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『世界倒産図鑑』に学ぶ組織づくりの本質~コロナ禍を生き抜く組織の条件とは~(全4記事)

「7pay」の失敗に見る「ウチは特別」と思っている組織の危うさ 抽象化が生む、他社の成功・失敗事例から“学ぶ意欲”

「VUCAの時代」といわれ、将来の予測が困難になってきた昨今。過去や先人の失敗から本質的な学びを得ることの価値が高まっています。それは組織づくりにおいても同様で、コロナ禍を経て組織と個人の関係性や働き方が大きく変化する中、変化や危機に柔軟に対応できる芯の強い組織づくりへの移行が求められています。そこで『世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由』の著者であり、株式会社学びデザイン代表取締役社長の荒木博行氏が登壇したウェビナーの模様を公開。日米欧25社の倒産企業の事例から組織づくりの本質を探り、コロナ禍で生き抜く組織の条件をひもときます。

勝ちのモデルが一転して“負けモデル”に入れ替わってしまう

斉藤知明氏(以下、斉藤):ありがとうございます。ここからディスカッションのパートに移らせてください。いやぁ、お話を聞きながらドキドキしてました。失敗の話を「自分のケースに落とし込むと」って考えていて。改めて、そごうさんの事例とかでも「すごく自然に失敗したな」っていう感覚があったんですよね。

そごうで「こういうビジネスモデルだったら拡大して広がっていく」という“勝ちパターン”が見えました、と。でも勝ちパターンが見えたからこそ、そこでアクセル踏んだ結果として、世界のビジネスが成り立っている前提(そごうの場合は「バブル」)が崩壊した途端に、その勝ちのモデルが一転して“負けモデル”に入れ替わってしまう。そうなるともうお手上げで。社長もわかってたかもしれないんですけど「景気さえ回復すれば」という、希望的観測にすがってしまう。

そういう構造に陥ってしまった当時のそごうさんは、どうすれば・どういう思考があれば「このままだと失敗するに違いない」って気づけたと思いますか? 

荒木博行氏(以下、荒木):当時のそごう社員の人たちにインタビューしたわけではなく、すべてのケースは外部に書かれた公開情報にしか載っていないんで、正直わからないんですね。「そごうのマネジメントがどうだったか」っていうのは、わからないです。ただ、水島(廣雄)さんが「天皇」と呼ばれていて。ビジネスモデルとか……要するに「経営のレイヤーでアンタッチャブルだった」という記述はあるんですよ。そうなっちゃうとヤバいんだろうな、という気はします。

つまり「問いを投げかけることが許されてない」んですよ。「このビジネス大丈夫ですかね?」「そもそもお客さん、何を求めてるんですかね?」みたいな。そんな抽象度の高い問いを投げかけていたら「いや、そんなこと心配する前に、お前は自分の売り場の売上を1割でも上げろ!」みたいな。

そういう話がおそらくは、なされていたんじゃないかなと。勝手な想像です。だからそういう健全な抽象度の高い問いを、組織はちゃんと受け入れる仕組みを作ってるのか・土壌があるのか? っていうのは、むちゃくちゃ大事でしょうね。

でもこれって、例えば「KPIが売上である」とかそういう話で追い立てられて。「クォーターが終わりました。さて、次のクォーターではまた売上目標があり……」とか。そういう、ある意味で“ラットレース”みたいなところに入り込んじゃうと、抽象度の高い問いを投げかけるのがアホらしくなってきません?

斉藤:(笑)。

荒木:そんな問いを立てても、売上は上がらないんです。だから、気を抜くとそういう(問いを投げられない)メカニズムに我々の組織はすべてなっていくんです。

未来は誰にもわからないからこそ「いろんな人の知覚に頼る」

斉藤:「成功してる組織や、積みあがっていってる会社ほどリスクが高いんだ」って、最後におっしゃってたじゃないですか。まさにその状態だったんだろうなと思いました。勝ってる状態だと「改善しよう」っていう頭(意識)が抜けやすいじゃないですか。

「このままレールに沿って走り続けよう、僕らは勝てるんだ」っていうことを理解できた。その時こそ、前提を疑って「もしこの前提が崩れた時にも僕らが勝てるためには、どういう考え方を一から組み直さないといけないんだろうか?」。この問いって、例えば百貨店の一店舗に立ってらっしゃる社員の方が思いついたとしても、変われないのでは? っていう気もしちゃって。

