういうことをやられてるらしいです。
もう1つですね、「Snow Peak」という新潟県のキャンプ用品メーカーがあるんですけれど。熱狂的なファンがすごく多いことで有名で、年に何回か「スノーピークウェイ」というキャンプイベントをやってるんですが、やはり熱狂的なファンの人たちと一緒にやっていらっしゃるんです。
社長の山井さんにも直接お話を聞いたことがあったんですけれども、自分が一番“ファンのサンドバッグ”になった自信があるというんです。ファンの人たちの声をとにかくダイレクトに聞いて、その人たちに喜んでもらうためにはどうすればいいのかということを考え、商品開発をしたりサービス改善をしたり、ということをやってきたとおっしゃってました。
なにが言いたいかというと、とにかく「熱狂顧客」を最前列にしていくということを、熱狂的なファンのファンづくりが上手い会社というのはよくやっているなということが言われていまして。「熱狂顧客」の人を自分たちの一番最前列に置いて、その人たちとコミュニケーションを取っていくということですよね。
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