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福島靖氏インタビュー(全3記事)

飲食店アルバイトから超一流ホテルに入社し学んだ「経営者の視点」 『記憶に残る人になる』著者の人生遍歴

本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。

今回は、『記憶に残る人になる トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』著者の福島靖氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、営業で気遣いが裏目に出るパターンや、コミュニケーションの極意をお届けします。

成績最下位からトップ営業へ『記憶に残る人になる』著者の人生遍歴

——福島さんは、居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス(アメックス)に入社・法人営業を担当され、営業成績最下位から1年で紹介数、顧客満足度、ともに全国1位になったという経歴をお持ちですね。

また、書籍『記憶に残る人になる トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』では、中学、高校時代は友だちができず暗黒時代で、18歳になった当日に俳優を目指して上京されたと書かれていました。今振り返ってみて、学生時代の経験が今の自分に影響を与えているなと思うことはありますか?

福島靖氏(以下、福島):はい。まず『記憶に残る人になる』の中でも、「自分のあり方が大事なんだ」と書いています。あり方とは、自分を掘り下げた哲学的な思考ができないと、なかなかたどり着けないものです。つかみどころがなく、「自分の中にあるんだけど言葉に出てこない」という方が大勢いらっしゃると思います。

その点、僕の場合は何かあると「なんでそうなったのかな?」と、どんどん深掘りしていくのが好きなんですよね。僕がいつ哲学的な思考を身につけたのかと考えたら、やはり中学・高校の暗黒時代。話し相手がいなかったので、毎日妄想しかすることがなかったんです。

もし友だちがいて、毎日誰かと話して内省する時間がなかったとしたら、たぶん今みたいな哲学的思考は持てなかったんだろうなと思います。

フリーター生活からリッツ・カールトンへ

——学生時代に、ご自分の「あり方」を考えるための土台ができたんですね。その後、飲食店のアルバイトをされる中で、24歳の時に『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』という本がきっかけで、リッツ・カールトンへ入社されたということですが、詳しくうかがえますか?

福島:当時、僕は飲食店を辞めて一般企業で働こうと思って就活をしていたんですけども。スーツを着るのも初めてですし、名刺をもらった時もどうしていいかわからないような状況だったんです。そこで、ビジネスマナーの本を買いに紀伊國屋書店に行ったら、『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』が、辺り一面に平積みにされていました。

当時2007年の3月だったんですが、その月の30日にザ・リッツ・カールトン東京がオープンするということで、大ブームになりかけていた時期だったんです。でも、その書店の光景を見た時も僕はすごく斜に構えていました。



僕の中では、ホテルマンってあんまり笑顔がなく、「こちらへどうぞ」みたいなクールなイメージだったので、「そういう気取ったやつらがいる場所なんでしょう?」と思っていたんですよね。

どうせお辞儀が45度とか、丁寧語や尊敬語がどうとかいうノウハウ本だと思ったんですけど。読んでみたら「こうやってお客さまを喜ばせました」みたいなことがひたすら書いてあって、想像していたのとぜんぜん違ったんです(笑)。

忘れものしたお客様を追って新幹線に乗った社員

福島:まずリッツ・カールトンには、社内で共有される価値観・信念である「クレド」というものがあるんですね。テクニックでお客さまを喜ばせるというよりも、クレドについてみんながディスカッションして、お客さまを喜ばせるために(一人ひとりが)やりたいことをやる。

その結果、お客さまが忘れていった書類を勝手に新幹線に乗って追いかけて渡したというエピソードもあって、「何だ、このホテルは?」と思ったんですよ(笑)。本を閉じた瞬間に、ホテルマンになりたいというよりも「リッツ・カールトンに入りたい」とはっきりと思ったんです。

僕は飲食店は「やりきった」と思っていたんですよ。お客さまを喜ばせることも散々やったし、バーテンダーもやっていたので、お酒も詳しくてカクテルも作れます。なので、そろそろ接客業を卒業しようと思っていたんですね。

でも、本の中にはぜんぜん知らない世界があって、「僕はまだ何にもやれていなかったんだな」と思わされました。

一流の経営者の共通点

——そういった経緯で入社されたんですね。リッツ・カールトンのお客さまは経営者の方も多かったと拝見しましたが、一流の経営者に共通する点はありましたか?