危機意識が健全に働くメカニズムになっていくためには、経営陣……完全なワンマンではなくて、周囲にいる経営陣なのか? それとも現場で気づいた人の声に耳を傾けた水島さんが、着想できると良かったんでしょうか? どういうフローで僕らは「こういうことが今後、自分の組織で起こった時に回避できるんだろう?」ということを、ずっと考えています。

荒木:僕がもし、そごうの一社員として当時入っていたら、たぶんなにもできなかったと思います。だから……無理ですよね。あのケースにおいては、たぶんトップが変わらないと。だから逆に言うと、また再生しますけど一度は滅びてしまった……そうなったものを踏まえて「我々はどう変わるか?」ということだと思うんです。まさに今回のウェビナーのタイトルが「コロナでどう考えるか?」みたいな、そんなテーマだと思うんですよね。

これ、コロナじゃなくてもなんでもいいんですけれども「この先の世の中を理解できる人はいるのか?」っていう話につながっていくんです。だから答えからいくと「誰もわかんない」ですよね。どんだけ賢くても、当たる可能性は3パーセントぐらい。「いやぁこの人優秀ですね」っていう人でも、たぶんわかってるのは5パーセントぐらい。だから結局「わからない」っていうのは一緒なんですよね。

その時にどうするか? っていうと、だからこそ「いろんな人の知覚に頼る」っていうことが大事なんですよね。どうせ1人でやったってわかんないんだから、いろんな人が世の中を知覚して、そのサインをベースに考えていく。そういうモデルを作らないと、1人に依存してすごい賢い人が考えるモデルは、現実で言うとむちゃキツイですよね。

陥りがちな「俺はわかってる。お前はわかってない」の感覚

斉藤:「前提を自分の力で認識することはとても難しい」「前提が違うということや、変わりつつあることに気づくのは、結局、他と交わって『違う前提』に触れて、そこを受け入れようとするか・しないかっていう差じゃないか」というチャットもいただいています。

荒木:そうです。理屈で言えばそうじゃないですか。ただ、例えば斉藤さんに振り返ってほしいんですけど。少し前提の違う新人社員が入ってきて「Uniposのビジネスって何すか、これ?」「本当のニーズ、一体何すか??」みたいな。そんな問いを投げかけられた時に「うるせぇ!」って言いたくなりません?(笑)。

斉藤:なりますよ(笑)。

荒木:「そんなこと言う前に、まず成果あげてから来いや!」ぐらいの感じに、やっぱり人間はなると思うんですよ。

斉藤:そうですね。ぐっとこらえますね。

荒木:それは前提として「俺はわかってる。お前はわかってない」っていう感覚に陥るじゃないですか。「俺はこれだけ考えてて、先の世の中もだいぶわかってるつもり。でもお前はまだピヨピヨ(新人)でなにもわかってないよね?」っていう上下関係のモデルが、やっぱり我々のメンタルモデルの中に大なり小なりあるんですよ。だからやっぱりこれって、すごく難しい問題だと思います。めちゃくちゃ難しい。

斉藤:さっき「『5パーセント』か『3パーセント』の違いだ」みたいなことをおっしゃったじゃないですか。そうした時に、この3パーセントないし2パーセントであったとしても「『自分の知らない95パーセント』のうちの2パーセントである可能性があるんだ」って、どこまで本気で思えるかどうか? ですよね。

荒木:そうなんですよ。だからこれは経験を積んできた人であればあるほど、やっぱり差分が明確になるじゃないですか。だんだん経験を積んでくると、差分が7パーセントぐらいになるんです。そうすると「3パーセントの人」と「7パーセントの人」って、差が大きく感じられる。4ポイントも違うって、けっこうデカい差なんですよ。

斉藤:倍以上違いますからね。

荒木:ところが全体を捉えた時に、結局は「90数パーセントわかってねぇ」っていうところにおいては、一緒なんですよね。

“前提を疑う”という日頃からの習慣

斉藤:今回ご講演の中では出てこなかったんですが、事前にいただいていたスライドの中で「抽象化で壁を越えよう」というものが「これだな!」と思ったんです。今回はそごうさんのケースを例にして、そして「じゃあ斉藤さんどうでしょう?」っていう問いを荒木さんに投げかけていただいて、一段、抽象化した。

