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第一部「篠田真貴子氏講演」(全2記事)

組織体質の改善を阻むのは、30年間変わらない会社の「クセ」 社会が求める理想の「良い会社」と現状のギャップ

年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「受け身の組織からチャレンジが生まれる組織へ 組織体質改善へのアプローチ」をテーマに、組織に染み付いた文化・日常の振る舞いを変えていくための、個人の自律を起点とした組織体質改善のアプローチについて語られました。本記事では、エール取締役篠田真貴子氏の講演の模様をお届けします。

組織体質の改善を阻む構造と推進の要

榎本佳代氏(以下、榎本):では篠田さん、さっそくよろしいでしょうか。

篠田真貴子氏(以下、篠田):ご紹介ありがとうございます。こんにちは。エールの篠田です。まず私から「組織体質の改善を阻む構造と推進の要」というすごいタイトルのテーマにチャレンジして20分ほどお時間をいただき、お話ししていこうかなと思っております。

今日私が話すこのパートでは、私が考える組織の体質改善と効果や、その方向性に対して私が参考にしてきた事例や先輩方の教えをご紹介していこうと思っております。それぞれの組織の状況や、リーダーのお考えがあると思います。なので、何か1つでも考える刺激やヒントになればいいなと思います。

まず「組織の体質改善とは何だろう?」というところを、あらためて考えてみました。私はもう20年以上前に、マッキンゼー(McKinsey&Company)という会社にいました。

その時にお世話になった横山(禎徳)さんという先輩が、組織改革を社外からサポートする専門家で、その経験を基にこちらの『組織 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー』という本を書かれているんです。この本で「組織の体質改善は何か?」ということが、私にはしっくりくる表現で書かれています。

組織の人の行動を変えるための「3つの信念」

篠田:まずは(スライドの)上からいきます。「目的は『組織を変える』ことではない。『人々の行動を変える』ことが目的」です。なんで行動を変えないといけないかというと、「外的変化に適応するため」です。3つ目の塊にいきますね。

「これまでの慣れ親しんできたものとは大きく異なる状況にタイミング良く対処できるよう、人々の従来型の行動を変えることが目的」で、「人の行動を変えるには、かなりの度胸と迫力が必要」。(私も)これは経験的にもそう思うんです。

今日いらっしゃっているみなさんはまったくそんなことはないと思いますが、「なんとなくチームが自分の思うとおりに動かないから、体質改善したいな」とか、そういうことではないんですよね。もう少し広く深い覚悟が求められる話だと考えています。

その観点で、エールの私たちやほかの企業もこうなっていったらいいなぁという私たちの願いがあるんです。社員が自律的に働く組織でありたいし、そういう組織が増えた世界は良い世界だなと思っています。これだけだとすごくいろんな解釈が可能なので、もう一段、これを支える「信念」まで考えました。

これは3つあって、1つ目がまず「社員の内的な変化を願う」です。自律的であるということは内的ですし、変化を強制するわけにはいきません。要は「自律度が上がったらボーナスを増やすよ」とか、そういう問題ではないので、やっぱり願うしかないんです。

2つ目が、組織と個人のそれぞれにパーパスと言うべきものがあって、どこかで必ず重なるという信念です。3つ目が、それぞれ価値観や「何を大事にして生きているか?」というものがある一人ひとりに、合う仕事を増やしたり、作ったりすることです。少なくともそういう努力をする組織でありたいという信念です。このように考えています。

組織の理想像をつくる4つの要素

篠田:(さらに)こういう信念の裏にあるものは何だろう? と考えました。私はこの構造がすごく大事だと思うので、ここを中心にお話ししようと思います。つまり、なんでそういう組織がいいのかというと、現状が理想像とズレているので体質改善がテーマになるわけですが、そもそもこの理想像が大きく4つの要素から成ると思っています。

まず、若干無意識のうちかもしれないのですが、その時代その国の社会が事業に何を期待しているのか? という社会における事業観というものがあって、私たちも社会の一員だからその影響を受けているわけです。

この黄色い丸が自分たちの組織のイメージです。その私たちの組織一つひとつの中に、たぶんその事業における人間観「人とは何であるか?」や、組織観「組織とは何であるか?」「この人と組織の関係性はどうあるか?」という理想像みたいなものがあるんです。

特に経営者や組織のリーダーのみなさんは、まずはこれを意識することがスタートだなと思っています。若干(スライドに表示されている表が)細かいのですが、この表は少し丁寧にお話をさせていただいて、そのあといくつかの事例をお伝えしたいと思います。

社会が事業に求める「正しさ」の変化

篠田:今申し上げたここの4つの(理想像の)要素を、縦に表に並べています。「社会における事業観」「人間観」「組織観」そして「人と組織の関係」です。非常に雑ですが対象にするとわかりやすいので、「今までの組織」「これからの組織」と2つ並べました。

一番上の「社会における事業観」から順に、少し説明していきます。「今までの組織」というのはざっくりいうと、1990年代から2000年代をイメージしています。私が社会人になった30年前からバブル崩壊の20年前です。その頃の、理想とされる組織は製造業であり工場なんです。

立派な会社のイメージというと、ピカピカの工場や立派なビルでした。なので、固定資産や財務資本が価値の源泉であって、そこで「素晴らしい会社」とされるものは再現性や連続性だったのだと思います。

