DX推進に向いているのはどんなタイプの人?

鬼頭久美子氏(以下、鬼頭)DX人材がどんな人材なのかはわかりましたが、いきなり現場社員全員を、一気にDX人材にするのは難しいと思います。どのあたりの人材から候補者にしていって、力を入れていけばいいのか。ここも越田さんにうかがってもいいですか?

越田良氏(以下、越田):そうですね。次は「どういう方をDX人材の候補として育成していくのか?」が、やはり気になるところだと思います。結論は「フェーズによって異なる」です。

(スライドを指しながら)左から右にDXの推進段階を3つに分けていますが、それぞれの状況によって求められる人材タイプは変わってくる。ただ、逆に言えば「どんなタイプの方でも、フェーズに合わせれば活躍の場がある」という捉え方もできると思うんですよね。

まず最初に始めてみようという、DXの「開始期」の段階から、「試行錯誤期」がある。そして「発展拡大期」で仕組み化ができて、社内の中で体制として備わって動いている状態になる。

人材のタイプを「主体的」「中間型」「協調的」と分けた時に、「人から指示されて動くよりは、自分で決めて動かしたい」「前例がないことほど燃える」という、主体的で自ら燃えるタイプの方(自燃性人材)。

どんどんフェーズが進んでいくにしたがって、そういった方(自燃性人材)に加えて、どちらかというと協調的で「何かをゼロから立ち上げるのは得意ではないんだけれども、仕組みをうまく回したり改善するのは得意だしやりたい」という方が活躍する。

「発展拡大期」になっていくと、今度は仕組みをうまく回して改善するほうが重要になりますので、求められる役割も変わっていきます。

スキル面よりも、社員の性格や価値観に着目する

越田:ここで強調したいのは、求められる人材像は「主体」「協調」とか、あくまでタイプですよね。おそらく「持っているスキルや実際の技術・知識のほうが大事なんじゃないの?」という疑問を持たれる方もいるかと思います。

ここでは、あえてこのように性格タイプを重視しています。なぜかと言うと、テクニカルな部分は変えやすいし、後から身に付けやすいんですが、「三つ子の魂百まで」と言うように、その方の性格部分や特性部分はなかなか変わらないんですね。

私も20数年仕事をやっている中で「自分の性格は変わらないな」と、いつも思いながらやっているわけなんですが、そこはもうベースなので変わらない。どちらかと言うと、変わらない部分で合う・合わないが出てくる。

先ほどの熱意の話ではないですが、その方の氷山モデルでいうところの下の部分、つまり性格特性や価値観・指向ですね。こういったふだんは見えづらい部分、そして変わりにくい部分に着目して抜てきやアサインをしている会社さんは、非常にうまく体制を作られているなと思います。

こういった見えづらい部分は、適性テストで把握することもできます。適性テストは選考で使うだけじゃなくて、「自分自身はどういうタイプなのかな?」と、自分を知るためにも使えます。チームで仲間同士で共有し合って、お互いの特徴を知るという使い方もできますので、最後のほうでご紹介できたらと思います。

いずれにしましても、求められる人物像は(フェーズによって)変わっていくということと、特にX(組織変革)スキルの発揮においては性格の部分がけっこう大事。これは、いろんな事例や企業のインタビューからも見えてきたことですね。

鬼頭:ありがとうございます。

絶対数が多い「現場の非IT職」を育成

鬼頭:サイボウズ社内だと「DX推進をやりますが、やりたい人はいますか?」って、けっこう聞いたりするんですよね。そうすると自燃性人材が自分で「はーい!」と手を挙げたりもします。

越田:そうですね。すぐに手を挙げちゃう人が自燃性人材です。

鬼頭:性格・適性テストとかを使うと、マスでも社内にどんな人材がどれぐらいいるのかをちゃんと把握することができそうですね。ありがとうございます。

そして自燃性人材のお話が出ましたので、ここでも事例をご紹介しますと、京セラさんからも自燃性の人材のお話は挙がっていましたね。(スライドにも)書いていますが、やはりビジョンを持っているかどうかが大事なんだと。

「自分で試行錯誤したい」と、目の前の業務をどんなふうに変えていきたいのかというビジョンを持っていて、自分で行動しようとする方が適任なんだというお話もありました。

ここまで、DX人材とはどんな人材で、どういう人から育成していくのがいいのかをお話ししてきました。越田さんから、ここまでをまとめていただいてもいいですか?

