コロナ禍で打撃を受けたアットコスメ

田川欣哉氏(以下、田川):みなさん、こんにちは。

三浦崇宏氏(以下、三浦):こんにちは。よろしくお願いします。

田川:すごい。2階までぎっしり埋まっていてうれしいですね。今日は本当にすばらしいパネラーのみなさんをお迎えして、ブランディングとデザインや「×Generative Al」の話をしていきたいと思います。

さっそくですが、吉松さん。インバウンドも吹き返してきて、アットコスメのビジネスもぐっと伸び始めていて勢いを感じますが、いかがですか?

この1~2年ぐらい、アットコスメのビジネスモデルの話も「けっこうシリアスに社内で議論もされている」というお話もあったので、そのあたりからスタートしていただいてもいいですか?

吉松徹郎氏(以下、吉松):さっきの打ち合わせとぜんぜん違うところから振ってきました。

田川:すみませんね(笑)。

(会場笑)

吉松:(打ち合わせの時は)ぜんぜんその話ではなかったんですよ。あらためまして、アイスタイルの吉松といいます。アットコスメというビジネスモデルをやっていますが、この1~2年、コロナの時は大変厳しかったですね。

まず、化粧品という市場が日本ではバーっと閉じてしまい、何より店舗です。アットコスメというWebをやっていますが、実際には今、日本国内で店舗が27店舗。当時は海外で15店舗ぐらい広げながら、事業展開をリアルに振っていて、日本から海外に行っていました。

特に3~4年前は、銀座のデパートの1階はインバウンドの人たちでお客さま全体の7〜8割というビジネスだったんですが、(コロナ禍で訪日する外国人が)がらっと止まってしまいました。

投資家からは「早く店を閉めろ」の声

吉松:その状況で、まず最初に投資家から言われたのが「早く店を閉めろ」「なんでリアルをやってるんだ。この時代だからECだろ」ということ。しかし僕が選択したのは、海外をやめて、店舗を絶対にやめないことでした。

もともとGAPがあった、アジアで最大の600坪ぐらいある原宿の駅前の土地に、化粧品店舗を2020年の1月にオープンしましたが、その翌月からコロナでばーっと店が閉じてしまった。家賃だけで鼻血が止まらず、鼻血を止めても口から出血してしまうほどの状況でしたが、それでも店舗に集中する。

そんなことをやっていると、今度はChatGPTだ何だと出てくる。さっきもありましたが、「これからはテキストじゃなくて動画の話になる」。アットコスメはテキストの固まりのビジネスですから、それがダメになると。

ましてやAIが流行し始めた時に社内で議論していたのは、「そもそもクチコミは人が書いているのか? 機械が書き始めているのか? 僕たちのビジネスの根拠はどうなっていくんだ?」ということでした。実はいろんなところでグスグスしてきているのが、アイスタイルのビジネスの現状です。

ただ一方で、今、原宿で一番お客さんを集めているのはラフォーレではなくアットコスメです。化粧品の1店舗だけでリアルで売っていますし、ECも最大になってきています。

アットコスメというWebメディアだけで見るとテキストで、3年前は月間訪問者が1,300万人ぐらいまで落ちたんですが、今は1,800万人を超えて、圧倒的にWebメディアが伸びてきています。

そういった意味では、うまくやれば可能性が高まる時代になり、何よりポジションを取れば、今までよりうまくビジネスが回る時代になってきたのではないかなと思っています。

アットコスメとユニクロのビジネスモデルの違い

三浦:そもそも僕はコスメをあまり知らなかったんですよ。それが最近GOで、資生堂さんの商品のブランディングや、コーセーさんの雪肌精のリブランディングを担当させてもらうようになって、アットコスメもすごく勉強するようになりました。

僕は吉松さんのことは知っているけれど、アットコスメは知らないという珍しい人間だったんです。だからアットコスメがテキストクチコミメディアという印象がなくて、一番最初に知ったのは店舗です。「原宿の店舗がすごい」と、身の回りの若い女性からたくさん聞いていたので、店舗から知りました。

なのでそう考えると、アットコスメというビジネスモデルは、ユニクロがやっている製造小売を一本化する「SPA」というビジネスモデルに対して、「情報小売」というビジネスモデルなんじゃないかなと思っていて。ユーザーから集めてきたインターフェース上の情報を、全部仕入れに統合して販売していく。

