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社員の力を引き出す経営戦略〜ひとり一人が自ら成長する組織づくり〜(全5記事)

「社長以外みんな儲かる給与設計」にした理由 経営者たちが語る、優秀な人材集め・会社を発展させるためのヒント

特定非営利活動法人ジャパンハートが主催したビジネストークイベント「社員の力を引き出す経営戦略〜ひとり一人が自ら成長する組織づくり〜」。株式会社一休の代表取締役社長・榊淳氏、株式会社シンクロの代表取締役社長・西井敏恭氏をスピーカーに招き、ジャパンハートの創設者の吉岡秀人氏と共にトークセッションが行われました。本記事では、3名それぞれの経営哲学について語ります。

「一休.com」をV字回復させた経営手法

堀江聖夏氏(以下、堀江):榊さんは、データドリブン経営によって「一休.com」をV字回復させられたということで、いかに人材育成が大事かというのはお聞きしたい点ではあるんですが、いいですか?

榊淳氏(以下、榊):おこがましくも人材育成をしているという感じはないんですが、どちらかというと「人が活躍できる場づくりに勤しむ」というのが、正直なところかなと思っています。要諦は先ほど𠮷岡先生がおっしゃった、「人がやりたいということがあったら『やれ』と言うこと」なんじゃないかなと、あらためて思いました。

というのは、人がやりたいと思うことを「やれ」と言えるということは、社員のみなさんや従業員のみなさんがやりたいことと、会社がやりたい方向がバチッと合っている状態ですよね。なんでそれが合うのかというと、会社がこっちのほうに向かいたいと思っていることが、社会をより良くすることだからなんだと思うんですよね。

うちの会社は小さいですが、「こころに贅沢させよう。」を社是にしています。例えば近くにすごくいいレストランやお宿があって、そこが空室のままだったとすると、楽しい時間が過ごせるにもかかわらず、その部屋を埋められていない。これは社会的損失だと思って、僕らは取り組んでいます。

まだほんのちょっと心が温まるような話なんですが、ジャパンハートさんの場合は「医療の届かないところに医療を届ける」をミッションとしてやられていて、本当にそれを体現していらっしゃる。日本だけじゃなくて、ミャンマーやカンボジアとか、そこの末端にいる最後の人までそれが浸透していらっしゃる。

これが人材を育成するというか、人が育つ、もしくは人が活き活きする一番大事なことなんじゃないかなと思っています。私たちはほんの小さなミッションですが、一応そういったことをやっています。

一休・榊氏が“社長になって気づいたこと”とは

榊:あとはちょっと営利企業っぽいお話をすると、営利企業の方もいらっしゃると思うので、ジャパンハートさんみたいなきれいなミッションかつ、こういう会社で働いたほうがいいんじゃないか? ということです。

みなさんに言いたいことは、私は社長になった時にちょっと気づいちゃったんです。何に気づいたかというと、会社の成長の果実を会社が取り過ぎているんですよ。

それはどういうことかというと、僕も社長になってわかったんですが、株主とかと話し合うわけですよね。「来年の売上はこう」「利益はこう」とか、ワーッと言われるじゃないですか。それで「わかりました。がんばります」となった時に、社員の給料を下げたりすると、僕の利益は上がるんですよ。

だから、実は会社の社長と従業員は同じ方向を向いていないんです。会社の社長は、そういうことをあまり社員に言わない。

堀江:西井さん、そうなんですか?

西井敏恭氏(以下、西井):まさに僕が先ほど言った、上場会社の経営している不都合と自分でやりたかったことのギャップが、実はそういうところなんですよ。

榊:その時に、僕はずっと社員でやってきてふと思ったんです。社長というのは遠くから見たら、やはり社員なんですよ。だって、社員のみなさんと同じように働いていて、社員はどういう立場で働くべきかというと、営利企業なので大きな売上や大きな利益を目指す。これはもう、それが社会を良くすることなのでいいことです。

ただ社員からすると、そんないいことだけで働けないのが営利企業じゃないですか。なので、うちの会社は「僕が会社の売上や利益を上げる大きな目的の1つは、みなさんに還元することだ」と言っていて。

優秀な人材を集めるために大切にしていること

榊:会社の利益のどういうロジックで社員に配分されるかというと、普通は会社って、例えば「ちょっと冴えない西井さん」がいたとします。

(一同笑)

