レオス・キャピタルワークス株式会社のYouTubeチャンネル『お金のまなびば!』は、ふだんは語りにくいお金や投資、経済の話について、同社代表取締役社長の藤野英人氏や、ひふみシリーズのメンバーと一緒に学んでいくチャンネルです。今回はトランプ新政権や「103万円の壁」撤廃による日本経済への影響について解説します。
プロの投資家と経済リサーチャーが予測する2025年の動き
ナレーター:2024年、日本では与党が過半数割れ。アメリカでは大統領選でトランプ氏が勝利など、政治的な動きが多かった年でしたが、2025年は何が起こり、私たちのお金にどのような影響があるのでしょうか。
赤池実咲氏(以下、赤池):まずはお二人に「2025年はどんな年になるのか」をフリップに書いていただきましたので、見ていきたいと思います。では2人一斉にオープンしてください。三宅さんは「トランプ2.0」と「国内政治不安」。藤野さんは「いきあたりばっちり」ということなんですけれども(笑)。
(一同笑)
藤野さん、この「いきあたりばっちり」、どういうことなんでしょうか。
藤野英人氏(以下、藤野):日本もアメリカもますます不確実になったと思います。その中で僕らはどう生きるかというところですけれども、反射神経が重要ですよね。予測することも重要なんだけど、起きたことに対して、どうやって自信を持って行動するのかが大事です。
トランプさんそのものは本当に行き当たりばったり、結果的に行き当たりばっちり的な人だと思うんですね。石破(茂)さんは別に行き当たりばっちりの人ではない。で、少数与党なので非常に不安定だ。石破政権によって結果的に不安定感が増すので、アメリカと日本の変化の仕方はだいぶ変わってくると思うんですね。
でも我々は投資家であり消費者であり、もしくはビジネスマンとしては、それに文句を言わずに、起きたことに速やかに対応することが大事なんじゃないかなと思っております。
2025年〜2026年でトランプ政権の強国化が加速
赤池:では三宅さんの、「トランプ2.0」からまずお願いします。
三宅一弘氏(以下、三宅):トランプさんが何を行うのか。アメリカを世界最強とか、あるいは歴史的最高の繁栄国家にするという、強国化政策が非常にやはり色濃く出てくるんじゃないかなと思います。
8年前にトランプ政権をやった時は、彼自身もまだまだ経験不足のところもあったんですが、今回については相当用意周到。スタートダッシュで2025年、2026年の2年間ぐらいに、一気に彼の掲げる強国化政策がされると思います。
その光と影。アメリカは総じて光の部分が多いんですけれども、中国をはじめアメリカ以外の国では、かなり影の部分が出てくるリスクがあるんじゃないかなと思います。
そうした中で日本は石破少数与党の中で、本当にそれに耐えていけるのかが、2025年を通じて鍵になってくるんじゃないかなと思います。
参議院選挙もありますから、ここで負けると本当に政権交代ということで、そういったリスクも横目に見ながらの年になっていくのではないかなと思います。
国内の最大の山場は「7月の参議院選挙」
ナレーター:そんな7月の参院選の結果次第で、経済へ大きな影響があるようです。
三宅:7月の参議院選挙が、国内においてはやはり最大の山場になってくるんじゃないかなと思います。今、少数与党の自公と国民民主党が政策協議を行っています。
ナレーター:このあと3月までは予算成立に向けて進みますが、現在のまま内閣支持率が低いと「7月の参議院選挙に負けてしまうのでは?」という懸念があります。
三宅:自民党の中からも「これじゃ勝てないよ、戦えないよ」ということで遠心力が働く可能性もありますし、部分連合の国民民主党からも「泥船には乗りたくない」ということで離れていく可能性があります。3月末に2025年度の予算が通ったあと、7月の参議院選挙の間は政局に発展する可能性、国内政治が不安定になる可能性があり得るのではないかなと思いますね。
藤野:ある自民党の有力議員さんは10年ぐらいSPがついてたんですね。お風呂に行く時もついてくるんですよ。
赤池:SPの人も大変ですね(笑)。
藤野:大変なんですよ。だからゴルフに行ってお風呂に入る時は拳銃をタオルに包んで頭に置いて入るんですね。
赤池:すぐ出せないですね(笑)。