上から垂直統合していくユニクロのSPAモデルに対して、ユーザーインターフェースから垂直統合していくビジネスモデルなんだなと思っていました。サイトから始まったと思うんですが、もはや店舗とバーチャルの境目をなくしてビジネスをやっていらっしゃるところがすごいなと見ていました。

吉松:正直、そこは僕もよくわからないです。ただ、アットコスメがスタートしたのは1999年で、iモードが始まった年です。その後にモバイルになって、スマホになって、アプリが出てきて、この間にLIPSも出てきて、みんなから「アットコスメは終わりだ」って散々言われました。

三浦:ははは(笑)。

吉松:やっていることは「人が集まる仕組みを作る」という1点だけなんです。オンライン、オフライン、AI関係なく、Web上でもリアルでもどうやったら人が集まってくるか。

時代に合わせて「人が集まってくる本質は何か」だけをひたすら追究しているというのが、もしかしたらさっき「アットコスメ、調子良さそうじゃないですか?」と言われたところかもしれないかなという気はしますね。

田川:めちゃくちゃおもしろいですよね。

ブランド作りにおける「時間的強度」とは

田川:最後に1問だけ質問して、その後三浦さんにお話をお願いしようと思っています。コロナも経て、AIが来て、テクノロジーもどんどん変わっているじゃないですか。

吉松さんがこの1~2年をご覧になっていて、テクノロジーのあり方やブランドの作り方って変わりましたか? それともあんまり変わっていないですか?

吉松:短期的に言ったら、そりゃガラッと変わったと思いますよ。具体的な話で言うと、アプリやWebサービスの作り方は全部変わりました。でも、僕はよく「時間的強度」と言うんですが、時間軸を長くしていくと、実はブランドの作り方という意味ではあまり変わっていない。

コロナ禍が明けて何が一番強いかというと、LVMHなんです。だってこれは、AIが出ようと何が出ようと変わらないじゃないですか。もっと言うと、AIが出てテクノロジーが進んで何が起きているかというと、エルメスが店頭に並ばなくなったんです。これは時間的強度の強いところが出てきているなと、僕の中では見ていますね。

田川:なるほどね。じゃあ、本質は変わらないんですね。

三浦:僕も聞いていいですか?

田川:はい、どうぞ。

三浦:「時間的強度」って、どうやって作るとお考えですか? めっちゃいい話だなと思って(聞いてみたいです)。

吉松:それはすごく難しいと思いますよ。例えばスタートアップなんかは、Webサービスの作り方においては時間的強度の発想がないところが多いと思います。

化粧品ブランドも、起業して10年後、20年後、30年後にどうするかというと、恐らく「ロレアルやLVMHへ売ったほうがいい」という発想が出ると思うのです。それでは時間的強度が弱いなと思いますね。

そういった意味では、短期的な資本の市場のかたちということではなく、あくまでユーザーサイドが市場を作っていくという感覚。もしかしたらイメージなのかもしれないですけれど、僕も言語化したいなと思って見ている感じですね。

田川:なるほど。ありがとうございます。

スタートアップだけでなく、大企業でも新たな取り組みが

田川:三浦さんはこの1~2年、いかがですか? たぶんGOも、いろんな意味でビジネスの仕方をかなり変えてきていますよね。

三浦:そうですね、ありがとうございます。僕はThe Breakthrough Company GOという、広告・マーケティング・事業開発の会社をやっているんですが、立ち上げて6年が経ちました。

一番最初は「スタートアップのための広告会社を作りたい」と思って始めたんですが、結果的に6年経った今、僕らは「変化と挑戦」とずっと言っています。

さっきも言ったとおり、コーセーさんや資生堂さんなど、大きい会社が新しく変わりたい時にサポートする。それまではスタートアップが新しいチャレンジをするのが中心だったのですが、スタートアップほどの速度ではないが、今は大きい会社からも「新しいことをやりたい、変わっていきたい」と相談されることが多いですね。

DXという言葉が独り走りしてますが、その1個手前にあるのが「バリュートランスフォーメーション」。要は、今の時代にそのブランドが提供する価値っていったい何だっけ? ということです。

あるグローバルの化粧品メーカーの話をしましょう。この10年間、その企業では「アート」の会社から「アート&サイエンス」の会社に変わっていて、研究開発費をめちゃめちゃ上げているんですよね。