榊:例えば、「この人が外にいったら800万円だな」と思っていたら、800万円しか払わないことを考えるのが経営です。でもうちの会社は、そのロジックじゃない給料の払い方をしていて、会社の売上利益に対して何パーセントを払うと決めています。

なので、「ちょっと払い過ぎ」と言われようが、「だってそれが会社の社員と約束していることだから」というかたちでやっていると、どんどん優秀な人が入ってくるようになったりします。

堀江:そうなんですね。

榊:なので、社長に聞いてみたらいい質問の1つは「あなたはどちらの人?」。

(一同笑)

榊:社員の給料を下げたい人なのか、社員の給料を上げたい人なのか。「それはもちろん上げたいよ」とか言うかもしれないんですが、じゃあ上げたいならどういう行動を取っているの? というのが一番重要。

なので、営利企業の場合は実はそこが見極めポイントだし、ジャパンハートさんみたいな組織においては、ミッションの美しさが人材育成の要諦なんじゃないのかなと思っています。

西井:たまたまですが、僕は榊さんとまったく同じで、うちの会社もめちゃくちゃオープンです。たぶん普通の会社と比べても、人に対する投資はすごく行き過ぎているぐらい。一般的に言うと返還額が大きい状態だし、その代わりうちの会社の場合は、入社する時に必ず前職より10パーセント給料を下げてきてもらっているんですよ。

下げてきてもらって、その代わり稼げる仕組みを提供しています。その中で稼いでくれる分には、たぶん本当にボーナスとかも(高額)。でも、一休もボーナスはすごいですもんね。

堀江:そうなんですね(笑)。

西井:やった人に対してめちゃくちゃ(ボーナスを支給する)。

榊:はい。あまり言いにくいですが。

「社長以外みんな儲かる給与設計」にした理由

西井:うちも本当にオープンですが、このへんをオープンにしていくことは、たぶん今の経営においてすごく重要だなと思っていて。もっと言うとシンクロはちょっと特殊で、社長が一番大変なんですよ。(社長が)一番儲からない感じの給与設計で、社長以外みんな儲かる給与設計にしていたりしていて。

堀江:えー!? それで西井さんはいいんですか?

西井:ぜんぜんいいです。僕がやりたいことをやっているので。だから、そういうふうにオープンにすることは、いい人材を集めるという意味では実はすごく大事。

榊:そうですね。

西井:いい人材が集まることが、会社が繁栄することだなと僕は思っているので、そうやっています。

堀江:𠮷岡先生は、今のお二人のお話を聞いてどうですか?

𠮷岡秀人氏(以下、𠮷岡):ちょっと違う角度から言うと、(自分たちの組織は)NPOじゃないですか。株式会社になると、良くも悪くも株主という人たちがいて、そこに利益を還元しないといけない。

NPOになると、それはもう一度裨益者に還っていくし、僕らだったら患者に還っていく。もしかしたら社員に還元してもいいんですが、要するに株主を挟まないことによって、利益がそこから逃げ出さないんですね。だから、新しいNPOがいっぱい出てきてスケールしていけば、社員に全部還元さえできる。そういう意味では、僕はNPOの可能性は感じてますね。

西井さんのさっきの給料の話ですが、榊さんが言ったように理念というか、「医療の届かないところに医療を届ける」という言葉は、実は僕はぜんぜん意識してなかったことです。いや、自分で言ったんですよ。言ったけど、そのように行動しているから、僕にとって当たり前だったんですよ。

でも、なんか知らないけど、今で言うといろんな社員の人たち、あるいは医療者のスタッフが、勝手にみんなが使い始めて持ち上げてきた言葉です。僕にとっては当たり前すぎて「今さら何なんだろう?」という感じだったんです。そうやって僕の出した言葉なんですが、みんなの中に共通にあった言葉だったんでしょうね。

ジャパンハートの活動では「一切報酬を受け取ってない」

𠮷岡:あとは先ほど西井さんが言ったみたいに、僕はもうこの活動から一切報酬を受け取ってないんですよ。なぜかというと僕なりの理屈があって、自分がやっている仕事に誇りがあるから受け取らないんです。

もうちょっと言葉を変えて言えば、昔、言われたことがあるんです。ジャパンハートでいろいろアドバイスしてくれる方に、「先生、今はNPOの地位が低いでしょ。だから良い人材も入ってこないでしょ」と言われて。