特に日本において、自動車産業が今も日本の根幹を支え続けていて、それが世界に冠たる産業に育っていたという背景が大きく影響していると思うんです。それができる構造というのはヒエラルキー構造ですし、所属が大事でラインになっているんです。

もう1つ指摘したいのが、今までのこういう社会が事業に求める正しさとは、無謬性、つまり「思考や判断に誤りがないこと」だったと思うんです。それが今、そしてこれから社会においてどんどん主流になっていく「こういう事業がいいよね」「こうなっていきたいよね」というイメージは、むしろインターネット時代のソフトウェアエンジニアが中心の組織や、そういう働き方になっているんだと思います。

普通に今の見出しを見ると、「良い会社」的な引用をされるのってGAFAとか、そこにNetflixが入ったりする世界じゃないですか。そうすると価値の源泉は人的資本だし、組織は何のためにあるのか? といったら、再現性というよりも創造性や独創性のためにあるんです。

その組織構造はネットワーク的であり、人は所属というよりも「その人の個性は何ですか?」というタグが大事なんです。ラインというのも、モジュール(構成要素)がネットワーク的に有機的につながるイメージです。

変わらない組織と、変わる「社会の事業観」のギャップ

篠田:このような世界における社会が事業に求める正しさとは、倫理的であることなんです。つまり、(スライドの表の)左とあえて対比するならば、「人間なので間違いはありますよ」「思考や判断に誤りがあることはもうしょうがない」「だけど、善悪の判断をわきまえていないのは本当に許さない」というのが、今の事業に対する期待感だと思います。

だからコンプライアンスという話があったり、例えば、もしかしたら過去の世界では、製造業で安全性の検査に対してごまかしがあったということが、今ほど糾弾されなかった(かもしれません)。このあたりの大きな変化があって、その影響を我々リーダーは、ある意味で無意識に受け取って、自分の組織の理想像にしているのではないかと思うんです。

その自分の価値観の変化というか、自分も影響を受けている「社会の事業観の変化」に意識的にならないと(いけません)。「組織が悪くなっているのではなく、組織はずっと再現性や連続性でやっているのに、こちら(社会)の期待値が変わっているから、ギャップが生まれるように感じ、組織の体質改善を望んでいる」と捉えられなくなってしまう。だからまずはここの自覚がすごく大事だなと思っています。

リーダーは「正解を知っている」自分に期待していた

篠田:(表の)下は簡単に触れていきます。まず人間観のこれまでの組織のイメージでいくと、人は機能であるから行動面を管理することが必要だし、外発的動機付けが非常に理にかなっているわけです。

このまま(表の)左側の下にいきますけど、組織観においては均一性が当然力の源になってきます。ですから、差をつけないことがすごく大事です。その組織に「入って」とお誘いする時に何で人を惹きつけるのかというと、「均一な組織の共同体の一員になる」ということが第一選択です。そうでない場合はある意味傭兵のような、機械として「スキルを買ってもらう」という関係性。このどちらかになっていくんです。

こういった人間観と組織を結びつけるものでいくと、当然人は組織に従属するものだし、人が組織を語る時というのは、組織が少し機械のようなイメージです。でも、それを語っている自分は「機械ではなく人間だ」と思っています。ですから、「自分はこの組織という機械のようなシステムの外側にいる」というイメージを持っていると思うんです。

加えて、いわゆるリーダーとされる方々も無謬性という組織に課された期待を体現します。なので、リーダーないしは経営者たる自分は、「正解を知っている存在である」「自分に間違いはない」ということを自分に期待する、という世界にいたんです。

新しい世界の組織観は「多様性」が力の源

篠田:今起きつつある変化、あるいは会社によってすでに取り込まれている変化というのは、人間観においては機能というよりも「感情も価値観もある存在である」ということです。資料を用意していておもしろいなと思ったのですが、人の行動面ではなく、その行動を引き起こす思考や、それを引き起こす感情や無意識の動き。

さらにそれを支える価値観、というように、経営においても2000年頃に「ロジカルシンキング」というテーマが流行ったところから、2010年頃に「デザイン思考」、今は「パーパス経営」の流行と、関心が変遷してきているんです。やはりこの世界で動機付けが内発的でないところはあります。

今まで人間観の話をしましたけど、過去は均一性が力の源だったのですが、新しい世界の組織観というのは多様性が力の源なんです。なぜなら創造的であり独創的であることが組織に求められるからです。

「1人では生み出せない創造性が、組織だから生み出せる」という世界観です。そうすると、人々を束ねるものはパーパス共感になってきます。なので、そういった人と組織の関係性はフラットであるし、組織と関わる人の意識は「自分も組織で、システムの一部である」。

つまり、「組織は自分に影響を与えるし、自分も組織に影響を与えて相互のダイナミズムの中で変化が起きてくる」という捉え方になっていきます。

なので、リーダーの役割というのは「正解を知っている人」である必要はないんです。「自分はこっちに行きたいんだ」と方向を示す。それで仲間を募り、その仲間たちを支援し、自分も支援される。共に試行錯誤するという世界観なんです。ここに向かっていきたいなと、私とエールは考えています。

そして、これは(表の)一番上に書いた「社会における事業観」の影響を受けています。ですから、度合いの違いはあれどみなさんもこういった問題意識のもと、今は組織の体質改善を願っていらっしゃるのではないでしょうか。

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