サイボウズ×エン・ジャパンが語るDX人材育成のコツ

鬼頭久美子氏(以下、鬼頭):みなさん、こんにちは。こちらのセッションへお越しいただきまして、誠にありがとうございます。

越田良氏(以下、越田):ありがとうございます。

鬼頭:「事例企業に学ぶ、DX人材育成の押さえどころ・悩みどころ」ということで、この時間はDX人材育成をテーマにやっていきたいと思っております。

私はサイボウズチームワーク総研でコンサルタントをしております、鬼頭久美子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。この時間は、エン・ジャパンで人材活躍支援をされている越田さんと一緒にお送りしていこうと思います。越田さん、よろしくお願いいたします。

越田:エン・ジャパンの越田です。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

鬼頭:では、簡単に自己紹介をお願いしていいですか。

越田:はい、ありがとうございます。エン・ジャパンという会社で人材教育・人材育成のサービスに携わっております、越田と申します。次のスライドは、簡単に「エン・ジャパンについて」です。

「エン転職」や「エンゲージ」と、転職の採用のイメージが強いかと思うんですが、実は我々は「入社後活躍」というキーワードを40年ぐらい前から掲げております。その中で私も、今回のテーマにある人材育成に関するサービスの責任者をいくつか務めております。

今回、サイボウズさんと一緒に(取り組んだ)「DXの人材育成ガイドライン」のプロジェクトで、資料作成で参加させていただきました。今日は、我々の会社が今まで得てきた知見からも、人材育成についてみなさんと一緒に良いやり方を考えていきたいなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

鬼頭:ありがとうございます。実はすごく長く「入社後活躍」をやられているということですね。

DX人材、育成の対象者は「現場社員」

鬼頭:私の所属しているサイボウズチームワーク総研、聞き慣れない方も多いかなと思うので、少しだけ紹介をさせてください。サイボウズといえば、kintoneGaroonといったソフトウェア事業をメインでやっているんですが、目指していることは「チームワークあふれる社会を創る」なんです。

ツールを使いながら業務上のチームワークをどんどん高めていくのはもちろんのこと、ツール以外の面でも、マネージャーとメンバーのやりとりや人事制度はどんなものがあるのか。まさに今日のテーマでもある「DX人材育成」も含めて、風土面や制度面のご支援をさせていただいているのが、チームワーク総研です。

ツールをご導入いただいている企業さまであるかどうかを問わず、チームワークを高めていきたい企業さま向けに、研修やコンサルティングをやっている部隊として、今日はこのお時間に出させていただいております。よろしくお願いいたします。

DX人材育成とは誰を対象にしているかというと「現場社員」なんですよね。これからどんどんDX人材育成を盛り上げていくにあたって、現場社員も巻き込んでいくにはどうすればいいのか。事例企業もたくさんご紹介をしながら、押さえどころ、そして悩みどころをご紹介していこうと思います。

無料でダウンロードできる「DX人材育成ガイドライン」

鬼頭:実は今日、この会場は満員御礼でたくさんのお申し込みをいただきました。みなさん、ありがとうございます。

どんな方が来てくださっているのかを知りたいなと思っています。今日のテーマのDX人材育成について、「もう自社の中で取り組みを始めているよ」「何かしらやっているよ」という会社さんはどれぐらいいらっしゃいますか? ちらほらいらっしゃいますね。ありがとうございます。

「まだまだこれから。だから今日はこれを聞いて考えたいな」と思って来てくださった方は、どれくらいいらっしゃいますか? こちらのほうが多そうですね。

越田:ちょっと多いですね。

鬼頭:「もうやっているよ」という企業さまの中で、kintoneやサイボウズ製品を使ってやっている会社さまはいらっしゃいますか? いらっしゃいますね。ありがとうございます。ということで、「まだまだこれからだよ」という方がすごく多くいらっしゃいましたね。

ぜひいろいろ参考にしていただきたいと思いますが、先ほど越田さんからもお話がありましたとおり、実はサイボウズとエン・ジャパンさんの共著で、2023年の8月に「DX人材育成ガイドライン」というものを発行いたしました。

今、QRコードを載せていますが、こちらのページから無料でダウンロードの申し込みができます。ご興味のある方は、ぜひ全ページダウンロードしていただいて、じっくり読んでいただければと思います。

DX人材育成には、2本の「魔法の杖」が必要

鬼頭:最初にお伝えするのを忘れてしまったんですが、このセッションは写真の撮影も、それから撮っていただいた写真も含めて、SNSでつぶやいていただくのはぜんぜんオッケーです。「この資料は参考になるな」と思われたところは、ぜひ写真を撮っていただけるとありがたいです。

越田:全スライド(掲載)オッケーですよね。

鬼頭:はい。全スライドオッケーになっておりますので、お願いいたします。そしてこの「DX人材育成ガイドライン」の特徴です。今、事例企業4社を(スライドに)掲載しております。