「例えば先生が年間5,000万円ぐらいもらってたら、『NPOでもこんなに給料をもらえるんだ』ということで、良い人たちがNPOを立ち上げたり入ってきたりするから、そのぐらい先頭切ってもらったらどうですか?」って言われたことがあるんです。

僕はまったく逆で、自分がやっている仕事が5,000万円の価値とは思ってないんですよね。例えば僕が1億円を受け取ったら、「僕の仕事は1億円の価値だ」と自分で追認することになるでしょう。僕はそれがすごく嫌で。

わかりませんが、僕より価値がないと思うようなことをして、何億円ももらってる人たちって世の中に腐るほどいるんですよ。ということは、自分がどんなに誇りを持ってがんばっていても、自分が1億円もらった瞬間に「自分の仕事は1億円だ」と、自分が認めることになるのが嫌だったんです。

だから、もうそれだったらゼロだ、要するにプライスレスなんだと。自分のバリューは自分で決めると思ったんですね。

もちろん最初の頃は自分の身銭切っているだけだから、給料なんか発生しないんです。でも、社員を雇い、たくさんスタッフが増えてきて、今は何百人かいると思うんですが、そういう人たちにお金を払っても(自分は)絶対にもらいたくない。

別にそれで飢えるわけじゃないからぜんぜんいいんですが、そこは僕の美意識があるというか、こだわりなんです。そういうふうに思って、ずっとそれは続けています。

決定的な医者不足の日本だからこそできる働き方

西井:ジャパンハートの経営って、やはり難しいと思うんですよ。僕らが理事をしていてすごく思うのが、例えば(自身も榊氏も)営利企業だし、なんなら僕はマーケティングという仕事なので、いろんな会社の売上を上げなきゃいけないわけですよね。

マネジメントする側からすると、例えば「これだけ稼いだら、あなたの給料をこれだけ上げます」「その会社の売上をどれだけ上げます」みたいなことって、商習慣としてけっこう長らくあって。

どこでもやっている話だし、僕はそれはできるしやれると思ってるんですが……。実際に今の話って、𠮷岡先生は美意識でできていても、すごく難しい話だなと思うんですが、いかがですか?

𠮷岡:ちょっと言い方を変えると、実は一般職の方と医療職は少し社会的環境が違うんですよ。おそらく僕はそう思ってないけど、無意識に今の僕の給料の話を成り立たせている前提があって。それは何かというと、まず僕は医者じゃないですか。そして日本は決定的に医者不足。

例えば、僕が今から隣の病院に行って「明日から働きたいんですけどいいですか?」と言ったら、OKがくるんですよ。次の日から時間あたり何万円というお金が発生してくれるんですね。

どこも(人手が)足りないから、これは医療者や看護師さんも同じじゃないですか。だって看護師さんなんか、雇う時にアパートも家財も全部ついて、それでも来てくれというところがすごくたくさんあるんですね。僕がこの生き方をできる大前提として、そういう社会的な自分のバックグラウンドもおそらくあるはずなんですよ。

「最低限な生活」を知っているという強み

𠮷岡:でも、一般の人にはそれは無理じゃないですか。明日から就職先を探さないといけないし、いろんなところを回らないといけないし、書類も出さないといけない。

僕なんか、明日働きたいって言ったら「来てくれます?」「書類はあとでいいです」みたいな感じになるんですよ。そのぐらい社会環境が違うから、この生き方、この考え方が成立してるのかもしれないですね。

西井:なるほど。確かに成り立ってるのかもしれないんですが、例えばうちの社員がジャパンハートのマーケティングに関わらせていただいていて、別にそれに対して成果報酬も何もないわけじゃないですか。

でも、その中ですごく難しいところを実はやりたくて、そういう会社の経営をやりたいというか。似てるかもしれないですが、僕はバックパッカーだったから、実は毎月3万円ぐらいあればインドとかで生きていけるんですよ(笑)。

これはすごく自分の強みになっていて。未だにむちゃくちゃ月給が下がっても、「最低限な生活でも生きていけるし、あの時は楽しかったからな」と思えている、自分の強みがすごくあって。

うちの会社は、「Be a Backpacker」という一言の行動規範だけをやってるんですよ。つまり、バックパッカーのようにどこでも軽く、すぐ踏み出せるようにしたいし、あんまり荷物を持ちすぎると次の所に行けなくなる。

僕がずっとこれを思って生きてるから、うちの社員にはなるべくそういうことをわかってもらいたい。その中で一緒にやっていることで、価値を感じているのかなと思って。

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