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Amazon CEO Jeff Bezos(全5記事)

ジェフ・ベゾス氏「本は高すぎ。値段を下げれば書き手は儲かる」 アマゾンがKindleを作った理由

アメリカの経済誌「Business Insider」の編集長Henry Blodget(ヘンリー・ブロジェット)氏が、AmazonのJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏に年次のカンファレンスにてインタビューを行います。ジェフ氏と旧知の仲であるヘンリー氏だからこその突っ込んだインタビューは必見です。

キンドルを開発した理由

ヘンリー・ブロジェット氏(以下、ヘンリー):アシェット社の話をしましょう。アシェット社が許可したアマゾンでの本の販売価格について、最近彼らと公的にかなり激しい論争を繰り広げましたね。まず最初に、アマゾンに向けられた敵意に対してどう思いましたか?

ジェフ・ベゾス氏(以下、ジェフ):そうですね……この出来事と、これまでの会社の歴史に対しての私の意見として、今までアマゾンは出版業界やメディアから非常に好意的に扱われて来たのだと思っています。少なくとも顧客からはそうでした。それに対して不満はありません。

アマゾンはこれまで、平均よりもかなり上に扱ってもらい、私はそのことにとても感謝しています。小売店が製造者と交渉し、時に戦わなくてはいけないのは今に始まったことではありません。表立って争うのは時たま起こることで、大半はそんなことにならないだけです。

顧客のために製造者と厳しい交渉をするのは、小売店の仕事の基本です。アマゾンはそれをやっているだけのことです。

ヘンリー:交渉がなかったとして、またあなたが自分の思い通りの条件で指図できるとして、書き手の未来はどうなるのでしょうか?

ジェフ:出版業界にいる現職の人たちにこう考えるようにいつも促しているのですが、本というメディアを考えた時に最も重要なことは、大きな枠組みで物事をとらえなければいけないということです。

本の競争相手は本に限りません。本はブログやニュース記事やビデオゲームやテレビや映画と競合しているのです。本は読み手にとって大きな存在です。本を読むのには多くの時間がかかりますからね。それなりの集中も求められます。本という分野だけに視野を狭めて他の本との競争のことだけを考えていたら、経営判断で大きな間違いをおかすことになるでしょう。

少量読書と大量読書を分けて考えなければいけませんが、長い時間をかけて大量に読書するという健全な文化を守りたいのであれば、本をもっと手に入りやすくすべきです。そのやり方のひとつは、本の値段を下げることです。私が思うに、本の値段は高すぎます。1冊30ドルというのはあまりにも高すぎです。

他の30ドルの本とだけ競争しているのであれば、私の言っている意味がわからないでしょう。でもキャンディクラッシュやその他の娯楽に勝とうと思ったら、「ううむ、大量読書における問題をなんとか軽減しなくては」と思うはずです。それがキンドルの生まれた理由なのです。

人間はさまざまな道具を作り、それを改善してきましたし、それらは私たちの生活を変えてきました。インターネット時代において、ほぼすべてのツールは、短い文章の読み物に対する問題を軽減してきました。スマートフォンに3段落だけの記事を提供するには、インターネットは最適です。キンドルは長い本全てを読む場合の負荷を減らそうとしており、それは成功しています。

どんな本でも60秒で手に入る世界を目指す

ジェフ:キンドルが目指しているのは、どんな本でも、どんな発行者でも、どんな言語でも、60秒で手に入れられるようにすることです。数十年かかる目標ですが、私たちは過去10年間これに携って来ました。そして、大きな進歩を遂げてきたのです。

私たちは本をより手に入れやすく、よりお手頃に、より使いやすくしていっています。とてもやりがいのある目標です。キンドルのチームはよくがんばってくれており、素晴らしい成果を上げています。読める本がどんどん増えています。

何かをもっとやりたいのであれば、それにかかる負荷や問題を減らすことです。何かをやりたくないのであれば、負荷や軋轢を増やせば良いのです。お気に入りのスナックがあって、そのせいで太ってしまうのなら、戸棚のいちばん上の段に仕舞うことです。取り出しにくくしてしまえば、食べる機会も減りますからね。キッチンカウンターの上に置いておいてはいけません。

ヘンリー:素晴らしいですね、ただ、あなたが静かに潰しつつある大手の裕福な出版社からの援助が得られないために、本を書きたくても仕事を辞められない書き手のことを考えなければの話ですが……。