越田:簡単にまとめます。(スライドの)上から順番に、プロ人材を外から採るのは難しく、社内のIT人材を異動してくるのはなかなか現実的ではない。じゃあどうするかと言うと、絶対数が多い現場の非IT職の方々を、DX人材に抜てきしていくということが今までのお話でした。

非IT職の方でも、現場理解があって、赤い文字で書いているX(組織変革)スキルをお持ちの方も多い。じゃあ、このような方にどうやってD(デジタル)のスキルを身に付けていってもらうのかが、次の課題・テーマになると思います。

鬼頭:ありがとうございます。

インプットの負荷を低く、短期間で試行錯誤を繰り返す

鬼頭:「実はXスキルは現場が強いんだ」という心強いところが見えてきたところで、ツールやデジタルスキルにもお話を移していきたいと思います。越田さん、ツールを選ぶ上ではどんなところがポイントになってきますか?

越田:現場の非IT職のみなさまが、デジタルのスキルを身につけていく時には、(スライド下の)①、②、③の3つが大事です。

「インプットの負荷が低い」と「アウトプットがすぐ出せる」というのをまとめてご説明します。当然ながら、現場の方はふだんのお仕事があります。時間がない中でも身に付けられること、インプットの負荷が低いことがまずは大事ですね。

そして、アウトプットがすぐ出せる。開発を伴って、1ヶ月、2ヶ月経ってやっと出てくるのでは間に合わないというか、学べる回数も少ないです。なので、3番目の「トライ&エラーができる」。短期間で、いろんなものを試しながら試行錯誤ができる。

(スライド)上が階段状になっていますが、まったくできない状態から習得をしていく上では、やり方を教わるだけでは足りない。実際に手を動かして、頭を動かして、自分でやってみて、失敗もしていく。そうしないと自転車に乗れないのと一緒で、トライができることが大事。そのあたりが求められるDXツールの要件かなと思います。

鬼頭:ありがとうございます。この3つの要件といえば、kintoneですよね(笑)。実はkintoneって「現場の人材が主体となって業務改善をしていくこと」を一番大事なポイントに置いて設計されているんですね。なので、ここでkintoneもご紹介していきたいなと思います。

「DX人材育成の魔法の杖」こと、kintoneの活用術

鬼頭:基本はノーコードなので、「コードを書かずにアプリケーションを作れますよ」と書いています。これはどういうことかと言いますと、左側の画面の一番左にブロックが並んでいます。

「こんなシステムを作りたいな」「こんなアプリケーションを作りたいな」と思った時に、ドラッグ&ドロップをするだけで、理想となるツールをどんどん作っていくことができるのがkintoneの特徴なんです。

これなら、IT人材ではない方々にも抵抗感を低く(業務改善を)やっていただける。見た目もわかりやすいかなと思います。作れる業務アプリも多種多様なものがあるので、つまりkintoneは「DX人材育成の魔法の杖」と言ってもいいんじゃないかなと思うわけなんですよね。

先ほど「インプットが簡単で」と書いてありましたが、kintoneを学ぶのにかかる時間は本当に短くて済みます。そして、どんどんアウトプットを出していって、アプリも複数作ることができるので、トライ&エラーを繰り返してバージョンアップしていただくことができるんです。

加えて、kintoneにだけ詳しくなるのではなくて、データを扱うことになるのでデータ構造の基礎についても知っていくことができます。他のツールを学んでいく上でもベースになるという、そんなおいしいものになっているんですよね。

kintoneやノーコードツールを使っていただくことによって、デジタルスキルを習得する時間はぎゅっと短縮をする。

先ほども「実践あるのみ」というお話がありましたが、組織変革にどんどん取り組んでいってもらうことで、現場人材のみなさんもDX人材になっていっていただくことができるんじゃないかなと、事例企業のいろんなお話をうかがっていても感じました。

DXの第一歩は、目の前にある業務のデジタル化

鬼頭:そしてDXというと、「デジタルの力を使って新規の事業をどんどんやっていく」「高度なビジネスを生んでいく」というイメージをされがちですが、みなさんはどうでしょうか? 

実はその前に、まずはベースとして「目の前の業務をしっかりとデジタル化していく」という段階は外せないわけですよね。特にkintoneはこのフェーズがとても得意なツールなので、そういう意味でも「DX人材育成の魔法の杖」と言っていいのではないかと思います。

日清食品グループさんにおうかがいした時にも、今お話ししたみたいにDXの目的は1つじゃなかったんですよね。1つ目は「ビジネスモデル自体の変革」を目指していますと。だけどそれと同じぐらい、業務を効率化して、労働生産性を高めていくことを大事にされているということだったんです。