藤野:まあでも、ピュっと出すんじゃないですか。久しぶりに今回SPが外れる生活になったわけで、今まで何したかったかっていうと、映画に行きたかったんですって。でも真っ暗な中に不特定多数の人がいるから、SPさんをいっぱいはりつけなきゃいけない。
周りにも迷惑だから、10年間映画に行けなかったんですって。だから「じゃあ一緒に映画に行きましょうよ」とか言って、来月末ぐらいに彼と映画に行く予定で(笑)。「のんびりできますね。どのくらいの時期ですか?」って話をしたら「うーん、3月末ぐらいかな」と。
「3月末になったらいろいろあるんですか」みたいな話をしたら「いや、それは言えないけどね」とか言って「言ってるじゃん!」みたいな感じだったんだけど(笑)。
(一同笑)
トランプ政権の激動の4年間は、ある種チャンスでもある
藤野:まあでも、そういう雰囲気なんですよね。だからここに話されてたとおり、予算案の成立までは石破内閣でなんとかやりましょうということで、予算委員会のポストも立憲民主党に渡したというところ。
あれはある面で見ると「予算通すよ、それまでがんばろうよ」みたいなところなので、だから政局というか、そのあとの参議院選に関わるいろんなことは3月以降に起きてくるだろうなと。
三宅:今回参議院で自民党が議席をもっと落としてしまうと、本当に政権交代みたいな話になってきますので。立憲の言ってるような経済政策を本当にやった場合に、日本の経済や株式市場は本当に大丈夫なのかというのが、夏場ぐらいに1つの焦点になってくるかもしれないです。
藤野:イノベーションも含めて世の中を前に進ませるぞっていうのはすごく大事なんだけど、そこが停滞してしまうと非常に良くないなと思うんですね。逆にアメリカはいろいろあるけれども、イーロン・マスクがアドバイザーになって、やはり「イノベーションを起こしてやるぞ」ということで、仮想通貨とか宇宙とかAIとか「ガンガンいくぜ」となっている。
なので、日本とアメリカのそういう面の差が出てくるのかなっていうのは、ちょっと嫌なところでもあるんですよね。
三宅:そうですね。本当にその面では、アメリカについてはより産業競争力が強化されて再編も起こるでしょうし、競争力が強くなるということで、本当に激動の4年間になる可能性がありますよね。
藤野:そうなんですよ。だから起きたことに対して僕らはどうするかっていうところがあるので、こういう面で見ると何かやりたいことがある人とか、むしろ強引に何かを進めたい人にとってはチャンスなんだと思うんですよね。
今後4年間でトランプ政権が与える経済への影響
ナレーター:それでは、今後4年間でトランプ政権が与える経済への影響とは?
三宅:今回トランプさんが挙げている政策は、法人税の大幅減税ですとか、先ほども見ていただきましたように、あらゆるところで規制緩和をしようとか。エネルギーもどんどん掘れということで、過去4年間のバイデン政権の下では環境規制を強化していたのが、まさに180度違うような陣容も揃えてやろうというかたちです。
関税も一律10パーセント。中国に対しては60パーセントとか、かなり厳しい関税をかけるぞと、過去になかったようなことをやろうとしています。
対中強硬については国務長官・ルビオさんとか、安保担当の大統領補佐官・ウォルツさんとか、かなり厳しい方々を布陣として揃えてくるので、本当に大変なことが起こるんじゃないかなと思いますね。
藤野:とにかく、おもしろ人事というか(笑)。
赤池:本当に強硬人事というふうに見えるんですけれども。
藤野:非常に型破りな人たちが出てきたと思いますね。前回のトランプさんの場合、それから半年間ぐらいで相当ケンカして辞めたみたいなところがあります。今回はどうかわからないですね。
というのは、そもそもトランプ支持派の人たちだから。前は共和党の有力者を採用したんだけど、今回はトランプ支持派なので、前回ほどガンガン変わらないかもしれない。けれどトランプさんはああいう人なので、対立とかいろいろあると思います。半年後ぐらいにこの人たちが全員残っている可能性はほぼないと思います。
それも含めて何も起きない日本と、ガチャガチャと対立も起こしながらいろいろものが進んでいくアメリカという面で見れば、やはりアメリカのおもしろさは出てくるのかなと思いますね。
日本経済が抱える問題点を読み解くには「BPS」と「ROE」の数値が肝