ジェフ:いいえ、その事実は間違っています。出版社は比べものにならないくらい利益を得ていますし、出版業界はこれまでになかったほど好況です。それはなぜかといえば、電子書籍のおかげなのです。

キンドルチームはその重要な功績をたたえられてしかるべきです。電子書籍の黎明期から取り組み、他よりも抜きん出ています。他のデジタルメディアと違って、電子書籍には海賊版がほとんどありません。アーカイブ機能やペイント機能なども発明しました。これは書き手にとっても出版社にとっても良い話なのです。

今うまい汁を吸っている現職の人たちに、変化を受け入れろというのは難しい話です。なかなかできることではありません。過去を美化するのはとても簡単ですが、それはたいていの場合間違っています。

思い出を美化するのは簡単ですよ。私たちは皆、かつては物事がどれほど素晴らしかったか、偽の記憶を持っていますから。確かに、ペニシリンが発明される前の時代は良かった。例外はあるかもしれませんね。

(会場笑)

でもたいていの場合物事は改善されてきましたし、私たちは物事がより良い方向へと進み続けるよう願いつつ、この世界に生きているのです。

読書をよりお手頃な価格にすることで、書き手が損をすることにはなりません。読書にかかる値段を下げることで、書き手はより多く稼げるようになるのです。

ベゾス氏にとっての「選択と集中」とは

ヘンリー:残り時間も少なくなって来ました。市場競争の話をしましょう。あなたやその他の人々からよく聞く言葉があります……「集中せよ」。何かひとつに秀でている場合、そのひとつのことに集中し続けるのはとても難しいですよね。その点でアップル社は素晴らしい仕事をしています。

あなたがやっている事業をもう一度おさらいしてみましょう。世界をほぼ独占しつつある巨大企業として、通信販売、また第三者を介した販売を行っていますね。クラウドサービス、AWSがあります。ハードウェアビジネス。アマゾンエコーやキンドル、アマゾンフォンなど。生活用品の配達。公共料金の支払い。テレビ番組。テレビ番組をやり始めましたよね! 広告も! ジェフ、一体どうやって、これらをすべて運営しているんですか?

ジェフ:ヘンリー、君の質問、疲れるんだけど……。

ヘンリー:どうやって、これらを全部管理していくんですか? 絶好調と言えないまでも、「そこそこOK」にできますか?

ジェフ:「集中する」という言葉の持つ意味を間違えています。私が集中しているのは、アマゾンを他にはない企業にすることです。それは、純粋な顧客第一主義であることです。今あなたが言ったようなことはすべて、お客様のための事業なのです。シニアエグゼクティブの集まる会議で、管理職が新しい企画を吟味する時に注目するのは、それが顧客のためになるかどうかという点です。

アマゾン社に多くの才能が集まるワケ

ジェフ:次に私たちが集中しているのは、新しい発明です。新しい提案に出会いたいといつも思っています。私や他の管理職を驚かせてくれるようなアイデアをいつも歓迎しています。周りに壁を張り巡らさないようにしています。

ただ、私たちは提案をそのまま受け入れるのではなく、アマゾンならではのひねりを入れたいと思っています。顧客のために、何か新しいことをしたい。それがパイオニア精神です。新しく発明できることは何か。それがなぜ顧客のためになるのか。既存のさまざまなサービスと比べてどこが優れているのか。長期的な視野で企画されているか。

私はそういった面に集中しています。そのかたわら、事業運営の効率化や弱点の克服といった部分にも集中しています。それらはアマゾンの文化であり、習慣であり、私が集中してきたことなのです。

他の管理職もそういった事柄に集中しています。彼らはアマゾンで長く働いて来ており、私は彼らと一緒に働けて本当にラッキーだと思っています。言うなればお給料を出しているボランティアみたいなものです。彼らにとても感謝しています。

シニア管理職チームにいる人々はアマゾンで10年以上働いてきた人たちです。持株を売り払って、ビーチでピナコラーダを飲んで残りの人生を過ごすこともできるのです。それなのに彼らはアマゾンで働くことを選んでくれている。そのほうが楽しいからと。それは私たちが新しい何かを作り出しているからです。私はそんな彼らをとてもありがたく思っています。