すでに取り組まれている企業さまから、生々しく悩みどころも含めて、いろいろと事例をおうかがいしたものが資料の中にまとまっています。今日はこのガイドラインの中から、ぎゅっとポイントを絞ってお伝えしていこうと思います。

どんなポイントに絞っているのかと言うと、DX人材育成には2本の「魔法の杖」が必要だということが、私たちがインタビューをしていく中で見えてきたんですよね。なのでこのあたり、私と越田さんもインタビューを通して見つけたところを、ぜひお伝えしたいなと思っています。

越田:(モザイクがかかっていて)まだちょっと見えていませんね。

鬼頭:はい(笑)。

越田:この後、詳しくお話ししていきたいと思います。

鬼頭:モザイクをかけさせていただいていますが、「何なのかな?」と、楽しみにしておいてください。

各社共通の課題は「非IT社員」の育成

鬼頭:ではさっそくなんですが、このセッションのテーマは「DX人材育成」です。各企業のみなさまはどんなところに課題を抱えていらっしゃるのか、まずは越田さんにもうかがっていきたいと思います。

越田:では、ガイドラインの内容を少し抜粋しながらお話ししていきたいと思います。各企業が抱える課題は、シンプルにDX人材が圧倒的に不足していることです。これはみなさまも今、非常にご実感されているところかと思います。

スライドにありますとおり、DXプロ人材を外から採用してくるのは非常に難易度が高いです。ただ、社内のIT人材・ITに知見のある方を配置転換をしていくことも、絶対数が少ない中ではなかなか難しい。

「今の仕事もある中で難しい」となった時に、今回インタビューした企業さまの多くでも共通しているのが、私たち2人もそうだと思いますが「現場社員の非IT社員」。エンジニアではないビジネスサイドの方々を、DX人材に育成していく必要性に迫られているというのが、共通する今の課題なのかなと思います。

IPAさんの「DX白書」の2023年度版でも、同じようなデータがありました。「DX人材をどのように獲得・確保されていますか?」に対して、最も回答が上位だったのが「社内人材の育成」。その次に「採用」「ITの専門職の方の異動」があります。

どのように非IT職の方をDX人材に育成していくのかというのが、会場のみなさんも共通してお考えになられているところなんじゃないかなと思います。

デジタルスキル以上に必要なのが「組織変革スキル」

鬼頭:IT人材の獲得がなかなか難しい中で、みなさんが注目しているのが社内の現場の方々の人材なんですよね。ただ、現場の方々をDX人材に育成していこうとなると、けっこう果てしない構想にも聞こえてしまうんですが、そもそもDX人材とはどんな人材なんでしょうか?

越田:そうですね。DX人材を育成していきましょうとなった時に、まずは「どういう方に育てていくのか」というゴールイメージがないと難しいと思います。今回、我々のガイドラインでは「D」と「X」の2つに分けて整理をしています。

特にこの中でも、右側の「組織変革スキル(X)」が大事だと強くお伝えしています。どういうことかと言うと、技術の「デジタルスキル(D)」が大事なことはもちろん間違いないんですが、それ以上に組織変革(スキルが重要です)。

DXを実現していくということは、今やっているお仕事の進め方・フローを変えていく必要がある。変えるにあたっては、当然しがらみがあったり、社内の反対者がいたり、難しいところはあるじゃないですか。

人と組織を変えていくスキルが、現代のDX人材に非常に強く求められる要素だということも、いろいろと研究していく中でわかってきた部分なんですね。なので、まずはこのように分けました。

鬼頭:ありがとうございます。DXと言うとデジタルスキルに注目が集まりがちですが、DXの「X」である、トランスフォームするための組織変革スキルが大事だということですね。

スキルだけでなく、現場に寄り添う共感性も大切

鬼頭:この「組織変革スキル(X)」は、具体的にはどんなスキルが必要なんでしょうか?

越田:具体的にどういったものか、スライドにもあらためて記載をしているんですが、「スキル」と「マインド・スタンス」に分けて記載しています。

「◯◯力」と、いろいろ書いているんですが、これをすべて網羅しているというよりは、まずは「例えばこういったことが大事になりますよ」という意味で捉えていただければと思います。大事なことは、Xスキルにおいてもスキルとマインド面も非常に大事だということなんです。

いくつかご紹介していくと、例えば「顧客・ユーザーへの共感」と書いていると思うんですが、これは社外の顧客だけではないです。

社内の別部署の方を顧客と考えた場合には、「口には出していないけれども、きっとここを不便に思っているだろう。非常に面倒くさいんじゃないか?」と、その方が今の業務で何に困っているのかを、共感をしていく力が必要じゃないですか。

これは、デジタルでもなければスキルでもない。どっちかと言うと、マインドやスタンス、内面的な部分だったりします。

他にも「常識にとらわれない発想」とか、繰り返しチャレンジしていく必要がありますので「諦めずに反復してアプローチができる」といった、テクニカルな部分以外の要素が大事です。このあたりは、この後に出てくる事例企業も共通しておっしゃっていた部分です。

もちろんスキルも大事なんですが、技術的なスキル以上に、問題解決や仮説検証、「そもそもどの問題を解決する必要があるのか?」と、正しく課題設定をする。またそこで大事なのが、現場の業務を知っていることなんですよね。

ですから非IT職の方であっても、現場のことがわかっているので、すぐにスキルを発揮しやすいこともあると思います。

鬼頭:ありがとうございます。むしろ現場の方のほうが、業務設計力は持ってらっしゃいそうですよね。

面倒くさがりな人ほどDX推進に向いている?

