日本を元気にするイノベーションの創出を目的としたプロジェクト型コミュニティ「MBAオンラインキャンパス」。同コミュニティが開催した今年の新春イベントに、『ゼロ秒思考』の著者・赤羽雄二氏が登壇。日本を代表するコンサルタントの赤羽氏がAIネイティブ時代に求められる経営者の役割や、次世代を育てる経営者の時間配分などを語りました。
システムやSaaS製品企業の「AIエージェント」化
赤羽雄二氏:日本企業の発展と5つの生き残り策の3つ目は、AIの本格活用について。これはトップダウンで進めるしかないというのが私の考えです。

まず、ソフトウェア開発の生産性は、AIを活用することで劇的に向上します。私の支援先企業でも、すでにAI導入によって生産性が飛躍的に向上しており、これはもう徹底的に推進するしかないと確信しています。
次に、事務作業や企画業務など、いわゆるホワイトカラーの仕事にもAIを適用していくことが不可欠です。「みんな仕事がなくなる」という話ではありませんが、AIの導入によって大幅な効率化が進むのは確実です。これを業界単位、あるいは日本全体として、世界レベルでトップクラスの活用を目指さなければなりません。
特に、システムやSaaS製品の企業にとって、2025年のキーワードは「AIエージェント(AI-agent)」になると考えています。定義はさまざまですが、要は「ユーザーの要望をすべて代わりに実行してくれるエージェント」のようなものです。これまでは「人間が操作に慣れる」「スキルを習得する」といった対応が必要でしたが、今後は誰でも簡単に使えるようにすることが求められるということです。
AIネイティブ時代に求められる経営者の役割
そして、今後AIネイティブ(AI-native)な競合が次々と登場するでしょう。スマホネイティブ、ガラケーネイティブといった言葉と同じように、AIを前提にすべての機能を実装した「AIネイティブ企業」が誕生します。
これは単なるIT活用ではなく、ゼロからAIを基盤にしたビジネスモデルを構築する企業です。顧客満足や業務プロセスの最適化にAIをフル活用し、ブロックチェーンなどの最新技術も組み込んだ、従来とはまったく異なる企業のかたちが生まれてくるでしょう。
例えば、人材採用の会社を考えてみます。従来の人材採用は、膨大なデータベースを構築し、採用コンサルタントが求職者と企業をマッチングし、何人も紹介しながら面接を重ねていく、極めて労働集約型のビジネスです。
しかし、AIネイティブな採用企業であれば、数名のメンバーがいるだけで、AIが自動的に求職者と企業を集め、マッチングし、面接プロセスまで最適化する。これまで必要だった人的リソースの大半をAIが肩代わりするというわけです。
「そんなの無理だろう」と思うかもしれませんが、1年後、2年後にはこうした企業が次々と登場します。だからこそ、AIの本格活用はトップダウンで推進するしかないのです。「うちはネジを作っている中小企業だから関係ない」と考えるのではなく、どの業界、どの企業規模、どの地域であっても、AIを活用するメリットは確実にある。
悪いことは何もないので、今すぐAI活用を進めるべきだと私は考えています。
次世代を育てる経営者の時間配分
次に、次世代経営者や事業リーダーの育成についてですが、これは経営者がさらにコミットしなければならないテーマです。本来、経営の基本中の基本であり、2024年や2025年になって突然重要になったわけではありません。
しかし、私が見る限り、本気で取り組んでいる経営者は極めて少ない。正直に言って、私はこれを本気でやっている経営者に出会ったことがありません。
10年間支援した韓国のLGグループでは、私のカウンターパートだったナムさん(LGエレクトロニクスのCEO)は、本気でリーダー育成に取り組んでいました。その影響で、私自身も鍛えられた。しかし、日本では、上場企業であれベンチャーであれ、「口では言っているけれど、本気で取り組んでいる経営者」には、未だに会ったことがありません。
では、「本気で取り組む」とはどういうことか。経営者の時間の3割を、次世代経営者の育成に充てていますか? 採用に15パーセント、育成に15パーセント。合計3割の時間を割いているかどうかが、1つの基準です。
さらに、週次でKPIの進捗確認会議を開き、自分の直属の部下やその下の層まで含めて、課題克服のための個別コーチングを実施しているか。これを徹底してやっている企業は、ほとんど存在しません。
実際に多いのは、丸投げや叱責、罵倒。大企業でも、「経営幹部が優秀か」といえば、決してそうとは言い切れない。特定の分野で優れた能力を持っていることはあっても、バランスの取れた経営者、次世代経営者として本当にふさわしいかというと、そうではないケースが多々あります。
次世代育成を軽視する経営者の特徴
そうした状況に対して、適切なコーチングが行われているかといえば、ほとんどの企業ではなされていない。「コーチングのようなこと」をしているだけで、本気で育成に取り組んでいる経営者には、私は一度も会ったことがありません。
重要なのは、次世代経営者の育成にはほとんど費用がかからないということです。にもかかわらず、経営者の右腕・左腕となる人材を育てる機会が、ずっと放置されているのが現状です。
「いや、そんなのは実際に事業をやらせてみないとわからない」と言って、育成を丸投げするケースもよくあります。「自分は育ててもらっていない」と考える経営者ほど、部下を放置しがちです。しかし、それで経営者になったとしても、自分と同じ環境が次世代の経営者を育てる保証は何もありません。
M&A成功の鍵は買収後の統合作業にある
最後に、M&Aを進める企業についてお話しします。これは中小企業でも中堅企業でも大企業でも重要なテーマで、M&Aをどんどん進める企業が増えています。しかし、M&Aそのものだけでなく、その後のPMI(Post Merger Integration)、つまり買収後の統合作業をどう進めるかが極めて重要になります。
M&Aのスキルは、社内でしっかりと獲得しなければなりません。M&Aの目的を明確にし、事業戦略や企業戦略、ビジョンに合ったM&Aのタイプを決め、候補を探し、交渉を進め、買収後の100日プランを作成し、実行する。一気通貫で取り組めるチームを組成することが不可欠です。
多くの企業では、候補探しは別の担当者、交渉はCFO、買収後のフォローはまた別の担当者が任命され、「お前、やってこい」と指示されるかたちになっています。しかし、それではうまくいきません。M&Aは最初から最後まで一貫したチームで取り組む必要があります。
初めはM&Aエージェンシーやアドバイザリーを活用するのも1つの方法ですが、スキルを社内に蓄積し、できるだけ早く自社で推進できるようにしないと、M&Aを企業戦略として機能させることはできません。
一見すると、(冒頭のスライドに)挙げた5つのポイントは単純に思えるかもしれませんが、実際にはどれも本質を突いています。
事業構造改革を本当に進めているのか。DXに最優秀人材を充てているのか。その人に自由に人を使わせているのか。AIを社長自らがリードしているのか。次世代経営者や事業リーダーの育成に本気で取り組んでいるのか。それとも口だけになっていないか。M&Aを重要視するなら、戦略的なチームを作り、自社で主導して取り組めているのか。
やっているつもりでも、実際にはできていないことが多いのではないでしょうか。本気で取り組むのか、それとも掛け声だけで終わらせるのかという話です。
主催:
MBAオンラインキャンパス