その中で日清食品さんは、kintoneをはじめとしたローコード・ノーコードツールを、2つ目の目的である「効率化」に使っていますよというお話もありました。

ということで、ツールはノーコードツールかつ、kintoneが現場主体のものとして作られているのでいいんじゃないかということをご紹介しました。じゃあ、実際に社内で推進をしていくにあたって、どんな体制で推進するのがいいのかもご紹介していきたいと思います。

組織体制によっては、DX人材が孤立してしまうケースも

鬼頭:ここは組織の話なので、私から解説をしたいと思います。3パターンの組織構造を示していますが、どれが正解ということではないです。各会社さまに合ったかたち、あるいはフェーズが変われば組織形態を変えていくこともあるんじゃないかなと思います。

(スライド)一番左の1つ目の「機能別組織」は、各部署と並列するかたちで、DXを推進する部署を別で作ることです。DX推進はこの部署が集中的にやってくれますから、どんどん前に進められるんですよね。ただ気をつけたいのは、現場の方との距離感や調整にちょっと労力がかかってしまうというところはありますね。

そして2番目が「事業部別組織」。すでにある各事業部や部門の中にDXのチームを作るやり方ですね。これだと現場のそれぞれの意見を反映しやすくて、部署の中でDX人材が育っていくことになります。

気をつけたいのは、部門ごとに部分最適に陥ってしまったり、横のつながりができづらくて、DXを推進する人材が孤立しちゃうケースもあるんですよね。

実は、今回事例企業として載っている企業のみなさんは、1番と2番のいいとこ取りをしたような「マトリックス型組織」で運営されている会社さんがほとんどでした。両方のメリットを得られると言ってもいいんじゃないかなと思います。

DXを全社的に推進する部署や支援部隊はちゃんとあるんですが、各部の中にもDXの担当者がいたり、プロジェクトを立ち上げたりするんですよね。そして両方がタッグを組んで進めていく。そんなやり方をされている企業さまが多かった印象ですね。

京セラが導入している、1年後に元の部署に戻るUターン制度

鬼頭:では、具体的に事例も見ていきたいと思います。まずは京セラさんですね。ちょっと見慣れない組織図が出てきましたが、一見、先ほどの1番(機能別組織)のような図ですね。各部署があるんですが、それとは別にDXを推進する部隊がいます。

でも、これはある意味マトリックス型組織に近くて、DX推進室でDX人材として育成されるメンバーを各部門から公募で募るんですね。「やりたい人いますか?」と、現場社員から集めてくるわけなんですが、集められたみなさんは1年間DX推進室に在籍をされます。

ポイントは、1年後に元いた部署に戻っていくことが前提ということなんです。なので現場の方からしても、1年経ったらバージョンアップして帰ってきてくれるわけですから、送り出しやすいです。

ただ、その1年間は育成の責任を全部DX推進室が担ってくれるので、責任もしっかりと分けた上で運営されている。Uターン式の図になっていますが、こんな特徴的な体制を取られていました。

先ほど「ビジョンが大事」というお話も出てきましたが、まさに京セラさんは公募の時に「どんな課題感を持っていて、どんなビジョンを描いているのか」をしっかりと対話しながら進めていらっしゃるというお話でした。

そして日本航空(JAL)さんは、まさに3番のマトリックス型組織のようなかたちですよね。JALさんがおっしゃっていたことで印象的だったのは、「主役は現場なんですよ」ということです。

DX推進を担われている部署の方にお話をうかがったんですが、営業部や現場の部署から「DXをやりたいよね。やらないといけないよね」という相談を受けるのが、DXを推進する部隊なんだということでした。

これはプロジェクト(PJ)と書いていますが、専任でDXの担当を置かれている部署もあれば、既存の業務と兼務で置かれている部署も、それぞれ現場ごとにやりやすい方法でやっている。かつ、DX推進室が全体としてきっちりとDスキルもXスキルも支援していく。そんな話をうかがうことができました。

DX人材育成における4つのポイント

鬼頭:ということで、いろいろお話ししてきましたが、今日のテーマの「DX人材育成」の押さえどころです。越田さん、まとめていただいてもいいですか。

越田:4点でまとめています。再三お伝えしているとおり、まずはXのスキルが必要です。そして我々を含めて非IT職のみなさんは、比較的Xのスキルを持っている方も多いです。なので、そういった現場社員の方がDXに従事することは、非常に効率的かつ効果的でもあります。

体制の話で出たとおり、DXを推進する部署もあり、そこが現場と連携をしていく事例が非常に多かったです。これは「DX人材育成ガイドライン」にも詳しく書いていますので、またみなさんもご覧ください。

そして、Xスキルに長けた現場の方がDのスキルを身につけていくためには、ノーコードツール・kintoneが非常に効果的に使われているということが、今日のまとめかなと思います。この後に、もう少し事例等もあります。