研究開発費を上げつつ研究開発の価値をブランドに転嫁していきたいので、「単なる『アートのブランド』じゃなくて『サイエンスが裏付けされているブランド』ということを伝えていきたい」と頼まれたりとか。

DXの手前にある、バリューのトランスフォーメーション、あるいはビジネスのトランスフォーメーションに対して、どういう貢献をするかを問われることが増えてきたなという感じですかね。

ブランドの概念は「ルール」から「ツール」へ変化

田川:AIの文脈はいかがですか? 広告もそうだし、その手前にあるブランドの作り方もそうだけど、振り返ると平成的なスタイルもまだまだ強いわけじゃないですか。三浦さんが描いていらっしゃるテクノロジー活用やAI活用など、新しいブランドや価値の作り方の基準って何かありますか?

三浦:そうですね。AIとか、最近だとARだったり、表現手法がめちゃくちゃ増えたんですよね。それこそ僕は田川さんが本当に好きで、独立する前から勉強させてもらっていたんですが、Takramがやっていることって「ビジネス」と「テクノロジー」と「クリエイティブ」じゃないですか。それに近い部分もあるかなと思っていて。

「AIやARを使って何ができるんだっけ?」と考える時に、ブランドという概念が「ルール」から「ツール」に変わったなと、すごく強く思っています。

それまでの「ブランディング」「ブランド」というものは、“聖書”のような守るルールが1個あって、みんながそれを守る。

ただ、ブランドを作った人がポスターやグラフィックのデザイナーだった場合に、「それってARやメタバースにした時にどうなるんだっけ?」「AIによって、あらゆる人々がグラフィックをジェネレートできるようになった時にどうするんだっけ?」と。

そうなった時に、ブランドは守るものじゃなくて、それを概念として理解した上でどう発展・進化させていくのかという考え方に変わりました。

AIが広告コピーを書く時代

三浦:それぞれが守るべきルールから、それぞれが使いこなるべきツールに変わったと考えると、デザイナー、コピーライター、クリエイティブを使って経営しようと思っている人にとってわかりやすいんじゃないかなと、最近思っていますね。

田川:顧客とインタラクティブにやれるとか、長くやれるとか、よくありますよね。

三浦:まさにそうです。クリエイティブディレクターが「こういうルールだから守ってください」じゃなくて、「こういうツールを使って、みんなでAIを使ってブランドを進化させましょうよ」「『ブランド』というツールを使って、このビジネスがAR時代にどう変わっていくかを考えましょうよ」という感じになってきた気がしますね。

田川:なるほど。この前、別のG1(サミットの)のセッションで「コピーやシナリオをAIに書かせている」みたいな話をされていました(笑)。

三浦:はいはい。うちの会社でも、AIを使って広告コピーを書かせることもあるので。ただ、これはわかりにくいかもしれないですが、僕はクリエイティブディレクターという仕事をしています。

例えば吉松さんの会社から、「今度こういう新しい広告・マーケティングをやりたいんだけど、どうすればいいですか?」と言われた時に、「いったんCMにしましょう」とCMだけ提案することは、うちはないんです。

話題を呼んだ広告コピー「雪肌精に男性用はありません」

三浦:CMを考えるとなった時に、コピーライター、デザイナー、プランナーの人たちが、だいたい1人50案を僕のところに持ってくるんですよね。150案から200案ぐらい集まったものを組み合わせたり、ベストなものを作ったりするという、ある意味で順列組み合わせに近い部分があるんですよ。

その100案なり200案なりが、AIによってわーっと一気に増えたのが今の状況かなと思います。ただ、今の時点でAIとクリエイターはどっちが優れているかというと、まだまだやっぱり人間のほうが当たりがいいですね。

例えば、2022年にGOで作ったコーセーの雪肌精のコピーが「雪肌精に男性用はありません」なんですね。雪肌精は植物由来なので、性別や年齢を問わず使える。これは今のジェンダーレスの時代にめちゃめちゃ有効なコピーとして、すごく効いたんですよね。これって、たぶんAIからはまだ出ないんですよね。

「お肌がきれいになるよ」「透き通るような肌へ」「透明感をあなたに」という既存のものは出てくるんだけど、「ジェンダー」「今の社会の空気」みたいな変数が、まだAIの中には取り込まれていない。なので、優秀な人間のコピーライターのほうが、まだ(AIの)300倍くらい優秀な感じがします。

田川:ありがとうございます。後からまた詳しく聞いていこうと思います。