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AI時代の学び:なぜ私たちが学び続けるのか(全3記事)

戦前〜戦後で「昨日まで教えたことは全部間違い」と言われた世代 「勉強を一番させてもらえなかった時代」を生きた若宮正子氏の、生涯を通した学び方

AIとテクノロジーが発達する中で、なぜ私たちが学び続ける必要があるのか。本イベントでは、ICTエバンジェリストの若宮正子氏、グロービス ファカルティ本部 テクノベートFG ナレッジリーダー/グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)研究員の八尾麻理氏、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授の横山広美氏がゲストとして登壇。本記事では、89歳のプログラマー若宮正子氏が、生涯にわたって学び続けるヒントを語ります。

89歳のプログラマー、若宮正子氏が登壇

岡田友和氏(以下、岡田):多くの国際的なゲストの方にお越しいただいている中、こちらは「ジャパンステージ」で、日本語でみなさんにいろんなテーマについてお話しいただきます。

このセッションは、「AI時代の学び なぜ私たちが学び続けるのか」をテーマに置いています。これからご紹介しますが、かなり抽象度の高いテーマになっています。「学びとは何か」を好き勝手にお話しいただこうかなと思います。

かなりいろいろなバックグラウンドを持った方々にお集まりいただいています。ぜひみなさん、いろいろ思考を巡らせて(いただいて)、少しでも持って帰るものがあるようなセッションにしていければと思いますので、よろしくお願いします。ではさっそく、自己紹介からスタートします。まず若宮さん、お願いします。

若宮正子氏(以下、若宮):みなさん、おはようございます。若宮正子と申します。「まぁちゃん」と呼ぶ人もいますが、どちらでもけっこうです。

生まれたのが1935年の4月ですので、今は89歳です。それが何を意味しているかというと、戦前・戦中・戦後、アメリカに占領された時代、高度経済成長時代など、激動の時代を生きてきたということです。

(私は)勉強を一番させてもらえなかった時代を生きてきました。また、今で言うとパラダイムシフトで、「昨日まで教えたことは全部間違いです」と言われ、頭の切り替えを強要された世代です。

学校などはあまり好きではなかったのですが、「おもしろがり」ですので、未だにいろいろ勉強しています。以上です。

(会場拍手)

岡田:ありがとうございます。初っ端から、だいぶパンチのある自己紹介だったと思います(笑)。まさに若宮さんの視点から、これからどういう学びがあるべきなのかも、お話ししていただければと思います。

東京大学教授の横山広美氏

岡田:続きまして、横山さん、お願いします。

横山広美氏(以下、横山):みなさん、おはようございます。東京大学の横山と申します。私は大学で、学生さんと一緒に日々学びを深めています。私自身も、まだまだいろんなことを勉強させていただきながら、研究論文を書いている状況です。

私自身はもともと、この宇宙がどんなふうにできたのか、すごく興味を持っていて、大学院の博士課程まで物理学を勉強していました。当時から、今日のテーマのような「人間は、科学あるいは科学技術とどうやって付き合っていけばいいのか」に、すごく関心がありました。そして博士課程が終わったあと、人文社会科学に変更し、違うテーマで研究を続けている研究者です。

理系から文系の世界に来て、最近はドイツやフィンランド、アメリカの研究者といろんなかたちでコラボレーションして、学びを深めているところです。研究を知れば知るほど、さらに広い、知らない世界があることに気づかされる日々で、楽しく仕事しています。自分より年上の学生さんと一緒に研究する機会もあります。

このような生活をしていますが、今日はとても楽しみにしてきました。どうぞみなさん、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

グロービスで働きながら、順天堂大学医学部で学ぶ八尾麻理氏

岡田:ありがとうございます。さっそく戦後すべてが切り替わった若宮さんと、「宇宙はどう出来上がっているのか」から始まった横山さん、振り幅が大きいですね。続きまして、八尾さん、お願いします。

八尾麻理氏(以下、八尾):みなさま、おはようございます。グロービス経営大学院を運営している、株式会社グロービスから参りました、八尾麻里と申します。私どもグロービスでは、2016年から、テクノロジーとイノベーションを掛け合わせた「テクノベート」を、いち早く経営大学院として設立しました。

こちらで、「デジタル時代にどのように企業変革していかなければならないのか。それによって、社会はどのように変わっていくのか」をいち早く発信してきました。私はその分野で、ナレッジリーダーとして社内外のメディアに発信してきました。また、特別科目の開発で設計などを行ってきました。

個人としては、子どもを3人育てています。その中で、母がステージ4のすい臓がんに罹患し、闘病から看取るところまで経験しています。

そういったところで、女性の健康問題や、高齢化社会に直面した時に、どのように健康問題を解決していかなければならないのかに関心を持ち、私自身も現在、順天堂大学医学部医学研究科で学んでいます。人生100年時代の、みなさんの健康情報のアップデートに努めたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

「大人になっても学び続けている人」はどんな人か?

岡田:グロービスで働きながら、最近医学部に入り直した八尾さんです。よろしくお願いします。最後になりますが、私はHeadline Japanというベンチャーキャピタルに属しながら、スタートアップのカンファレンス「IVS」を運営しています、岡田と申します。

本来、日本ディープラーニング協会の岡田隆太朗さんがモデレーターをするはずだったのですが、急遽ご家庭の事情で参加できなくなりました。「岡田の代打を岡田がやってくれ」ということで、この役を引き受けさせていただきました。あらためて、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

学びのバックグラウンドが、かなりあるみなさんがお話をするわけですが。まず、お聞きいただいているみなさんの中で、「私は今でも学び続けているよ」という方、ぜひ挙げてください。

(会場挙手)

ありがとうございます。「大人になってくると、学んでいる人と学んでいない人がいるんだろうな」と思っています。「この違いはどこにあるんだろうか」といったところから、深掘りしていければと思います。

お三方の周りにいる、「大人になっても学び続けている人」について、ぜひお聞きしたいと思います。若宮さんは「御年89歳」ということで、周りで学び続けている人はどんな人なのか、お話しいただけますか?