福島:はい。2つありまして、まず「経営者の方は時間を大事にする」とよく言われていますよね。1分1秒をビジネスのために使うためなのかなと思いきや、そうではないんです。

例えば経営者のお客さまの中には、リッツ・カールトンに日常的に泊まって、中にはプライベートジェットを乗り回している方もいます。ある経営者の方から「そういう経験は福島さんはできないでしょう?」と言われたんですね。

僕は当時の給料が18万5,000円だったので、到底無理ですよね。「確かにできません」と言いました。そこでお客さまが「でも、僕は君がやっていることができなかったんだ」と言われたんですね。

例えば、今僕は家に帰ったら娘と妻がいますけど、そんなふうに普通に家で家族とご飯を食べたり、休みの日に家族と犬の散歩に行くことができずに、その時間を全部仕事に使ってきたと。だからこそ時間はすごく尊いものなんだとおっしゃっていました。

そのお客さまの誕生日に、(ホテルのスタッフみんなで)1人3分くらいかけて寄せ書きをしたんですが、「それが何よりうれしい」と言ってくれたんですね。

「例えば20万円のドン・ペリニヨンのシャンパンとある人の3分、どっちが尊いと思う?」と聞かれた時に、「あなたが使った3分は、100億円出しても返ってこないでしょう?」とおっしゃっていました。

あるインフラ系大企業の社長から学んだこと

——相手が自分のために時間を使ってくれたことに、すごく感動されたんですね。

福島:はい。もう1つの共通点としては「謙虚さ」です。それこそ僕たちがふだん使うようなインフラ系の大企業の社長さんは、驚くぐらい謙虚でした。

「なんでそんなに謙虚なんですか?」と尋ねたら、「君は何時に上がるんだ?」と聞かれました。「今日は23時上がりです」「23時に上がったらどうやって家に帰るの?」「着替えて電車に乗って帰ります」と。

もしその人が鉄道会社の社長だったら、「今は自分がお客さまだけれども、今度は君が僕のお客さまになるんだ。その感覚を忘れちゃいけないよ」と教えられました。この感覚は今の僕の中でも活きています。

例えばオフィスに荷物を届けに来てくれるヤマト運輸の方に横柄な態度を取ったり、雑に扱っている方はめちゃくちゃ多いんですよ。でもその人がお客さまの立場になった時に、「(横柄な態度を取ってきた)自分のことをどう思うだろう?」と考える。つまり、お客さまの境界を決めないということです。立場が変われば全員がお客さまなんだと教えてくれたのは、非常に大きかったと思いますね。

営業でよかれと思ってした気遣いが裏目に…

——こうした出会いが、福島さんの「あり方」を作ってきたんですね。リッツ・カールトンで学んだことで、その後のビジネスシーンでも実際に活かせたことはありますか?

福島:究極のところを言ってしまうと、リッツ・カールトンという一流の場所で働き、一流の方を見て、自分のあり方を手に入れることができました。そこで学んだことの1つとしては、コミュニケーションは一対一ではないということです。

これは書籍でも書きましたが、僕はアメックスの営業マン時代に、お客さまをホテルのラウンジで待っていたんですね。その方はラウンジの常連さんで、「先に着いたら飲み物を頼んでおいてね」と言われていました。でも僕は、お客さまより先に飲み物を頼んだり飲んだりするのはNG行為だと思っていて、何も頼まずに待っていたんです。

それでお客さまが来た時に、「もう、頼んでおいてくれればいいのに。気を遣っちゃうじゃない」と言われたんですよね。

これは、僕とお客さまの一対一の関係であれば正しい場面もあるかもしれませんが、それを見ている周りの人からすると、僕は「誰かを待っているから、飲み物が飲めない人」なんですよね。つまり、そういう(礼儀に厳しい)人が来るのかと思わせてしまう。

お客さまは見ていないのに「2回お辞儀」する女性

福島:あと、僕の同僚で、最後に出口のところでお客さまをお見送りする時に、深々と2回お辞儀する女性がいたんです。でも、2回目のお辞儀の時にはもうお客さまはその場にはいないので、見ていらっしゃらないんですよ。

それでもなぜお辞儀を2回するのかというと、1回目はそのお客さまへのお辞儀。2回目は、そのお辞儀を見ている、まだ関わっていないお客さまへのお辞儀らしいんですよ。つまり、いい接客を見ると、関わっていない人も気持ちがいいし、横柄な人を見ると、自分が何かされたわけじゃなくても、嫌な気持ちになるんですよね。

このことは僕自身、今の営業活動でもクライアント先でも、飲食店でも常に心掛けていますね。するとなぜか、僕とお客さまのコミュニケーションだったのに、別の人から評価されることがめちゃくちゃ多くなりました。

僕は誰に対してもこうなのですが、お店の方にちゃんと挨拶ができるだけでも評価してもらえたりするんです。「これ、みんなできないの?」と思っちゃうんですけど(笑)、「人からどう見られるか」という、メタ認知を鍛えられましたね。

——コミュニケーションは、それを見ている周囲の人にも影響を与えるということですね。ありがとうございます。

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