アマゾンには多くの才能あふれる人々が集まっており、皆に共通しているのは問題に対するアプローチのしかたです。

ビジネスの核心は「顧客ニーズ」にある

ジェフ:スタートしたばかりの小さなベンチャー企業に私がアドバイスするとしたら、絶対にこう言います。とにかく「今」に集中しなさいと。設立当初のアマゾンのビジネスプランでは、本以外の事業をする気は少しもありませんでした。それは私の視界にはまったく入っていなかったのです。オンライン書店を作りたい。私が考えていたのはそれだけでした。

思っていたよりも事業がうまく行き、本以外に音楽も扱うようになりました。これも期待以上に成功したので、ビデオもスタートさせました。相当昔の話ですからよく覚えていませんが、VHSの時代ですね。これもうまく行ったので、顧客にメールを送って尋ねました。

ランダムに1000人の顧客を選び、こう尋ねました。「今あなたが利用している本、音楽、ビデオ以外で、どんなものが欲しいですか?」返って来た答えはものすごく長いリストになりました。思いつく限りありとあらゆる答えがありました。

「車のフロントガラスワイパーを売るべきだと思う」というのもありました。「フロントワイパー? それは事業プランになかったな。でもおもしろいアイデアだ」と思いましたよ。フロントワイパーを小売店で買うと、たぶんぼったくられているんだと思います。

(会場笑)

このように、アマゾンの事業は一歩一歩進んで来たのです。片一方の足がもう片方の足を動かしていくようなイメージですね。そして時として、新しい領域を拡大してきました。双方向の拡大です。

ひとつは、顧客ニーズから出発したやり方です。顧客のニーズを満たすために、私たちが新たなスキルを獲得してきた場合。そしてもうひとつは、私たちの持っている既存スキルを活かして、顧客のニーズを掘り起こしてきた場合です。

キンドルは、顧客ニーズ発端の例です。当初私たちはハードウェア部門を持っていませんでした。設立から今年で10年目になります。10年前はハードウェアについて知っている人が誰もいなかったので、リーダーとなる人を雇ってハードウェアのチームを立ち上げてもらい、社内でコンペをやってもらうなどしました。これは顧客ニーズからスタートした試みでした。

既存スキル発端の例としては、アマゾンウェブサービスが挙げられます。私たちにはAWSを始められるだけのスキルがありました。アマゾンはおそらく世界中のどんなコンピューターシステム会社よりも優れた専門スキルを持っていると思います。

なぜなら、アマゾンは商取引システムを持っているからです。商取引システムは設計が非常に複雑です。アマゾンのシステムはサービスに特化した構造をしており、おそらくどこよりも複雑なシステムだと思います。

これまでずっとそうやってシステム開発に携って来たので、システムの将来もある程度見通せるようになりました。AWSは単独で大きなビジネスとなりました。

ドローンの実用化はいつから!?

ジェフ:ビジネスというのは、状況に大きく左右されます。経験則は大事ですが、状況に即して適用されなくてはなりません。「ニーズに沿った仕事をしろ」という格言は正しい場合もありますが、今あるニーズにばかりこだわる姿勢は時として間違っている場合もあります。シニア管理職としての仕事は、今会社がどちらの状況にあるかを見定めることです。

ヘンリー:ドローン(無人航空機)についてお聞きします。去年、60秒の素晴らしいCMが流れましたね。ドローンがアマゾンの倉庫から飛び立って家まで荷物を配達してくれる未来のサービスです。アメリカ中の人間が喜んでこう言いました。「すごいな!! で、いつから?」

ジェフ:はい。

ヘンリー:いつです!?

ジェフ:そうですね……(ため息をつく)、難しい質問だな(笑)。技術的には、そう長くはありません。問題は規制管理です。ついこの間、開発チームと会って、10代目か11代目のドローンがケージの中で飛び回っているのを見たばかりです。

物理的にもプロペラや機器フレームや電子モーターなど、非常に注目に値するプロジェクトです。最もおもしろい点は、自動操縦で機械がすべての仕事をやってしまうというところです。

ただ、時間がかかりそうなのは、法規制に関する点です。これは予想がつきません。エンジニアと弁護士の割合で見るなら、おそらくドローンのチームがアマゾン中で最も多くの弁護士を抱えているでしょうね。

ヘンリー:もしかすると、他の国々で先にドローンによる配達が始まって、アメリカだけが取り残されるという可能性も?

ジェフ:悲しいことですが、アメリカ市場が後回しになる可能性がないとは言えませんね。他の国でスタートする可能性のほうがかなり高いです。わかりません。もしかしたら私も間違っているかもしれない。懐疑的過ぎるかもしれません。私の予想が間違っているといいのですが。

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