斉藤:この学びでもあると思うんですけど。そごうさんのケースって、ものすごくデカいじゃないですか。グローバルだしデカいんですけど、一方で私のケースがすごくデカいか? っていうと、100人規模の組織。

じゃあこれが「上司・部下の関係」といった「一対一のミクロな場所」でも起こり得る学びだとした時に。「このチームはずっと慣性で数値を上げることに向き合ってるけど、COVID-19が起こったタイミングでゴリっと減っちゃいました・変わっちゃいました」という時、それをどう乗り越えて動いていくか? っていうことになります。例に出したいのが、KPIマネジメントの教本(『最高の結果を出すKPIマネジメント』)を書いてらっしゃる中尾隆一郎さん。彼の息子さんが、フレンチのレストランを経営してらっしゃるんですよ。

荒木:あぁ、そうですよね。

斉藤:それで「COVID-19で閉めないといけない」ってなったとき、いち早く支援金を募ったんです。オンラインで「家でフレンチを再現できます!」といって冷凍パッケージ作って売り始めたら、すごく売上が伸びたそうです。

荒木:へぇー。

斉藤:去年の4月末、緊急事態宣言が出された3週間後ぐらいにビジネスモデルの転換を一気に行い、新たなビジネスを始められました。中尾さんの教育の賜物なのかわからないですけど、すごく学びのスピードの速い方なんだなと感じたことがあって。しっかりと「危機が起こった時にどう乗り越えるか?」の訓練をしていたり、前提を疑っていた日頃からの習慣があったりすると、それだけのスピードで乗り越えられるんだなと感じた一例だったんです。

「自分たちだけが特別である」と思っている組織の危うさ

荒木:冒頭の質問で「失敗から学べない組織の特徴は何ですか」と書かれてたじゃないですか。あれの1つの答えは「自分たちだけが特別である」というものの見方をしている組織。これは本当にきついですね。

要するに「いやぁ、Uniposはちょっと特殊ですから」とか「うちの組織、やっぱりちょっと特別なんですよね」ってなると、他社の事例が“学び”でなくなるんですよ。ところが抽象化することとは何か? というと「人と人とがなにか相乗効果を生んでいる。そういうことであれば一緒だよ」と。「人がなにかをやっているという意味では(他社も自社も)一緒だよね」っていうと、すべてが学びになる。

もちろんユニークネスは必ずあるんですよ。しかし「だいたいのところは一緒である」っていうところに立たないと、学びにならない。だからフレンチの話を出してもらいましたけど「結局、(どこでも)人に喜びを提供してるビジネスだよね」って考えたら、もう領域を越えて学びになっていくわけです。「うちのフレンチはすごく独特のレシピやってて、こだわりがあって、仕入先もぜんぜん違うんですよ!」みたいな……。

斉藤:「冷凍なんてできるわけないですよ」って言ったら、終わりですよね。

荒木:そうそう、そうなっちゃうときついんですよ。だから、さきほど少し宣伝しましたけど『世界「失敗」製品図鑑』にすごくわかりやすい事例があって、それは「7pay」の事例。3ヶ月でクローズしちゃったんです。あのセブンイレブンが失敗しちゃったんですよね。

あの時の責任者の方の発言がけっこう象徴的なもので「我々のビジネスはみなさんが言うような、セキュリティとかそういうものでは片付けられない特殊なビジネスなんです」「だから二段階認証とかそういう話ではないんです」っていう発言をして、それがまたものすごく炎上したんですよね。

もちろんセブンの生態系って、むちゃくちゃユニークなんです。セブンイレブンは店舗内ですべてのお金が流通できるぐらいの状態であり、セブン銀行もあり。ある意味で極めてユニークなんです。しかし「お金を扱う」という意味においては全部一緒だよね、と。「人の大事な物を預かるとか、そういう意味では一緒だよね」ってなった瞬間、やはりほかの企業がやってることも学びになってくる。

だからトップの人が、そういう意味で“ユニークネスだけ”にこだわり続けると、組織の中で「学ぼう」という意欲がすごく内向きにになっちゃうリスクはあります。

抽象度が高くなった瞬間、ほかのビジネスモデルと接合できたりする

斉藤:荒木さんがこういう学びを続けようとされてらっしゃる動機というか。どういう習慣でこういう学びを続けてらっしゃいますか?