鬼頭:ありがとうございます。DX人材育成にはXスキルを外せない。これもまた「魔法の杖」と言ってもいいかもしれないですね。

越田:そうですね。2本目の魔法の杖は、おそらくこのXスキルだと思います。

鬼頭:ありがとうございます。

各企業が共通してぶつかる課題とは

鬼頭:逆に、各企業さんが共通してぶつかる課題感もおありということで、事例企業さんから見えてきた悩みどころもご紹介したいと思います。

越田:そうですね。実は悩みどころのほうが多いんじゃないか? というぐらい、いろんなお話を聞けたんですが、やはり大きいのは「どうやってリソースを捻出するの? 今は忙しいじゃないか」。

本業にプラスアルファでDX業務に携わるのか、本業の中に一部DXを入れていくのか。専任、あるいは(1年後には元の部署に)Uターンするかたちで臨時でやっていくのか。いろいろなパターンがあると思いますが、ここにはまだ正解はなくて、みなさん悩みながら試行錯誤をされている。

ただ、個人的な見解としては、左から2つ目(兼任配置)はけっこう効果的だなと、自分でやっていても思います。ふだんの業務をやりながら、30パーセントぐらいを新たな業務改善に振り向ける。そうなるとやはり時間もないので、ノーコードツールをうまく使って、同時にDXのスキルも身につけていく。

本人にとってのキャリアアップにもなりますし、プラスがあると思います。あとは、人員に余裕があれば右側の臨時配置のようなかたちも効果的だと思います。

鬼頭:ありがとうございます。兼任でやっていくと、どんどん社内でも輪が広がっていきそうなイメージも持てますよね。

好事例を増やし、DX人材を拡大していくために

鬼頭:そして2つ目の悩みどころとして、先ほど「自燃性人材」とありましたが、「第1世代は手が挙がるんだけど、第2世代がなかなか手が挙がらないんだよね」というお話も聞こえてきました。

組織の中で、DX推進や新しいことをやろうとした時に、共感してくれる人材がどんなふうに分布しているかを示した図です。最初から共感度が高い人たちって、(スライド)左にオレンジで塗っているように少しだけなんですよね。

そして、その後の人材が続くのかというと、ちょっと谷がありますよね。キャズムがあるように、どの組織でも次の人材に続いていくのは難しいと言われているんです。

鬼頭:じゃあどうしていくのがいいのかというと、まずは手が挙がる自燃性人材の第一陣からうまい好事例をどんどん作っていって、「確かにノーコードツールやkintoneであれば、こんなに短い時間で非IT人材もデジタルスキルを習得できるんだな」という事例を目の当たりにしてもらう。

そして、「やってみようかな」という人材・仲間を広めていく。そんな取り組みが大事かなと思います。

適性テストやkintoneの活用で、DX推進をスピードアップ

鬼頭:私たちがご提供しているサービスでも、みなさんのお悩みの役に立てるところもあるかなと思うので、最後に簡単にサービス紹介をさせてください。

越田:そうですね。ご紹介した適性テストは、無料で3件まで受けられます。これは(採用)選考で使う用でもあるんですが、自分の結果を見たり、チームで一緒にやってみると「こういうタイプだったんだ」と、お互いに気づきがあったりする。

それぞれの適性を知っていくために、ぜひ使ってみてください。「エン・ジャパの適正テスト」で検索をしていただけると、受けられると思います。

鬼頭:ありがとうございます。サイボウズチームワーク総研では、なかなか共感が得られない組織の人材に対する共感度の醸成などを、kintoneと共にDXのコンサルティングもさせていただいています。

DXのビジョン策定を一緒に伴走していくこともやっていますので、ご興味のある方は、ぜひ検索していただければと思います。

ということで今日は、kintoneでデジタルスキルを短く習得をして、そしてXスキルをどんどん身につけて、2本の「魔法の杖」でやっていきましょうということをご紹介しました。では越田さん、最後に一言みなさんに応援メッセージをいただいてもいいですか。

越田:今回、事例企業にいろんなインタビューをしましたが、共通してみなさん楽しそうでした。やはり、新しいことにチャレンジしていくのは楽しいんだなと思って。

今日いらっしゃっているみなさんも、いろんな取り組みをされているということでしたので、ぜひ一緒にやっていって、またこういった場でいろんな交流ができたらいいなと思っています。今後ともよろしくお願いします。

鬼頭:ありがとうございます。では、こちらのセッションはこれで以上にさせていただきます。みなさん、ご清聴いただきありがとうございました。

越田:ありがとうございました。

(会場拍手)