若宮:はい。私の周りは、いくつになっても学び続けている方が多いです。私は、一般社団法人「メロウ倶楽部」という、インターネット上でやっている老人クラブの理事といいますか、世話役の1人なんです。

(メロウ倶楽部では)80代の男性が一番多いのですが、90代の人も学んでいます。グループで、しかもインターネット上でやっているので、車椅子から降りられなくなっても、寝たきりになっても、何らかのかたちでインターネットに接続できれば学べます。だから、学び続けていらっしゃる方が多いのですね。

拝見していると、そこで学んでいる方は、少しずつでも成長していらっしゃいます。私だけではなくて、同じ「メロウ倶楽部」の仲間はみんな勉強しています。ですので、グループの中で勉強するのは、たった1人で勉強するよりもいいんじゃないかなと思います。

70代は「若手」

岡田:なるほど。ありがとうございます。ちなみに、この「メロウ倶楽部」は、文芸の部屋や植物好きの部屋など、興味関心領域に分かれて活動されているのですか?

若宮:はい。「生と老」の部屋がありますね。人間は年を取ると、体が弱って病気になって、そのうちあちらの世界に行くわけです。そのような話は、家庭で夕食の時にするような話題でもないし、お友だちとコーヒーショップでする話でもありませんので、意外とする場がないんですね。

今はチャットで打ち込む時代です。口でしゃべらなくてもいいので、ここでは自分の心配や本音も書けて、知ってもらえるということで、とても続いています。一般社団法人になったのは2022年ですが、1999年の設立から20年以上やっています。

岡田:ありがとうございます。スライドの年齢別の分布図を見ると、90代まで「メロウ倶楽部」に所属している方がいらっしゃいます。みなさん、この年代の分布図を見ることはあまりないと思います(笑)。グラフは59歳未満から始まっていますので、高齢になっても学び続けている方がいるのが見て取れます。

若宮:そうなんです。男性は80代が多くて、(次に)70代です。私が『家庭画報』などに出た時に、紹介欄に「メロウ倶楽部」と書かれていたので、70代の若手の女性が増えてきました。我々の世界では、70代は「若手」と言っているんです(笑)。

岡田:(笑)。ありがとうございます。(会場にいらっしゃるみなさんも)「若手」として、ぜひお話をお聞きいただければと思います。

心身の健康とパッションが、学びの原動力になる

岡田:横山さんも、1回理系の道を進んで、今あらためて、AIや「社会をどうつなげるか」といった勉強を、ご自身でされています。大人になっても学び続けている方の特徴など、気づくことはありますか?

横山:私自身、「これはなぜこうなっているのだろう?」という好奇心から勉強を始めることが多いです。若い学生さんでもシニアの学生さんでも、好奇心が一番の原動力になっているなと、つくづく思います。

好奇心の強い学生さんであればあるほど、手元にある、ありとあらゆる資料を調べています。論文を含めて、ネット上にある世界中の文献にアクセスして、自分の謎を解くために探求を続けています。そういうことをしている元気な学生さんに囲まれて、私は本当に幸せだなと思います。

いずれにしても、その大元にあるのはパッションですよね。溢れ出るような情熱を持っている人ほど、好奇心をうまく広げて、いろんな方とつながりながら学びを深めているなと感じます。何はともあれ、心身の健康とパッションが、学びの原動力になると見ています。

AI時代に求められる人間の知能

岡田:ありがとうございます。同じ質問ですが、八尾さんはいかがですか?

八尾:今週、「ChatGPT-4o」が出ましたね。みなさん、もう使ってみられたでしょうか? 「Gemini」もすぐに発表があり、私もその滑らかさに本当に驚いて、ずっと会話していられるくらいでした。

みなさんの手のひらには、AIアシスタントがいるような状況なんですね。どの業界や部門でも、定型業務にAIが入ってくる時代が到来したと思っています。こういった時に、「人間ならでは」の価値の高め方、「付加価値はどこでつけていけばいいのか」に迷うことがあると思います。

私どもの経営大学院は、毎年1,000名の方がいらっしゃいます。この方々によくお伝えしているのは、人間の知能は3つの特徴で捉えられるということです。これは、アメリカの心理学者(ロバート・)スタンバーグが、「分析知能」「創造知能」「実践知能」の3つだと言っているのですね。AIは、「分析知能」のところでものすごく強力な武器になっています。そうなってくると、みなさんがこれから鍛えなければならないのは、「創造知能」と「実践知能」です。

経営大学院で学ばれる方は、非常に高度な分析をする中で、「あなたはパッションを持っているのに、リスクが90パーセントだからこの事業をやらないのか」と突きつけられるのです。その時に、人間ならではのイマジネーションとクリエイティビティをいかに発揮して、そこで自分のパッションを伝えた相手と、仲間意識を持って実践できるか。ここに尽きると思うのですね。

それを磨いていくことを学ばれた方は、大学院を卒業しても、自身の関心事に沿って、ずっと学び続けられている気がします。

岡田:なるほど。ありがとうございます。

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