三宅:ダイナミズムとかイノベーションという面だと、今後4年間は、やはりアメリカで起こっていく可能性が高いんじゃないかなと思いますね。
藤野:そうですね、きっと新スターが出てくると思います。これまでの4年間で言うと、NVIDIA※のようなAIの救世主が出てきてマーケットを引っ張っていったところがあると思いますが、きっと第2・第3のNVIDIAみたいな会社が出てくるのは間違いないですよね。
※個別銘柄を推奨するものではありません。それを発掘できるかが、運用者としては試されていると思います。だから思わぬところからベンチャー企業であったり、新しいビッグ・テックのような会社が出てくる可能性があると思いますね。
ナレーター:アメリカが経済的に強くなると予想される一方で、日本経済が抱える問題点とは。それを読み解くにはBPS、ROEという2つの数値が重要となります。

BPSは株式会社の資産から負債を差し引いた純資産を、発行済み株式数で割った「1株あたりの純資産」を表します。ROEは企業が株主から集めたお金をどれだけ有効に活用して利益を上げているかを示す、自己資本利益率の数値です。
三宅:日本の場合、BPSがどんどん膨らんでいるんですね。これは財務の安定性という面では悪くないんですけれども、アメリカの企業とかヨーロッパの企業はどんどん自社株買いをやってBPSが増えるのを抑えて、ROEを高水準に保っているところがあります。
ある面、日本の経営者のマインドがちゃんと変わって、もうちょっとBPSを抑えるんだと。ROE、収益力を数値的にも良くしようと思えば、できるだけの潜在力はあるんじゃないかなと思うんです。
これをちゃんと自社株買いとかでやっていけば、2025年、マクロではちょっと政治は不安だけれども、日本株って本当に魅力があるんじゃないかなと思うんですね。
藤野:このBPSの爆発によって、会社が太っていて従業員とか投資家に還元されてないってことなんですよね。
アメリカはBPSがフラットになってるというのは、結局そのぶんだけ会社に収益を溜め込まないで、それを投資家、もしくは従業員に還元してるってことなんです。だからBPSが上がってることに対しては、もっと僕らが怒らないといけない。
三宅:そうですね、藤野さんがもっと企業にプレッシャーをかけないとですよね(笑)。
藤野:そうなんですよ。
103万円の壁撤廃で、若者向けアパレルや外食産業の株が上がる?
ナレーター:従業員への還元ということで、今話題の「103万円の壁」について、2人の意見を聞いていきます。
藤野:そもそも不平等なので、この103万円の壁はいろんな意味でとっぱらったほうがいいと思うんですよ。103万円というところで仕事を制御している人たちがいると。
今、人手不足になっているんですが、103万円の壁のおかげで何が起きているかというと、年末になると人が集まらない。それによってマネージャーが自分で現場で働いたり、棚卸しをしているようなことがある。
本当は年末も働いてもらえたら売上も上がるし、全体の賃金も上がるんだけれども、103万円の壁というところで結果的に年末の稼ぎ時に従業員が出てこないみたいなことは、実務的に起きてるんですよね。これは撤廃するべきだと思うんです。
撤廃すると何が良いかというと、すごく所得を持っている人ではなくて、中堅から比較的がんばってる所得層の人たちの手取りが増えていくと、そのぶんの消費が増えていく可能性が高い。なので結果的に消費の会社の株が上がることも起きると思うんですよね。
だから2025年の大きなテーマというのは、若者向けアパレルとか外食とかが上がる可能性があるということで、ここは期待したいところなんじゃないかなと思いますね。
三宅:今回そういう面では、国民民主党の玉木代表の衆議院選挙からの投げかけは、けっこう日本の政治とか経済を考える上でも大きなインパクトがあったということですよね。
今、各メディアの政党支持率を見ますと、国民民主党は選挙の前に1~2パーセントだったのが、今はもう11、12パーセントとか、10パーセントを超えるようなかたちで、立憲民主党とほぼ並ぶぐらいまで上がってますよね。
藤野:次の参議院選に国民民主を中心に伸びる可能性はあるということなので、日本の政治シーンが変わる可能性が出てきたのかなと思いますね。