鬼頭:さっき越田さんもおっしゃっていた「ユーザーへの共感」という意味では、社内のシステムであれば、現場のみなさんがユーザーになりますよね。

そういう意味では、あまりデジタル化されてない業務や効率が高くないものに対して、「ああ、面倒くさいな。なんでこんなにプロセスがあるんだ」という面倒くさがり屋さんのほうが、実はDX推進には向いているんだというお話も、事例企業さんから出てきていましたよね。

では、この「組織変革(X)スキル」をどう習得したらいいのか。ここも越田さんにうかがいたいと思います。

越田:ここはシンプルに、スライドの3番の「プロジェクト参加型」。現場に入ってやりながら覚えていきましょう。けっこう乱暴に聞こえるんですが、多くの企業さまにインタビューしていくと、実はみなさんこのやり方が多いですね。

先ほどご説明したとおり「共感するスキル」と言っていますが、これはなかなか研修で教わってできるものでもないんですよね。

みなさんご自身もそうかもしれませんが、各社に聞いてみますと、一つひとつ教わってから試したり、1番の座学や2番の基礎研修を受けてから参加をするよりは、まずはやってみる。やってみる中で何が足りないのか、自分自身が足りないところがどこなのかに気づいて伸ばしていく。

DXは正解がないものでもあるのえ、こういったやり方が非常に効果的なのかなということも今回わかってきて、このようにガイドラインにも記載をしています。

鬼頭:デジタル面のスキルであれば、インプットはとても大事になってくると思うんですが、Xスキルはインプットだけでは習得が難しい。むしろ圧倒的にプロジェクト参加型で、実際にやって、やって、やりまくって習得するのが圧倒的に早いよということですよね。ありがとうございます。

JALと星野リゾートのDX推進の共通点

鬼頭:ここで事例企業さんのお話もさせていただこうかなと思いますが、星野リゾートさんの事例ページをお見せしております。

実際の「DX人材育成ガイドライン」の中では、各企業さま3ページずつにわたって詳しく整理をしながら、それぞれどんな取り組みをされているのかを記載していますので、気になる方はぜひダウンロードしてみてください。

星野リゾートさんに「DX人材を、どんな目的で・どんな人に育てていきますか?」とうかがったところ、「現場業務について、課題をちゃんと設定できる人がいいんだよ。そして周囲の人を巻き込んでいく力が必要だ」ということだったんです。

「その上で、ITを使って課題解決してほしい」ということで、実はDスキルよりも前にXスキルの話が出てきました。それぐらい(Xスキルが)大事なんだということを、私たちもあらためて認識しました。

日本航空(JAL)さんにおうかがいしたところ、やはり星野リゾートさんとも共通する感じだなと思いました。「事業部門自身が抱えている業務改善課題について、現場のみなさんがどんどんアプリを作っていって、業務プロセスを変革していってほしいんだ」と、そんなことをおっしゃっていました。

そしてJALさんですごく特徴的だったのは、「業務改善には熱意が必要なんだよ」。さっきXスキルの話でも「マインド・スタンス」が出てきましたが、繰り返し「熱意、熱意」とおっしゃっていましたよね。

越田:すごく強調されていましたよね。めちゃくちゃ熱意を持って伝えられていました。

鬼頭:そうですね。1回アプリを作るだけではダメで、やはり改善していくには熱意が必要なんだよと、そんなこともおっしゃっていました。

ツール先行ではなく、まずはDXの目的を明確化

鬼頭:そしてJALさんに「じゃあXスキルの習得はどんなふうにしていますか?」と、おうかがいしました。

先ほど「プロジェクトに参加して、どんどん習得していくのがいいですよ」というお話もあったんですが、いきなり現場任せにするのではなくて。JALさんであれば、IT企画本部さんがコンセプトの設計をするところのフォローもやられていると、おっしゃっていました。

現場の方からすると「どうもkintoneというツールを入れると良くなるらしいぞ」みたいに、ツール先行型でご相談に来られるようなケースもあるということで、「ツール先行ではなくて、ちゃんと目的を整理した上でやっていきましょう」と、そんなところもご支援されているというお話でした。

そして「アプリ開発をして、業務改善を人と組織を巻き込んでいくことは、それぞれの組織の中でどんどんやっていく必要がありますよね」というお話をうかがうことができました。

ガイドラインの中では、Dスキルの育成プランとXスキルの育成プランに分けて、それぞれの会社さまがどんなところをポイントにお取り組みをされているのかも記載しておりますので、ぜひご参考にしていただけるといいかなと思います。