荒木:習慣……習慣?(笑)。習慣の話にいく前に、まず大前提を話すと「わからないことがいっぱいありすぎる」っていうのが、僕のマインドセットなんですよ。だから、ちょっとでも知りたい。「どうなってんの?」っていう、そんなことがまずは僕のモチベーションになってます。

モチベーションはけっこう大事かなと思っていて。「世の中の見方をどう見るか?」ってけっこう大事だと思うんです。「本当に知らないことばっかりだから知りたいな。人はなんでこう動くんだろう?」とか「この会社のビジネスはどうしてこうなってるんだろう?」みたいなことを知りたい。

大事なことは、そこから「あぁ、こういうことなんだ」って思った時に、やっぱり抽象化するってこと。「Uniposってすごいおもしろいビジネスですね、うーんなるほど」というレイヤー・具体的な話で終わらずに「ってことは、こういうことなんですね」って。

抽象度が高くなった瞬間に、実はほかのビジネスモデルと接合ができたりするわけです。「セブンイレブンとUniposって、こういう意味でいくと思想がけっこう同じですよね」みたいな。例えば僕が昔働いてた住友商事と「このビジネスって一緒ですよね」といった話になってくると、世の中の解像度が0.03パーセントぐらい上がる。

斉藤:(笑)。100に近づけていきたいんですね、徐々に。

荒木:いきたいんですけど、たぶん死ぬまで無理だと思っていて。ただ、やっぱりビジネスの……『ドラクエ』をイメージされるとわかりやすい。『ドラクエ』って言葉、まだ通用しますよね?(笑)。

斉藤:通用します、通用します。

荒木:マップがあるじゃないですか。あのマップが広がる感覚って、すごく大事です。行った所のないマップは広がらない。だから「なんか(その先に)あるんじゃねぇか?」ぐらいの感じなんだけど、地図の“へり”が見えないんですよ。どこまで行くと端っこなんだ? みたいな。

キャリアチェンジでトランジションできる人・できない人の差

斉藤:抽象化してなにかに活きる経験をしたことのある人って、まだ少ないと思うんです。例えば具体的な先人のケースから「先輩の言うことを聞いてれば、売上が上がった」って、よくあるじゃないですか。これって「具体が具体でつながりました」ということ。

一方で、例えば「アパホテルが航空関連会社から学んで、ダイナミックプライシングのシステムを取り入れた」だったりって、まったく別の業種から取り入れて、その結果としてすごく成長した例だと思います。その成功体験を踏めば踏むほど、みんな「こういう学びっていろんな領域に広げていったら、自分にとって得なんだな」って思えるようになってくるんでしょうね。

荒木:だからみんな、そういう意味では少なからず(経験)してるんですよ。キャリアチェンジって、まさにその経験じゃないですか。今までやってきたことがぜんぜん違うキャリアになる瞬間って、誰しもとは言わないけれども、多くの人はビジネスキャリアの中で経験してると思うんです。

「今まで経理やってたんだけど、急に営業いけ」だとか「システムエンジニアやってたんだけれども、そのマネジメントをやれ」とか。ある意味でキャリアの断絶だとか、変化みたいなことってあるわけじゃないですか。

そういう時にうまくトランジションできる人と、そうでない人の最大の違いっていうのがまさに「抽象化」ってことですよね。「キャリアがゼロリセットされる」っていう、個別具体的なことで終わっちゃってる。個別の点が、もう点だけで分断されていると、キャリアを作るという意味においてはけっこうきついですよね。でもうまい人はどうしてるか? っていうと「いろんなことやってきたけど、結局は一緒のことやってるんですよね」って。

斉藤:なるほどなぁ(笑)。

荒木:例えば「人の学びを最大化する、学びの裾野を広げる」っていう意味だと、私のキャリアは二十数年になりますけど、一緒で一貫してるんですよ。初めは商社に入って、グロービス入って、そして自分で会社立ち上げて。いろんな会社を手伝ったり、本書いたり。ぐちゃぐちゃしてるように見えて、実際ぐちゃぐちゃしてるんだけど、ただ「一緒ですよ」と。

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